第30話 酔う
いつもの曲がり角。……だが、門番が違う。老人ではなく、若い男だ。しかも、物凄く美形の。
「え?」
と、思っていると、男が瑠奈の背後を見て、
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました。どうぞ」
と丁寧な言葉で語りかけた。
「ウフフ。あなた、凄いイケメンねえ。名前は? お幾つぅ?」
そこには、薫がいた。酔っ払っているような感じで、足元が少しフラついている。
「
「長次さん、いいわねえ。ウフフ」
「中に私の仲間がおります。どうぞ、お入り下さい」
そう言って、長次は、薫を連れて、中に入って行った。
「え? これで、捨てに来たことになるの?」
キョトンとしていると、いつもの老人が現れた。
「8〜10時間くらいで、あの薬は切れる。今日は夕方飲ませたんだろう?あと3時間位だな。今後は寝る前に飲ませて、何度もあの女をここに連れて来い」
「何度も?」
「今、あの女は酔っている」
「酔ってる?」
「何度も連れて来い。……いや、自分から来たがるだろうがな」
「あの薬で? ……ってこと?」
「金がなくなれば、骨と肉だ」
「……」
「それからな、お前さん、考えてなかったろう?」
「何を?」
「この前、殺されに入ったお前の友人……」
「南がどうかしたの?」
「あの時点では、屋台に見つかってなかっただろう」
「そうだよ。だから、チャンスは3回だけど、あたしの夢だし、何回も来なくていいと思って!」
「それは、あいつが屋台に見つかっていて、気に入られてしまっていたらの話だ。」
「え?」
「あいつが屋台に見つからぬままに死んでしまっていたら、あれで最後だった。お前さんが、あの娘を身代わりにした形でな。」
「じ、じゃあなんで?」
「お前さんの持って行った、あの『肉』を、ご贔屓さんが大層お気に入りでな。それで、あいつは生き延びたんだ。」
「あ……、あっ! ああー!」
瑠奈はやっと気付いた。この前のは完全に罠だったのだ。
瑠奈が殺されて、瑠奈の肉を屋台に持って行けば、南はあいつに見つかってしまう。そうすれば、南は自ら、この夢に入り込んで、囚われてしまう。それを避けるために取った手段だった。
しかし、南が殺されて、南の肉を持って行った時点で、ヤツには南のことを知られてしまったのだ。「肉」という形で。味を占められ、南と瑠奈とは別々に、この夢に取り込まれてしまったのだ。
いや……でも……。と、瑠奈は思う。
ヤツが南を気に入って、南がこの夢に囚われたから、実際に殺されずに済んだのかもしれない……と。どの道、二人ともが、この夢に囚えられてしまっていたのだとしても。
目が覚めたら、南に伝えなければならない。自分たちが大きな誤解をしてしまっていたこと。まんまと罠にはめられてしまったこと。
そして、この夢から逃げ出すために、自分たちは、どうしても、紗絵羅の母親をここに完全に捨ててしまわないといけないのだということを。
しかし――
目が覚めてから、考えた。どうやったらそう何度も連れていけるんだろう……。
朝、少し早い時間に、南と会った。昨日の夢のことを話す。
先に、自分たちが罠にはめられてしまったことを話した。もしかしたら、南がそのまま命を落としてしまっていたかもしれないことも。
「……そっか」
「ごめん……ごめんじゃ済まないよね。でも、ごめん。ホントに、ごめんなさい」
「いいよ、瑠奈」
南が言う。
「現に、あたし生きてるんだしさ。これで、遠慮なく、夢の中に入っていけるってことじゃん? 南と手繋がなくても」
「ち、ちょっと! 一人で行かないでよ?」
「わかった、わかった。行かないよ」
南はそう言って笑ったが、もう、これで、南も瑠奈とは関係のないタイミングで、夢に呼ばれることもあるだろう。瑠奈はそれが怖かった。
「で? あの女はどうなったの?」
南が瑠奈に聞いてくる。瑠奈は彼女が見た様子を南に伝えた。
「え? じゃあ、瑠奈が何もしなくても、あいつは中に入ってったってこと?」
「うん。なんか拍子抜けしたっていうか」
「あの方法でホントに連れて行けたんだね。よかった」
「でも、何回も連れてこいって言われたの。何だろう?」
「酔っ払ってるって言ってたよね?」
「そう。そのまま、イケメンに連れられて中に入ってった」
「ホストクラブなんじゃない?」
「ホストクラブ?」
「イケメンのゲームしてたじゃん、あいつ。そういうの大好きじゃん」
「そうだけど……、ホストクラブって、そんなにお金かかるもん?」
「推しに、
「貢ぐ……?」
「時計とか高いもの買ってあげたりさ、気に入られるために、いろんなことでお金出してあげたり……」
「そうか。それでどんどんお金を使っちゃうのか」
「これから、どうなるんだろうね、あいつ」
南は愉快そうに言ったが、瑠奈は不安になっていた。
紗絵羅や健の身に何か危険なことが起こりませんように……。
南が一人の時に、あの曲がり角の夢を見ませんように……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます