第2話 魔王強行暗殺特殊作戦

革命より一年前 魔王城近海上空


 俺たち日本の高校生がこの世界に学校丸ごと召喚されて早一月が経過していた。5校ほどがこの世界に同時に各地の大国にしょうかんされたのである。そしていきなり召喚されて何やら魔法やらスキルやらステータスやらと意味不明な異能の力を得た学生たちは実に楽しそうに異世界生活を楽しんでいた。だけど俺はそんな気にはなれなかった。召喚した連中は不甲斐ないし、魔神復活を目論む魔王は迷惑極まりないし、きゃっきゃと楽しんでいる強ステータス、チートスキル持ちな連中はウザいしウザいし滅茶苦茶ウザいし、なにより俺のステータスもスキルもクソクソクソ極まりない。だからサクッと魔王を倒して元の世界に帰る手段を探したいと思った。なんでも召喚した人たちが言うには魔王を倒せばその手段を教えてもいいとのことである。ぶっちゃけあいつらのことは信じちゃいないけど、魔王の存在は帰還手段の探索には邪魔である。だから全力を出して魔王を倒せる手段を探し出して、今に至るのである。

 錬金系チート連中が造ってくれた光学迷彩搭載型消音ヘリコプター6機が魔王城近くの海の上を高速で飛んでいく。それぞれに勇者たちとそのさらに上位存在である大勇者を乗せ、さらに追加戦力として各校のユニークジョブやスキルの持ち主である強キャラ共が乗り込み、そこに俺たちサポート部隊が乗り込んでいた。


「せんぱいせんぱい」


 俺の隣に座る、明るい茶髪の後輩の花山茶々、渾名をサザンカが俺の迷彩戦闘服の袖をくいくいと引っ張ってひそひそと話しかけてくる。綺麗な顔を俺に近づけて囁くように話しかけてきた。周りのメンバーたちは緊張していた。彼女なりの配慮だろう。


「なに?もうすぐ作戦区域だから手短に言ってね」


「普通に考えて異世界来て一月で魔王に挑むとか馬鹿なんじゃないですか?今回の作戦全部先輩が立てて、この世界の対魔王連合軍に必死に根回しして実現したんでしょ?そんなことするより、もっとこう異世界を楽しんで修行して魔王を倒す使命に目覚めて挑むのが王道じゃないですか?」


 今回の作戦を立てたのは俺だった。そして連合軍参謀本部に持ち込んで実施の許可を貰った。難色を示すどころか、俺の作戦プランに諸手を上げて賛同してくれた。異世界人からすれば魔王という驚異の排除は早ければ早いほどいいのだから当然だろう。


「めんどくさい。俺は家に早く帰りたいんだ」


「めんどくさいって…。先輩はこの世界楽しくないんですか?この世界の人たちはわたしたちをチヤホヤしてくれるし、グルメは美味しいし、ファンタジーな光景は綺麗だし、お洋服もなんか意外に可愛いし」


 サザンカの着ている戦闘服はこの世界のなんちゃって西洋風姫騎士服である。ミニスカにニーソで脚線美は悩ましく。胸元のプレートアーマーは適度に巨乳な彼女のおっぱいの形に合わせてセクシーな曲線を描いている。ノースリーブでさらに言えばネイルも派手だ。流石に武器を握るのの邪魔だから伸ばしてはいないけど。色々な意味で戦闘を舐めてるよね。


「そう。確かに遊びに来るならいいところだろうね。でもね定住する気はないんだよ。だから早く帰りたい。情が移る前にね」


「冷たいなぁ先輩は!そんなんだからわたしにフラれちゃうんですよ!」


「ねぇ魔王と戦う前にそういうの思い出させるのやめてくれる?告白の失敗とか女子が思っている以上に男子は傷ついてるからね」


 俺は以前このサザンカに告白した。委員会で仕事が被って、なんかいい感じに俺に優しくしてくれたから、行けるのかなって勘違いしたんだ。そしてあえなく『恋愛とか興味ないんで!お友達でいいですか?』とお断りされたのである。そもそも先輩後輩でお友達なんて無理でしょ。つまり最初からサザンカには俺なんて眼中にないのである。


「へぇ…そうなんですか…そかそか。ふーん。まだ気にしてるってことは…」


 サザンカはぼそぼそと呟いている。ばっちり聞こえてるよ。このヘリは消音だからね。


「せんぱい。むしろこの世界に残ってればわたし相手にワンチャンあるかも知れませんよ?ほら旅先で女の子は大胆になるって言うし」


「あっちの世界で出来なかったことがこっちで出来るとは思えないね」


「逆じゃないですか?あっちで出来ないことがこっちだからこそできるんじゃないですかぁ!ほらスキルとか!魔法とか!ステータスとか!スマホ弄るより楽しいですよ!」


 それこそ胡散臭い。この世界の連中もうちの学生連中も自然と受け入れているけど、俺は疑っている。こんな異能の力を都合よく与える奴は絶対にロクな奴じゃない。俺はこのスキルも魔法も世界の法則ではなく人為的作為だと確信していた。


「そもそもそういうのが…」


『小野隊長!!魔王城まであと5分きりました!!降下準備をお願いします!!』


 ヘリのパイロットから無線に連絡が入った。俺は席から立ち上がりヘリに待機している作戦メンバーたちに指示を出す。


「みんなよく聞いてくれ!すでに作戦はわかっていると思うが、俺たち急襲偵察特殊部隊が最初に魔王城中庭に降下しヘリの着陸の安全を確保する!隠蔽スキルを最大レベルで展開しろ!着地したら中庭にいる警備兵モンスターをすべて排除する!音は絶対に出すなよ!!」


『『『了解!!』』』


 暗色系の迷彩服を着た急襲偵察特殊部隊員たちは威勢よく返事をしてくれた。彼らの士気は高い。こいつらは各学校から選りすぐられた陰キャたちである。ステータスはパっとせず、スキルも魔法もいまいち。だけど気配の薄さと高レベルの隠蔽系スキル。さらにはミリタリーへの熱い理解によって、異世界なのに現代風な特殊部隊が誕生したのである。俺はその隊長を務めさせてもらっている。


「らじゃー」


 サザンカの返事は可愛かった。こいつはうちの特殊部隊員ではない。ユニークジョブの持ち主であり超高ステータスに恵まれた美少女陽キャである。今回は特別に戦力が必要なので、俺の特殊部隊に臨時で入ってもらった。


「俺たちの仕事は勇者パーティーを魔王の前に連れていくことだ!決して活躍しようなんて思うな!でしゃばるな!俺たちの誇りは作戦の成功のみだ!過程ではない!結果こそが我らに報いてくれるんだ!」


『『『サー!イエス・サー!』』』


「さー!いえっさー!」


「みんな。行くぞ!!」


 俺たちは次々とヘリから、飛び降りていく。スキルを駆使して音もたてずに魔王城中庭に降り立つ。俺は各人にハンドサインを送る。そしてそれぞれの隊員が見回りをしていた高位のゴブリンナイトたちの背後に静かに近づいて、それぞれ首を切ったり、心臓を突いたりして、静かに絶命させた。とくにサザンカの活躍には目を見張るものがあった。鮮やかに音もなくゴブリンたちを屠っていった。そして見回りのモンスター達はもういなくなった。敵に潜入が気づかれている様子もない。安全を確保した俺たちは上空に待機している他のヘリに無線で連絡を入れる。


「こちらシャドウ1。着陸地点を確保」


『了解。すぐに着陸する』


 ヘリたちはすぐに着陸した。そして中から煌びやかな鎧を着た勇者たちとそのパーティーメンバーたちがぞろぞろと出てきた。


「おい。東雲。言っただろう。目立たぬように上からコートを羽織れと言っておいたはずだが?」


 今回の作戦は隠密奇襲作戦である。消音ヘリで魔王城に着陸。魔王軍四天王不在の今を狙って魔王をこちらの全勇者で一気に殺し、さっさとヘリで帰るのが作戦計画だ。俺たち特殊部隊の仕事は勇者たちを消耗なく魔王城地下にある魔神の祭壇まで連れていくことである。魔王との戦闘は勇者たちが受け持つ。俺たちはエスコートする。連携プレイだ。


「はぁ?なんであんなだせぇもん着なきゃいけないんだよ!それともなんだ?お前ら安全確保に失敗したのか?俺たちのかっこいい鎧がモンスター達の目に入るような事態になってんのか?あん?」


 我が母校が輩出した勇者の東雲閃里は不機嫌そうに俺に難癖付けてくる。


「念のため、不測の事態のためっていう概念がわかんないみたいだな…ちっ。まあいい」


 元から勇者たち高ステータス組が俺たち陰キャ系のいうことなんかを聞いてくれるとは期待していない。俺たちは敵の警備に気づかれないように、あいつ等をエスコートするだけだ。


「おい茶々!お前はこっちに戻って来いよ!そいつらみたいなゴミ掃除の仕事なんてお前がやる必要なんてないって!あはは!」


 東雲はサザンカに馴れ馴れしく話しかける。というか実際この二人は幼馴染なんで馴れ馴れしいのは当たり前だ。だけど告白して玉砕してる身としては、ちょっともやッとする。なによりも俺たちの仕事への敬意がないことが腹立たしい。


「え、でも…閃里くん。わたし忍者スキルも持ってるからこっちの仕事の方が今日は向いてるっていうか…」


 東雲は俺のクラスメイトなので、サザンカは年下なのだが、あの二人は兄妹のような近しい環境で共に育ったそうだ。お互いの家にしょっちゅう行き来してるとかなんとか。つーか親が決めた婚約者だそうで。恋愛する気ないとか言ってるくせにゴールは決まってるのマジで俺ピエロだよね。腹立つわー。

 

「遠慮なんていらねぇよ。そもそもお前みたいな超ハイスぺが勇者パーティー側にいない方がおかしいんだよ。雑魚モンスターを片付けるのは陰キャ共にやらせればいいんだよ!ぎゃはは!」


「勇者を魔王のところに安全に連れていくのは大事な仕事だから…。その…わたしにまかせて欲しいかなって…」


「あ?なに?俺たちキョーダイみたいなもんじゃねえの?なのにお前、おにーちゃんの言うこと聞けないの?ん?」


 ビクッとサザンカは体を震わせた。目を伏せて俯く。そして東雲の傍に歩いていってしまった。


「そうそう。茶々はあいかわらずお兄ちゃん子だな!かわいいぜ!がははは!」


 カチンときた。俺のスケジュールをこれ以上乱されても困るんだよね。だから俺は東雲の方に近づき、サザンカの手を掴み引っ張る。


「あっ先輩…」


 俺はサザンカを抱き寄せた。


「この子がいなきゃ作戦は遂行できない。お前にこの子は預けられない」


「あ?てめぇ何だこの野郎?ドブ攫いの雑魚陰キャがなにやっちゃってんの?」


 東雲は俺の首を掴む。凄い力で絞めてくる。


「閃里君!やめて!せんぱいをいじめないで!!」


 サザンカは俺の事を庇おうとしたが、東雲はあっさりと無視した。ギリギリと俺の首は絞まっていく。呼吸がひどく苦しい。流石は勇者さまだと納得のパワー。だけど筋肉だけで渡っていけるほどこの世界は甘くはない。俺はベストのポーチから小さな銃を取りだす。


「なに?そんな豆鉄砲で勇者さまはとまんねーよ!ぎゃはは!」


「違うこれは照明弾だ。すぐに放さなきゃこれを撃つ」


 俺はそれを空に向ける。


「おい?!それ撃ったら作戦は失敗すんだぞ!わかってんのかよ!?お前が立てた作戦だろうが!?バカなのか!?」


「俺にはサザンカが必要だ。彼女がいなきゃ作戦は失敗する。お前がサザンカを連れていくなら、自分の手で幕を引いてやるさ。まあみんな道連れにしてやるけどな!!あはは!」


 嘘だ。サザンカがいた方が楽にはなるが、いなくても作戦は成功するように組んでるんだ。だけどこいつにサザンカを渡したくない。ただそれだけだ。


「くそ!いかれてる!ちっ!!」


 東雲は俺の首から手を離した。そして踵を返して自分のパーティーに戻っていく。


「ごほごほ」


「大丈夫ですかせんぱい。ごめんなさい…わたしのせいで」


「いいさ別に。気にするな。同じ部隊のメンバーは絶対に守る」


「せんぱいぃ…!…ありがとうございます…!」


 サザンカは笑みを浮かべて俺に礼を言った。本当にかわいい子だな。告白に失敗したのが残念でならない。


「さて。では諸君!作戦を続けるぞ!!」


『『『ラジャー!!』』』


「りょうかい!!」


 部隊のメンバーからやる気に満ちた返事が返ってくる。俺たちは中庭から城の地下へと通じる門に辿り着いた。門は酷く硬い木で出来ていた。魔樹という瘴気を吸って育った闇属性の樹木より造られた門はひどく頑丈に出来ている。


「やっとこさ。スキルの出番だな。みんな用意はいいな!」


 部隊のメンバー達とサザンカは配置について頷く。そして俺はスキルを使い『斧』を召喚する。この斧はクソスキルです。丈夫で鋭いけど何か特別な追加効果はないし、持ってても加護やバフがつくわけでもない。そして言うまでもなくモンスターへのダメージはお察しである。だけど木だけはよく切れる。バターのように薪が切れる。伐採も楽々できる。林業ならチートである。…マジでくそスキルだ!!この異世界にはちゃんと林業があるのだ。そこへよく切れるだけの斧なんてあっても意味がない。だけどこの魔王城では唯一使い道があるのだ。魔樹で作られた門は木なのだ。つまり。よく切れます!俺は門に向かって斧を振るう。門は真っ二つに割れた。そこからうちの隊員たちが城の中へと突入していく。


「突入!ゴーゴーゴー!!」


そして中に入った隊員たちはモンスター達をまたも静かに絶命させて片付けていく。そして安全を確保しながら、時に魔樹の門を俺の斧で壊して奥へ奥へと進んでいき、とうとう魔王のいる祭壇へとやってきた。


「え…なんで勇者たちがここに…?!ばかな?!まだ召喚されて一月しかたっていないのにここにこれたというのか?!」


 こうして魔王のもとへ俺たち特殊部隊員は無傷で消耗のない勇者たちを連れてくることに成功したのであった。



 


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