木を切るくらいしかできない無能な斧のスキルが、『絶対処刑』の権能に進化しました!圧倒的強者たちをすべて処刑して異世界に君臨します!~斧の覇皇の革命紀~

園業公起

第1話 演説!革命!ざまぁ!そして処刑!


 俺なんてどこにでもいる普通の異世界転移者に過ぎなかったんだ。今日この日までは…。


「聞け!すべての人民よ!我が声を聞け!われが告げる新たなる時代の声を聞け!」


『『『『うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!大統領閣下!閣下!大統領!大統領!!小野おの令刻はるとき大統領閣下!!』』』』


 俺の演説の始まりと共に万を超える人々の群れは熱気を放ち歓声を轟かせる。人々は俺のことを大統領と呼ぶ。俺は最初学校まるごと召喚された。だけど使い物にならないスキルのせいで疎まれて難癖つけられて追放されてしまった。そして追放先の小さな村のちっぽけな自警団の”統領”に過ぎなかったはずの俺は、数多くの争乱の中で戦い抜くうちに自警団は巨大な軍閥となり、気がついたら”大”統領と呼ばれるようになっていた。そして今日、とうとう俺は、この王国を打倒することに成功したのだ。


「人民よ!君たちは憶えているだろう!あの昏き時代を!豚の如く肥え太った貴族たちにやせ細った我らはパンを奪われた!狐よりも小賢しき官吏に蓄えた小銭さえも奪われた!」


 演説台の上から人々を見下ろし、俺は語りかける。憎悪を煽りたてるために。


「男たちは守るべき女たちの貞操をを卑しき領主に奪われた!女たちは愛すべき男たちの命を残酷なる兵士たちに奪われた!子供たちは誇るべき父を戦場に奪われ!夫を失った女たちは肉体を売るしかなく、その子供たちは誇りを奪われた!君たちは何もかもを奪われた!」


 この世界は奪うものと奪われるものの螺旋で成り立つ。多くの者たちが奪われることを経験していた。そしてその憎悪は今この瞬間にすべて弾ける。


『返せ!父さんを返せ!』『お前たちさえいなければ!息子は戦争で死ななかったのに!!』『あのパンさえあれば娘はまだ生きてたのに!!』


 人々は俺の両脇に立っている二つの柱に向かって石を投げつける。正確には石ではなく柱に縛り付けられた二人の男に向かってである。


「やめて!やめてくれぇ!違う!わしは!そんなつもりじゃなかった!なんでもわたす!金でも領地でも爵位でも何でも渡すから!助けてくれ!痛い!痛いぃ!大統領閣下!お願いします!お願いします!お願いしますから!助けてぇ!!」


 老いた男が俺に向かって命乞いをする。この老人はこの王国の国王だった。俺が戦争に勝ってこの男は玉座を追われた。この国において搾取の限りを尽くした王と貴族たちは全てこの俺が倒した。かつて王だった男の顔は投げられた石で見るも無残な姿に成り果てた。


「いい加減にしろよ!小野!今なら許してやる!すぐにこの鎖を解け!俺は勇者だぞ!この世界を救った勇者四天王の一人なんだぞ!誰のおかげでいい暮らしができたと思ってんだよ!!誰のおかげで俺たち召喚者がこの世界でちやほやされたと思ってるんだよ!!俺が勇者のジョブを持ってたからだろ!だから学校の連中だってみんないい扱いを受けられたのに!なんでお前はこんなことをしやがったんだよ!!お前みたいなクソスキルしか持たない雑魚がこんなことしていいなんて思ってんのかよ!!今すぐ俺を解放しろ!!」


 まだ自分の立場が分かっていないらしい。あるいは虚勢なのか。もうどうだっていい。すでにこの二人の運命は変わらない。


「お前の命令に従う義務など今の俺にはもうないんだよ。東雲閃里。お前は破滅した。お前と国王は魔王討伐の成果の権威をもって、この国で暴政を布いた。その闇の中で産まれた憎悪が俺を選んだんだ。俺の斧は圧制者の血を望んでいるんだよ」


「この野郎!!木しか切れない無能のくせにぃ!!」


 未だ悪態をついている。だが俺はそれを無視して天に向かって手を伸ばす。人々の



「人民の祈りに応えて顕れよ。我に人民の願いを奏上せよ。絶対処刑の権能。生殺与奪の権を象徴する聖なる祭器を!!」


 俺が天に向かって右手を伸ばすとこの場に激しく風が吹きすさんだ。紫色の光が右手に集まって一つの形を編んでいく。そしてとうとう光は長柄の斧にその姿を変えた。それは神々しくも何処か怪し気に輝いていた。これが俺の『権能』。絶対処刑の祭器。


「元国王の鎖を解け。そして台に押さえつけろ」


 近くに控えていた俺の兵士たちにそう命じる。兵士たちは元国王を鎖から解いて近くにある台に圧しつける。その台は人々によく見える場所に造られている。


「頼む!やめてくれぇ!許してくれ!もうしないから!あんなことはもうしない!誓ってやらない!いい王になる!ちゃんと政治をする!だから許してくれ!」


 俺は思わず軽蔑で顔を歪めてしまった。この老人はまだ自分が人々よりも”上”にいると思っているのだ。


「そうか。その程度の拙く少ない言葉しかないくらいにしか悔いていないのだな。では判決を下そう!!元国王!我ら革命法廷は汝の罪を一切許さない!!」


『『『『おおおおおおおおおおおおおおお!!!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!』』』』


「許してくれ!ゆるしてゆるしてゆるしてゆるして!ゆるしてぇ!!」

 

 老人は人々の怒号に恐れ戦いたのだろう。跨ぐらが濡れていた。みっともない。仮にも一国の王だったならば堂々として欲しいものだ。


「新たなる国家指導者!大統領の名の下に判決を下す!お前は死刑だ!!!」


 人々が喝采を上げて叫ぶ。そして俺は元国王の首に向かって思い切り斧を振り下ろした。


『『『『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』』』』


 刎ねられた元国王の首が宙を舞う。そしてそれは東雲の縛られている柱にぶつかり、彼の足元に落ちた。


「ひっひぃ!お、お前!ほんとにやりやがったのかよ!なんてことしてんだよ!!王様だぞ!?俺たちを異世界に召喚してくれた人じゃないか!!」


「恩義などない。忠義も感謝もなにもなにもないんだよ。俺は、人民の意志の代弁者、人民の願いを叶える救済者、人民に君臨する統治者なり。数多の人民が選びし新たなる王の名は大統領。すなわち俺の事だ。俺は選ばれたこの世界に!俺は選んだこの世界のすべての権力をこの俺が総攬することを!!!」


「なにわけわかんないこと言ってんだよぉう!お前は!お前は!ただのチキンで腰抜けの無能だっただろうが!!」


「そうさ。俺は変わらず無能者のままだよ。だが俺は人々の意志を束ねたんだ。俺の権能は弱き人々の無意識の祈りそのもの。暴虐を働く圧倒的強者を廃し滅する絶対処刑の力!お前の死は人々の願いそのものだ!俺が打ち立てる新たなる秩序の中に野蛮なお前のような”強者”はいらないんだよ!!俺は創る!弱者たちが安寧を過ごせる文明を創造するのだ!!革命は弱者の祈り!文明は強者を処刑することから始めるんだ!!!『勇者』東雲閃里!汝が罪はその強さで弱者を虐げたこと!奪ったこと!蔑んだこと!!革命法廷は汝に大統領の名の下に死刑を下さん!!」


 兵士たちが東雲を拘束したまま処刑台に運んでいく。


「やめろぉ!お前らがやってることは間違ってる!俺に従えよ!いい思いをさせてやる!だから解放しろ!小野の言うことなんて聞くな!あいつは弱っちい雑魚だったぞ!何にもできない無能者だったんだ!なんでだよ!なんでそんな奴の言うことをみんな聞くんだ!どうして!勇者の俺が!俺は勇者だぞ!勇者なんだ!みんな俺の言うことを聞いてればいいのに!なんでなんでなんでなんでなんで!!うああああ!うああああああああああああああああああああああ!!!」


 東雲は暴れるがそれでも抵抗虚しく兵士たちによって処刑台に固定されてしまう。


「ちくしょう。ちくしょう…頼むよ…助けてくれぇ。小野ぉ。悪かったよ。俺が悪かったよ。だから頼むよ。許してくれよ。お願いだから…殺さないで」


「俺がお前にお願いした時も助けを請うた時もお前は何もしてくれなかった。お前は俺から奪うだけ。だから駄目だよ。もう遅い。何もかもがもう遅いんだ」


 俺は斧を振り上げる。東雲は涙をボロボロと流している。その顔を見た時、どこか鬱屈とした心の澱が流れて溜飲が下がったのを感じた。別殺さなくても俺の心はこれですっきりする。俺のざまぁはここで満たされた。だけどもう遅いんだ。俺は決めたのだ。自分自身の屈辱を晴らすためだけではない。俺が人々の意志を束ねる大統領になったのはこの異世界の搾取と腐敗すべてを壊すため。新たなる秩序と文明をこの世界に齎すため。この世界を俺が救う。それが天命なのだから。


「判決!死刑ぇぇええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!」


「うああああああああああああああああああああああああやめろおおおおおぉお…お…っ……。…。…。…」


 そして何の抵抗もなく斧の刃は東雲の首をあっさりと刎ねてしまった。かつてこの大陸の勇者として転移者たちを束ねて魔王を倒した英雄の末路はあっけない最期だった。首はごろりと俺の足元に転がって止まる。俺は首の髪の毛を掴んで持ち上げて掴み上げる。それを人々に向かって見せつける。


『『『『ばんざーい!ばんざーい!悪しき勇者を倒した大統領閣下万歳!ばんざーい!ばんざーい!革命を成し我ら弱き人民を楽土へと誘う大統領よ!ばんざーい!ばんざーい!』』』


 人々は歓喜の笑みを浮かべて万歳を続けた。こうして俺は新たなる国の大統領に就任した。そして世界を統べるために戦う運命に身を投げたのだ。


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