第4話

「ここはどこなのか、あんたたちがなんでここに来たのか、ねぇ.......」


思案するような口ぶりで占い師が呟く。


「直接的な答えはないよ。でも、他の答えなら、ある。例えば、あんたたちは全員違う世界の住人だとかね」


「みんな、違う世界の住民?」


動揺を隠しきれない声で蒼が尋ねる。


「そうさね」


占い師の女が、なんでもないことのように返事する。


「そんなこと急に言われたって、信じられないじゃん!なんのために、こんなことが起きなきゃいけないのよ!」


香織ががたんと椅子を揺らして立ち上がると叫ぶ。


「大声は厳禁」


一人だけ、異常なほどに冷静なのが、おかしいと思った。


「ねぇ、占い師さん。..........あなた、私のことしってる?」


よくできました、とでもいうように占い師の口角が上がる。


「よくわかったね」


老婆のような声とは打って変わって、低く穏やかな声がベールの下から出てくる。紫のベールをぱさりと取って現れたのは、黒髪黒目の美青年だった。


「.........え」


「?」


美青年が首を傾げる。その仕草や面影は、私の弟に、似ていた。


「薫........?」


呟いた声が、静寂に溶けていった。


「薫?あぁ、俺の息子の名前?」


「わ、たしの、おとうさん?」


かすれた声で尋ねると、鷹揚に頷かれた。


嘘だ嘘だ嘘だ。きっと嘘だ。そんなこと、絶対に有り得ない。家族を捨てた人が、こんな、こんなにのうのうと生きているなんて!私達はそれでたくさん苦労したというのに?そんな人が私達をパラレルワールドに飛ばして、その人が親友が違う世界の住民だと言って頷けと?無理だ。私は残念ながら凡人で、聖人のように心が広いわけでもなんでもないのだ。


顔面蒼白になっている私を不思議に思ったのか、美青年が手を伸ばしてきた。咄嗟に身を捩る。


「私に触らないで!家族を捨てた人なんかに触ってほしくない!」


「俺が家族を捨てた?馬鹿言わないで。捨てたのは君のお母さんだろ」


「え?」


「君の母親が、家族を捨てたんだ。君の母親はね、俺との子供を無理矢理作った挙げ句に、もう用済みだから消えろって言う、最低な人だよ。俺は、抵抗したから殺された、ただの可哀想な人」


あんなに優しい、お母さんが?有り得ない。


「嘘言わないでよ!今更あんたに何がわかるのよ!私の苦労の!私の痛みの、何が!」


「わかるよ......」


「え.......?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る