第5話 必ず迎えに来る幸せ

 冬は座席が温かい。微睡み、ゆらゆら、声、瞼の裏。

「切符を」

 寝ぼけ眼、ポケットに手を入れる――まさぐったポケットの中身が無くて、コートの内ポケットを、立ち上がり、スカートのポケットにもう一度手を入れる。

 財布、財布と財布を開けて、財布、でもそこに切符なんてなかった。ていうかお金すら無い。財布のくせに。これは財布なのか、どうなのか。君はそもそも財布なのかな。どうなんだい。

「君、もしかして……仕方ないね」

 そう言うと乗務員さんは鞄から切符を取り出して、パチンと機械で端を切った。

「僕にもね、君と同い年ぐらいの娘がいるんだ。最近は会えてないけれど」

 返答が口から出ない。夕日と陽だまりと、みんな穏やかに寝静まる。

「私たちは貴方達が、何処へいても、何をしていても、必ず迎えにいく。でも君は、まだこちらに来てはいけないよ」

 はい。すみません。

「君といい彼女といい仕方のない子達だ」

 渡された切符を掴むと、私の目は開いた。

 開いたドアから洩れる冷気――やばっ、ここ何処だろう、駅の看板を見、慌てて降りる。

 外は暗くて、スカートが恨めしくなるくらい足元は心細かった。

 手に持っていたはずの切符は、どれだけ手を見つめてもコートのポケットを裏返しても、財布の中にも何処にも存在してはいなかった。

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