#1-2 アルスの若き戦士たち

 ファング達3人はアニマドラゴンが見つかったという東の森へと向かっていた。

 あれほどきつく釘を刺されていたにもかかわらず、だ。


 唐突にファングが口を開いた。


「なぁメル、お前ちゃんと幽子レイスの勉強してんの?」

「し、してるよ!まだ使えてないけど・・・」

 ふて腐れるようにメルティはそっぽを向いた。


「ふーん・・・じゃあメルティさんや、幽子ってのは何ぞやか?」

 バッジが揶揄からかうように聞いた。


「れ、幽子とは、私たちアーテネス人だけが使える魔力に次ぐ能力で、その名の意味は〈恐れられるべき者〉、元は彷徨える魂・・・霊魂です。自身の身を守ったり、誰かを守ったりすることにしか使ってはいけない能力です。」


 自身気にメルティが答えると、バッジは続けた。


「ほーん・・・そんだけだっけ?」

 試すかのように問われ、メルティは答える。


「えと・・・幽子には2つの形があって、1つは〈幽子降霊ファントムコール〉で、幽子に姿を与える使い方です。姿形は人それぞれで変わるけど、基本的にはその人に縁のあるものになります。」


 メルティの説明をファングとバッジが時折、相槌を打って聞いている。


「で、2つ目が〈幽子術技ファントムアーツ〉です。最初の幽子降霊とは違い、こっちは幽子を体や武器に宿す使い方です。普通に武器を振ったり、叩いたりするよりも威力が上がります。王都の兵士さんや、ギルドの戦士さん達が使います。」


「おぉー」とファング達がメルティの説明を聞いて感心している。


「アーテネス人ならだれでも使うことの出来る能力ですが、忘れてはいけないのが使、です。攻撃的な意思で使うと幽子は赤くなり、穢れが溜まります。使い方を改めないでいると、怨念と化した幽子に飲まれて使用者自身も幽子となります。」


 説明を終えたメルティは、『どやっ』と胸を張っている。


「いやー、さっすがメルティ先生!・・・で、使えるようになったのかい、幽子は?」


 バッジにそう言われ、「ぐっ・・・」とメルティが痛いところを突かれたような声を上げた。彼女はなぜか幽子が使えないのだ。


「いつかちゃんと使えるようになるもん・・・」

 再びメルティは、そっぽを向いた。


「なーに、幽子が使えなくたって気にすんなって!お前には魔法があるだろ?オレ達にゃあ使えねーもんがさ!」

「そそ、俺達は簡単な魔法すら使えねーんだからな!」

「え?オレ、小さい傷程度なら治せる〈ヒール〉使えんだけど?」

「はあああぁぁぁ?!何だよそれ!!じゃあ俺だけじゃん、魔法使えないの!!」


 ぎゃいぎゃいとファングが騒いだ。

 一通りファングは騒ぐと、「はぁ…」とため息をついた。


「まあ、いいや。何はともあれ、魔法に関しちゃメルが一番なんだ、頼りにしてるぜ。」

「・・・うん!」


 信頼されていることを告げられて、メルティは少しだけ自信を持った。






 一方その頃・・・町の駅前には1人の戦士が立っていた。


 全身を真っ白な鎧で覆い、頭部にはなぜか豚の頭を模した兜を被っていた。

 そこへ、先ほど町で人々に東の森の事を話していたルジンがやってきた。


「いやー、戦士様!お待たせしました!」

「ん、てか、わざわざ迎えに来てくれたんですか?すいませんね~。」

「いえいえ!はるばる王都からお越しくださったんです、当然ですよ!!・・・あー、ところで・・・その兜は一体・・・?」


 頭を完全に隠すその豚の頭の兜を見て、ルジンは訪ねた。


「いやぁ、ははは。お恥ずかしいのですが、興味本位で被ったらこの兜、呪われているのか脱げなくなっちまったんですよ!」

 戦士はそう言うと豪快に笑って見せた。


「は、はぁ…。あ!とりあえず、まずは長老のもとへご案内します、こちらです!」


 そう言ってルジンは戦士の案内を始めた、ファング達が東の森に向かっていることも知らずに・・・

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