泥酔
日差しを浴びないように、カーテンを閉め切る。もちろん、それでも暑いから冷房をつけて、半袖半ズボンの構えでいる。こうすりゃ快適だし、なんの気兼ねなくだらけられるからだ。
オレは一応大学生ってやつで、今は夏季休暇中。バイトと部活をこなしながらダラダラと過ごしている。休暇入る前は「やりたいことやるぞー」なんて奮起してたが、今はなんにもやる気が起きない。最低限の家事やって、寝転がって、菓子でも食いながらゲームする。意味なんて無く、そんなこと理解しながら、少し時代遅れのゲーム機に手を伸ばす。
今日もなんてことない毎日の中の一日。生きてるなんて感じたのはどれくらい前だったろう。空っぽの日々に嫌気がさしてイライラする。でも、そんなの一瞬で、すぐ忘れてだらだらと次の動画へと泳ぎに出掛ける。窓を久しく開けてなくて、部屋が濁ってる気がするから少し開けてみる。まぁ、暑いし煩いしですぐ閉める。やっぱり意味なんか無い。
「飯作るのめんどいな、カップ麺にするか」
時間短縮と節約の一石二鳥を今日もこなす。そりゃ飯作った方が充実感とか、達成感が出るかもしれないが、このだるさが邪魔をするのだ、仕方ない。
今日は知り合いから「遠出しようぜ」なんてお誘いがあった。親睦とか深めた方がいいのかなーなんて思ったけど、暑いしやっぱめんどいから無視した。オレに親友ができねぇのも、彼女ができねぇのも、多分こんなとこが原因なんだろう、なんて検討違いな思考をこしらえつつ、カップ麺を啜る。
オレはけっこう、このカップ麺ってのが好きだ。ブロック状の携帯食料も栄養とか摂れるし、早く食えるから良いには違いない。しかし、なんかこういう少し体に悪そうな物の方が、人生台無しにしてるって感じがして好みだ。
昼夜逆転は当たり前、寝落ち上等掃除はしないが体現されている我が部屋。こんなオレにお似合いの部屋が大好きだ。ペットは飼い主によく似るなんて言われるが、まぁそういうことなのだろう。この部屋は、整理整頓のきいてないオレの心をよく表してるのかもしれない。
そんな思考に耽りながら、ベッドから起き上がろうとする。体が重い、いつもみたいに抗えなくて、またベッドに倒れ込む。ちょいと気になった動画を数本見てから、再度起き上がろうとすると、座ることくらいはできた。汚い部屋だなぁと思いながら、床に足をつける。床はぬかるんでいた。木製のはずの床が泥みたいに柔らかい。常識であるはずもないから少々ばかりパニックになったが、その反面
「この温度・質感、心地良いわー」
なんて思っていた。
まるで田んぼの中にいるみたいな、足に纏わり付いてきて、奥まで突っ込むと足上げ難くなるってやつ。ただ、田んぼそのままの柔らさって程でもなく、ほんのりと床の硬さが残っている。冷蔵庫のところまで行って、また帰ってくるくらいは訳ないだろう。そう思って一歩を踏み出す。最初は重かったその足取りも、歩を進める毎に軽くなる。帰ってくる頃には重さすら感じなかった。
持ってきたアイスとコーラを少し変形した床に置き、ベッドに腰掛ける。コーラをちびちびと飲み、アイスをそれに合わせて少しづつ口に運ぶ。ゆっくりと味わい、ゲームして腹ごなしが終わると、またベッドへ横になる。あぁ、沈んでいく。今のオレにできることなんて寝返りを打つくらいだ。
イヤホンに鼓膜を侵されながら目を瞑る。別に寝たい訳ではないが、しんどくなったのだ。運動なんてしなくても疲れるもんは疲れる。気疲れか、衰えた体力がとうとう底をついたか、はたまた両方か。どっちだっていいさ、もう歩きたくなんかない。どれだけバタついたって、尾ビレも背ビレも胸ビレもオレにはもう無い。形だけで機能しないんならと捨てちまった。そんなもんあったって見映えが悪いだけだ。
「あるのに何故動かさないんだい?」
なんて言われたらたまったもんじゃない。無くなってせいせいしてるのさ。
日を見ることなんてもう無い。誰かの声を聞くことも、自分の意思を伝えることもしない。なあなあで済ましとけば深まり過ぎることもなく、少し遠いくらいで人間関係なんて終わる。呑まれるなんてとんでもない。テキトーに過ごしてたオレには適当な末路だ。自分の意思なんか無くした無意識の中、沈んでいく、沈んでく。ゆっくり、ゆっくり、泥に塗れて、いつまでも、深く、深く
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