第19話 夏コミエ!BOTH集結せよ!(PART3)

今日は昨日と比べて、のんびりな出発。しかも全員揃っての出発だ。

現地着を開場30分後くらいに設定した。昨日の疲れがあるのと、明日のための余力を残すため。用事が済めば即脱出のつもり。

メイン目的は女子はコスプレ、男子は買い物。

リリーナさんはどうするのか?と思ったら、麻琴のメガライザーのバショクのコスを借りるという。

明日デビューでも良かったんだが、慣れておきたいとか、一人私服は寂しいとかあったようで。昨晩麻琴が相談されたらしい。

サイズ合いそうなの、麻琴しかいないしね。

言ったら殴られそうなので言わない。

バショクは攻撃時にエネルギーが身体に周り、金髪にも見えるようになるって、都合のいいネタがあったので、麻琴も選んだらしい。

そのため、リリーナさんもサブスクで急遽メガライザーを何話か観たとのことで、寝不足ぎみっぽい。

そんで、ムリョウさん、宝珠、麻琴は、久々にまるまじょ大作戦併せをやるとの事。そういえば、ちゃんと撮ってなかったな、まるまじょ。

あの日、出会いの日、コスプレ指南を頼んだ時のコス、だもんな。

あれから半年。たった半年なのに。

で、成美さんは、いつぞやのお手軽メイドコスに、麻琴からクローン・クイーン用の日本刀を借りて、なんかそれっぽい雰囲気で行く、とか。

リリーナさんも成美さんも、朝から、謎の大荷物だった麻琴に感謝してほしい。

「言ってくれれば、家まで迎えに行ったのに」

「そんなことしたら、謙一、超早起きになっちゃうからダメ。死んじゃうもん」

「いや、死にはしないと思うけど」

帰りは手伝うか。少しでも長く一緒にいたいしね。

それより、バーサーカーに武器を持たせて大丈夫なんだろうか?幸次にこっそり注意しておこう。皆の前で行ったら処刑されるだろうから。


                               ※


で、メガサイトに到着すると、相変わらず暑いし、人の多さで重力の歪みまで感じる。

既に入場列はガンガンと移動開始してるので、昨日よりはマシなはず。

実際、入場待機列の最後尾に並んだが、10分もしないうちに移動開始され、30分くらいかけてだが、入場できた。

昨日のあの待機地獄はなんだったんだ?という顔のリリーナさんを、早く入るためだった、と麻琴がなだめている。なんか仲良くなってるね、あの二人。良いことだ。僕の安全度も増したはずだ。

「それじゃ、あたしたちは着替えて屋上に行くから。用事済んだら来て」

とムリョウさんが女性陣を引き連れ、更衣室へ。

んで、僕たちの今日の目当てはコスプレ同人誌。主にコスプレイヤーの写真集が標的。次に出すからね。邪じゃないよ。…多分。

「未成年でも買えるんだよな?」

などと邪にワクワクしている崇に

「崇はもっと実用的に女装メイク入門とかの本にした方がよくないか?幾美も惚れなおしてくれるぞ」

と突っ込んであげた。

「ムリョウさんじゃないのかよ」

と、幸次、恭は爆笑。

「うるせぇ」

と拗ねる崇。無言で頭を殴ってくる幾美。

要はいつもの生物部だ。

「さぁ諸君、宝の地図を開こうじゃないか」

と、サークル配置マップを取り出すのだが、みんなノッてくれない。

「謙一がえっちな写真集目当てに気合を入れていた、と真理愛さんにチクる会結成」

と、幾美が逆襲をかけてきた。殴っただけで満足しろよ、もう。

「「「よし」」」

と他の3人もノッてしまった。

死を覚悟する時が来たようだ。


                               ※


「麻琴ちゃん、リリーナちゃんの着方、これで大丈夫?」

「うん、大丈夫。似合ってるね、リリーナさん」

「そ、そう?アタクシ、バショクになれてる?…えへへ」

昨日と違って、だいぶ打ち解けてきた雰囲気。わたしと同じで、人見知りなのかも。

「可愛いねぇ、この娘は。んじゃ、リリーナちゃんの面倒はボクが見るから、3人は併せなんでしょ?」

そこはかとなく漂う危険な雰囲気に、わたしは躊躇しつつも

「…成美さん、変なことしちゃだめだよ」

「麻琴ちゃん、ボクをなんだと思ってるの?」

「NPB」

「今日は履いてるから!」

いつも履いてほしいし、ノーパンバーサーカーを省略して言っても通じてるのが怖い。

「ツッコミ役として際立ってきたよね、麻琴って」

「そうね、ツッコミプリンセス、略してツップリと呼んでもいいと私は思う」

うん、聞こえてるからね、先輩方。

「アル、ベイ、チャア、バショク、謎の武装メイドという一団は屋上コスプレ広場へと向かうのであった」

「成美さん、キャラ名を覚えてくれたのは嬉しいけど、変なナレーションつけないで」

謙一がいてくれたらと思ったが、あの人は一緒にボケ役に回りかねないと気づいた。

うぅ、負けないもん。


                               ※


目的のホールに着くと、そこは他のサークルとは違う雰囲気を漂わせる、なにか特殊な場所だった。

サークルのスペース内には女性コスプレイヤー。そこで頒布されているものを購入してるのは、ほぼ男性。

しかも結構露出度が高く見えるコスプレを皆さんしていらっしゃる。

恐る恐る近づくと、露出対策のタイツだったり付け胸だったりなのがわかるのだが、うん、刺激は強い。

「「「まぁ、あくまで資料用なら、許さなくもない」」」

とムリョウさん、宝珠、麻琴が言っていたのが判る。

「なぁ、おれちゃん思うんだけど」

「なんだよ、急に」

「飾ってるポスターと売ってる娘、同じコスしてるけど、結構見た目が…」

「それ以上いけない!」

なんで、急に全方位に敵を作るようなことを言おうとするのか、このバカおれちゃんは。

「技術の進歩だと胸に秘めろ」

と幾美が恭に軽くゲンコツ。

「はいはい、怖い怖い」

幾美の注意、真面目に聞きなさいよ、ホントに。怖い怖いなのは恭ちゃんだよ。

何気に幾美もいらんこと言ってるけど。

「ある程度目的は同じとは言え、連れ立って歩くのも邪魔くさいし、1時間後に各彼女の前でいいか」

「いいけど、幾美、自分の彼女を目標物扱いするのは、いかがなものかと思うよ」

「分かりやすく言っただけだ。それじゃ、あとでな」

と、幾美はスタスタと歩み去った。

残る4人で顔を見合わせ、溜息をついてから、いったん解散した。


                               ※


西ホールの屋上コスプレ広場。ほぼ日陰のない、撮影に最適で夏の生存に不向きな場所。

「明日は隣の緑地公園でエルフ併せ。今日はほどほどに、ね」

「そもそも未来、ここに来てコスしてる場合じゃないとも言えるんだけど」

「望、それは言わない約束でしょ」

「そうね、私たちは、夢のためなら徹夜も出来る」

「はいはい、変な小芝居しないで。もうコスプレ広場なんだから、コスネームで呼ぶ!」

「ムリョウ、ツップリ真理愛が怖い」

「きっとケンチとかいう奴に洗脳されたんだよ、宝珠」

「ツップリって付けるな!」

併せじゃなければ離れたいなぁ。

「ねぇねぇねぇ、ボクとかリリーナちゃんのコスネームどうしたらいい?」

「NPBとテンプレちゃんでいいんじゃないの?」

「のぞ…宝珠、怒るよ」

「だって聞いてくるから。そもそも昨日はどうしてたの?」

「幸次が…ニャルミンとか勝手に言ってて」

この瞬間の宝珠の微笑みを、わたしは忘れることは無いだろう。邪悪な笑みとはああいうのを言うんだって思う。

「じゃあ、ニャルミンとリーニャンで良いから。そうして」

「え?アタクシも?そのおかしな名前必要なの?」

そりゃ、驚くだろうし「良いから」って何?

と、助け舟を求めてムリョウを見ると、お腹抱えて笑ってるし。

「あ、もうあの先輩方は放っておこうね。リリーナさん、自分で何か考えてたのある?」

「あ、マコト、あの、リムってコスネームにしようか?って昨日の夜、キョウと話してたの」

「それじゃ、リム!ニャルミンと一緒に頑張って!」

「OKマコ…あ、マリア」

「ちょっと、ボクはニャルミンのままなの?」

「イヤなら自分で考えてください」

「ねぇ、真理愛が冷たい」

「はぁ、お腹痛い。多分、もうめんどくさいんだと思うよ、さすがの真理愛も」

「いいよ、わかったよ、ニャルミンで行くよ。そのコスネームで昨日の写真、誰かUPしてたし」

出会った当初のお姉さんっぷりは消失したなぁ、成美さん。


                               ※


メイキングメインと言う、ポスターに書かれた謎のコピーに惹かれて立ち寄ったサークルの本を見てみた。

「どうですか?カメラマンが被写体のレイヤーをどうやって撮ったのか?が判る、撮影風景メインの写真集です」

確かにメインの写真に必ずカメラマンが写っている。しゃがんだり、脚立の乗ったり、色々やっている。水しぶき表現のため、バケツでレイヤーに水をかけたりしている人までも。撮影結果が小さめに載っているのも異様なレイアウト。

「面白い」

思わず口に出てしまった。映画のメイキングとかも好きな僕にとって、こういうのは刺さる。

「でしょ?結果のみのきちんとした写真集は、個々のレイヤーさんのスペースで頒布中」

「一部ください!」

「はい、¥1000です。よかったら、レイヤーさんのスペースも回ってあげてくださいね」

これはいいものを手に入れた。何より麻琴に怒られる可能性が極めて低い…あれ?


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気づくとオレは女装レイヤーのサークルが並ぶ島に来ていた。

おかしい。来るつもりとかなかったんだが。

しかも足が自然と女装時のメイクやポーズについて書いているサークルへ。

「ふむ、お兄さん、昨日、エリザコスしてたよね?」

と、唐突にそのサークルの人に言われ、オレは固まった。

「な、なぜ」

「え?あぁ、長年女装コスしてると、他の人の正体見破れるって言うか、わかっちゃうというか。あははは。結構目立ってたし、そこそこネットで話題に」

怖いよ、ベテランの観察力。そしてネットで話題って…

「そんなお兄さんに、ほい。うちの本だ」

と、先ほど目に留めていた同人誌を手渡された。

「か、買います」

「んふふ、¥500です」

「あの、ネットで話題って…」

「夏コミエ、エリザ、女装、とかで検索してみるといいよ」

「は、はい」

「頑張って。この世界も奥深いから」

とりあえず、未来に文句を言うべきなのか、この事態。

そして今買ったもの、冬に出す予定の写真集とは全く関係がない。


                               ※


「それで、特にこの写真、お勧めなんですよ」

「へぇ、可愛いなぁ。よく撮れてる」

「でしょでしょ?カメラマンさん、腕のいいかたで」

「いやぁ、モデルでしょ」

「あはは、お兄さん、軽いね」

「うん、おれちゃん、それが売りだから。一部ください」

「あ、ありがとうございます」

「あはは、頑張ってねぇ。あ、これおれちゃんの名刺。コス広場で会うことあったらよろしく」

「あ、は、はい」

なんてやり取りしてるコミュ力オバケを横目に、おれはファンタジー系のコスメインの並びへ。

なるほど、エルフとか女騎士とか、色んなメディアで見かける属性がテーマにされてる。

ロケ場所も森や平原、廃墟も多い。

なるほど、廃墟ってのは趣きがあるなぁ、と本を手に取る。

「あの、こういう廃墟って、やっぱり撮影の許可撮ったりするんですか?」

と、スペース内の女騎士さんに聞いてみる。

「そうですね、廃墟とは言え、持ち主なり、管理者がいますから」

「なるほど。あ、これ一部ください」

「ありがとうございます。¥1500になります。こちらのポスターとかタペストリーもいかがですか?」

商魂たくましいというか、自己評価も値段も高いな、とか思いつつ、そちらはお断りして、本だけを購入。

結構高いんだなぁ。何冊もは買えないよ。


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さて、俺としては何を求めるべきか?

正直、目につく限り、望を超える逸材はいない。なら、シチュエーション、テクニック、ライフハック?でもその辺は謙一や幸次が買いそうだし。

なんて考えつつ人を避け避け歩いていると、確実に女装系と思われる場所に崇を見つけた。

確かに昨日の崇の女装は衝撃だったが、結局ハマったのだろうか?ムリョウさんも彼氏の性癖ゆがめて楽しいんだろうか?

仕方がない。他の誰も買わないようなもの。アレしかないか。


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自分への撮影依頼に対応しつつ、護衛メイドなコスしてるボクは、隣にいるリムことリリーナちゃんを見守っているわけだけど、やっぱり可愛い娘は凄い。ボクなんかよりも撮影待機列が伸びているし、応じるリリーナちゃんも、きちんとポーズとって、しかもやりたくないポーズ要求に関しては、きちんと断ってる。

多分、腰回りは麻琴ちゃんよりあるんで、しゃがむのは布地的に危険だって判ってるんだと思う。

さっさと休憩入って、ボクも撮影列に並ぼうかな、なんて。いや、ツーショット欲しいな。男性陣来たら頼もうっと。

「すいません、抜刀してもらっていいですか?」

「はいはーい」

まあ、頑張りますか。


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コスプレって凄い。

いきなり始めたアタクシみたいな初心者でも、撮ってくれる人がいる。

What Fantastic!

ただ、麻琴のコスチュームのせいか、腰あたりがキツイ。座ったらどこか、多分スリットのところが裂ける。

だから、しゃがんでっていうリクエストはNo!してる。

それにしても、ナルミ。背は低いのに、物凄くポーズの決め方がかっこいい。何かシステマ?とかいうアーツを極めていて、ヒーローショーのアクトレスやってるって聞いた。

凄くない?日本留学の予定をしていたところで、キョウと知り合って…好きになっちゃって…それで日本に来たら、キョウの仲間は変だけど、美人の女の子ばかりで、男の子もおかしなのばかりで、カルチャーショックみたいな。

すっごく暑いけど、すっごく楽しい。


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さて、いつものごとくコスネームとキャラ名とトレンダーIDを書いた自己紹介ボードという名のスケッチブックを準備して、あたしたち3人の前に置いた。

真理愛が描いた可愛らしいデフォルメキャラのイラスト付きなのもお馴染み。

「凝りもせずに、わたしのチャイの横に、小さく"はらへった"って書いたのは誰ですか?」

「今回もチャイの心の声が浮かび上がった超自然現象です」

「今回も宝珠だよね」

「冬の時も言ったと思うけど、現象に対する考察を述べただけで犯人扱いしないでくださいね」

再放送でも見てて楽しい。

「ムリョウも笑って見てないで、宝珠に注意して!」

「言うこと聞くわけないでしょ、この娘が」

「そうよ、真理愛、いい加減覚えて」

見る見るうちに真理愛のほっぺたが膨らんでいく。

なんか夜店のカルメ焼き作るとこ見てるみたい。

「平和っていいよね、宝珠」

うなづいたのは宝珠だけ。

「ぜんっぜん平和じゃないよ!」

あ、噴火させちゃった。ケンチに怒られちゃうかな。


                               ※


「ほら、真理愛、撮影準備準備」

「宝珠ぅ~」

「はいはい、怒らない怒らない」

と、真理愛の頭をポンポン。

可愛いからイジメたくなる。私の悪い癖。

「ムリョウ、チェックお願い」

とクルっとターン。

「だいじょぶだいじょぶ。胸元だけ気を付けてね」

「レンズ越しでも視線は分かるから。変なズームしてたら倒す」

「また出禁やだからね」

「前回はムリョウでしょ。今回、私がやっても初犯だし」

「なにもイイ理由がないからね」

「ほら、宝珠も真理愛イジリは、そのくらいにして。真理愛、ツップリしすぎて、むくれてると撮影開始できないよ」

「わかった。あとで謙一に慰めてもらうし、ツップリ言うな!」

なんか凄いこと言って切り替えた。大物よね、真理愛って。


                               ※


また、いらんことを言っちゃったぁ…

いいもん、ホントに甘えるから。

切り替える!

「あはは、この、はらへったチャアの絵、かわいい」

なんて、通りすがりの女子に言われた。

何か言いたげに、こっちを見るムリョウと宝珠に

「わたしのイラストが褒められたから、いいんだもん」

と強がり牽制しておく。また何か始まるとキリがないから。

さて、なんだか撮影希望者が並び始めたから、スタートする!


                               ※


さて、そろそろ屋上の麻琴たちのところに向かうか。

明日の打ち上げもあるし、予算は非常に限られているから。

と、結構長い道のりの歩き、一気に1Fから4Fまで昇るエスカレーターに乗る。左右はまだしも、背後をちょっと見たら、転げ落ちそうな感覚に囚われて怖かった。

4Fまで着けば、あとはそのまま外に出れば屋上広場だ。

うん、物凄いレイヤーの数。

麻琴たちを探し出せるのか…でも、あの面々なら、広場の真ん中とかではなく、壁を背にした場所を要領よく占拠しているはず。壁沿いを眺めながら歩いていると、いた!まるまじょ三人と、そのそばにメイドとバショクもいるので間違いない。

で、手を上げて近づいていくと、

「ケンチ、ナイスタイミング。列切りして!」

とムリョウさんに頼まれた。

10人近く撮影待機列ができていたので、その最後尾に並び、麻琴たちとは逆方向を向いて、更に並びに来た人に、

「すみません、休憩入るので列切りしてます」

と、これ以上並ばないようにお願いする役。

すると、タイミングよく幾美と崇がやってきたので

「ふたりとも、成美さんとリリーナさんの列切りしてあげて」

「「了解」」

普段から、こういう素直さを幾美には出してほしいけど、言ってもきかないし、ぶってくるから言わない。

そして撮影列も消化し、休憩タイム。

ぐったりと溶けている麻琴を扇子で扇ぎつつ、タオルを頭にかけてあげる。

「大丈夫」

「ふぃぃぃ、大丈夫な気がするぅぅ」

と、不安しかない答えが返ってきた。

ムリョウさんと宝珠も、それぞれ崇と幾美が、介抱中。

成美さんとリリーナさんはお互いにうちわで扇ぎ合ってる。

そこへ

「お待たせ。差し入れだ」

と、幸次と恭が女性陣にアイス最中を手渡す。

「どこで買ってきたんだよ、二人とも」

「え?下のコンビニ。そこからこっそりダッシュしてデリバリー」

と、恭が答える。

「よく見つかって怒られなかったな」

「おれちゃん、幸運」

「なんだよ、それ」

女性陣は一言も発さずに貪り食っている。

お腹壊さないといいけど。

麻琴は、これで足りてくれるといいけど。

「謙一(モチャモチャ)、買い物は(モチャモチャ)、終わったの?」

「食べ終わってからでいい話だと思うけど、買い物は終わったよ」

「ごめんね、ケンチ、うちの娘ってば、はしたなくて」

「しょうがないよね。はしたない娘がたまんないんだもんね、ケンチ」

「「言い方!」」

二人してムリョウさんと宝珠に突っ込む。

「ほんと、息合うよね、きみたちは」

「アタクシ、感心する」

と、成美さんとリリーナさんに褒め?られた。

「ツッコミプリンセスとツッコミプリンスでツップリーズで良くない?」

とムリョウさんの謎の提案に

「よくない!」

と麻琴が怒る。

…なんだ、ツップリーズって?


                               ※


「あとは内輪撮影して、着替えて、遅めの昼飯をどこか会場から離れたところで食べないか?」

「と、部長からの託宣が下りましたので、従うように」

「幸次…」

「と、部長がベイとのツーショを撮りたくて荒ぶっていらっしゃるので、急ごう」

「幸次、腕を上げたな」

「合宿で強化されたからな」

「なるほど」

「「あはははは」」

結果、幸次に同調しただけの僕まで殴られました。

「アタクシも、ああなりたいなぁ」

「!どう?」

珍しく恭ちゃんが焦ってる。

「ジョークを言い合いたいの」

「あれをジョークだと?あいつら本気で言ってるぞ、あれ」

「崇、余計なこと言うな!」

さらに焦る恭ちゃん。

少なくとも、腕力でねじ伏せてくる女子は一人でいいので、口達者な掛け合いが出来るよう、頑張ってほしい。

「ケンチ、何か何様なレベルの考えしてるでしょ」

あ、心読むのも一人で。


                               ※


スムーズに内輪撮りも終わり、イベントの時間的にはまだ早いので、空いてる更衣室でのびのびと着替え、更衣室の外で待ってた謙一たちと合流した。

「麻琴、麻琴、ほら」

と謙一が見せてきた携帯の写真は、わたしがアイスを食べている写真。

「ちょっと、なんで撮るの!」

「チャアがアイス最中をモチャモチャ食べるモナカモチャアモチャという」

「いいから消しなさい」

「可愛いのに」

「変なタイトル付けたし、ダメ!」

なんか残念そうに携帯弄ってたけど、削除せずにフォルダー移動してるだけとか、自宅のパソコンにメールで送ったりとか、やってそうなんだよな、謙一ってば。

「チャアの痴話喧嘩、すなわちチャア喧嘩よね」

と割り込んでくる望さんの方が問題。

リリーナさんじゃ、まだ太刀打ちできないだろうし、わたしの味方がいない。

「で、チャア喧嘩は放っておくとして、このあと、どこ行くの?」

「ん?謙一、どうするんだ?」

「え?僕なの?」

「明日の打ち上げは俺が手配しただろうが」

「えーっとね」

ここで素直に応じちゃうのが長所というか短所というか…どっちにしろ…好きなんだけど。

「ケンチ、なんだか麻琴が惚れなおしてるみたい」

「ムリョウさん、何言ってんの?」

「気づいてあげなよ、そういうの」

「宝珠、僕は今、君の彼氏に無理難題を」

「男なら、常に店の情報持ってなさい」

「それも幾美に言ってくれないかな」

「いやよ」

「何?望ちゃん、今日の生贄は謙一君なの?」

「なんか合宿以降、上に出られてる気がして」

「いいじゃない、少しくらい」

「え?嫌だけど?」

「幾美、そいつなんとかしろ。今日は酷いぞ、特に」

「私のこと、そいつ扱いする?」

「頑張れよ、サークル責任者」

「いま、それ関係ないだろ」

あぁ、もう。

「望さん、いい加減にしようね」

「…はい」

「ナルミ、マコトが最強なの?」

「あはは」

何も進まなくなるんで、集団から謙一を少し引き離した。

「ほら、叱っておいたから、一緒に考えよ」

「う、うん」

みんなが見てなきゃ、よしよししてあげたいのに。


                               ※


謎のイジメタイムを麻琴に終わらせてもらい、さぁ、真面目に考えよう。学校でのあの状況に比べれば、仲良く遊んでるだけだし。

「ここから楽に行けて、ある程度、人数が入れる…あ」

「なんか思いついた?」

「うん、もし駄目でも他にも店がたくさんあるとこ」


                               ※


メガサイト前駅から、そのまま乗って終点は、大き目のターミナル駅であり、飲食店も多い。

メガサイト近辺も色々あるが、テレビ局があったり、観光地化してるので、夏休み中は特に混むので避けるのが無難。

10名という大所帯をぞろぞろと引き連れて地下街へ。

「ゾンビでも倒しに行くみたい」

「おぅ、そしたら、おれちゃん頑張っちゃう」

何言ってんだろ、ホント。

「ほらここ」

あ、みんな固まった。

ここは怪獣食堂。特撮のジャイアントマンシリーズの怪獣たちをモチーフにしたコラボレストラン、っていうのかな、うん。

「10名、大丈夫ですか?」

「4名6名に別れてよろしければ、すぐご案内出来ますが」

「大丈夫です。お願いします」

「かしこまりました。それでは席に行かれる前に注意事項を」

「え?なにかあるの?」

と怯えるリリーナさん。

「ここはジャイアントマンたちに倒された怪獣や宇宙人たちの癒しの場となっております。万が一、皆さまが地球防衛隊に所属していたり、ジャイアントマンに変身する能力をお持ちの場合は、危険な目にあう可能性がございますが、大丈夫でしょうか?」

「「「「「はい、大丈夫です」」」」」

元気よく答える男性陣に対し、「なんてとこに連れて来てんだ?」という女性陣の僕への視線。

いいじゃん、オタクなんだし、こういうところ。

で、店内へと入ると怪獣の姿が形どられたステンドグラスやソフビなどが飾られている。壁面のモニターには怪獣や宇宙人が優勢なバトルシーンのみが流されている。

で、席わけだけど僕と麻琴と恭ちゃんとリリーナさん、幾美、宝珠、崇、ムリョウさん、幸次、成美さんとに別れた。間に一列挟んでいるので、直接会話は出来ない距離。

まぁ、いいか、多少席を入れ替わったところで文句は言われまい。

「ねえケンイチ、ここはKAIJUがコンセプトのレストランってこと?」

「うん、そうそう」

「やっぱ、日本って凄いね。キョウも来たことあるの?」

「いや、初めてだけど」

「ケンイチは何回目?」

「いや、初めてだけど」

「え?」

「場所とか内容は知ってたよ、うん」

「謙一、いきなり部長に振られて、思いつくのがここって言うのが」

「凄い?」

「「へん」」

「あははは、謙ちゃんらしいけど。まぁ、変だよね」

恭ちゃんに変扱いされるのは納得いかない。

「とにかく、ほら、メニュー、決めて決めて」

メニューにあるのは怪獣テーマの食事と飲み物。姿をかたどったものもある。

「「へん」」

泣くしかないのだろうか。


                               ※


「幸次は来たことあるの?ここ」

「ん?ないよ。噂には聞いていたけど」

「こういう店を選ぶのがケンチのケンチらしさというか、へんというか」

ムリョウさんが呆れ顔でつぶやく。

「幾美が無茶ぶりするから、謙一も変な知識の倉庫から引っ張り出してくるんだよ」

「あ?俺の責任?」

「根本はそうだろうが」

相変わらず無責任部長だな。

「まぁ、揉めんなよ」

「ほら、和尚様に警策で肩を叩かれちゃうぞ」

「誰も座禅組んでないだろう。やめろよ崇」

「そういうところで息を合わせるなよ、おまえらはよ」

「私としても、もはや感心するしかないわ」

「崇、負けるな」

「望ちゃんも未来ちゃんも、なにも庇ってないよね」

「ほら、向こうのテーブルがもうオーダーしてるみたいだから、こっちも決めよう。成美、どうする?」

「…このグルテン星人のグルテンフリー麺ってやつ」

「ただの焼きビーフンだけどいいの?」

「ネタになればいいの」

「よし、さすが成美」

「惚れなおせ」

「おまえらが一番変だな」

「和尚うるさい、黙とう」

「なんでだよ」

などと騒ぎながらも皆選んでいる。

なんかメニューを頼むと怪獣の写真入りのカードがもらえるらしい。

そして、それぞれ、名前だけは長いけど内容は普通のメニューをオーダーした。


                               ※


「ねえ、マコト、明日のエルフって、どんな感じでやるの?」

う、誰も説明せずに巻き込んでいる…

「あのね、合宿でやったときは、Tシャツとミニカスをベースにして、未来さんが赤、望さんが青、成美さんが緑、わたしが黄色を基調にして、尖った耳とシルバーロングのウィッグを着けたの」

「へぇ、可愛いんだろうなぁ。そうするとアタクシもウィッグ?」

「ちょっと聞いてくる」

わたしは未来さんのテーブルに狭い隙間を抜けつつ到着。

「未来さん、リリーナさんが明日のデザイン気にしてる」

「麻琴。伝言が雑い」

「いいでしょ、伝わってるくせに」

「あ、ボクも気になる。どうなのどうなの?」

「はいはい、白基調で髪はウィッグ無しで金髪でいってもらう。エルフのプリンセス的な?」

「「おぉ!戦隊追加戦士!」」

「コージ、成美さん、うるさい。崇も深くうなずくな!」

「うなずくくらいイイだろ、未来」

なんか、余計なもめごとになりそうなので、わたしは退散。

「で、どうだった?」

と、戻るなり、食いつき気味に聞いてくるリリーナさん。

「どんだけ、楽しみなんだよリリーナ。ま、おれちゃんもリリーナのエルフ姿、楽しみではあるけど」

「いいじゃない。美少女たちとコス併せ出来るのよ。スッゴいことなのよ」

「美少女って言われると、あの」

「大丈夫。麻琴は美少女ビーストテイマー」

「え?ケンイチ、マコトはビーストテイマーなの?」

「そうだよ」

「ちょっと、その話は止めようね、謙一」

「え?」

「心底不思議そうな顔しない!ほら、リリーナさん、明日の話なんだけど」


                               ※


それから1時間くらい飲み食い喋って、今日は解散。

皆と別れて、僕は麻琴の荷物を抱えて家まで送ることに。

「ごめんね、いっぱい持たせて」

「いっぱいって言ったって、刀とコス一人分じゃん。軽いもんさ」

成美さんに貸した日本刀と、リリーナさんに貸したバショクのコスの入ったバッグ。麻琴は今日のチャアのコスが入ったカートを引いてるので、何気に朝は大変だっただろう。

「謙一は明日、コスどうするの結局」

「ん?僕がランディ、崇が一乗寺やって、他の3人は私服だとさ」

「そっか。また違うツーショットパターン撮れるね、えへへ」

「女性陣の明日のコスがちょっと露出多めに見える感じだから、男性陣は基本警備する。ま、ツーショットは撮るけど」

「あ、あの、警備は嬉しいけど、揉めないでね」

「僕は揉めるような方向にはいかないから」

「謙一以外は?」

「幾美と恭ちゃんが危ない」

「そっち、止めてね」

「努力する」

なんてこと言ってるとフラグが立ちそうだなぁ、なんて考えながら歩いていると、いつの間にやら、麻琴の家の前。

「よし、んじゃ、荷物、ここに置くね」

「ありがと、謙一」

「うん、また明日ね」

「うん!」

名残惜しいが、キリが無いし、家の前だし、さっさと退散だ。


                               ※


「あら、麻琴、今日は早いのね」

「明日は打ち上げがあるから遅くなるかもだけど、今日は中日だし早く帰るって昨日言ったよ」

「あはは、そうだった?彼氏君とのんびりデートでもしてくるかと思ってたわ」

「確かに送ってもらったけど、のんびりとか、その」

「え?家の前まで来てたの?だったら、上がってもらえばいいのに」

「そんな、急に、紹介とか…」

「あなたの話と写真だけじゃ、ねえ」

「うー、信用できないの?」

「違う違う、会ってお話してみたいのよ。麻琴が好きになっちゃう男の子ってどんな人なのかな?って」

「もう、時期見て紹介するから」

「向こうの親御さんにはお会いしたんでしょ、麻琴。不公平だって思うな、お母さんは」

不公平?うーん、そう言われればそうかも。あの緊張を謙一にも味わわせたい気もする。

「あ、姉ちゃん、おかえり。お土産は?」

「ただいま。あんたは同人誌即売会でどんなお土産期待してんの?」

「え?饅頭とか」

そういえばメガサイトでコミエ限定のお土産、売ってたっけ。

「明日、余裕あったら、何か買ってくるから、もう」

「やった!」

「辰巳、そんなことより、誰か女の子でも紹介して!っていう方が、夏休みの中学生男子って感じだけど」

「どんな感じだよ!」

と、顔を真っ赤にして部屋に逃げ込んでしまった。うん、思春期。わたしもだけど。

「お母さん、わたしの仲いい娘、みんな彼氏いる」

「あら、辰巳ってば可哀そう」

その言い方もどうかと。

姉の紹介っていうのも微妙に嫌な気もするし。

弟に恋愛指南したくないし、出来るほどの人間でもないもん。

さて、洗濯とお風呂と明日の準備しなきゃ。

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