第1話

早朝の冷たい空気を吸い込みながら歩いていると、肩にぽんっと手を乗せられた。いつも通りのことなので、驚きもせずに挨拶する。


「おはよ」


「おはよぉー」


のんびりとした声で挨拶をしてくるのは、親友の香織かおり


「今日は?」


単語を極端に省いた質問にも、淡々と答える。


「まだ」


「そっか」


「でもきっともうすぐ来るよねー」


香織が苦笑しながら言う。


その3秒後、一人の男の子が突撃してきた。


涼香すずか、付き合ってくれ!」


毎日のことなので間髪入れずにぴしゃりと返事する。


「ごめんなさい、無理です」


「まじかー、まぁ、毎日のことだしね」


告白をばっさり断られてもからりと笑うのは、幼馴染のあおい。うちの高校一のイケメンだと言われていて、告白されるのは日常茶飯事。そんなイケメンの告白を平気で跳ね除けられるのは、涼香だけだと香織は言うが、意味がわからない。うちは弟がいるから断っているのだ。


そんなことを考えながら歩いていると、香織が顔を覗き込んできた。


「大丈夫?隈あるけど、昨日ちゃんと寝た?まさかくんの宿題手伝っていてそのまま寝ちゃったとかじゃないよね?」


「そのまさか」


香織は毎年ミスコン1位。同性でも、どきっとしてしまう.......らしい。まぁ、私はときめいたことがないからわからない。そんな私だから安心して一緒にいれる.....と香織が呟いていたのを聞いていたのは秘密である。


「うっわ、そのまさかかー。ほんとに大丈夫?お母さん忙しいんでしょう?」


家族についても紹介しておこう。私が幼い頃に、お父さんとお母さんは離婚したらしい。なんでも、価値観があわなくてストレスが溜まったそうだ。お父さんは信頼よりもお金、お母さんはお金よりも自分の命、自分の命よりも子供の命。お母さんの人を疑わないような考え方も逆にすごいと思えるが、道徳的にお金が1番なのかはどうかと思う。確かにお金で買えないものはない、ならそういう価値観の人も一定数いるだろうが。お母さんは看護師で、一日中働いている。弟のかおるは今14歳。私と5歳差だ。高校受験に向けて勉強している。そのため、お母さんの代わりに、私が家事全般や弟の面倒を見ることを担当している。


ふと、気づいた。

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