第3話 距離感

一体いつぶりだろうか。俺は鳴坂と一緒に帰宅している。今日はお互いのバイトが休みということもあり鳴坂の提案から一緒に帰ることになった。


『ねぇ…竜二がもし良かったら一緒に帰らない?』


照れながらそう提案する鳴坂の破壊力はとんでもないものだった。当然、断る理由は何ひとつなかったので二つ返事で答えた。


鳴坂と付き合うことになった実感がまだ湧いてこない。並んで歩いてはいるものの二人の間には人が横切れる程の距離がある。


「久しぶりだねこうやって二人で帰るの」

「そうだな」

小学生の頃は近所ということもありよく一緒に話ながら帰っていた。その頃は兄姉のこと、勉強のこと、テレビのことなど話題は尽きなかった。しかし数年まともに二人での会話がなかったとなると糸口が掴めない。それは向こうも思ってたらしく少し困った表情をしていた。


「その、ありがとな告白受けてくれて」

いまだ緊張をしていて鳴坂の顔を直視できずにいた俺は、空を眺めているフリをしながら感謝を口にした。

すると両頬に柔らかい手の感触が伝わり顔を鳴坂の方へと向けられた。

「そういうのは直接目を見て言ってよね」

鳴坂はいたずらっぽく笑いながら言った。心臓の鼓動がいつもより煩い。

「お、おう」

「あ、ごめん…」


鳴坂はぱっと手を離し元の距離に戻った。気まずい空気が流れ出した。せっかく付き合えたのにこんなんではすぐに振られてしまう。

「どうして告白を受けようって思ってくれたんだ?」

今度は目を見て聞いてみた。そして気付く。鳴坂の顔が赤くりんごのように染まっていた。

「それは…秘密!」


顔をそらして心なしか歩く速度が少し速くなった。

俺も負けじと速度を上げた。横断歩道が赤信号になりやっと歩みを止めた俺達は息を切らしていた。

目が合うとお互い耐えきれず笑った。

「なんかいいなこういうの」

「そうだね」


鳴坂の家の前までもうすぐ着いてしまう。この幸せな時間を噛み締めながら歩いていると顔に出ていたのか鳴坂が微笑んだ。あぁ…好きだ。


「送ってくれてありがとう。また明日ね」

「また明日」


鳴坂を送った帰り道で見覚えのある車とすれ違った。その車は一度停まるとバックで戻ってきた。車の窓が開くと鳴坂の姉の好美さんが顔を出した。

「竜二君じゃん!こっちの方に来るなんて珍しいね」

俺と鳴坂の家はさほど離れてはいないが逆方向にあるため俺がここにいるのに疑問を持つのは当然だった。

「鳴坂を送った帰りです」

隠すことではないので正直に言うと好美さんはにやにやとこちらを見てきた。

「ふ〜んそうなんだ…後で話聞かせてよね」

そう言うと好美さんは窓を閉め車を走らせた。


帰宅して1番最初に向かったのは仏壇だった。線香を上げて祐一兄さんに今日の報告をした。

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溶け出した時間を二人で歩く 秋月睡蓮 @akizukisuiren

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