#2-1 幽子喰らい〈ファントムスライム〉
広い王国領の草原に、似つかわしくない巨大で重厚な箱が駆けてゆく。
王国経営列車『オリーブ号』・・・"平和"を冠するその列車は、王都へと向かっていた。
ファング達が列車に乗る数10分前・・・
列車に乗った黒いフードの男が、オリーブ号の第2貨物車両で何者かと連絡を取っていた。
「本部へ連絡、指定の列車に乗った」
『よろしい、開始のタイミングは貴様に任せる。しくじるな』
「・・・了解」
通信を終えた男の手には、黒い物質の入ったビンが握られていた―――
アルスの町を離れ、王都『アーテネス』へ向かうファング達4人は、オリーブ号の第3車両に乗っていた。
その車両は主に一般人が乗っている車両で、車内では同乗している行商人らが商いをしていた。
「見てきな見てきな!領土の南の方で作られている民族衣装だ!華やかだぞ!」
「王国より海を渡った先の"東国"、そこでよく食べられている『つけもの』ってのがこれだ!ちょいとクセがあるが美味いぞー!」
「おい!そこのボウズども!腹減ってねえか、減ってるだろ?タダでやるから他の客の前でこれ見よがしに食って来ねえ!!」
商人たちが活気づき盛り上がる車内で、ファング達は手渡された"揚げ干し肉"を食べながら座れそうな席を探していた。
「すごい人の数ですね」
小さい口でゆっくりと揚げ干し肉を食べながら、メルティはウィルブに聞いた。
「あぐ・・・うん、普段よりかは多いかな?」
そう答えたウィルブは串に残っていた揚げ干し肉を食べ終えると、ちょうど4人座れそうな席を見つけて、ファング達を座らせた。
「さて・・・」
席へ着いてから数分、一息ついたところでウィルブが口を開いた。
「王都に到着するまで時間もあることだし、少し列車の中を見て歩いておいでな」
「え、いいんですか?!」
初めて乗る列車ということもありよっぽど楽しみだったのか、3人は跳び上がるように立ち上がった。
「おぅ、行って来な・・・つっても、見る場所なんて無いと思うけどな」
そう言うとウィルブは背もたれを倒し、車窓を眺めながらくつろぎだした。
早速ファング達は3級車両の中を、先頭車両へ向かって行くように探索しだした。
先ほどの商人たちの前を通り過ぎ、2級車両へと続く連絡通路に差し掛かった。
そこには受付のようなカウンターがあり、1人の女性が椅子に座っていた。
「通行許可証はお持ちですか?」
そう女性が聞いてきたので、みんな首をかしげると・・・
「申し訳ございません。この先の2級車両、並びに1級車両に進む場合には通行許可証が必要なんです」
「はいはーい、その許可証ってどこで手に入りますかー?」
バッジが淡々と聞いた。
「通行許可証は料金を支払った場合、もしくは、爵位のあるお方かギルドから発行されます」
「ちなみに、おいくらですー?」
「許可証1枚につき、100万ゴルドになります」
それを聞いたファング達は絶句した。
町の大人たちの月収は、平均で20万ゴルド。生活費などのお金を引いた場合、月に貯金できても精々5~8万程が限界の為、100万ゴルドとなるとおよそ1年~1年半となるためである。
ファング達もそれぞれ魔物退治や店の手伝いなどである程度は稼ぎがあるが、持っていても5万ゴルド程度である。
諦めて戻ろうとした時であった。
「えぇい、まだ着かんのか!!」
2級車両へ続く扉の向こうから、怒号が響いた。
「も、申し訳ございません、ヴィスカウント卿。なにぶん、オリーブ号は王都まで各駅停車でございまして」
申し訳なさそうに誰かが答えると
「ぐうぅぅ・・・もういい、どけ!!3級車両の商人どもの飯でも食ってくるわ!!」
「し、しかし・・・」
2級車両の扉が乱暴に開かれると、中からは鎧を纏った太り気味の騎士が現れた。
ガチャガチャと鎧についたプレートを鳴らし、ファングの前へと歩いてくると
「邪魔だ!どけ、貧乏人め!!」
ファングを片手で乱暴に突き飛ばし、3級車両へと歩いて行った。
「ファング、大丈夫?」
メルティが傍へ駆け寄り、心配そうに顔を覗き込んだ。
「痛ってぇ・・・んだ、あのデブ!!ムッ・・・カツクぅぅ!!」
苛立ちを隠せないファングをバッジが落ち着かせようと声を掛けた。
「はいはい、相手は貴族様ですよ~、問題ごとになるからやめましょーねー」
悔しまぎれにファングが舌打ちをすると、先ほどの受付の女性が呆れたように言いだした。
「はぁ、ホント。貴族様には困ったものよね」
「あの、さっきの人は?」
メルティがファングの殴られたところを手当しながら聞いた。
「さっきのは『プリエン・ヴィスカウント』。あんなんでも有爵者で、爵位は"子爵"よ」
そう言うと続けて付け加えた。
「今回も、部下の騎士様たちの手柄を自分の物のように王都に報告しに行くところよ。そんなことを何度もしているから、私たち庶民からは"盗人豚"って呼ばれてるわ」
「けっ、貴族だか豚だか知らねえけど、王都はそんな奴ばっかりなのかよ」
ふてぶてしくファングが言うと、女性は答えた。
「まさか!あんなの一部よ、一部!中にはとっ…ても!素晴らしいお方もいるのよ!」
「しつもーん!さっきの豚野郎の横取りした手柄って、何ですか~」
ファングの機嫌を直そうと、彼の髪をぐしゃぐしゃにかき乱しながらバッジが聞いた。
「気になる?だったら教えてあげる。実はね・・・」
勿体ぶるように答えようとする女性に、3人は食い入るように近づくと、女性は答えた。
「それはね・・・『
イクシード ム月 北斗 @mutsuki_hokuto
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