イクシード
ム月 北斗
#1-1 アルスの若き戦士たち
アーテネス王国、広大な領土を持ち数多くの科学的な技術を誇るその大地の一端に、小さな田舎町があった。
町の中心は小高い丘があり、そこには樹齢500年程の巨樹が
町の名は『アルス』、500年程前に巨樹の苗を植えたという一頭の竜からその名を付けられたのだとか。
竜の名を『アルスヴェイン』、かつて王都アーテネスではこう呼ばれていた。
『竜皇アルスヴェイン』と……
そんな町では3人の若者たちが今日も忙しく『魔物退治』に勤しんでいた。
『グルアアァァ!!』大きな鋭い牙を持ったイノシシのような魔物が畑の真ん中で雄叫びを上げた。
魔物の前にはロングソードを構えた1人の青年がいた。
短い銀髪、黄玉のような瞳の青年は魔物との間合いを見極めようとジリジリと詰め寄ってゆく。
そんな彼の後方、少し離れたところには同じ年頃の青年と少女がいた。
青年の方は青と白の混じった髪と深い海のような蒼い瞳をしており、手にはごちゃごちゃと改造の施された銃が握られていた。
少女の方は薄紅色の長髪で柘榴のような瞳をしており、蒼い髪の青年の陰に隠れるようにその身を小さく縮こませ、震える手には大きな杖を握っている。
魔物と対峙している青年が、剣を振り上げ飛び掛かるように切りかかった。
「でやああぁぁ!!喰らえ!『
魔物は咄嗟に横へ回避し、振り降ろされた剣はそのまま地面へと突き刺さる。
そしてそのまま、青年たちを無視するように町の方へと走っていく。
「なーにやっちゃってんのよファングさんよー!」
銃を持った青年は、『やれやれ』と茶化すように言い放つ。
「うるっせえぇ!たまたま外しただけだろが、バッジ!!」
ファングと呼ばれた青年が声を荒げて言い返した。
「魔物、町の方に行っちゃったよ・・・どうしよ・・・」
「なーに、大丈夫さ。ほれ、ファングのやつがもう追っかけて行っちまったよメルティ」
怯える少女にバッジが優しく声を掛けて、後を追うように促した。
町へと猛進する魔物は、道中の柵やら看板やらを破壊して突き進む。
そうして生まれた瓦礫を躱しつつファングは魔物の後を追いかける。
「待ちやがれえええ!!」
道には当然、町人がいる。散歩している人、仕事へ向かう人・・・魔物の襲撃に合わないように、みんな道の隅っこに避けている。
しかし、その日は運が悪かった。
魔物の進む先には少女がいた。魔物に気付くのが遅れたのか、少女は向かってくる魔物をじっと見つめている。
「やべぇ!逃げろ、チビ助!!」
恐怖に足でもすくんだのか、少女は身じろぎ一つしない。
「くそ!俺よりこっちの方が速いか・・・
そう叫んだファングの体から、青白いオーラのようなものが沸き上がる。
やがてそれは彼の体を離れ、狼のような形を成して駆けだした。
魔物の走る速度を上回る速さで追い抜くと、少女の前で立ちはだかった。
「グァ?!」
突如目の前に現れた存在に驚き、魔物はその足を止めた。
ファングと狼に挟まれた魔物は、今度はファングに向かって突進してきた。
「おっと、そうはいかないんだなーこれが」
やっと追いついたバッジが銃を魔物に向けて構える。
「
撃ち放たれた銃弾が魔物の目の前に着弾すると、まるで水の塊が破裂したかのように爆発した。
驚いた魔物が今度は横へ向きを変えようとした時だった。
「逃がさない!ファイアボール!!」
バッジと一緒に追いついたメルティが杖を振りかざすと、杖の先の宝玉が輝き、2つの炎の球を弾き出した。
球はそれぞれ魔物の左右へと飛んで行き、魔物の進路を妨害し、その足を完全に止めた。
その隙を見逃さずに、ファングは再び魔物に飛び掛かった。
「戻れ、
魔物は最後の抵抗でもしようというのか、その大きな牙を突き上げる。
『グルアアアァァァ!!』
「喰らいやがれえええぇぇぇ!!狼牙剣!!」
技の発動は圧倒的にファングの方が勝っていた。
振り降ろされた剣は魔物を文字通りに一刀両断したのだ。
魔物は断末魔すらあげる事無く、先ほどファングが呼び出した狼と同じように青白い煙となって消え去った。
「うっし!魔物討伐、完了!!」
「イェ~イ!!」
そう言ってファングとバッジがガッツポーズをしている中、メルティは少女の方へと駆け寄っていた。
「大丈夫?ケガしてない?」
優しく声を掛けられた少女は小さな声で「うん」と頷いて見せた。
ざわついている周囲の人々の群れを掻き分けて、大柄な男が1人やってきた。
「どうしたどうした、何があったんだ・・・って、お前らか。今度は何をしたんだ?また畑のかかし相手に技の特訓でもしたのか?」
「ちげーよルジン!ちょっと、その・・・魔物退治だよ!!」
バツが悪そうにファングが言い返す。
「へー、退治・・・ねぇ。町の中で、か?」
ぐぬぬ・・・とファングはますますバツが悪くなる。
「ごめんなさい、ルジンさん。魔物が思ってたよりも足が速くって…」
見かねたメルティがフォローに入った。
「ふむ、まあでも見た感じ誰もケガとかはしてないみたいだな。せいぜい柵とかが壊れた程度か、それなら問題なしだ!よくやったな!」
両手を腰に当て、ルジンは3人の功績を褒めた。
「んー、それはそれでいいんだが・・・お前たちに何か言いに来たんだが・・・何だったかなぁ?」
「なんかあんの、ルジンさん?」
バッジが両手を頭の後ろに当てて聞き返す。
「あ、思い出した!お前らだけじゃねえや、おーい、みんなー!!」
ルジンはファング達だけではなく、周りに集まっていた町人達も呼び寄せた。
「悪いんだが今日この後、東の森には近寄らないでくれ。例のアニマドラゴン退治に王都からギルドの戦士様がいらっしゃるのだ!」
それを聞いた町人達が途端にざわつきだした。
「おぉ!王都から!」「やっとか・・・」「ホントに退治できんのかね」「
「特に・・・ファング!!絶対に近寄るなよ・・・ぜ・・・ってええええええに!!近寄るなよ・・・」
釘を刺すように、それはもう何10本でも刺すようにルジンはファングに言いつけると「俺は戦士様を駅まで迎えに行ってくる」と言って行ってしまった。
「だってさ、ファング」
バッジは何かを悟ったように声を掛けた。
「あぁ…そういうことでしょーよ」
ニヤリとファングが笑みを浮かべるとメルティは不安そうに言った。
「ダメだよぉ…怒られるよぉ・・・」
それを聞いたファングとバッジが声を合わせて返した。
「バレなきゃいいんだよ、バレなきゃな!」
周りの町人達に気付かれないように、ファングとバッジはこっそりと東の森の方へと歩き出した。
置いて行かれるのが嫌なのか、メルティは渋々その後をついて行くのだった・・・
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