#1-3 アルスの若き戦士たち

 ルジンは王都のギルドから訪れた戦士を連れ、アルスの長老のもとへと案内していた。

 アルスの町の者は町長も含め、何かと頼りにする人物だ。

 長く町で生活している老人たちのほとんどが言うには、彼は自分たちよりもずっと昔から町にいる、らしい。

 長老の家は町の小高い丘の上、巨樹のそばにある。


「いやー、でっかい樹ですなー!」

 見上げるほどの巨樹を見て、戦士は声を漏らした。

「えぇ、樹齢は500年程だそうで!」

「おや?詳しくは分からない感じですかい?」

「なにぶん、文献が無くって…あぁ、見えてきましたよ!あちらの家です!」


 他愛ない会話をしていると長老の家が見えてきた。1人で暮らすのにはピッタリと言えるほどの小さなその家は、巨樹のそばということも相まって、より小さく見える。


「長老ー、王都からお越しになられました戦士様をお連れしましたよー」


 ルジンが何度かドアを叩く。ゆっくりとドアが開くと、中から杖を突いた腰の曲がった老人が出てきた。


「紹介します戦士様、こちらがアルスの長老のアース様です」


 紹介を受けたアースが一歩前へ進み、戦士へと頭を下げた。一礼を終え、戦士に挨拶をする。


「はるばる王都からお越しいただき、誠に感謝しております。このアースが町の者たちに代わり礼を申し上げます」

「いや、そんな・・・頭を下げられるほどの者じゃございませんよ俺は!」

 照れくさそうに戦士は謙遜した。


「えっと・・・ご依頼は"町の東に現れたドラゴンの討伐"でいいんでしたっけ?」

 とにかく照れくさい戦士は、ごまかすように依頼の確認をした。


「はい、そうでございます・・・しかし、何も

 ん?と、戦士は首をかしげると、アースに聞き返した。


「殺さなくていいんですか?ドラゴンですよ?もしほっといて、後で町が甚大な被害を被ったりしたら…」

「いや、なに。そんなことはしないでしょうよ」

 まるで確信でもあるのか、アースは心配がいらないことを戦士に告げた。


「しかし…くだんのドラゴンが現れた影響で、森の中に居た魔物たちが町の方へと溢れているのは事実でございます。なーに、ちょいとドラゴンを黙らせて『このドラゴンは大したことない、無害な奴だ』とでも魔物たちに思わせてやれば、魔物たちが町に来ることも無くなるでしょう」


 アースの口から発せられる考察に、戦士はただただ聞き入るしかなかった。


「あのぉ…」

 戦士は恐る恐るアースに聞いた。


「アース殿はもしかして…そのドラゴンとは"既知の仲"だったりしますか?」

 そう聞かれてアースがとぼけるように返した。

「さぁ?もう長いこと生きておりますので、知り合いもたくさん見送ってきました。もしかしたらその中にはドラゴンもいたやもしれませんな」


 ほっほっほ、とアースが笑っていると1人の町人がアースの家を訪れた。


「アース様いらっしゃいますか?」

「おー、どうしたよい?」

「ファング達を見ませんでしたかね?あいつらに畑の魔物退治を頼んでたんですが、終わったみたいなんで小遣いやろうと思ってたんですよ。ほら、あいつら・・・『この町にギルド作って町を守るんだー!』って、言ってたでしょう?」


 アースとのやりとりを聞いたルジンが思わず口を開いた。


「あああぁぁ!?あいつら、まさか!!」

「なんじゃ、ルジンよ?」

「さっきあいつらに、『東の森には行くな』って釘刺したんですよ!」

「なんじゃと・・・くああぁぁ・・・!!ファングめ・・・あの、大バカ者が!!」


 長老の家の中に緊迫感が広がる。


「戦士様・・・!」

 ルジンが声を掛けるよりも早く、戦士は準備を済ませていた。


「ルジン殿・・・でよろしかったですかい?その東の森のドラゴンの居場所、分かりますか!!」

 ルジンが大声で「案内します、こちらです!!」と戦士を連れて走り出した。


 離れていく戦士の背中に向け、アースが声を張り上げる。

「戦士様あぁ!!あの、大バカ者を頼みますぞおおぉぉ!!」






 そんな長老たちの心配もつゆ知らず、ファング達は森の入口へと向かっていた。

 生い茂る木々によって出来たその入り口は、まるで、獲物を待つ魔物の口のようでもあった。

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