第7話 金魚の話

あのころはまさか、縁日の金魚がこんなに大きくなるとは思っていなかったのだ。小さい金魚鉢で事足りると思っていたら、年を経ていくごとにその体は大きくなり、今までの住処では窮屈になっていくさまを見て内心驚いていたもので。

成長のたびに服を買い替えるように水槽を変えていたら、金魚はのびのびと成長し、やがて私の身長をも追い越した。

そこまで来たらもうなんだってできるみたいで、水槽を抜け出しては私たち家族を出迎えてくれるようになったり、テレビで流れている歌番組に併せて一緒に鼻歌を歌ったりするようになった。可愛いけれど、体を拭かずに水槽から出ていくので、廊下がびちゃびちゃになるのは勘弁してほしい。


けれど、失敗がひとつ。


「………………キンちゃん」

「!」

はぁい、と言うようににこにこと微笑む彼女。大きくなった彼女は、尾びれのように紅くひらひらとしたワンピースの似合う美しいいきものになっていた。うちに来たばかりの頃は男の子か女の子かわからなかったから、「金魚だからキンタロー」みたいな名づけ方をした。けれど今の彼女はどうだ、もっと淑やかで可愛い名前を付けた方が良かったんじゃないだろうか。そんな風に思わざるを得ない外見をしている。

「よし、今更だけど改名しよう。キンちゃん、ここ座って」

「?」

首をこてんと傾げて私を見る。目が大きくて、全体的に赤くて、綺麗で、可愛くて、なるべくなら体を表すような素敵な名前にしたいのだけど。

「わかった。赤いから林檎ちゃん。どう?」

「……………?」

「さくらんぼみたいだから、さくら!いや、それだとピンクか…………」

「きゅう」

「八月のお祭で出会ったから、葉月とか…………」

「キュー…………」

「だめかぁ」

がっくりと肩を落とすと、キンちゃんは「う!」と怒ったような声を出した。顔を見れば頬を膨らませて、じっと私を見ている。まるで、変な名前で呼ぶなとでもいうように。


「………キンちゃん?」

「きゅ!」

花が咲くような上機嫌さを纏いながら、キンちゃんは思い切り私に抱き着く。…………本人が気に入っているなら、まあいいか。私はちょっと笑って、キンちゃんの頭をぐりぐりと撫でてあげた。


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