日曜の14時から肴

長山征樹

第1話・生ピザ

 概要。

 生春巻きの皮を使って、トマトソースとバジル、チーズなどを巻いた料理。タレも不要なので、手巻き寿司感覚でテーブルに広げて晩酌ができる。



 土曜の夕方、みんな外食に出ている時にスーパーに行く。


 トマトソースというのがここ10年ぐらいでかなり選択肢が広がった。

 昔は、トマトの缶詰とケチャップ、カゴメのピザソースぐらいしかなかったが、輸入食品店からは瓶詰めのトマトソースというのが出てからは、ずいぶんとアラビアータとジェノベーゼが家庭料理に近づいてきたと感じた。20歳を超えてから初めてカプリチョーザでジェノベーゼが何かを分からないまま食べた時には「ハズレだ!!」と内心、強い後悔をしたことを思い出す。未だにバジルの香りが飛んだあとの草感は美味しさを感じ取ることができないまま、今に至る。

 適当にニンニクと唐辛子の入った、辛めのパスタソースの瓶を取りカゴに入れるだけで良い。できれば小さいものが良い。温めてパスタに混ぜるまでの気力は家の中から出てこないからだ。


 玉ねぎはスライスできれば良いのだが、これもまたオニオンサラダと称した袋サラダを1つだけで良い。包丁も過去に砥石も買ったまま放置しているし、研ぎ直すのも次の機会で良いだろう。包丁の練習で1ぐらいは買っても良い。


 バジルは1束買って、全部使う。買った途端から色が黒くなり、とっておくことが出来ない。贅沢に使って足りないぐらいがちょうど良い。実家でバジルを母親が庭のプランターで育てていたが、どうやらちゃんと育てないと香りが出ないようで、ルッコラと言われても気が付かなかった。


 オリーブは瓶詰めか缶詰を買う。できる限り種を取ってる奴が良い。種を取っていないオリーブは前歯を上手に使わないとこそげ取れないほど、実がしっかり種とくっつている。これを知らないまま種つきのものを買って、包丁で取れるだろうとタカを括っていたら何一つきれいな輪切りのスライスされたオリーブができずに気持ちがへし折れたことがあった。


 適当に生ハムを買う。20代ぐらいで酒の味を覚えだすとプロシュートやハモンセラーノだとか言い出すが、そういう面倒なのは誰かに任せて、ふぐ刺しのように薄く並べられた手頃な奴が良い。肉が苦手なら、代わりに塩を振るだけでも良い。ここでミルで挽くタイプの岩塩があると気持ちが豊かになる。


 モッツァレラチーズは食べたいと思った3倍は買う。スーパーでよく見るこんにゃくのように水と一緒にパックされているものは、2口分ぐらいしか無い。だから親戚が集まったかと思うぐらいの量を買っても良い。余ればカプレーゼを作ればすぐに無くなる。


 オリーブオイルもエクストラバージンオリーブオイルでも良いし、好みの世界だ。というかスペイン産とイタリア産は何が違うのかがよく分からない、なので、香りが強い弱いぐらいの好みから探っていいのだろう。試食できる所があればいいが油を試食するようなスーパーとは聞いたことがない。


 生春巻の皮。これが今回の主役。パッケージだと霧吹きで柔らかくしろ、というが料理用の霧吹きなど都合の良いものはご家庭には無い。なのでボウルに水を貯めたり水道から直で濡らして戻すしかないが、これで充分だ。


 あとは食いたいもの、飲みたいものを買う。基本的には味のベースはピザなのでワインやシャンパンが良い。それかシャンパン代わりに缶のレモンハイでもさっぱりして良い。軽食的な肴になるので、バドワイザーやハイネケンのような薄いビールが良い。IPAなどの濃厚な味のビールだと追いつかない。それなら適当に手羽元も買って、一緒に焼きながら呑むのが良い。


 家に帰ってからは作る時は、手巻き寿司のように材料は皿に分けてテーブルやお盆の上に並べる。テレビの前にテーブルを据えて適当に飲み物に口を付けたら開始だ。


 皮を柔らかく戻したら、春巻のように一文字で玉ねぎを載せ、チーズ、ハム、オリーブオイルと乗せる。そこにトマトソースを垂らし、オリーブオイルを掛ける。サッと端から畳み、春巻きのように棒状に包んだら完成。


 完成したらすぐにそのまま頬張って噛みちぎる。咀嚼し、飲み込んだら酒で喉を洗い流し、アルコール除菌をする。


 これを数回繰り返し、これと似たようなレシピでタコスがあるな、ドンタコスを入れるだけで作れてしまうな、と思いながらNetflixで機械的にドラマを見続ける。この時に雨だとなんとも愉快な気持ちになれる。外に出かけず、こんなに豊かな時間が過ごせることに成功したのだ、と。


 ピザ自体は焼くことで香ばしさを楽しめるものの、冷めた瞬間に味が一気に台無しになることから、そういうガッカリしないものがないかと思って突然思いついた。

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