第6話 近所の猫を殺すゲーム


 部室(空き教室)にて近所の猫を殺すゲームを作っている。

 C言語は難しい。でも一度プログラムを覚えると、それが身に染みているのもわかる。設定を決め込んだらあとはひたすらキーボードを叩くだけ。

 ゲームを作るにあたり幾つかのルールがある。

 UI(ユーザーインターフェイス)は必ず新しくする事。絵柄もほどほどに変える事。シチュエーションはとくに細かく変える事。一番大事なのは、できるだけ多くの行動を選択でき、できるだけ多くの場面を用意する事。登場人物は何人いてもいいけれど、主人公は必ず一人。

 チクリチクリ――自らがAIに覚えさせて描かせた画像が針となって心に刺さる。予想外に出来のいい画像。私よりずっと上手。

 少しずつ少しずつ、簡単だけれど、シチュエーションだけが多いゲームを一か月かけて作り上げる。

 バグチェックを終わらせたら後はどうにでもなれ。

 インターネットにアップすると、大体数時間から一日程度で削除されてしまう。

 スマホでネットに挙げたことを母に報告。ぼんやりと、夕日を見ながらお家へ帰るのが少しの嗜み。

「ただいま」

 居間に入るとパソコンの前に座っていた母が、コーヒーカップを片手にこちらへと振りかえった。

「おかえり」

 佇む私に、母は笑顔を向けてきて、作り笑顔だってすぐにわかる。

「なかなかいいわよ」

「そう」

 私の作るゲームの評価はほとんどが星ひとつ。罵詈雑言に人でなし、たまに殺害予告も来る。これは現実じゃなくて二次元のものなのに、この人達は三次元の私を殺すと言う。二次元の猫がどれだけ攻撃されようと痛むことは無いのに、三次元の私は痛めても殺してもいいみたいだ。

 猫を殺すなんて人間じゃないと言う。でも人の子供か猫か、どちらか一方しか助けられないとなったら、多分大半の人は猫を殺すと思う。

 でも……その罵詈雑言は正しいのかもしれない。私も心は痛いもの。

 頭を母に撫でられる。母の機嫌が良い。抱きしめられる。温かくぬくい。

 ただの絵と線に心を動かされるから芸術と呼ぶのかもしれない。

 そんな罵詈雑言の中、星5を付ける人達がいる。

 最初に作ったゲームは愛娘を殺すゲームで、まだそれを越えられるものはできていない。

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