[Disc 2] 一途な想い
――四宮が一人、四宮が二人……。
「二葉ちゃん、何か知ってる?」
「いや何って……私は昨日、短冊に書いて窓際に吊しただけだよ?『四宮がもう一人居ますように』って」
「昨日のアレ、本気だったの!?」
「もちろん。でもまさかこんなことになるなんて……」
「いや、常識的に考えて二葉ちゃんのせいではないと思うけど」
「しっかし、本当にそっくりだよね。…でも、そろそろ授業だし、止めさせないと」
「あ、いやそれが…」
「ちょっと、話しかけてくる」
何のドッキリか知らないけど、本当に上手くできてる。幼馴染みの私でも間違えちゃうくらい。
でも、授業が始まる前に、この悪ふざけは戻してもらわなきゃ。クラス委員だしね。
「――四宮くん」
「「どうしたの?二葉」」
二人は同時にこちらを向くと、そっくりな顔で同じ声を発した。
「どうしたの?はこっちの台詞よ、もうすぐ授業ですよ、その変な変装は止めなさい」
「「変装?何言ってるの?何か変だよ、二葉。呼び方も変に『くん』付けだし」」
「なッ、呼び方って……って今はそんなこといいから」
そんな突然呼び方を指摘されるなんて。というか、違いに気づくくらい、いつも気にしててくれてたんだ。
ガラッ
余計な思考に入った私の目を覚まさせるように、教室の戸が開く。
「よーし、朝のホームルーム始めるぞー。二階も席に戻って。四宮も二人とも席に着く」
「「はーい」」
「はい。って、え?」
――『四宮も二人とも』?
「そうなの、二葉ちゃん。私も驚いたのだけれど、クラスのみんなは四宮君が二人居ることを当然のように受け止めているの。違和感を覚えてるのは私と二葉ちゃんだけ。でも良かったわ、私だけハブられたドッキリかと疑ってたから」
零子は立ち尽くす私を机まで引っ張ると、そう耳打ちする。
「え、じゃあ本当に
「少なくとも、私たち以外のクラスメイトにとっては、ね」
――え、本当に
「……でも、それってチャンスよね」
「うーん、と?」
「だって今は四宮が二人居るんだよ?これで私も
「……っ」
はぁ、と零子が大きく溜息をつく。
「二葉ちゃん、本当にそう思える?」
「どういうこと?」
「だって、二葉ちゃんの好きな四宮君は、どっちなの?」
「どっち、って……どっちも四宮ってことなんじゃないの」
「でも、二葉ちゃんの思い出の中の四宮君は一人でしょ。幼馴染みの四宮君は一人だけな訳でしょ」
確かに、私が一緒に過ごしてきた四宮は一人だけで、でも目の前には二人居て。
つまり、私と思い出を共有してきた四宮は、どっちか片方だけってことになる。
「……そっか。じゃあ、確かめてくる」
どっちが本物の四宮か、確かめるのは簡単だ。私と
そしてそのネタはたくさんある、だって私は幼馴染みなんだから。
「ねぇ、四宮」
「「ん?」」
「小学生の修学旅行、覚えてる?」
――さあ、偽物の四宮君。どう答える?
「「えーっと、日光だっけ?懐かしいなあ。確か二葉、肝試しのとき怖がって……」」
「わーわーっ、ストップ。それ以上は……」
――怖くなってその場から歩けなくなって、結局アイツの腕に抱きついてゴールまで引っ張って貰った…なんてこんな教室で言えるわけないじゃない。
大体、それを知ってるのは私と、ペアだったアイツだけのはずで…。じゃあこのドッキリのためだけに偽物の方にもこの秘密を話したってこと?
「じゃあ、そのとき着てた私の服、覚えてる?」
――しまった、と思った。
そんな大昔の、細かいことなんて、覚えてる訳ないよね。私のこと、そんなに興味ないんだから。冷静さを欠いた発言だった。試すにしても、もっと簡単な質問に……。
「「ああ、白のワンピースだろ?実は晩ご飯でカレーこぼしてたのに気づかなくて、肝試しの暗闇の中で血痕だと勘違いしちゃってさ。せっかくの服なのに、汚してお母さんに怒られたんだっけ?」」
――ねえ、なんでそんなこと覚えてるの、二人とも。それとも。
「なんで……じゃあ…やっぱり二人とも四宮ってこと……?」
「「だから、何言ってるの二葉。なんか変な本でも読んだ??」」
――変なのは四宮の方なはずなのだけれど。実は変なのは私の方なのかな。
「ううん。なんでもない。ごめんね」
そう言って、作り笑いを浮かべてみせる。
――本当は、もう一つ聞くべき質問があったのだ。
『じゃあ、一ノ瀬先輩と付き合ってるのはどっち?』
だけれどその質問は、ぐっと飲み込んだ。
こんな質問思いつくなんて。やっぱり変なのは私の方なのかもしれない。
じめっとした空気が鼻をつく。どうやら一歩遅かったらしく、外では雨が降り始めてしまった。
厚い雲に日光が遮られ薄暗い廊下を、小走りで玄関へ向かう。
「あれ、四宮。今帰り?」
放課後、下駄箱で。四宮…の片方と出会った。
「うん。二葉も?」
「これから帰るとこ。零子は委員会があるらしくて」
「そっか。じゃあ途中まで一緒だな」
唐突の天恵。頭に、顔に、血が巡るのを感じる。
――たかだか帰るだけなのに。
何を意識してるんだか。心臓が、もの凄く大きな音を立てて鼓動している。
一緒に帰って噂される…なんて上等。もう私は自分の気持ちに気づいたんだ。
雨降る帰り道も、彼の隣なら晴れやかだった。
「帰りは流石に、四宮と一緒じゃないんだね」
「あいつは今頃、一ノ瀬先輩と一緒さ」
そう言って彼は、寂しげな笑みを浮かべる。
――しまった、と思った。
ただ私は、いつも二人一組でいたのに一人で帰ってたのが気になっただけで…。でも確かに考えれば分かるはずのことだった。
「あ……ごめん」
そう言って私は歩みを止める。
それに気づいてか、彼も歩くのをやめ、こちらに向き直った。
「いや、二葉が謝ることじゃないよ。ごめん」
傘に弾ける雨粒が鬱陶しい。
「……でもさ、僕もあいつも同じ四宮なのに、あいつだけズルいよな」
絞り出すような声。その顔に流れ落ちる液滴は、雨か、それとも。
「あいつとおんなじで、僕だって…」
目の前の四宮は俯く。
何故だろう。次に続く言葉が、予想できてしまった。それは、最悪の予想で。
――やめて。それ以上は、言わないで。
「……僕だって、一ノ瀬先輩のことが、好きなのにさ」
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