第5話

「って、言ってほしいの?残念ながら俺は神様でもなんでもない、君の母親に殺された被害者。だから、君の気持ちなんてわかるわけない。他人は他人、自分は自分。ちゃんと区切りをつけないと、後悔するよ?〇〇があるから、〇〇がいるから、そんな言い訳ばっかりで、君の本音が見えてこないのに、自分の気持ちを理解しろ?相当無理言ってるじゃん」


その言葉に、ハッとした。いつも、家事が忙しいから。弟がいるから。香織と葵は笑って受け入れてくれるけど、受け入れてくれない人だってたくさんいるかもしれない。どれだけ、この境遇に甘えていたのかがよくわかった。


「このゲートで帰れるけど、どうする?」


美青年がそういった瞬間、3つのゲートが現れた。紫色の光が波のように渦巻いている。


「「「帰りたいです」」」


揃って返事をすると、美青年は言った。


「俺は一度出ていくから、最後に話し合ってから別れたら?」


ぱたん、と扉が閉まる音がした瞬間、私は泣き出してしまった。


「ふ、ひっく、ふた、2人と、わかれ、たく、ないよおおおおお」


こんなに泣いたのはいつぶりだろうか。


「こんなときに泣くなよ。最後は、笑って別れようぜ!」


「そうそう。こんなムードで別れただなんてかっこ悪いし!」


「ひっく......っく」


嗚咽が漏れる。二人が、ぽんぽんと私の背中を叩いてくれた。まだ落ち着かない私に、蒼がペットボトルを渡してくれた。そういう気遣いもなくなると考えると、また鼻の奥がツンとした。


そして、私は心の中の本当の気持ちに気づいた。


「本当は、私、葵のこと大好きなの!.........ひっく....弟がいるからって自分の気持ちを誤魔化してたけど、葵のこと好きなのよおお!」


「まじ.......で?こんな時に言われたら、俺、信じちゃうぞ?」


「ホントだよおおお」


「俺、幸せだなあ、こんなときに告白してもらったなんて。この告白が、今まででいっちばん幸せで嬉しかったこと、忘れない!よし、涼香、これを受け取ってくれ」


神妙な面持ちで取り出したのは、小さな箱。それを手渡された。開けると、中には透き通った紫の石が嵌め込んであるペンダントだった。微笑んで身につけると、葵が泣きそうな顔をした。


「大丈夫?」


「大丈夫。嬉し涙」


しばらくして落ち着くと、微笑んで誰からともなく抱きつきあう。


静寂が続いた。それが苦しくなって、思い切って呼びかける。


「ねぇ!」


ゲートに足を入れようとしていた2人が振り向いた。息を思い切り吸って叫ぶ。


「今まで、ありがとう!..........例え、誰もこの話を信じなくても、私がお年寄りになっても、2人が忘れちゃっても、私は、ずっと、ずーーーーーっと2人のことを忘れないから!永遠に親友って約束したからね!覚えてる?」


「まさか!こんなすげーこと、忘れるわけねーだろ!あ、今日から俺と涼香は恋人だからな!親友じゃなくて!」


「そうそう、涼香と蒼と私は、ずっと親友!絶対に忘れない!忘れたらぶん殴るよ!」


2人がそう叫ぶと、


「「「せーの!」」」


一緒にゲートへ踏み込んだ。

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