第2話 人食い階段
座ってご飯を食べている。
本来座り寛ぐ場所ではないけれど、私にはここが丁度いい。
上るところ、そして下る所。
隅には私と同じような者たちが息をひそめて隠れていた。生物かどうかは少し怪しい。生物も混じっている……かな。多分七割が埃。二割は……。
この場所は他の場所とは少し違っている。壁に絵が置かれている。
左斜め前の壁にかかった絵には終わらない階段が描かれていた。置いてあるのはここだけで、見られるのもここだけ。
たまに眺める。上に行ったのに下に続き、下に行っても上に続く。どっちに行ってもうろぼろす。申し訳程度に描かれた骸骨はチャームポイントなのか、それともアクセントなのかそこが悩みどころ。
この学校の怪談は十三話あるけれど、その一つでもある。
いつまで経っても上には行けず、何時まで経っても下にもいけず。
上に行っても下に繋がる。下に行っても上に繋がる。絵の中の誰かがそれを繰り返し、34分が経つと元の位置に戻ってくる。元の位置に戻ったらまたハッと気づいて動き出す。
大きくなりつつあるざわめき。
通りすがりの誰か達が私を見て驚いていた。ざわめきというには少し大きい。
好奇と興味と哀れみと無関心、そしてほんの少しの恐怖――どれを選んでも花丸あげる。
母の作ってくれたお弁当の中身、最後の一口を頬張る。私が目指すべき味でもある。
お弁当箱と箸を布に包みなおし持ち、立ち上がって眺める絵の中では誰かがまた動き出していた。口の中ではまだ味が踊っている。モグモグゴクン。
踵(きびす)を返し階段を上がる。翻(ひるがえ)った手すりの反対側、真ん中に男子生徒が蹲(うずくま)っていた。
少し躊躇(ためら)う――伸ばした指で肩をトントンと二回叩き、男子生徒はハッと顔を上げ立ちあがった。少し顔色が悪い。お腹の調子が悪そうだね。ひどい汗だよ。ハンカチいるかな。
私を見て壁際まで下がり、下を見て私を見、上を見て私を見た。開いた瞳孔と冷や汗と、勢いよく階段を下って行ってしまった。
保健室に行くのかな。
音を見送りながらゆっくりと階段を降りる。
下る足音を消して、つま先からかかととリズム良く。
絵の前に立ち通り過ぎる。午後の授業はちょっと眠たい。
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