ばいばい、しのみやくん
ずまずみ
[Disc 1] 負けヒロインが負けないために
「ねー、
「いない。恋愛なんてそんなの、無駄だから」
「もーまたそんなこと言っちゃってー。ホントはいるんでしょ?」
「はぁ、そんな恋愛脳でいるといつか身を滅ぼすよ?大体、どうしたの急に。……もしかして
「……誰にも言わないって約束してくれる?」
「それって、最早言ってるのと同義な気がするけれど……」
――そう私、
自分でも未だに信じられないんだから。まさか四宮のヤツを好きになっちゃうなんて。
確かに昔からずっと見てきて、もうだいぶ力持ちになってるとことか、部活も勉強も真面目に打ち込んでるとことか、ぶっきらぼうなように見えて時折見せる優しさとか、かっこいいところはたくさん知ってる。
そして昔からずっと見てきたからこそ、私がアイツに向けるこの気持ちが以前とはもう異なってしまっていることを、私が一番知っているんだ。
だって、教室でも毎日のようにお話して、一人で自販機前に居たら隣でジュースを飲んでくれて。クラス委員の私を頼りにしてくれて、それでいて時折助けてくれて。
この間も職員室から持ってくよう頼まれた荷物を抱えてたら、すぐ私の前に現れて軽々荷物を引き受けてくれて。そのとき偶然触れたアイツの腕が、予想以上に凄く筋肉質で、ずるいよそんなの。
気づいたらもう、頭の中はアイツ一色になってる。こんなの、十数年間一緒にいて初めてだよ。だからまずは、この胸の中で制御不能なこの想いを親友の零子に相談しようと思って――。
「さすが零子、鋭いね。実は……」
「ん、ちょっとストップ。まさか四宮君じゃないよね?」
零子が慌てて、視線を手元の文庫本から私の瞳に移す。
さすが零子。でもそんなに驚いた目をしないでよ、私だってびっくりしてるんだから。
「それがさ、聞いてよ零子。私気づいちゃったんだけどさー」
「四宮君、彼女いるよ」
「相手は確か、
一つ上の、
一ノ
……。
……え。いや、えっ、待って。
そんなこと、一言も言ってなかったじゃん、アイツ。
「……へ、へえー。そぉなんだ、あいつー。はつみみだよぉー。そーなんだー。まったく、少しくらい私に…教えてくれても……良かった…じゃん……」
じゃあ何?一緒に過ごしたあの昼休みも、放課後も、帰り道も、何だったっていうの?私とのこれまでの重ねた十数年って、一体何??アイツにとって、私って???
「……ねぇ、零子。私って今、どんな表情してる……?」
「……泣きたかったら、泣いてもいいんだよ」
そう言って彼女は、
「…っ。れいこぉ」
誰にも見られないように、彼女の胸に顔を、涙を、押しつける。
そっと頭に載せてくれた彼女の掌は、小さいけれど温かく、とても大きく感じられた。
――何よ、アイツ。意味も無く距離詰めてきて。そんなん勘違いしてもしょーがないじゃん。それとも幼馴染みとして、あれが普通の距離感だとでも思ってるの??
そう、幼馴染み。私はアイツの幼馴染みなの。誰よりも私が一番、アイツを見てきてるんだから。うん、そうよ。
「……そうよね。それでも私は、アイツの二番目までは譲ってないよね」
「え、何、ちょっと、危ないこと考えないでよ?」
「私がアイツにとっての二番目なら、アイツを二人に増やせばいいのよ!」
載せられた零子の手が、左右に私の頭を撫でる。見えないけれど、きっとその表情はとても穏やかなものなのだろう。
――私だって、分かってる。馬鹿げた考えだって。
でもね、今日は七夕。ちょっとくらい、ファンタジーなお願いしたっていいじゃない。
さらさらな笹の葉。
私の心も、あれくらいさらさらしてれば良かったのに。
私と彼の心の距離は、天の川より遠い。
次の日の学校も、至っていつも通りだった。
そりゃそうだ、私以外、昨日という一日はなんの変哲もないただの平日だったのだから。
――アイツに会ったらどんな顔すればいいんだろう。
私だけ、こんなことで一人思い悩んでいる。
「ちょっと、二葉ちゃん!何やらかしたの!?」
ここにもう一人、いつもと違った様子の零子がいた。
「おはよう零子。珍しいね朝から血相変えて、どうしたの?」
「どうしたのって…。ちょっといいから、教室来て!」
そう言って零子は、ぐいっと私の手を引っ張る。
――ちょっとそんなに勢いよく教室に連れてかないで。まだアイツに会う心の準備が……。
「二葉ちゃん、あれ見て!」
教室に着くなり零子が指差す方向には、
――いきなりこんなの見せることある?なんて残酷なんだ――。
少しムッとして視線を横に滑らす。
それに、アイツと目が合っても困るし…。
「……あれ?」
横にずらしたはずの視界には、またしても見慣れた姿があった。
慌てて視線を元に戻しても、目をこすっても、深呼吸しても、そこには変わらず……。
「え、えぇ?四宮が二人いる!?」
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