第3話 君と見るなら世界の終わりより、花火がいい

 勇者パーティーは魔王の前に堂々と立つ。さっきまで慌てていた魔王も、頑張って威厳たっぷりに語り始める。俺たち特殊部隊は祭壇の間の端っこに集まって錬金・魔法技術系チート野郎たちが造ってくれた使い捨て型シールド魔法を展開して戦いの行方を見守る。


「まあ良い。多少予定が前後しただけのことだ。お前たち選ばれし聖なる戦士たちの血を捧げれば魔神もお喜びになろう…さあ、始めよう。世界の行く末を定める戦いを!!」


 魔王さんがなんかかっこよさげに取り繕ってる。でもきっと内心焦ってるんだろうな。同時に我らが勇者たちもなんか口上を述べ始める。


「へ!俺たち勇者はお前たち悪には決して屈しない!必ず世界は俺たちが救う!そして…」


 似たような覚悟のセリフが×5。めんどくさいんで以下略。俺にとってはあいつらの信念だのなんだのはどうでもいいことだ。早く魔王さえぶち殺してくれればそれでいい。


「せんぱいってまじで冷たいですよね!熱いバトルにまったく興味がないとか男としてどうなんですか?」


 俺の隣で爪のネイルを塗り直しながらサザンカがそう言った。そういう本人も魔王と勇者の戦いにまったく興味がない。


「俺は草食系だからね。むしろこういうバトルモノよりラブコメの主人公とかになりたい」


「えーやだぁキモーい!せんぱいきもーん!わたしのパンチラ狙いですかぁ!まじありえなーい!」


「ブラチラでもいいのよ」


「えー。でもブラってタンクトップで紐とか見えがちだし、あんまりねぇ?エロエモに見えます?」


「雨に濡れたシャツ。後ろから透けるブラホックとか好きです」


「うーん。わかんないなぁ。全然その気持ちがわからないですねぇ」


 俺たちはくそどうでもいい会話をしながら、バトルの行く末を見守る。そして。


「ふははは!やるではないか!!わしも本気を出すしかないようだなぁ!!ふん!!」


 魔王の服がはじけ飛び、腕がもう二本ほど生えてきてムキムキになった。


「せんぱいせんぱい!そういえばせんぱいはちゃんと腹筋われてるんですか?!そこら辺大事ですよ!女子は意外に気にしてますよ!!」


「もちろん大丈夫だ。ぶっちゃけるけど、腹筋が割れたら告るって決めてたんだ。俺超がんばったぜ?褒めてよ」


「えー。だからぁ割れてて当然なんですって!でもちょっと触らせてくださいよ!どんな感じなんですかねぇ!?男の人の体って本当に硬いんですか?!」


「いや、ちょっとやめて!あ!くっすぐったいよぅ!」


 そして魔王と勇者たちパーティーのバトルは佳境に突入する。


「ぐあああああ!ここまでやるのか!勇者とは!勇者とはここまで恐ろしい存在だったのかぁ!魔神よ!この私に勇者を滅する力を!!」


『ワガケイケンナルシントヨ。ヨカロウ。ワガブンレイノイチブヲオマエニアタエテヤロウ』


「うがあああああああああああああああああああああ!これが!世界を滅ぼす力なのかぁ!ふはははあはは!勇者共よ!恐れよ!慄け!我はこの世界のすべてを滅ぼす!もう二度とあのような悲劇を繰り返さぬために!!」


「なんて悲しい波動なの…」


「魔王。あいつもまた…」


 だからそういうのめんどくさいんで以下略。


「せんぱい!胸筋はぴくぴくできるんですか?」


「できるけど乳首は好きな人にしか見せないって決めてるから」


「私の事好きじゃないんですかぁ?!告ったじゃないですか?!」


「勘違いしないでよね!!優しくされてワンチャンあるかなって勘違いしただけなんだからね!!」


「かなしい!何そのツンデレ!マジで悲しいですよ!!」


「ならオーケーの返事くれよ。いつでも待ってる」


「すみません。恋愛とか興味ないんで。お友達でお願いします」


「あー!かなしい!フラれた~!かなしい!」


 そして勇者の勇気と愛とに満ちた必殺技の光が祭壇の間に満ちる。魔王が倒れている。彼は穏やかな顔でなにかを悟ってような感じだった。勇者たちが魔王の横に立って、死に際を看取っている。


「私もまた大いなる意思の定めた運命の歯車の一つに過ぎなかった。だがその中の愛だけはほんも…」


 魔王が何かを宣っていた。勇者たちはそれを聞き届けようとしている。だけど俺たちにはどうでもいい。


「はーい!シャドウ1より全メンバーへ。予定通り祭壇の間に爆薬仕掛けてねー。いそいでいそいで!」


『『『了解!』』』


「アイアイサー!相合傘~!」


 急襲偵察隊の面々は祭壇のあちらこちらに爆薬を仕掛けていく。場所によっては地面に穴を掘るのでちょっと工事音が煩い。


「すごいですよ!このスコップ!?錬金チートすごい!!地面がまるでプリンのように柔らかく掘れるなんて!!てか女子のわたしのこんな仕事させないでくださいよ!!せんぱいのくそやろう!!」


「じゃあお前爆薬のセットできるの?配線とか回路の設定ミスると即爆発するけど?それでいいなら、いつでも仕事、代るけど?」


「わーい!穴掘るの楽しいなぁ!!なんか子供の頃の砂場を思い出しますよ!!あはは!あははは!」


 そして掘った穴の下に特大の指向性爆薬をセットする。この下には魔の龍脈があるのだ。それを破壊すれば魔神は理論上あと1000年は復活できなくなる。


「つーかお前らうるせえよ!!魔王が最後のセリフを言ってるのの邪魔すんなよ!!」


 東雲が俺に向かって怒鳴って来たけど、仕事に集中したかったので怒鳴り返す。

 

「うるせぇんだよ!ぼけぇ!!こっちは仕事してるんだよ!大声出して邪魔すんな!!ぼけぇ!!手元が狂って爆発したらテメェらも死ぬんだぞこらぁ!!そん時はどう落とし前つけてくれるんだよ!こらぁ!!?あん?!」


「え…ああ…す、すまん」


「わかりゃいいんだよわかりゃあ!!」


 そして俺たちはあちらこちらに爆薬をセットし終わる。その頃には魔王は息絶えており、今まさに灰になって散っていった。


「結局魔王はなにを言い残そうとしてたんでしょうか?」


「さあ?工事の音でうるさくて聞こえなかったからわかんないよね…」


 作業を終えた部隊の皆は俺の傍に集まって、各々装備をチェックしていた。そこへ東雲がずんずんと近づいてきた。


「おい小野!てめぇ!俺たちが戦ってるのに後ろで見てるだけだったくせに、戦いが終わると敵の最後の言葉さえ邪魔すんのかよ!!この卑怯者!」


 なんかうっせえのが近づいてきた。


「作戦通りじゃん。それに敵の最後の言葉なんて聞かない方が絶対いいぞ。無駄に気にして心を病みかねん。メンタルが不調になるような行動は避けた方がいい。精神衛生は大事だ」


「そういう問題じゃない!勇者と魔王の神聖な戦いなんだよ!!お前はそれを穢した!」


「なにキレてんだよ。勝ったんだし、犠牲もなかったんだからそれでいいだろ?違うのか?」


「こんのぅ!?くそ!ふざけんな!!!!」


 キレ散らかした東雲の姿がふっと消えた。高速移動のスキルだろう。それを使って姿をくらまして死角から俺を斬ろうとしている。その姿を俺の動体視力で追いかけるのはステータス上不可能。だけど何処に現れるかくらいは見当がついた。俺はライフルの銃剣を背中の後ろに向かって突き刺す。すると東雲の叫び声が響き渡る。


「ぎゃああああ!!お前?!俺の姿が見えてるのか?!なにかのチートスキルか!!?」


 東雲の左足の付け根に俺のライフルの銃剣が突き刺さっている。プレートメイルも関節部分まではカバーできないし、この銃剣は錬金チート達のチート武器なので、勇者の防御フィールドも突破できる。


「阿呆が。ただの合理的予測だよ。はぁ。めんどくさいなぁ。暴れられても困るし、動かないようにしてあげようか」


 俺は銃剣が刺さったままで、ライフルの引き金を弾く。


「うがあああああああああああああああああああああ!ぎゃああああああああああああああああああああああああ!!」


 フルオートで放たれた銃弾は、東雲の足の関節をズタズタにして、とうとう引きちぎってしまった。足が切断されてしまった東雲はその場に倒れ込み、右足の付け根を抑える。


「うがぁ!だれかぁ!茶々!頼むぅ!ヒールを!ポーションでもいい!足を!足をつけてくれぇ!!なおしてくれ!いたい!いたいぃいい!」


 回復を頼まれたサザンカはひどく冷たい目で東雲を見下ろしてその場から動かなかった。


「小野ぉ!こんなことしてただで済むと思うなよ!!おいみんな!そいつを今すぐにボコせ!!」


 東雲はそうパーティーメンバーに指示するが、誰一人動かない。同格の勇者たちはともかく、他の連中はみんな俺の事を見て、ビビって目を逸らしていた。


「お前らそれでも勇者パーティーの一員かよ!!くそ!なんでこんな雑魚にぃうごぉお」


 俺はぺちゃくちゃうるさい東雲の口の中に銃剣を入れる。


「もう喋るな。撤退予定を乱しやがって。お前のおかげで作戦予定が狂ったらどうしてくれんだよ。俺の仕事の邪魔をするな。じゃなきゃ引き金弾いちゃうよ?」


 東雲は涙目でブルブルと震えていた。そこからは何もしゃべらなかった。俺は看護兵に指示を出す。


「メディック。取り合えず止血だけして。あと麻酔を嗅がせろ。うるさくてかなわんからな。足は今はつけなくてもいいぞ。帰ってからでいい」


『『了解!!』』


 メディックは東雲に麻酔ガスを吸わせて眠らせる。そして足の付け根を止血して担架に乗せる。足は東雲の横についでに乗せておいた。


「せんぱい?」


 サザンカが俺の傍によってきた。


「なんでさっき撃たなかったんですか?他の勇者たちも勝手に仲間に攻撃した閃里君を見捨ててたし、嫌われてるから死んじゃっても文句言われなかったと思いますよ?ここは異世界ですよ。人が死ぬのは普通の事なんですからね」


 ひどく冷たい笑みを浮かべてサザンカは言った。その姿に俺はかなしさを覚えた。普段は明るく元気で素敵な女の子なのに。


「一線は守らないとね。魔王との戦いは社会や国家から強制された戦争だから仕方がない。だけど自分の意志で人の命を奪うのは駄目だよ。それは違う。そんなことしたら元の世界に堂々と帰れなくなっちゃうから」


「…わたしは帰れなくてもいいんですけどね…ふぅ…せんぱいは甘いなぁ。冷たいのに甘い。まるでアイスクリームみたいですね…」


 サザンカは悲しそうに俯く。今の俺には彼女を笑顔にする力はない。それにまだ撤退の工程が残ってる。


「シャドウ1より各員に告げる!すでに魔王との戦闘によって敵軍は俺たちの存在を察知している。敵軍は魔王が死んで統制を失って脅威ではないはずだが、気を引き締めろ!!」


『『『サー!』』』


「はーい!がんばりまーす!」


 俺たち急襲偵察隊が先導し、疲れ切った勇者たちを護衛しながら、魔王城の中庭まで戻ってくる。照明弾を上げて、上空に待機しているヘリたちに連絡をつける。すぐにヘリは降りてきて、俺たちを収容して、魔王城から飛び去った。


「なあサザンカ」


「なんですか?わたし今疲れてるんですけど?」


 すごく不機嫌そうな声を上げて、唇を尖らせている。女の子が怒ってしまうと男って出来ることがほとんどない。だからせめてものサプライズを。


「今から最高のファンタジーな光景を見せてやるよ。あっちの空を見てろ」


「へー。期待はしませんけどね」


 俺は手元にある無線のボタンを押す。すると魔王城が光り輝き、大爆発が発生する。


「やったー!」「ほぉうおおおお!」「ワレ作戦ヲ完遂セリ!」「たまやー!」「かぎやー!」


 メンバーたちはみんな作戦の成功を喜んでいた。


「はいはい。ハッピーエンドハッピーエンド。ハリウッドみたいですね。ふぅ」


 サザンカは全然楽しんでくれてない。城が吹っ飛んだだけでは喜んではくれないようだ。だけど仕込みはここからなんだ。


「サザンカ。ファンタジーはここからだよ。ほらごらん」


「…え?何あの光…?綺麗…」


 吹っ飛んだ魔王城の地下から虹色の光が溢れ出す。それは夜空へ上ってそこから四方八方へと筋を描いて広がっていった。まるで花火のように。魔王が龍脈から奪い貯めこんでいた魔力が世界に戻っていく風景はとても美しいものだった。


「どう?観光にはいいでしょ?」


「ええ、素敵ですね…うん。とってもきれい…」


 サザンカは隣に座る俺の肩に頭を預けながら空に飛び散る龍脈の光を笑顔で見ていた。ご機嫌は直ってくれた。ついでに世界も平和になった。ミッションコンプリート。そして俺たちは帰還したのであった。

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