第16話 夏のコミエのほんの少しの前日譚

コミエ前日。僕は無事3日間のバイトを終え、小遣いも稼いだ。

で、麻琴とデートだ。

合宿が終わって1週間も経っていないのだが、久々な感じがするのはバカップルだからなのか?

とにもかくにも、ホントに二人っきりになりたかったので、カラオケに行くことに。

フリードリンク、フリータイムで部屋へ。

「麻琴は何飲む?」

「オレンジジュース!」

とのリクエストに僕はドリンクサーバーのボタンを押し、コップにオレンジジュースを注いだ。

僕はウーロン茶にしとく。

部屋の中に入り、ドアを閉め、飲み物と荷物を置き、さぁ、リモコンに入力!の前に、僕は麻琴を抱きしめ、そしてキスをした。

麻琴も情熱的に応えてくれた。

「謙一、会いたかった」

「うん、僕も」

ほんの数日会わなかっただけなのに、こんなんじゃ、夏休みが終わったらどうなるんだろ。

「えへへ。とりあえず、歌おう?」

そこからは、歌ったり、キスしたり…それ以上はしてない。

したかったけど、うん。ここじゃね。明日もあるし。


                               ※


コミエ前日。オレは未来の部屋に来ている。

要件としては、コミエでやるコスの確認。「クールバディラブ」の強襲課のバッジは完成してるし、オレ=エリザの44オートマグと未来=シュンメイのスコーピオンもあちこち探して手に入れた。正直、結構なお値段がしたが、未来の期待は裏切りたくないので、無理をした。

で、あとはエリザのスーツ、ウィッグ、メイクの確認っていうわけだ。

初めて来た彼女の部屋で、彼女に女装させられるっていうのは、かなり倒錯的なんじゃなかろうか?

当の未来は鼻歌交じりで楽しそうにオレのメイクをしている。

「崇って化粧ノリいいよね。髭とか永久脱毛して、女装専門レイヤーにならない?」

「彼氏に言うことか、それ?」

「崇にだから言うんだけどな」

「彼氏の性癖が歪んでも?」

「コス=性癖じゃないよ。あたしが露出狂みたいじゃない、それじゃ?」

「そういう流れでも納得しないから。今回限りだから」

「えー。二人で色々併せしたい」

「だから、そこで女性キャラで併せる必要性がな」

「けち」

「怖いわ。未来が怖い」

「いいもん、やらせてやるもん…ほら、出来た。そんじゃウィッグ被って」

実はここまで鏡を見せてもらっていない。

すでに服装はタイトスカートなスーツに着替えさせられている。ついでに胸も…付け胸とでもいえばいいのか、胸アーマーのごとく装着したら、結構エロい感じに…

メイクも終わり、ウィッグ被って整えれば完成、なわけだが。

「これでいいか?」

「ちょっと整えるね……よしOK。きれいよ、た・か・し」

「いいから鏡見させて」

「どうぞ」」

今まで裏返されていた姿見を元に戻す未来。

鏡に映っていたのは女性、だ。

「これ、オレ?」

「びっくりした?するよね?まじびっくりだよね?かわいいよね?」

未来が興奮してる。

「メイクすごいな」

「元がいいの!あたしの惚れた男が凄いの!」

未来がぴょんぴょん跳ねている。

もう、以前とはまるで違うな、未来のリアクション。これが素なんだな。

「あのさ」

「うん?」

「明日、オレはどうすりゃいいの?更衣室で自分じゃこんなメイクできないぞ」

「着替えて、そのまま出てきて。あたしが入場して、スペースに着いたら、そこでやってあげる。5分くらいだもの」

「うん、公開処刑。売り子やりたくない…」

そのあとは、小道具の銃を持って、二人でポーズを決めたり、撮られる練習をした。

で、さすがにこのままはアレなんで、メイクをを落としてから…恋人同士の時間。


                               ※


「そろそろコスの確認しようよ」

「あー、汗かいちゃったから、先にシャワー浴びてくる」

と、成美が風呂場へ駈け込んでいくのを見送り、おれは持ってきた荷物から衣装を取り出した。

「幸次も一緒に入る?」

と、風呂場から顔を出して叫ぶ成美に

「キリがなくなるから、さっさと浴びて出てこいや!」

「ボクが悪いみたいに言うな!」

と顔をひっこめた。

うん、まぁ、どっちもどっちなんだけど。

とりあえず、成美の分、アンドロイドレティの衣装をベッドに広げる。

シルバーの全身タイツがパーティーグッズとして売られていたのがありがたい。

真紅のベストと黒いレースのひざ丈スカートもそれっぽい市販品で誤魔化す。

あと、これが大事!な胸潰しインナー。成美が宝珠さんから聞いて手に入れた。ずっと停止スイッチが押された状態になるけど、動くよな?なんて言ったら関節極められた。

そしてヘッドセットと胸部アーマー。左胸の発光は結局オミット。LED仕込んだり、色々試したが、納得いく感じにならなかったから、裏面に反射発光素材だけ張り付けた。フラッシュ焚いて写真撮ったりすれば光って写る、はず。それと、成美は小さい子なので、厚底ブーツ。

「お待たぁ」

と成美が出てきたので

「おれもシャワー浴びちゃうから、ちょっと着てて」

「はいはーい。一緒に浴びちゃえば早いのに」

「いいから、もう」

ちゃっちゃとシャワー浴びて、出てきたら、成美がアンドロイドレティになっていた。

「どう?イイ感じじゃない?」

「さすが成美。ナイス着こなし」

「幸次も早く着てよ」

「はいはい」

手早く、ガイの衣装を取り出し、変身。

ブルーのタイトな長袖シャツに似た色のカーゴパンツ。ヘッドセットに胸部アーマー。

靴はそれっぽいハーフのブーツをサバイバルゲーム用品の店で見つけて買っておいた。

低予算特撮番組「電撃プラズマクロス」万歳。

「おぉ、かっこいいよ幸次」

「そっちは停止スイッチ苦しくない?」

「胸とかバストとか言え」

的確にわき腹に手刀が入った。

「特に苦しくないから、だいじょぶ」

呼吸を整えるのに1分。

「あぁ、成美のって、柔らかいから、そこまで潰れるのか」

「なに?他の胸、揉んだの?」

「違う違う、あくまで成美一人。その感想。他の胸揉みまくってたのは、成美だ」

「命拾いしたな」

「怖いんだよ」

そのあと、スマホに入れておいたプラズマクロスの動画を観て、決めポーズの練習をした。


                               ※


昨晩のこと、望から電話が来た。

「急で悪いけど、明日、幾美の家にお邪魔しても平気?」

「母親いるけど、気にしないなら、いいぞ」

「ご挨拶出来るならちょうどいいか。うん。お邪魔するね。コミエの準備は終わってる?」

「コスも同人誌も全部終わってる。で、何用でウチに来るんだ?」

「うん、まぁ、コミエの相談とか、単純に会いたいとか…そんなんじゃ駄目?」

「…いいよ。何時にする?」

で、今日に至る。

母親に彼女が来るって言ったら、嫌な顔せず、大歓迎モードで何やら料理やら仕込んでいる様子。

その辺、ヘビーな親じゃなくて助かってる。

望を母親に紹介した。

ド緊張する望という大変レアな状況に出会えたのは僥倖か。

準備できたら呼ぶから、という母親の呼びかけを背に、俺は望を部屋に案内した。

ネズミと蛇がいるって説明するのを忘れてたが、レプタイルズプラネットでの様子からして大丈夫だろうと判断。

「幾美…」

「ん?」

「この獣臭い部屋に女子を連れ込むって、大した度胸だよね」

「慣れって怖いよな。この匂いに鼻がさ」

「うるさい。換気して」

エアコンの冷気も逃げちゃうからホントは嫌なんだけど、仕方がないので、窓に付けた換気扇を回す。

「自室に換気扇が付いてるってのも大概よね」

「凄いだろ?」

「うん、いろんな意味でね」

緊張と劣悪環境のダブルパンチで機嫌が悪い。

おだてお世辞が通用しない相手なので、ご機嫌を取るのが難しい。ある意味、爬虫類とかと一緒…

「とても失礼な思考をしている顔をしてる」

バレた。

「望とのお付き合いの困難さを楽しんでるだけ」

「…嫌になってない?」

「なってないよ」

「よかった」

と、抱き着いてきた。

望の頭を撫でながら

「そろそろ明日のコス、何やるか教えてほしいな」

「…ナリューナ・パウ」

「…スターエンブレムのお姫様?」

胸の中でうなづく望。

「併せてくれるなら早めに教えて欲しかった」

「他の人たちがペアでやってるから?」

「うん、まぁ」

「焦った?寂しかった?」

「そのために?」

「うん」

ほんと、面倒だけど、大好きな人、だな。


                               ※


「OK、明日は一般で並んで入ればいいんだ?りょーかいりょーかい。…うん、女性陣と幸次ね。はいはい、待ち合わせちゃうよ、俺ちゃん…え?そんな早いの?うわぁ、起きれるかな…うん、も、もちろん遅刻はしない、ように心がけちゃうよ。女子を待たせちゃいけないから…おぅ、こっちはこっちで確認しとく。んじゃね」

「明日の予定、決まった?」

俺ちゃんのベッドに寝転んで漫画を読みふけっていたリリーナが言った。

「うん、女性陣と幸次と駅で待ち合わせて、一般入場に並ぶ。コスに着替えたら、一旦サークルスペースに集合、って謙ちゃんの指示」

「ふぅん、OK、No Problemよ。それじゃ、美容院、行こ」

「はいよ、だいぶプリン頭だもんね」

「うるさい、あんたもブリーチすんでしょ」

「不安だなぁ、将来禿げたりしないよね」

「知らないわよ。頭皮に気合でも入れればいいでしょ」

「ツンモード、ご馳走様。そんじゃ出かけようか」

「ツンモードとか言うな!」

リリーナに殴られた。ウチの親が不在なのをいいことに、昨晩から俺ちゃんの家に転がり込んでるのだが、諸々大丈夫なんだろうか?ホテルも取ってるはずなんだけど。

出会って、一週間かそこらなのに…ま、お互い様か。決して軽いわけじゃない。お互いにビビっと来ちゃったんだもん、しょうがないよね。結局相性良いし。


                               ※


明日の荷物を5度くらい確認し、僕はベッドに入った。

明日はコミエ本番。

サークル参加チームと一般参加チームで待ち合わせ時間が違う。ほんとは麻琴と一緒に行きたいけど、時間を上手く使うために、あえて別にした。幾美の指示で…

サークル参加チームの方が、一般参加チームより集合時間が少し遅め。

一般参加チームは少しでも早く入場して着替えるため。サークル参加チームは入場開始時間が決まっているので、あまり早く行っても、外で待ちぼうけるだけ。一般参加列に一緒に並ぶわけにもいかないから。

そしてコミエは3日間開催。初日はサークル参加だが、あと2日は一般参加…体力が残っていれば。

夏は過酷だ、地獄だと、ムリョウさん、宝珠、麻琴からも言われた。

フル参戦したいけど、僕も他の皆も体調優先で、と決めている。

とにもかくにも明日が本番なんだ。

絶対に楽しんでやるんだ。

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