最終話 夏コミエ!BOTH集結せよ!(PART 5)

午後の撮影も一段落ついたので、さっさと着替えて打ち上げ会場への移動へと相成った。

更衣室が混む前に、というのも、もちろんある。

「ふぇぇぇ、ひとっ風呂浴びて、ビールでくぅぅぅっと行きたい気分だわ」

と叫んで悪目立ちする成美さん。

「ルートビアでなら付き合ってあげるよ、ナルミ」

「いい子だねぇ、リリーナちゃんは」

「No!抱き着かないで、ベタベタする」

と、速攻嫌われてるのがまた。

「麻琴、あたしはパウダーシートで清拭済だからベタつかないよ!抱かせて!」

瞳をぎらつかせて迫ってくる未来さん。

「え?いや」

「望、麻琴が冷たい」

「この季節に冷たいなら、さぞ抱き心地がいいんでしょうね」

何言ってんの、この先輩たち。

ツッコミしないように気を付けなきゃ。

「未来、みんなでツップリツップリ言うから、麻琴が会話自体出来なくなってる」

「え?ごめんね、麻琴。言葉を奪うような真似して」

追い詰めに来た、この先輩たち。こうなったら…

「早く、着替えなさい」

と低い声で睨みつけてあげた。

「「はい」」

と、素直に言うことを聞いてくれた。

なんなの?



女子に比べれば、男の着替えなんて、さっと脱いで、さっと拭いて、さっと着るで終わるので早い。

そもそも更衣室のスペースだって限られているのだ。ぐだぐだと居座るのは迷惑でしかない。

というわけで、僕と崇はさっさと更衣室を脱出し、集合場所へ。

当然女子たちは、まだ来ておらず、男だけ。

夏休み中だし、色々あったしで、生物部5人だけの状態って、女子の着替え待ちの時だけか?

女子がいても、5人で話す内容は、大して違わないけど。

「幾美、そろそろ、今日の打ち上げの場所を教えろ」

と、幸次が凄む。

直前になっても秘密主義なのはもう、悪癖以外の何物でもない。

「知りたいのか?」

「なぜ教えたくないのか?って方が疑問だと思うが」

「世の中にはサプライズという風習がある」

「あはは、わかるわかる」

うん、恭ちゃんもそういうタイプだもんな。

「全員に教えないということは、サプライズの期待値が上がりまくりなんだが、大丈夫か?」

崇が心配そうに言うと

「勝手に期待値を上げられてもなぁ」

なんて返しをするもんだから

「誰かロープを持ってきてくれ。こいつを吊るす」

ほら、幸次が怒った。

「実際どうしたいんだよ、幾美は」

「ん?女子たちが楽しめればいいんだよ。別に野郎なんて、道化に徹してりゃいい」

「歪んだレディファースト」

「曲がった騎士道」

「紳士的な奴隷根性」

「あははは、バカじゃないの幾美」

あ、恭ちゃんだけ拳固を食らってる。オブラートに包めないからな、恭ちゃん。

やっぱり宝珠の悪影響なんだろうか、幾美のおかしさは。



そんなこんなで、僕が幾美と恭ちゃんの間に入って両者を宥めているところに、女子たち到着。

「また愚にもつかないことで揉めてるんでしょ?時間の無駄って言うか、寿命の無駄だから、早く打ち上げ会場まで案内しなさい、この愚か男子たち」

久々に宝珠節炸裂。

固まる僕。

言われたことに理解が追い付かずに悩む恭ちゃん。

「よし、行くか」

と切り替える幾美。

「キョウ、アタクシもノゾミの言ってることよくわかんないから、とにかく行こう」

「謙一、ごめんね、あとで叱っておくから」

という麻琴のセリフに一瞬びくっとする宝珠。

「君たちは見てて飽きないねぇ。ボクは楽しいよ」

「あぁ、変な人筆頭が変なこと言ってスマン」

と幸次が成美さんに余計なフォローを入れて関節を極められている。

「ねぇ、崇、楽しいね」

「お、おぅ」

ムリョウさんの言葉に同意しかねている崇。

結局、いつも通りだ。

「ほら、幾美、早く案内しろ。ここでコントやってるとスタッフに叱られる」

「コメディアン筆頭が何を言うのか」

と捨て台詞のように言って、幾美が歩き始めた。

「ねえ、麻琴。僕は筆頭?」

「そうだね、謙一はサークル代表で筆頭だよね」

そこは肯定されちゃうか…そっか…

そしてコント集団BOTHは、打ち上げ会場(謎)へと進み始めた。



電車で移動すること1時間。

辿り着いたのは、なんていうか、サンコスの会場の近くの駅。そのいつもとは反対側の出口へ。

なんとなく予感がして、僕は幾美に尋ねた。

「昨日と似たとこ行こうとしてない?」

「…ちっ」

舌打ちで返したよ、この男。

絶対当たってるよ、僕の予感。

昨日の時点で、今日の場所を教えておいてくれれば、別の場所に行ったのに。

「謙一、どうしたの?」

と、うなだれる僕を心配してか、麻琴が頭を撫でてくれる。なんか、合宿以降、甘やかされてるな、僕。

「うん、幾美が外道」

「それは知ってる…」

だよね。

そして、案の定、到着した目的地は

「超世紀戦隊カフェ」

だ。戦隊もの特撮をモチーフとしたカフェレストラン。昨日行った怪獣食堂とモチーフが違うだけ…っていうと乱暴だけど。

「また、こういうやつか、好きだな、幾美も」

という崇の心無い一言で、幾美から僕に放たれる殺気の濃度が濃くなった。

とりあえず、崇は許さない事にする。

一方、席に案内されたというのに、席に付かず、店内に展示装飾された戦隊グッズを見て回って、これはショーで着ただの、着てないだの騒ぎ出す幸次&成美さん。

ある意味安定のコント集団BOTH。

「ほら、そこの凸凹カップル!まずは席に付け!」

と幾美が一喝。

「さて、まずは夏コミエ3日間フル参加、そして初日のまったく売れないサークル活動、ムリョウさんによるコス作成作業、お疲れさまでした!」

「あは、部長から労いの言葉をもらうとは、想像できなかった。あんがと」

と、若干照れ照れしながらムリョウさんが言った。

「さて、我らBOTHの打ち上げだ。一筋縄ではいかないゲームを用意させてもらった」

一同、一変して嫌な表情。

「ビックリフルーツティーしか出てこないとか?」

「望さん、うるさい」

「望ちゃん、麻琴ちゃんのトラウマほじくらないの」

ニヤリと妖しい笑みで返す宝珠。

「望、進まないから、その辺にしといてくれ」

「はいはい」

「これからメニューのオーダーをするわけだが、そこに自由はない」

「な、なんだと!」

「きっさまー!おのれー!」

「ゆるさんぞ、幾美!」

「え?それ、いうこと聞かないといけない系?」

口答えしまくる男子。

困惑するリリーナさんを除き、女子はあきらめムード。

「謙一が昨日、あんな場所を選びさえしなければ、普通にやろうと思っていたが、ネタが被ったからには、俺流のスパイスを効かせる。そう!ここにメニュー1品ずつ書かれたカードがある。引いたものをオーダーするんだ!」

予想以上に外道だった。

「横暴だぞ!」

との僕のクレームを完全スルー。

「ちゃんと、ドリンク、メイン、デザートと分けてある。それぞれ1枚ずつ引くんだ。ちなみにダブリは無い」

「幾美、ちょっといい?」

「ん?」

宝珠には当たりが柔らかいのが余計むかつく。

「メニューが来た後にシェアするのはあり?」

9人全員が幾美を見る。さすがにその圧力にビビったのか、少し後ずさりしつつ

「く…女子だけは許す」

「ならいいわ」

その不公平なジャッジで良しとしないでほしい。

「ひいき、ひいき」

「尻に敷かれやがって」

「初志貫徹しろよ、ここまで来たら」

「別に言うこと聞かなくてもよくね?」

と、口々に責められる幾美。

「やかましい。とにかく2時間制なんだから、カード引け!オーダー決めろ!」

もはや打ち上げだか罰ゲーム大会だか判らない状態に。



「なぁ、謙一、どれかオレのと交換してくれ」

「やだ!ぜってぇ、やだ!」

「じゃ、じゃあ、未来。交換」

「え?やーだもん」

期待を裏切らずに和尚が法難に陥っている。どうやら引いたもの3品とも冷たくて甘いやつらしい。

謙一は…何か意味もなくカードを伏せてニヤニヤしてる。

「崇の引きの強さはともかく、謙一、何引いた?」

「僕は場にカードを伏せて、ターンエンドだ」

「くそ!どんなトラップを!」

「かかってこい、幸次。きさまのカードバトラーとしての実力を見せてみろ!」

なんか、勝手にコントが始まってる。いつものことだけど。

そんな謙一とコージさんの頭を成美さんが引っ叩き

「ほら、オーダーまとめてるんだから、遊ぶな!早く見せて!」

「「はーい」」

手痛いツッコミを受けてる。

「麻琴、ぶたれた」

「はいはい、そうだね。いつも余計なことするからでしょ」

と、頭を撫でてあげる。

わたしに甘えたくて、わざといらないことしてる疑惑。

好きだから許すけど。

「なんかツップリーズの相変わらずぶりも飽きてきたから、ケンチ、なんか別のネタプリーズ」

「ははは、ムリョウさんの言うことだからって、僕は聞かないぞ!」

「勝手に飽きててほしい」

「崇ぃ、バカップルがイジメる」

「オレは未来にイジメられてるんだが」

「馬鹿ね、愛情表現でしょ、もう」

「そういう事にすれば許されると思ってるのがな」

見事にもめ事を転嫁して、ニコニコしてる謙一ってば。



まず運ばれてきたのは色とりどりのジュース類。ホント、赤青緑黄黒白桃紫橙灰…見事に全員色が違うのは幾美のメニュー選択の成果だろう。

で、崇のが「コンクリートでパンチパンチパンチ!アーキテクトクリームドリンク」だそうで、建築戦隊アーキテクトファイブの必殺技をモチーフにしたようだが、ゴマミルクの上にゴマソフトクリームという悪夢のごとき灰色メニュー。

固まっている崇をよそに、皆で互いのメニューの写真を撮って遊ぶ。

「はい!じゃあ、飲み物も来たことですし」

ひくつく崇。

「乾杯の挨拶が謙一からあります」

無駄に丁寧な口調で幾美が僕に無茶ぶりをしてくる。

だけど、ここで躊躇したら負けだ。

僕はすっくと立ち上がり

「まずは改めて、同人誌作成やら夏コミエ3日間参加、お疲れさまでした」

「ケンチ、挨拶長い」

「宝珠、うるさい。僕からは皆に感謝を。僕に、僕たちに付き合ってくれて、ありがとう。この半年、ホントに楽しい気持ちでいっぱいだった。そんで、これからもよろしくお願いします!はい、乾杯!」

「「「「「「「「「併せづらいタイミングで言うな!」」」」」」」」」

と皆に叱られつつも、乾杯完了。

必死でソフトクリームを食べ進める崇を爆笑しつつ撮影するムリョウさん。しかも動画だ。

「謙一」

と、麻琴が僕に寄り添ってきた。

「わたしも、謙一と出会って、付き合い始めての半年、初めてのことばっかりで、とても楽しかった。だから、これからも楽しくさせてね?」

んープレッシャー。

「もちろん。まずは麻琴の誕生日が控えてるもんな」

「うん。指輪、楽しみにしてるから」

ん-プレッシャー2。

「おいおい、謙ちゃん、婚約指輪の話か?」

との恭ちゃんの余計なツッコミで、皆が僕と麻琴を見る。

「バースデープレゼントだ、バカ」

「誕生日に婚約か。オシャレだな」

幸次がいらんツッコミを重ねてくる。

「う、よかったね、ま、麻琴」

宝珠がわざとらしく嗚咽を交えつつツッコミを。さっき、雑にあしらった仕返しだろう。

「謙一…そ、そうなの」

麻琴まで真に受け始めた。

えーと、どうしようかな。

「あー、もう!僕は責任はとる!以上!」

あ、麻琴が固まった。

「やられたよ、謙ちゃん」

「すごいね、ケンイチ。よかったねマコト」

金髪カップルが駄目押ししてくるし。

別に将来的にそういう事になるのは、まったくイヤじゃないけど、まずは目前の誕生日のことしか考えていなかったので、うん、やられたよ。

「で、他の男子はどうなのかな?

と、成美さんが更に爆弾を投げつける。

幾美、幸次、崇、恭ちゃんが一斉に僕を見る。

いや、見られても…

宝珠、成美さん、ムリョウさん、リリーナさんはそれぞれの彼氏を何か言いたげな表情で見つめる。ず、ズルいでしょ、それ。

麻琴は頭から湯気を出しているかのように真っ赤になって俯いてる。

コミエの打ち上げをプロポーズ会場に変えるな!

妙な沈黙と熱視線が交わされる中、メインが運ばれてきた。

「ほらほら、そういうのは個別に後で好きなだけ揉めてくれ。ほら、料理回して!」

ホント、勘弁してほしい。



女子としては、からかい半分本気半分だったのですぐにメイン料理の写真撮ったりシェアしたりと元に戻った。

男子は…崇がフリーズしているのは「見よ!これぞ我の秘密基地!ビッグアイスハニトー」というアイスやら生クリームてんこ盛りのハニートーストが目の前に来たせいだろう。

他の3人は普通にふるまっているように見えるが…もう気にすんのやめた。

麻琴は早速目の前に置かれた「マッスルチャージが勝利の鍵だ!ビッグハンバーグwithチーズ」と格闘し始めている。

僕は「ラブこそ愛!ピンクフライドヌードル」という名のまっピンクの焼きそばを片づけにかかる。不味くはないけど、色味が嫌だ。

「ね、ねえ謙一」

と、麻琴がおずおずと話かけてきた。

「ん?焼きそばも欲しい?」

「うん、それもあるけど、さっきのこと、無理矢理言わせちゃったみたいでごめんなさい」

僕は焼きそばを麻琴に少し分けてやりながら

「まあ、流れ的にはそんな感じだけど、嘘は言ってないよ」

「いいの?」

麻琴の上目遣いは破壊力高いと認識。

「うん」

「そっか、えへへ」

「その話はまた、二人っきりの時にね。これ以上、あいつらにネタ提供したくないし」

「うん!それは同意!」



「それでは、野郎ども。次のコミエに向けて、昨日買った重要な資料を開示する時だ」

と、立ち上がって話始める幾美を女子連中はスルー。

「まだ食べてるんだけど」

とあからさまに不満を述べる宝珠。

「後ろめたくないなら、全員の前で開示できるはずって言ったの、望だろ」

「そっか、うん、じゃあ、見せて」

男子は無言でバックから昨日の戦利品を取り出す。

「まずはケンチ、見せて」

うん、なぜか宝珠が仕切り始めたが、幾美が黙っているので、もういいや。逆らうとめんどくさいし。

「めんどくさそうにしないで、さっさと見せて」

無心、無心…

「これ。コス写真の撮影風景を収めたメイキング本。撮り方とか判って面白いかな、と」

「おぉ、まさに特撮!」

「そうかあ?」

感心する成美さんに、突っ込む幸次。

「麻琴、ジャッジは?」

とムリョウさん。

何?裁かれてんの?僕たち…

「別にエッチくないからセーフ」

「よかったね、ケンチ」

何がだよ、もう。

「じゃあ、次は…コージ、見せて!」

何かノッてきてるな宝珠。

「はいはい、おれのは、これ」

幸次が出してきたのは、僕たちが目指すものと同じ方向、ファンタジー系のコス写真集。

「成美さん、ジャッジは?」

「セクシーさが足りないからアウトにしようかなぁ」

「ジャッジの基準がブレてんじゃねえ!」

「うそうそ、セーフ」

「まったく…これってロケ場所も参考になるだろ?」

「確かに…なるほど、巻末にロケ地リストもあるのか…遠い場所ばかりだけど」

役に立ちそうで立たないリスト。

「謙一、うるさい」

「で、どうせ和尚は女装系でしょ?未来に渡しておきなさい」

「…はい」

ホントにそうなのか。業が深いな。ナンマンダブ。

「さて、キョウジは…」

「ん?おれちゃん?ほらほら、ぎり高校生でも買える健全な…おぅ!」

どさっと10冊くらい出して来た途端、リリーナさんに殴られてる。因果応報だね。

「んじゃ、幾美。本命ってところを見せて」

自分の彼氏に対してハードル上げ過ぎだなぁ。

「これだ」

どさっとぶちまけたのは、写真データのROMやらクリアファイルやらチェキやらアクリルスタンドなんかのグッズ類。

「…幾美?」

「ん?」

「どういうつもりかしら?」

「望たちの写真集だけじゃなく、グッズ展開もありだなと思って、色々買ったわけだが?」

「あとで、お話しましょう」

「お、おぉ」

「あはは、幾美くん、望ちゃんの嫉妬深さを読み誤ったね」

「成美さん、言わなくていいから」

複雑な表情で顔を真っ赤にしてうつむく宝珠。

僕たちは何をしてるんだろう。打ち上げの場で。

「ねぇねぇ」

麻琴が僕の袖を引っ張る。

「なに?」

「恥ずかしいから、しまった方がいいと思う」

「そうだね、正論だね」

と同意したと同時に、店員さんがデザートを持って現れた。

時間って止まるんだね。



崇が震えながら「怒涛の氷結連撃!ブルークラッシュかき氷」を食べている。

すごいな、唇が紫になってきている。真夏なのに。

そんな崇を「セクシャルクイーンなプリンパフェ」を食べながら、ムリョウさんが微笑みをたたえて見つめている。相変わらず、携帯で動画も撮っているようだ。

どんだけ、ドSなんだろう。

「麻琴、きみの先輩はおかしくないか?」

「うん、おかしいよ」

「そ、そうか」

直球で返された。

「麻琴がまともで良かった」

「うん、わたし、まとも」

「マコト、まとも?よかった」

と恭ちゃんをタコ殴りにしたリリーナさんが麻琴に抱き着いてきた。

「んにゃ、リ、リリー…ナ」

「アタクシのキョウはまともじゃないの。浮気者なの。だからぶってやったの。マコト、なぐさめてほしい」

「え?よ、酔ってる?」

「お酒、飲んでないもん」

「だ、だよね」

自分の彼女が目の前で百合百合されるのは、なんとも、アレだね。

「謙一、変な顔で見てないで助けて」

と、麻琴が懇願してくるので

「恭ちゃん、アレを剥がしてくれないかい?」

「謙ちゃん、おれちゃんはね。いっぱいぶたれて悲しいんだ」

うっとぉしい、何これ?

えーっと、あっちのドS二人は論外だし、仕方がない。

「成美さん、麻琴からリリーナさんを剥がしてくれない?」

「いいよぉ」

と、こちらに来て

「リリーナちゃん、交代」

「はーい」

「よし。麻琴ちゃーん」

「え?なんで?にゃああああ」

あれ?百合百合相手が代わっただけで状況に変化がないぞ。

「幸次、なんとかして」

「折られるからやだ」

そうだよね、僕もやだ。

「ちょ、成美さん、そこダメ…謙一、あとでお説教」

あれ?僕が悪いのかな?

もはや爆笑しながら崇の様子を録画するムリョウさん。

こんこんと幾美に嫌味を言い続けている宝珠。

何やら英語で恭ちゃんに文句を言い続けるリリーナさん。

呆然自失の麻琴を抱きしめて愛でる成美さん。

頭を抱える僕と幸次。

打ち上げって何だろう?



申し訳なさそう半分、迷惑半分で店員さんが時間が来たことを僕に言ってきた。

幹事の幾美はアレだし、他の面々もダメだし、仕方がないよね。

「はい、そこの自由人の皆さん、お時間です。お会計して帰りますよ!」

と言った途端、そそくさと帰り支度を始める面々。

僕は壮大なドッキリかイジメに合っているのではないだろうか?

とりあえず、幹事が動き始めたので、皆それぞれ会費を支払い、これ以上の迷惑にならないように、大荷物を持って、先に店の外へ。

麻琴が僕の腕に抱き着いて放してくれない。

「麻琴、大丈夫?」

「NPBにいっぱいやられた。謙一でリセットするの」

いちゃいちゃするのは大歓迎だけど、きっかけがな…

「ん?NPBって何?」

「あ、それを知ると謙一の腕や足が変な方向向かされるから聞かなかったことにして」

なにそれ、呪い?

「う、うん、わかった」

なんてことしてたら、幾美が店から出てきた。

「よし、今日は解散!」

「せちがれえな、おい!」

幸次のツッコミが入る。

「一応、この3日間の疲れも考慮して、2次会は無しにしたんだ。まだ夏休みは半分あるし、無理に今日に詰め込むこともないだろ?」

「え?部長ってそういう気遣いできるんだ!」

「そりゃ、私の彼氏は気づかいくらい出来なきゃ勤まらないし」

「ムリョウさん、あなたの彼氏は震えっぱなしの過酷な行に入ったままだし、うん、帰れ」

「え?部長、冷たくない?」

「冷たくなりそうなのは崇だから」

「上手いね、幾美くん」

「でしょ?成美さん」

自慢げな宝珠だが、意味不明。

麻琴が静か…あ、ウトウトしてる。

「麻琴、麻琴、大丈夫?」

「ふぇ…だいじゃうぶ」

「大丈夫くないね」

本格的に寝る前に帰そう。

「そこのコント集団!僕は麻琴が限界っぽいから帰るね」

「謙ちゃんってば、ホテルはあっち」

と駅と反対方向を指さす恭ちゃん。

え?という顔で僕と麻琴と恭ちゃんを見るリリーナさん。

「はいはい、行かない行かないからね。じゃあ、お疲れ!」

「「「「「「「「お疲れー」」」」」」」」

あれ?素直に帰してくれるんだ。見た目で麻琴が限界状態なのはわかるし、まぁ当然か。

僕は皆に手を振り、麻琴を頑張って歩かせつつ、駅へと向かった。



「まったく、あの娘は…まっすぐ帰るといいね」

「さすがに、あの状態の麻琴にやらしいことしたら、ケンチはリンチでしょ?」

「望がリンチとかもう拷問する気でしょ?」

「未来、わかってるじゃない」

笑い合うムリョウさんと宝珠さん。

でも成美なら、おれに対しておかまいなくやりそうだな…

「よし、幸次、帰ろ!」

「ん?おぉ」

「ボクんちで2次会だ」

なぜかガッツポーズをする成美。

「やらねぇよ。今日は帰るから」

「えー?」

と、可愛い声で抗議をしているが、そのおれの胸倉を掴む手は何だろう。

「ぐ、さ、さすがに疲れたってば」

「いいよ、ボクの胸でお眠りなさい」

「絶対眠らされる手段が違う…」

「どっちも気持ちいいよ」

「どっちもって、何と何!」

「えー?幸次のスケベ」

おれは2学期を迎えられるのだろうか。



「コージも成美さんも大人な駆け引きしてるね」

くそ下ネタだらけを大人というなら。

「そ、そうだな。オレも早く帰りたい」

「あたしの部屋?」

未来が笑顔で誘ってくる。

「未来もあいつらと同じだよ、もう」

「で?」

「…行くけどさ」

「よろしい」

「お針子さん仕事で疲れてないのか?」

「ん?逆にテンション上がってるから」

満面の笑顔でサムズアップを決める未来。

…怖いなぁ。年上彼女ってみんなこうなのかなぁ。



「ねぇねぇ、キョウ!アタクシ、ゲーセン行きたい。さっき来る途中でたくさんあったよ!」

さっきまでタコ殴りにしてきたくせに、もう甘えモード。おれちゃん、女に振り回される運命?

「あー、うん、ただ時間的に未成年NGなんだよ」

「え?そんな差別あるの?」

「いや、差別っていうかさ…補導されちゃうの困るから、おれちゃんのところでゲームするか?」

「…どんなゲーム?」

さて、なんて答えようかな。

「そんなにキョウが、ゲーム?したいんなら…いいよ」

この破壊力にやられるんだよね。



「望は、ちゃんと帰るよな?」

「なに?帰らせたくてたまらない?」

「あのな」

「わかってるわかってる。私はまっすぐ帰るわよ、自分の家に、ね」

と言って、俺の背中から抱き着いてくる望。

その押し当てられる感触。

わかっててやってるんだよな、いつもいつも。忍耐を試されてる。

「もっと一緒にいたいのは山々だけどな」

「ふふ、明日は流石にのんびりしたいから、それ以降なら、いつでも誘って。なるべく会えるようにするから」

「そうだな。たまには恋人らしくデートもしたいしな」

「へえ、幾美のエスコートっぷりに期待しちゃおうかな」

と、背中から離れ、俺の手をギュッと握ってきた。

「努力する」

「うん、帰ろ」

とりあえず、回答に間違いは無かったようだ。



電車の中、麻琴が僕の肩に持たれて寝息を立てている。

まだ出会って半年。

もう出会って半年。

半年で激変した、僕の環境。

生物部のメンバーには助けられてきたけど、やっぱり辛かった。学校も私生活も。

正直、逃げ出した先がコミエだった。

でもそこでの光景が、出会いが、僕には一筋の光明だった。

そして、生物部メンバーを巻き込みつつも、飛び込んだ新しい世界。

ムリョウさん、宝珠、そして麻琴との出会いが、僕に幸せを、救いをくれた。

この繋がりがあれば、僕は耐えられる。

何よりも麻琴だ。

僕の大好きなひと。

大切なひと。

今日は勢い余ってというか、ハメられて、プロポーズまがいのことまで言ってしまった。

でも、後悔はない。

麻琴は僕に大切なものをくれたんだ。

心も居場所も。

だから僕は麻琴を大切にしないといけない。

僕の…両親のようには…なりたくない。

麻琴が見せてくれた、感じさせてくれた新しい風景。

愛しさしか、ない。

僕は寝ている麻琴の頭にそっとキスした。

「ん、んにゃ…あれ?」

あ、起こしちゃった。

「まだ駅まで時間かかるから、寝てていいよ」

「ふぇ?うん、寝りゅ…」

素直だなぁ。

つられて寝ないようにしなくちゃ。

肩にかかる麻琴の頭の重み。それが大事な重みなんだ。

確かに麻琴がそこにいる、その重みだ。

この幸せが続きますように…。


第一部 完

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男子高校の生物部員はコスプレイヤーの夢を見るのか?はい、見ます! 高城剣 @deadlyspawn

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