#1-6 アルスの若き戦士たち

 東の森でドラゴンとの圧倒的な力の差を見せつけられ、自分たちの無謀さを知ったファング達。

 危うく命を失いかけたファングを救ったのは、王都からドラゴン退治で駆け付けた豚頭の兜の戦士だった。


 戦士の介入に気付くのが遅れたドラゴンは、思わぬ反撃を受け断末魔のような咆哮を上げると、ズシンと倒れこみ動かなくなった。

 その後、戦士からこっ酷く叱られた3人は戦士と共に森を抜け町へと出ると、そのまま長老の家へと連れていかれた・・・


 そして今・・・正座させられたファング達の目の前には、長老アースが眉間にしわを寄せている。込み上げてくる怒りをギリギリのところで抑えているせいか、普段の穏やかな表情は今にも崩れてしまいそうだった。

 横一列に座らされ、ファング達はアースが説教を始めるのを待たされていた。


「お前たち・・・なーに、しとるんじゃ?」

 怒りの感情を抑えたその声は、わなわなと震えていた。

「16年も生きておるのに・・・勇敢と無謀の違いも分からんのか?」

 折れた剣を手前に置いているファングが答える。

「アニマだし・・・楽勝だと思ったから・・・」

 ふてぶてしく答えたファングに、遂にアースの堪忍袋の緒が切れた・・・いや、した・・・


 アースはしわくちゃな手で握っていた杖を高く振り上げると、うなだれるファングの頭目掛けて勢いよく振り下ろした。

『ゴンッ!!』という重く鈍い音が家の中に響いた。

「痛っ・・・てえええぇぇぇ?!何すんだよ、クソじじい!!」

「お前こそ何しとるんじゃ、こんの・・・たわけ者が!!」

 頭を殴られたことに腹を立てたファングがアースを睨みつけ顔を上げたところを、アースはもう一度杖で殴りつけた。


「っつぁぁぁ・・・、2回も殴んじゃねえよボケじじい!!」

 ファングは殴られた頭を押さえながら涙目でアースを睨む。

「まだ殴ってやろうかクソガキが・・・」

 3度目の杖を振り上げる素振りを見て、ファングは身構えた。


「長老・・・もうその辺で勘弁してやっては?ちゃんと反省してるでしょうし・・・な、お前ら?」

 ルジンがアースとファングの間に入り、アースの杖を握る手を止めた。

「あ!あとな、そろそろお前たちの親御さんがここに迎えに来るからな!心配かけたんだから、ちゃんと謝るんだぞ!」

 その言葉を聞いた瞬間、顔色が青ざめたバッジは立ち上がり玄関へと走って行った。

「アース長老!今日はホントすいませんでした!じゃ!!」

 ものすごい早口で長老に謝罪し逃げるように玄関を開けて飛び出した。

(冗談じゃねえ!鍛冶師の親父が来ようものなら金づちで殴られかねねえや!!)

 しかし…逃げるのが少々遅かった・・・

 扉の前には熊のような体格の彼の父親・・・鍛冶屋の『ウルサス・バルクゲニア』が金づちを握って仁王立ちして待っていたのだ。

「あっ・・・」刹那、バッジの脳内に走馬灯のように3人の楽しい思い出が駆け巡ると・・・残酷にも、ウルサスの握った金づちが彼の脳天目掛けて振り下ろされた。

 一撃で気を失い倒れたバッジを肩に担ぐと、ウルサスは長老に一礼をして帰って行った。


 ウルサスと入れ替わるように、おどおどとした眼鏡をかけた男性がやってきた。

「えと・・・メルティ?」

「パパ!」

 メルティを迎えに来たのは彼女の父親『メディス・ネフィカ』だった。

「大丈夫かい?ケガしてないかい?」

 心底心配していたのか、メルティの体を隅々まで診察した。彼は町で数少ない医者の1人だからだ。

「だ、大丈夫だよパパ。ファングとバッジが守ってくれたし」

「そ、そうかい?なら、よかった。ファング君、娘を守ってくれてありがとうね」

 メディスはファングに礼を言うと、メルティを連れて長老の家を後にした。


「じゃ、じゃあ私もこれで。失礼します長老」

 ルジンはバツが悪そうに出ていくと、アースが口を開いた。


「ファング、お前の説教はまだまだこれからじゃぞ・・・」

 長老から放たれる怒りの気配を肌に受け、昼間のドラゴンとの戦いをファングは思い出した―――

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