第15話 間奏曲・合宿終わりのバカップルズ

合宿5日目。合宿最終日というよりは、帰郷するだけの日。

朝6時起床。なんとなく全員フラフラだが、渋滞前に高速を抜けたいのと、夏コミ直前なので、少しでも英気を養うために、今日は早く帰るのである。

いや、本音は、もっとイチャついていたいけど。


                                ※


幾美がガスの元栓閉めたり、戸締り確認をしている間に、皆の荷物と余ったビックリフルーツティーを車に積み込む。

「置いて行かないの?」

麻琴がビックリフルーツティーを指さして言う。

「こんな迷惑な化学兵器を置いてっちゃダメ。こっそり、みんなの荷物に忍ばせるとかにしておきなさい」

「はーい」

「そこまでだ、元祖バカップル。テロ行為は許さん!」

何だか、幸次にバレて立ちふさがられた。

「くそ!バレちゃあ仕方がねえ!ずらかるぜ、麻琴!」

「へ、へい、合点だあ」

と、物は試しと、麻琴をお姫様抱っこして走ってみた。

「にゃ、にゃあ、けん、これ、恥ず」

10mくらいで力尽きた。

「朝から元気だな、おまえら」

崇が呆れ半分羨ま半分でこちらを見ながら、言ってきた。

「やって…みたかった…んだよ」

「情けないわね、ケンチ。未来なら麻琴を抱いてフルマラソン走り切るわよ、多分」

「望、変なこと言わないで。500m位が限界だと思うし」

宝珠もムリョウさんも何言ってんだか。

当の麻琴はと言えば

「えへ、お姫様抱っこ、へへへ」

と何か嬉しそうにしているので、意味もなく、無茶した甲斐もあろうというもの。

「ほら、バカップル!置いてくぞ」

と、運転席の成美さんに声をかけられ、慌てて乗り込む僕と麻琴。いつの間にか、幾美も幸次も乗ってるし。

「忘れ物ないよね?出発しまーす!」

これからの長丁場の運転に気合を入れるためか、ひと際大きい声で成美さんが叫び、車は合宿所こと、黒沢家別荘を後にした。


                                ※


わずか4泊5日の合宿旅行ではあったが、中身は濃すぎるほどだったし、僕たちカップル同士だけでなく、参加者8人全員の絆も、多少は深まったかなと思う。

楽しい時間。帰りたくないと思ってしまう。

僕の肩に頭を載せて、うつらうつらしている麻琴が愛おしい。

恋愛って凄いな。彼女がいてくれたら、僕は大丈夫になれるのかもしれない、と思うようになってきた。


                                ※


しばらく走り、高速に乗ったころ、麻琴のお腹が

くぅーくぅー

と鳴り始めた。

顔を真っ赤にして恥ずかしがる麻琴に

「あと、少しでサービスエリアだから!」

「がんばれ!」

「我慢よ!」

「麻琴なら出来る!」

「謙一にいっぱい食わせてもらえ!な!」

「なんか菓子でも食わせとけよ、謙一」

「ビックリフルーツティー、飲むか?」

と、僕も含め全員が声をかける事態に。

結果的には僕が麻琴にポカポカ殴られ、僕の胸にしがみついて、顔を上げない。

可愛いなぁ、このビーストテイマー空腹エルフ。

「おい、野郎ども!もうじきサービスエリアだ!飯食うぞ!」

と、何か5日前にも聞いたような気がするドライバーの叫びが車内に響き渡った。

ばっと顔を上げる麻琴。

ふと、助手席の幸次に

「君の彼女はア、がっ」

全てを言う暇もなく、成美さんの左手が伸びてきて、こめかみにアイアンクロー。

「運転に…集中…しろ」

「アレって何かな?何かな?」

「幸次、止めろ、これ」

「え?こんなところで?」

「ごめんなさい。素敵なお姉さん」

すっと手が離れた。

すると胸元の麻琴が僕を睨みつつ、

「再放送しないでいいから」

「はい」

そして車はサービスエリアへ到着した。


                                ※


「謙一、行こ。ほら、名物の焼きそば饅頭入り醤油ラーメンだって」

あぁ、下りと上りで、くどそうな名物も微妙に違うんだ…なんて感心しつつ

「今日の夕飯は、気にしなくていいの?」

今日は皆、自宅に戻る。夕飯は、一緒じゃないから。

「え…そっか、うん」

麻琴も今更ながら、今夜から元の生活に戻ることを実感したようだ。

「麻琴?」

「あとで電話して、少なめにしておいてもらうから、食べてもイイ?」

「もちろんイイよ。ビーストテイマー空腹エルフさん」

「変なあだ名禁止」

「はい」

別に今生の別れの日じゃないんだから、しんみりする必要ないんだけど。この5日間、ずっと一緒に生活して、こっそりキスなんかして、恋人同士を満喫していたんだから、どうしても落差は感じてしまう。

まだ、サービスエリアに着いただけなんだけど。


                                ※


そっか、謙一たちとの合宿、もう終わりなんだ。今更ながら自覚して、なんか寂しくなっちゃった。

謙一がわたしの手をギュッと強く握ってきたので、謙一も同じ気持ちなんだなって思った。

フードコート内では、自然と、各カップルごとにバラバラに座った。

みんな同じ気持ちなんだろうな。人を好きになるって、こういう事も併せ持つんだなぁ。

「へい、お待ち!焼きそば饅頭入り醤油ラーメン一丁!」

と、謙一がわたしの前に、ドンとラーメンどんぶりを置いた。

「ありがと。謙一のは?」

「僕はアメリカンドッグとフライドポテト」

「足りるの?」

「うん、大丈夫」

「食欲ないの?」

「食欲ないやつは揚げ物ダブルで頼まないから」

「そっか」

「ほら、伸びたりふやけたりする前に食べないと」

「うん、いただきます」

「はい、いただきます」


                                ※


何か離れたとこにいる麻琴の前に大きな丼が置かれたのが見えた。

また、あの欠食娘は、わけのわからないものを…

「未来?」

「あ?はいはい、何?」

「ご要望のきつねうどん、買ってきたから」

「お、サンキュー、崇」

「どうしたの、ボーっとして」

「あぁ、麻琴がね。凄いもの食べてるから」

「……なるほど。恐ろしいものだ」

「でしょ?…話は変わるんだけど、コミエ前に、1回会える?」

「え?あ?うん、そりゃ大丈夫」

「良かった。結局コスのチェックしてないから、一度着てほしいなって」

「あ、そ、そっちね、うん、そりゃ、もちろん」

「別の期待、した?」

「な、なんのことでしょう?」

「明後日から、両親、旅行に行っちゃうからいないんだぁ。まぁ、あたしは実質一人暮らししてるみたいもんだから、その、部屋に来て、チェックしてほしいな、って」

「え?それ?…うん、行く」

「迷いないなぁ。崇のスケベ」

「そ、そりゃないだろ」

「へへへ、だよね」


                                ※


だからケンチの声響くから、麻琴の公開処刑になってるんだけど、麻琴ってば、全然気にしてない。

「ホントに、かけそばだけでいいのか?」

「だって、合宿中は結構自堕落だったから、体重増え気味だし、コミエに向けて、少し絞らないとね」

「俺は気にしないけど」

「今から、コスのサイズ直ししたくないもの」

「超現実的」

「幾美は大丈夫なんでしょうね?」

「生物部の部活はカロリー使うからな」

「バカやって痩せるなんて、素敵なダイエットですこと」

「望もフィールドワークすれば、痩せるぞ」

「ふーん、気にしないと言いつつ、私が太ったのは認めるんだ?傷つくなぁ」

「先に自己申告したのは望だ。俺は望の願いを叶えようと提案をする優しい彼氏だ」

「そうね、優しい幾美が大好き」

珍しく不意打ちが効いたのか、幾美が顔を真っ赤にしてる。


                                ※


「どうする?今日はこのまま、うちに泊まる?泊まる?」

「成美、1回くらいは家に帰って、親に土産渡したりだな」

「そんな事を気にする男子、いるんだ」

「おれは別に親を蔑ろにしたりしないから」

「偉い偉い」

「馬鹿にしてる?」

「ううん、感心してる。あ、お好み焼き半分こって言ったじゃん」

「話跳ぶな、おい。それに半分しか食べてないだろ、実際」

「1cm余分に食べてる。ボクの分が少ない。罰として、串焼きの肉を1個余分に食べてやる」

「…好きにして、もう」


                                ※


焼きそば饅頭が消え去り、ラーメンも消え去ろうとしていた。

一心不乱に食べている麻琴が可愛い。

これだけ食べても何も増えないのが不思議でしょうがないんだが、1000キロカロリー/ 時くらいの消費ペースなんだろうか?

怪獣なのかな?

「ねえ、謙一」

「ん?」

「何か失礼なこと考えてる顔してるけど、何?」

「失礼なことなんか考えてないよ。たくさん食べる麻琴は可愛いなぁって思ってただけ」

「そういうとこに可愛さ感じてほしくないっ」

「他にもたくさんあるよ。そのクリっとした瞳とか、きれいな黒髪とか…」

「は、恥ずかしいから、それ以上言わなくていい」

「残念」

「いいから、もう。それで、ね、コミエ前にも会える、かな?」

「うーん、短期のバイトするんだ。3日間だけなんだけど」

「え?え?なにやるの?」

「アイドルのドームライブのグッズ売り場の売り子ってやつ」

「すごい、すごい。でも大変そうじゃない?」

「その分、時給は良いから。コミエの小遣い稼がないと」

「わたし、今回の合宿で出してもらった分、ちゃんと出せるから、あんまり無理しないでほしいな」

「合宿費用の半額持ちは皆で決めたことだし。可愛いエルフのコスまで見せてもらえて、おつりが出るくらいだ」

「そ、そんなこと、ないよ」

「とにかく、日程的には空いてるのはコミエの前日、だな。そりゃ僕だって、ずっと一緒にいたいけど」

「前日…準備とかで忙しいでしょ?」

「持っていくものは、僕と崇と幾美で手分けしてるし、コスだって仕上がってるし、大してやることないよ。だから会おう。麻琴の準備に支障がなければ、だけど」

「わかった。前日までに荷物作っておく!」

「どこか行きたいとことか、ある?」

「コミエ前日に遠出したりするのはアレだから、とにかく、二人で会えればいいよ」

確かに合宿中、ある程度イチャつきは出来たけど、不完全燃焼感、あるものな。

「カラオケか映画か…何か考えておく」

「うん!」


                                ※


一応、生物部強化合宿は終わったことになっているので、行きのようにサービスエリアを駆けずり回るようなことはせず、食事して、お土産売り場眺めて、と普通の行動のみで再び車中の人となった。

ガンガン流れる特撮ソングの勢いもあってか、皆を乗せた車は、あっという間に解散地の駅前に到着。

僕、麻琴、崇、ムリョウさんが、そこで降りる。

「んじゃ、また来週な」

とだけ幾美たちは言い残して去っていった。

あっさりしたもんだ。でも、真面目な挨拶は昨日したもんな。

「そういえば麻琴」

「ん?」

「あの不味いやつは?」

「え?…車の中に置いてきた」

「ナイス、テロリズム!」

僕は麻琴にサムズアップした。

「な?てろ?」

ムリョウさん、ため息をつきつつ、麻琴の頭を撫でた。

「よしよし」

「え?なに?」

「成美さんに処刑される麻琴と、巻き添えを食うケンチが可哀そう」

保護管理者責任、なの?僕もなの?


                                ※


今日はさすがに麻琴とは駅で別れ、一人トボトボと家路につく僕。

まだ夕方前なので、日も高く暑い。

ガラガラとスーツケースを引きずる足取りは、重い。

駅に着いた時点で母さんにはメールしたけど、このまま帰りたくない気持ちが強い。

ふと、麻琴がいてくれたら、なんて思ってしまう自分が情けなくもある。彼女に精神的に依存し過ぎなんだろうか?

それとも現実逃避の手段に過ぎないのだろうか?

嫌だなぁ。嫌な考えに思考が支配されていく。

我ながら、こんなことで悩んでも仕方ないと思う反面、感情的に割り切れていない部分がある。

なんてマイナス思考をしてる内に、家に着いた。

鍵を開け、玄関に入り

「ただいまー」

と奥に声をかける。

すると、母さんがパタパタと出てきて

「おかえり。楽しかった?」

「うん。荷物片づけたら、お土産渡すね」

「はいはい」

僕はろくに母さんの顔も見ずにそう言って、自室へ逃げ込むように入った。

今日は、あの人はいないようだ。

そこだけは安心…安心?なんなんだろう。

とにかく、今は気持ちを切り替えて、普通に、普段通り、接しよう。接しなきゃ。


                                 ※


謙一、大丈夫かな?って思いながら家に帰ると、イの一番に辰巳が出迎えてくれた。珍しい…。

「姉ちゃん、姉ちゃん、オレへのお土産は!」

「もう、中学生にもなって、姉のお土産に期待しなくても」

「…無いの?」

「ある、けど。お母さんは?」

「買い物行った」

「そっか。お土産は宅配で送ったから、今日中に着くと思うから」

「すげぇ。持って帰れないくらいデカいのか」

「もう、好きに期待してなさい。わたしは部屋で荷物片づけるから」

「は~い」

と、辰巳はすごすごと自分の部屋に引っ込んだ。

さて、片づけ片づけ。

部屋に戻り、スーツケースを開けると、中身が噴き出す様に出てきた。

二度と入らないだろうな、これ。

さて、洗濯…の前に謙一に電話してみようかな。


                                 ※


とりあえず、部屋着に着替えて、ちんたらと荷ほどきをしていると、麻琴から電話だ。

第一声で

「大丈夫?」

と来た。バレバレですな。

「うん、平気」

「な振りしてるでしょ?声が違うもん」

「…そだね」

「わたしがいるよ」

「情けなく思わない?こんな男」

「思わない。辛いことがあって、それに耐えようとしてる人を、情けないなんて思わない。まして、大好きな人だよ?」

「こんなんでいいのかな」

「悪さしたら怒るけど、辛いときは支えるもん」

「ありがとな」

「自分でもよくわからないくらい、謙一のことが好き。わたしが辛いときは支えてくれる?」

なるべく、頼らないようにする癖が付いてたんだ。だから、負のループに入っちゃうんだ。

「うん。支える。だから、今は…声が聞けて嬉しい」」

「じゃあ、ちゃんと荷物片づけて、わたしからのお土産、お母さまに渡して、ね」

「わかった。じゃあ、また連絡する」

「うん、お疲れ様」

「じゃあね」

単純だなぁ。麻琴の声を聞くと元気が出る。この勢いがあるうちに、用事を済ませよう。


                                 ※


母さんは麻琴からのお土産を喜んで受け取ってくれた。

「ごめんね謙一。お母さん、ちょっと浮かれて暴走してたかも。嫌な思いさせて、ほんとごめんね」

あぁ、そっか、なんかストンと胸のつかえが落ちた気がする。僕や麻琴が浮かれることがあるように、母さんだって恋愛で浮かれることもあるよな。そもそも離婚して独り身なんだし、何も悪いことじゃないんだ。

「うん、僕も嫌な態度とってごめん」

母さんは優しく微笑んで、うなずいた。

「謙一のこと、蔑ろになんかしないから、ね」

「うん」

なんか泣きそうになったので、僕は自分の部屋に駆け込んだ。

わだかまりがゼロになったわけじゃない。でも、心は軽くなったんだ。


                                 ※


「麻琴ぉ、なんか玄関の外にやたら重いダンボールが、あなた宛てで届いてるわよぉ」

と、お母さんの声が廊下に響いた。

「はーい、今行く!」

と部屋から飛び出すと、お母さんが目の前にいた。

「おかえり。楽しかった?」

「うん、すごく」

「麻琴が幸せなら、それでいいわ」

と、頭をポンとされた。

やっぱ、バレてるな。

「あの荷物、重いから、辰巳に運ばせなさいね」

「うん」

と、わたしは辰巳の部屋の前に行き

「弟よ!土産が来た!運びたまえ!」

すると辰巳が部屋から顔を出し

「普通に頼めよ、何だよそれ」

しまった、生物部のノリが身に染み付きつつある。謙一を叱ろう。

「あはは、玄関の外にダンボールで届いたから、リビングまで運んでくれる?重いの」

「重いのか。金の延べ棒とか?」

「そんな土産は無いから」

「姉ちゃん、冷たい」

「いいから、運んで、もう」

「は~い」

辰巳に運ばせ、御開帳。

予定通り、お父さんは桑のジャム、お母さんはミルクジャム、辰巳は和栗ジャムを。

当の辰巳は、渡したときは「ジャム?」と微妙な顔をしていたが、翌朝は喜んでパンに塗って食べまくっていたので、良かった。

お父さんもお母さんも喜んでくれた。

ただ、もう少し買い方を考えなさいと釘は刺された。

学校で配る用の小さい瓶も、合わせると数キロあることに、今気づいた。


                                 ※


うちに着いたあたしがまずしたことは、自分の部屋に荷物と、例の手間のかかったおふざけパネルを人目に付かない場所に隠し、買った土産を持って、親の部屋に行くこと。

部屋に行くと、飛びついてくるキングの猛攻を何とか受け止めつつ

「ただいま」

「おかえりなさい、未来。…だいぶ楽しかったみたいね」

「え?え?なんで?」

「顔つきが違うのよ。ま、親だからこそわかるレベルかも」

「そ、そう、なんだ。うん、楽しかったの確かだけど」

「なんていうか、張りつめ感みたいな?そんなのが消えてるのよ。…彼氏のおかげ?」

「ふぇ?か?なんのこと?」

「お父さんには内緒にしといてあげるわ」

と、カラカラと笑いながら台所に行ってしまった。

あぁ、ほんとに母親にはバレるんだ。でも、後ろめたいことは、して……ないし。明後日、しちゃうかもだけど。


                                 ※


「ただいま戻りました、お母さま」

「はい、おかえりなさい望」

「お土産、冷蔵庫にいれとくね」

「はいはい。向こうでは大事なかった?」

「特に害になるようなものは」

「ならいいわ。おばあさまにもご挨拶してらっしゃい」

「はーい」

なんだろう、ついさっきまでのメンバーの空気とのギャップを物凄く感じる。

あの連中、運と守護が凄いけど、うちみたいな静謐さがない。そういうところも、やっぱり面白い。


                                 ※


幸次をボクん家に2時間ばかり軟禁し、改めて幸次の家に送り、レンタカー屋に行ったところ、車内に見慣れたダンボールが放置されているのに気付いた。

やられた。麻琴ちゃん、恐るべし。っていうか、幸次、絶対気づいてたよね。絞めないと、だ。

「あ、すいません、この中のドリンク、旅行中に余ったもので済みませんけど、こちらの皆さんでお分けください」

と、レンタカー屋に危険な汁を押し付けて、逃げるように店を出た。

もう、今のレンタカー屋で車借りられないだろうな…


                                 ※


両親にずいぶん大きなお土産だなと指摘されてしまった例のパネル。もう開き直って部屋に飾るしかないのか?

オレとしては未来とのことが両親にバレても、何の問題も無いのだが、こういう手間暇かけた悪質なイタズラからバレたくは無いという思いもある。

そんなことより、明後日に未来の家に行く…その相談を未来としなくちゃ。うん、そっちが大事。


                                 ※


自分の家の別荘に行っただけの俺からの土産などあるはずもないと理解している親に、帰宅の挨拶だけして、自室に籠ることにする。

蛇には出かける前にエサを与えたし、ネズミたちは大型のペットボトルや百均で買ったプラスチックケースを改造して作ったエサ入れに大量のフードを入れておいたので…部屋は24時間空調状態。

うん、やはり無事だ。特に問題も起きて無さそうだ。

とりあえず、一安心。

さて、望に連絡でもしてみるか。


                                 ※


成美から解放され、疲れ果てた身体でヨタヨタと家に戻ると、なぜか誰もいなかった。

テーブルの上には幾ばくかのお金が入った封筒と、「1週間ばかり、小旅行に行ってきます」という書置きが置いてあった。

うん、電話で連絡して来いや。行動もおれへの配慮も雑過ぎる。

成美の部屋に軟禁されとけばよかったかな?

とにかく疲れた。ひとまず寝よ。


                                 ※


空港に降り立った俺ちゃんを包む、日本の湿った熱気。

「うん、帰ってきちゃったよジャパン」

「かぶれ方が半端なのよ、あんたは」

隣の金髪少女、ただし、頭頂部は伸びて黒くなってきてるプリン状態、なハワイで知り合った恋人。

「リリーナ、この暑い中、冷たい対応、乙」

「なんか、戻った途端、うざくなってない?ハワイにいたときの方がクールだったわ」

「そっかな?あはははは」

「とりあえず、あの…ケンイチだっけ?あいつにワイハー少女テンプレちゃんが来たってメールしといて」

どんだけ根に持ってるんだか。

「そら、まぁ、するけど。お手柔らかにね」

「Depends on opponent!相手次第ってやつよ」

「その英語挟むあたりが、テンプレちゃんなんだと思うよ」

「うっさい!」


                                 ※


メールだ。

恭ちゃんから。

今までの涙も吹っ飛んだ。

だって、嵐が…テンプレちゃんが来た報告。

しかも、下品に中指立てて、舌出したテンプレちゃんの写真付きで。

生物部には、癖の強い女子しか寄ってこないのだろうか?

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