第4話 新コスと犬と出会いの裏側

二学期末の試験最終日、わたしはのぞみさん、未来みきさんと学校近くのカフェで待ち合わせ。

冬のコミエまで、あと十日なので最終打ち合わせ?な感じ。

テスト終了とともにクラスを脱出したわたしが、やはり一番乗り。

そうだよね。普通はクラスの友達と答え合わせみたいなことするんだよね。

冬コミも、新作コスを作る時間も予算もなく、

バショクとクローン・クイーンのローテーションで行こうかな、寒いけどって考えてるくらいなんで、何話そう……。

てなことを考えてたら、二人到着。

「おぅ、お待たせ」

「ごめんね、待たせちゃって」

そして二人のオーダーが済み、それがテーブルに運ばれてきたところで

「それじゃ、改めて試験終了を祝って乾杯」

未来さんの音頭でグラスやカップを持ち上げる望さんとわたし。

「さてと、今日集まってもらったのは他でもない。冬コミの件だ」

「てんぷれせりふ~」

「茶化すな望」

こういうやり取り自体、最近はテンプレなんだけど。文化祭の一件から、望さんの距離感が縮まったというか、小悪魔度が増したというか、とにかく、前にも増して仲良くなった。

「で、新作のコスなんだけど…」

「未来さん、わたし、余裕なくて、その」

「安心しなさい。もうじき出来るから」

「へ?」

あ、変な声出ちゃった。

「あたしが作ってるの、三人分」

「初耳なんですけど」

「え?そりゃ、麻琴まことには内緒にしてたから」

そりゃ、じゃなくて。

「だって採寸とか、お金とか」

「麻琴のサイズは粗方わかってるし、お金は、結構余り物の備蓄布で何とかなったからいらないし」

お金はともかく、サイズがわかっているという件。

「しょっちゅう、抱きしめたりしてれば、うん」

「そうだね、私も大体把握してる」

どうしよう、この先輩たち。セクハラで訴えた方がいいのかな。

「ネタは、まるまじょ大作戦。麻琴はチャアで、あたしがアル、望がベイ、ってことで」

「まるまじょは観てるから知ってるし、カワイイなと思ってたけど」

「あたしと望が、麻琴ならチャアだよねって話になって、じゃあ三人で合わせちゃおう。しかもサプライズで」

だから、合わせをサプライズでやる意味を教えてください……

「わたしがまるまじょ観てなかったらどうする気なの、もう」

「え?三人で歩いてるときとか、まるまじょの主題歌、鼻歌で歌ってたじゃん」

「だから、こりゃ、ハマってるなと」

無意識。完全に無意識行動。

「冬だし、露出少な目なのも、ね」

「チャイは中華な道士服にロングスパッツだから、露出はないけど、足のライン丸見えなんですけど」

「はい、足が細い娘は文句言わない」

魅せるラインをお持ちのお二方にはわかるまい。細けりゃいいってもんじゃないってことを。

ちなみにアルは真っ赤なロングドレスで腰までスリットが入ってる。子供向けアニメだから、下はスパッツだかタイツ履いてるけど。

ベイはブルーで統一されたヒップホップスタイル。

想像するだけでニヤケちゃうくらい、二人に似合ってる。

「そんでね、ほぼ出来てるから、実際に着てもらって調整したいんだ」

「いいよ。いつ?」

「出来れば、これから。あたしんちで」

「わたしは今日なら逆にOK。麻琴は?」

「家に連絡しとけば、だいじょぶだけど」

「OK。じゃあ、急で悪いけど頼む」

「わたし、お母さんにメールしとく」

そんなこんなで、ちゃちゃっとオーダーした飲み物を飲み干し、カフェを出た。


「未来さんの家って、どこなの?」

連絡先は知ってるけど、住所は知らない。外でしか会わないし、連絡はメールか電話だし、ね。

「この先のバス停からバスで3つ目の停留所のすぐ前のマンション」

「近くてわかりやすくて羨ましい。いざとなれば歩ける距離じゃない?」

「うん、朝はともかく、帰りは歩くことが多いかな」

「なるほど、未来はしょっちゅうダイエットが必要ってわけか」

「望、深読みして真実に突き当たっちゃいけないこともあるんだけど」

「謎は解かなきゃ」

「あんたは、もう…露出多めのコスするから、絞るところは絞っとかないといけないの!大体、望だってそうでしょ!」

「ひみつー」

口で望さんにかなうわけないのに、もう。

「麻琴、あなたはよく食べるけど、その辺、どうなの?」

望さん、よく食べるは余計だと思う。

「わたしは、特に。背も伸びないし、胸も大きくならないし、足も色っぽくならないし」

「ちょっと方向性が違うような気もするけど、あれだけ食べても、お肉がつかないタイプか。ある意味最強スキルじゃない、女子として」

「初期ステータスからレベルアップしないスキルなんて意味ないもん」

「初期ステータス=カワイイは最強だと思うんだけどねぇ」

小さい頃なら可愛い扱い嬉しかったけど、中3にもなると、それだけじゃ…この二人の前だと特に。

「ほら、このマンション」

え?あれ?バスは?

「しまった。歩かされてしまった。ダイエットに巻きこまれてしまった」

望さん、そこまで悔しがらなくても。

「いやぁ、歩けるもんでしょ?」

ダイエットの話に夢中になってる間にダイエットをさせられた……

「さ、我が家へGO!」


エレベーターで5階へ行き、そのフロアの角部屋が未来さん家らしい。

「さぁ、入った入った」

「お邪魔します」

「おじゃま、しまーす」

どうしてもキョロキョロしちゃう。

玄関から廊下を抜けてリビング。

「ひっろ!」

思わず声に出ちゃった。だって、わたしの部屋の3倍以上はある、絶対。

「ふぅーん、もしかして一人暮らしなの、未来」

「反対側の角部屋に両親がいて、その間の2部屋を祖父母と兄夫婦で使ってるから、一人暮らしとは言えないかな。食事は両親の部屋に行って食べるし」

古川家でマンションのワンフロア使ってるってこと?

「すごーい、マンガみたい」

「よく言われる」

「言われるんだ」

「ここ、広くて3人じゃ落ち着かないから、あたしの部屋行こ」

「せっかくルーフバルコニーもあるんだから、犬とか猫、飼えばいいのに」

「親のところで犬飼ってるから」

「け、犬種は?」

わたしの食いつきっぷりに、やや引く未来さん。

「え、あ、うん、バーニーズマウンテン」

「おっきいやつでしょ!未来さん、会える?会える?」

「落ち着きなさい麻琴」

「う、うん、衣装合わせ終わったら、連れてくるから、落ち着いて」

「麻琴、おっきいのが好きなんだ」

「うん、おっきいの好き!」

なぜか望さん笑ってるし、未来さん頭抱えてるし。

「望、人前じゃ麻琴を焚きつけるなよ」

「わかってるよ。うん」

変なこと言ったかな、わたし……


未来さんの部屋自体も、わたしの部屋より広かった。

ミシンとかアイロン台とかトルソーまである。

3体並んだトルソーには、まるまじょのコスがそれぞれ着せられていた。

「真ん中のベイが望。右端のチャイが麻琴ね。とりあえず着てみてくれる?」

「はいはーい」

「うん」

「とりあえず、今は下着のラインとかは気にしなくていいよね」

「うん、って脱ぐの速いな望」

あっという間に下着姿になってらっしゃる望さん。暴力的なパーツがこれでもかと視界に飛び込んでくる。

「制服、あんまり好きじゃないから、家帰ると速攻脱いじゃうんだもの」

「理由になってないし、麻琴は早くしなさい」

「だって恥ずかしいよ、さすがに」

「いつも通り、コスに着替えるだけでしょうが」

「更衣室と違って、三人だけってのが逆に」

「人多い方がいいなら、うちの家族呼ぶけど」

何を言い出すやら。でもホントにやりそうなので覚悟を決めて、脱ぐ。

「ちょっと脇がきつめかな」

望さん、もう着てるし。

「あんた、また胸が大きくなったんじゃないの?」

「カップが上がるほどじゃないけど…やや増し」

聞いても悲しみしか覚えないので、着替えに集中。

「そんじゃ、敢えて詰めたとこの糸を抜く…っと、これでどうだ」

望さん、腕を上げ下げしたり、ベイの決めポーズしたり…

「オッケイ。凄いね、未来」

「あとは、小物も付けてみて。そっちは大丈夫だと思うけど。んで、悪いけどベイのヘッドフォンは購入頼む」

「りょーかい。そっこーポチる」

望さん、スマホをいじって

「はい、ゲット。明日には届く」

着替えだけじゃなく、通販頼むのも速い。

「ナイス!んで麻琴はどう?」

「うん、大丈夫。不都合なとこないよ」

「よかった。望みたいに無駄に成長したらどうしようかと思った」

「無駄っていうの聞き捨てならないんだけど…まぁ、麻琴は麻琴なままなのが良いのは確か」

「でしょ?そんでさ、シニヨンのお団子カバーまでは作ったんだけど、当日の麻琴のヘアアレンジ、望に頼める?」

「もちろん。麻琴をいじれるなら喜んで」

「望さん、言い方をね」

「麻琴も小道具付けてみて」

「スルーして進めないで欲しいんですけど」

「望はウィッグ、合いそうなの持ってる?」

とことん、スルーされたよ。

「ブルーのウルフカットでしょ。うん、なんとかなる」

「そんじゃ、あたしも着てみるから、三人並んでおかしなとこないか確認ね」

やっぱ未来さんきれい。真っ赤なロングドレス、すごい似合う。

三人で色々ポーズ。ちなみに壁には大きな姿見があるので、三人いっぺんにチェック可能。

「未来さん、その、パンツ、見えてる」

「麻琴に見せてるんでしょ、未来は」

「当日はちゃんタイツ履くけど、今めんどいし、二人に見られても問題ないし」

「私も、もうちょっと胸の谷間見せた方が可愛いかな?あと二つボタン外してってと…どう?」

「あたしも太もも見せてるし、バランスとしては問題ないかな。クソカメコに注意してね」

「うん、変な撮り方してる奴いたら、自撮り棒でカメラのレンズ突いて割るから」

怖いこと言いだした。

「出禁?また出禁?」

「そしたらまた例のモール行こう」

「出禁がイヤだと申し上げてるんですよ、わたしはね。望さん」

「大丈夫、そんなことしないから、冗談だから」

この人の暴走は危険。わたし、知ってる。


そんなこんなで衣装合わせは終了。

「未来さん、ホントにコスの代金いいの?」

「いいの、いいの、クリスマスプレゼントだよ、我が姫」

「すると私も姫だね」

「うん、傾国のって付くけど」

「二つ名ってかっこいいじゃない?」

「悪名でもいいのか、あんたは」

「それより、麻琴、モジモジしてるけどトイレ?」

「違うよっ!未来さん、犬、犬を」

「え?麻琴の犬になるの?…満更でもないけど」

「二人とも大人ね。私は付いていけないな」

「バーニーズマウンテンドッグに会いたいの!」

「未来、麻琴がマジ切れする前に連れてきた方がいいよ」

「わかったわかった、ちょい待ってて」

未来さん、部屋から駆け出して行った。

「出会った頃の麻琴からは、考えられない自己主張だね」

「だって、二人して、からかうんだもん」

「私らと話すようになって、クラスの同級生との距離、縮まったでしょ?」

「え?うん、まぁ」

「自己主張も含めて、リアクションするってのは大事だよ。相手からすれば、バリアー解除された雰囲気だもん」

「確かに、思わず笑ったり、声上げたりすること増えたけど」

「エスカレーター式とはいえ、中学3年。中学最後の年くらい大切にしなさい」

望さんが優しく微笑む。

「…急にいい事言うんだ」

「後輩の娘が大好きなイイ先輩だもの」

「その自称がね…ぶモフっ!」

突然目の前が黒と白と茶色のトリコロールなモフモフに覆いつくされ、暖かくて重いものに押しつぶされた。

「やっぱりね。好かれると思ったけど」

「そう思ったなら止めるのは飼い主の義務じゃないの?」

「その前に写真」

「あぁ、なるほど」

わたしは今、バーニーズマウンテンドッグという、本来は牧羊や荷車を引くような仕事をする大型犬に押しつぶされています。そして顔を舐められ始めています。助けもしないで写真撮ってる人のことを恨みます。

「ほら、キング、そろそろやめてあげなさい」

あれ?キングくん、やめてくれないんですが。

「やめないよ、このバカイヌ」

「バカイヌっていうな。基本、両親が世話してるから、あたしじゃ遊びを中断させるのは難しいんだよね」

「要は、なめられてるってこと?」

「うん、まぁ」

「今舐められてるのは麻琴だけど」

「力づくかぁ」

「力じゃ勝てないから、こういうヒエラルキーなんでしょ?ご両親に来てもらうとかしなよ。さすがに麻琴が可哀そうだから」

「うん、呼んでくる」

ようやく可哀そうだと認識されたのはいいけど、この状況で未来さんの家族に会うのやだな。第一印象最悪じゃない?

「麻琴ぉ。顔が無になってる」

望さんの傍観者っぷりってば…

「こら、キング、ストップ!」

という大きな女性の声とともに、わたしの上からキングが消え去った。

「ほら、未来はそのままキング連れてって」

「わかったぁ」

「ごめんなさいね、ウチの娘、がさつで考えなしだから」

と助け起こしてくれたのは未来さんのお母さんなのだろう。未来さんの20年後って感じで、まさに宝塚の男役スターのような凛々しくきれいな方。

一方、わたしは制服ぐちゃぐちゃで顔べとべと。

「お風呂、入って洗ってらっしゃい。制服は修業式までに間に合うようにクリーニングしとくから、ホントごめんなさいね」

「いや、あの、クリーニングまでは」

「キングの毛やらよだれまみれで皴にもなっちゃったし。そこはきちんとやらせて、ね?もう、きれいな黒髪もぐちゃぐちゃ。未来にきちんと責任取らせるから、廊下の右側が浴室だから。着替えは未来のお古になっちゃうけど、もってくるから、ね。あの娘、いつでもお湯張ってるから、すぐ入れるわ。さ、行った行った」

「麻琴ぉ、シャンプー手伝おうか」

「うん」

「す、素直ね。わかった、洗おう洗おう」

望さんに押されるように浴室へ。


「私も脱いじゃうね。濡れちゃうし」

なんだろう。自然と望さんとお風呂に入ってるけど…

「麻琴は湯船に入って、こっち背中向けて。うん、そんで仰向けにこっちに頭倒して。美容院っぽく洗ったげるから」

だんだん冷静になってきた。わたし、仰向けで胸丸出しで…大きな山が視界をゆらゆらと通り過ぎるし。

「あの、望さん、やっぱり自分で洗うから」

「だめ。私も写真撮って遊んでたんだから罪滅ぼしさせて」

「罪はともかく、恥ずかしい」

「ふーん、未来のやつ、いいシャンプーやトリートメント使ってるね。よし、ガンガン使おう」

とりあえず、今更ながら両腕で胸を隠すわたし。

「ちょっと辛いか。んじゃ、このスポンジをタオルで巻いてと、ほら、首の下に入れるよ」

何この至れり尽くせり美人美容師さん。

「髪、濡らすよ。熱くない?」

「大丈夫」

シャワーは適温。

「まずは軽く洗うね」

「望さん、上手いね」

指の腹の使い方や力加減が絶妙。

「そう?普段行ってる美容室の真似っこだよ」

「いいなぁ。行ってみたい」

「高いよ」

「そっか、じゃあ、やめとく」

そうだった、この人、超お嬢様だった。

「いつでも私が洗ってあげるから」

「え、いや、それは」

先輩の超お嬢様を洗髪係に任ずるなんて、無理だし、なんか身の危険がありそうで怖いから断る。


きっちりトリートメントまでして、身体を洗う時に

「胸にボディシャンプーつけて、それで背中洗ったりされるのは、男子の夢らしいね」

「うん、しないし、しなくていいよ。わたしたち女同士だし」

危機回避は確実に。


浴室から出ると、未来さんが正座をして、待っていた。

「この度は、誠に申し訳ありませんでした」

わたしってば、先輩を謝らせる星の下に生まれたのだろうか。

「未来さん、ほら、キング、くん?別に悪さしたわけじゃないし、問題なのは写真撮ってたことだけだし」

シュバっと望さんも正座に加わった。

「写真は消してくれればいいから、ね、もう」

二人が意味が分からないという表情を浮かべる。

「え?可愛かったのに、ほら」

と未来さんがスマホの画面を見せてきた。

「スカート捲れて下着まで写ってる!消しなさい!」

さすがに怒らないといけない。ここは怒っておかないといけない。

「は~い」

「不服そうに返事すんな!」

「はいっ」


このあと、チャイのコスで帰らせられそうになるのを拒否って、未来さんのおさがりのジャージ(ダボダボ)を貸してもらった。中に着るタイツやシャツも貸してくれたので帰りに凍えることはなさそう。

ついでというのも変だけど、未来さんのお母さんに呼ばれて、遅い昼食をご馳走になった。すっかり大人しくなってるキングとも仲直り。お母さんに叱られてへこんでたみたい。


                  ※


家に着いてから、親に事情説明したら笑われた。弟なんか腹抱えて笑ってた。

「クリーニングのお礼用に菓子折り買っておくから、受け取るときに持っていってね。それできちんとお礼すること」

「うん」

「オレも大きい犬飼ったら、姉ちゃんに勝てるかな」

「その前に、わたしが言うこと聞かせるから無駄」

「姉ちゃん、ずるい」

「麻琴も辰巳も、言うこと聞いてもらえないと、お母さんは思うけどな。小動物姉弟さんたち」

今日は、絶対大型のペットを飼って言うことを聞かせようと胸に誓った記念日です。


                  ※


冬の朝は寒い。

ガラガラと引くカートのキャスターの音が、住宅街に響く。

早朝から何気に騒音だよね…

それでもコミエ80。冬コミがやってきた。

年の瀬も年の瀬、12月29日から31日の3日間開催。大晦日は望が用事あるとかで3人とも参加しないことに決めた。

寒いし、日の出も遅くまだ暗いけど、わたしは待ち合わせの駅にやってきた。

「おはよう、麻琴」

「おはようございます、未来さん」

「ごきげんよう、麻琴さん」

「望さん、調子狂うから、いつも通りにして」

「それでは…おはよ、麻琴」

「おはようございます、望さん」

「それにしても、もっこもこだな」

未来さんに指摘されたように、今日は厚着してる。極寒の地で数時間並ばねばならない。気を抜くと死にかねないと、散々二人に言われた故の装備。ババシャツ重ね着に厚手のタイツ、セーターにコーデュロイのパンツに弟から接収(報酬は未来さんと望さんのコス写真。わたしのは「いらない」って言われた)した大きめのダウンジャケット。毛糸の帽子に耳当て。まさに無敵モード。

「電車の中で暑くて倒れそうだな、もう」

「大丈夫、基本寒がりだから」

「まぁ、電車の中ではジャケットは脱ごうな」

それにしても、二人ともベンチコートだ。

「歩きづらくないの?ベンチコートって」

「歩きづらいけど、じっとしてる時間の方が長いときは、威力を発揮するから」

「皇帝ペンギンみたいに?」

「みたいに?って問われても困るけど」

「そろそろ電車来るよ。行こう!」


うん、電車の中、暑かった。

そして二人がコートを脱いだら、下に着こんでる様子はあるけど、長袖シャツにロングのパンツという、ほぼいつものファッションでした。


会場である東京海浜メガサイトの真ん前の駅に降りると、やっぱ凄く寒かった。

三人とも集合時の服装に戻って、入場待機列の最後尾に。

現在、朝の7時。開場まで3時間ある上に、こんなに早く来たのは初めて。メガサイトの後ろに昇ってきた朝日が眩しい。

「この感じだと、更衣室は第一陣、ぎりで行けるくらいかな」

「だらだらしたり、人様に絡んだりするやつがいなきゃ、そんなもんでしょ」

望さん、夏の件、まだ根に持ってる?

「第一陣?」

「先行入場の集団が着替え終わって、その次くらいってこと。10時ちょいくらいかな」

3時間先の話など、早いのか遅いのかもわからない。

「ふたりで麻琴のこと挟んで温めるから、大丈夫、楽しいよ」

「わたし自身は共有できるのかな、その楽しみ」

「「たぶん」」

二人で声が合うってことは「違う」ってことだな。


実際、あったかくは過ごせた。

あえて文句は言うまい。


未来さんの予言通りの時間で更衣室に入れた。

今回はトラブルなく、まぁ、3人で固まって着替えたし。


「やっぱエントランス前?おもむき変えて庭園?」

望さんがどこに陣取るか悩んでる。

コミエは複数の場所でコスプレ撮影OKなんだけど、どこに陣取るかで雰囲気も変わる。

「屋上も早い時間なら光の加減がいいけど、まだ大手の購入待機列、並んでるよね」

「冬は寒いよ、屋上。庭園行ってみよ」

結局、決断は未来さんだな。

移動中に「まるまじょだ」なんて声が聞こえると、嬉しいやら恥ずかしいやら。

噴水があったり、一部、上の部分を歩道橋みたいな館外通路が通ってたり、結構トリッキーな場所が庭園。

日陰と日向がかっちり分かれる感じで、夏は日陰、冬は日向が人気なのは仕方なし。

噴水そばの植え込み前に陣取り。

コスネームとキャラ名とトレンダーIDを書いたスケッチブックをそれぞれが準備し、夏も使った自己紹介ボードをセット。入場待ちの時、暇つぶしにそれぞれがコスするキャラクターのデフォルメイラストを描き加えた。3人分、わたしが描きました。

「わたしのチャイの横に、小さく"はらへった"って書いたのは誰ですか?」

「チャイの心の声が浮かび上がった超自然現象かも」

「わかりました、望さんですね」

「現象に対する考察を述べただけで犯人扱いしないでくださいね」

きじも鳴かずば撃たれまいって知ってます?」

「ほら、撮影希望の人が待ってるから、漫才中止」

未来さんに叱られた。わたし、被害者なのに。

それからは凄かった。3人一緒の撮影、1人ずつの撮影という流れをひたすら繰り返す。

10回くらい繰り返した時点で

「列伸びちゃうんで、これ以降、3人一緒の撮影のみでお願いしますね」

と、望さんが混雑対応モードに。

その上で、色々ポーズ要求してくる人に

「はい、ここまで。これ以上は最後尾に並びなおしてね。みんな待ってるんだから」

そこで並びなおす猛者もさはいないので、実質追い払ってる。

そんなこんなで一時間以上撮影が続いたところで、スタッフが来た。

「長時間撮られてるから、そろそろ休憩取ってくださいね」

「はい」

未来さん、待ってましたとばかりに

「それじゃ、囲みでお願いします。スタッフさん、カウントダウンお願いできます?」

「はい。それじゃ、皆さん、一斉撮影開始します。カウント取りまーす、10、9、8」

目線くださいコールが左右から湧き上がる中、3人合わせて、右から左へ視線送って

「3、2、1!ハイ終了!レンズ下げて解散!」

夏にも体験したけど、やっぱり囲まれる圧ってすごい。

「どうもありがとうございましたー!」

と、そそくさと後ろを向いて終了モードに。

「合わせってすごいんだね。なんか、撮る側の情熱が違う」

「真理愛は初めてか。そうだね、やっぱ映えが違うし」

他人様の集合に参加することはあったけど、何か違う気がした。

「そもそも作っちゃうムリョウが一番すごいけど」

「あたしが見たいっていう欲求が根源にあるんだけどね」

さすがに冷えたので、二人はベンチコート、わたしはダウンジャケットを上に羽織る。

「チャイがずっと空腹みたいだから、食事行こうか」

「落書きをリアル設定にしないでください」

「では空腹ではないと?」

「そうは言っていません!」

3人で笑いながら片づけをして、庭園からは撤収。

庭園そばの館内レストランへ。


オーダーを終えると、宝珠がバッグから紙エプロンを出して渡してきた。

「え?どうしたの?これ」

「こぼしてコス汚したらどうすんの?だから準備しといた」

気遣い凄いなぁ。

「何回かこぼしてるの見てるし」

一言余計だなぁ。

「明日も着るんだから、気を付けないと」

「帰ったらすぐに濡らしたタオルで内側拭いて、除菌スプレーして陰干し。わかった?」

「うん。それは、やるよ」

「明日は帰ったら、ぬるま湯で手洗いだぞ」

「大丈夫、カビさせたりしないから」

コスプレお手入れ教室?でも大事。

「飯食ったら、緑地公園で互いの写真撮ろうか」

「そういえば、さっきは自分たちの分、撮る暇もなかったか」

行列、すごかったもんなぁ。


メガサイトの向かいに広がる大きな公園が緑地公園。コミエに併せてコスプレ会場として解放されてる。

うわーって言いたくなるくらい、だだっ広くて、何もない。献血車とキッチンカーが止まってるくらい。

「真理愛、走るなよ。転ぶぞ」

「転んだら写真撮るよ。だから走ってもいいよ」

ムリョウに子供のごとく注意されるわ、宝珠に脅迫じみた止め方されるわ……

「他のレイヤーの写真も撮りたいだろ?腹ごなしついでに30分くらい自由行動ね」

「はーい。真理愛、カメコに捕まりそうになったら、移動中なのでって断りなよ。すぐ列出来るから」

「わかったー」

確か、向こうの大きな樹の下に特撮系のレイヤーが集まってたはず。

と、私は走ろうとするのを止めて振り返った。

案の定、宝珠がスマホを構えてた。

走らない、走らない。


いろんなレイヤーさんの写真撮ったり、一緒に撮ってもらったりと堪能して戻ると、宝珠はメイク直し、ムリョウは何やらストレッチしてた。

そのドレスでやるこっちゃないと思う。

ガードはしっかりしてるのは分かってるけど、ラインがくっきり出るので周囲の男性からの視線が怖い。

「ムリョウ、なんか危ないから、その辺で」

「ん?ドギマギする奴と食いつく奴がいて、面白いんだけど」

「面白がらないで」

愉快犯だった。

「ムリョウを生贄に、思春期男子とスケベオヤジを召喚!」

「宝珠は誰とデュエルしてんの?」


そのあとは、平和にお互いを撮りっこしたり、撮影タイムに入ったりと、冬コミ初日を堪能しました。


                  ※


冬コミ2日目。

日替わりで同人誌サークルがジャンルもろとも入れ替わるのがコミエの凄さ。今日のジャンルとしてあった魔法少女系の、まるまじょの同人誌をちょっと見てみたいと言ったら、

「ほぼ18禁だからダメ」

と宝珠に止められた。

「この世界じゃ、友情と愛情は同義なの。性別関係なくね。そして消費されていくの」

ムリョウが遠い目をしながら、よくわからないことをつぶやいてる。

とりあえず、同人誌もコスプレも闇は深いのがなんとなくわかった。

まるまじょの同人誌がある日だからなのか、昨日と打って変わって、まるまじょのレイヤーさんがたくさん。

昨日より気温が高いこともあり、屋上展示場のコスプレ広場へ行ってみた。確かにここは他の広場より寒い気がする。

それでも人出は多くて、同キャラ同士で写真撮ったり、敵キャラやマスコットキャラまで、ほぼ全キャラいるんじゃないかと思える集合撮影に参加したり。

すっごい楽しいけど、ここで調子に乗り過ぎると、謎のしっぺ返しが来るから自重。それが今年わたしが学んだこと。


昨日と同じく緑地公園に移動して、撮影タイムの間の休憩時間。

「宝珠は明日は家族で過ごす仕来たり?って朝からなの?」

「うん、まぁ。ムリョウん家は、そういうの無いの?」

「年越し蕎麦は家族そろって食べて、そのまま初詣に出かけるってのが仕来たりっていうか、ルーティンだね」

「真理愛は?」

「弟が今年は友達とオールするとかいって帰ってこないらしいし、年越し蕎麦を食べて、年を越したら、すぐ寝ちゃう。多分」

「健全だねぇ」

「朝起きたら、おせちにお雑煮食べて、あとは自由」

「初詣は?」

「その日に行ったり、翌日に挨拶に来る、いとこ達と行ったり」

「で、宝珠は?」

「話しちゃいけないことになってるから」

え?

「一族の人間しか知っちゃいけないの」

「そう、ですか」

宝珠が妙に暗い目をして言うもんだから、ムリョウもそれ以上突っ込めない。100%嘘とも言い切れないからなぁ、この人。


撮影タイムも終了して、帰り支度を始めていると、まるまじょの敵方のカオス三人衆のコスをした男の人たちに声をかけられた。

確か屋上での集合撮影を仕切ってた人たち。

「さっき、屋上で会いましたよね」

「そうですね、お疲れ様」

笑顔で簡素に躱すムリョウ。

「実は、さっきいたまるまじょメンバーと帰りに打ち上げオフやろうって話になったので、いっしょにどうかな?って」

「でも呑みとかあるんでしょ?あたしたち未成年なんで、そういうオフには参加しないようにしてるんです。ごめんなさいね」

「いや、まぁ、呑む奴もいるけど、もちろんソフトドリンクのみでOKだし」

宝珠が一人一人の顔をゆっくりと静かに見ている。

「で?行ったら楽しいの?私たちは」

真ん中の男の人にロックオンしたまま宝珠が話す。

「私たち、若くても時間は有限だから、つまんないの、やだなぁ」

あ、やや前に屈んでの谷間ちらり体勢だ。

そいつ、谷間と顔に視線を交互に動かしながら

「もちろん、退屈はしないと思うよ。いや、退屈はさせないから」

「じゃあ、今あなたたちのせいで退屈してるから、ダ・ウ・ト」

始まったよ、宝珠劇場。

「え?うん。そっか、でも、打ち上げの時は退屈させないからさ」

「させないと言いつつさせといて、結局後回し?他に来る娘たちと仲良くしてね」

「え?え?あの」

「それでは、ごきげんよう」

宝珠が優雅に一礼して、わたしとムリョウの背中を叩く。

「いこ!」

唖然とした三人衆を残して、わたしたちは更衣室へ向かった。

「また掴みかかってくるような奴だったらどうする気だったのよ?もう」

「その判断でじっと見てたの。大丈夫パターンだったから、今の対応。違ったら違う対応したよ、私」

「見てわかんの?」

「うん、ちょっと時間かかるけど」

「なんなの、それ?」

「一族の秘密」

「また、それ?」

ムリョウは呆れて、これ以上突っ込むのを止めたみたい。

「なんにせよ、ああいう連中のせいで真理愛を泣かしたくないから、ちゃんとするよ」

嬉しいような、何か不気味なような……

「ムリョウの拳も封印しなきゃだし」

「あたしは殺人拳とか会得してないから。封じられる覚えないから」

「そうだといいね」

「ねえ、変なフラグ立てるような不気味な発言止めてくれない?」

いちばん中二病が悪化してるのは宝珠に決定。


そんな調子で帰りに三人でファミレス行って、軽く打ち上げをして、わたしたちの冬コミは終わった。


大晦日は予定?通りに、年越しそばを食べて寝て、元旦はゴロゴロして、二日は、いとこ達と初詣に。

いとこ達、みんな成人済みで年上ばかりなんで、わたしと弟は、こういうときくらいは構ってやらなくちゃいけない存在として、扱われていた。

お年玉の供給者が多いのは嬉しいけど、いつまでもチビっ子扱いなのが不満。


お年玉の大半はペットを飼うための貯金にした。いつか絶対、大きいやつ飼うんだもの。


                  ※


そして3学期。

来月2月のサンコスは、未来さん望さんと相談の結果、まるまじょで行こうということに。同人誌即売会であるコミエと、コスプレイベントであるサンコスは微妙に違うので来場者も異なったりする。

2月がまるまじょ大作戦の最終回ってこともある。

3学期末テストまでは、まだ2週間くらい余裕があるけど、内心余裕のないそんな時期、サンコスは開催となった。


そして、わたしたちは運命的な出会いを果たした。


「撮影お願いしまーす」

撮影列が途切れた瞬間を見計らうように、その男の人は来た。こういう場所に、いまいち

合わない感じのチャラっぽい人。

その人は3人まとめて数ポーズ撮ると、名刺を出して話しかけてきた。

「すんません、もうじきレイヤーデビュー予定のキョウジって言います。男5人でコス始めようと思ってるんですけど、良ければアドバイスいただけません?」

ナンパ?にしてもなんだか違う気が。

宝珠がじっと見てる。

ムリョウが口を開いた。

「男5人?」

「同じ高校の同級生なんすけど、1人が見せてくれた冬コミ?の写真が楽しそうだったんで、いっちょやってみようかって」

「まぁ、レイヤーが増えることを止める気もないけど、なんであたしたち?男同士の方が教わりやすいんじゃないの?」

「いやぁ、なんかキモがられて断られちゃって」

「そんで女性に頼むの?」

「どうせなら、きれいな女の子がいいなっていう……ハハっ下心もありっす!」

素直に言えばいいってもんでもないと思うけど。

「いいんじゃない」

突然、宝珠が言った。

「楽しませてくれるなら、教えるよ、コス」

「ほ、宝珠、ちょっと」

「あなた、お坊ちゃんよね」

「うーん、世の中の括りで言えば、的な」

「チャラいのは、あなただけ、だよね」

「当たり。よくわかんね」

「こっちも同じ女子高仲間でお嬢だから」

「なーる。…?まぁいいや」

「カラオケルームでも押さえといて。そこでオフろう」

「りょーかい、まーかせて。待ち合わせは受付前でいい?」

「いいわ。30分くらいしたら、一旦そこに行く。他の人の顔も見たいし」

「品定めされちゃう?OK。集めとく」


「宝珠、ホントに行くの?」

ムリョウも、この勢いにはさすがに不安なよう。

「多分」

「多分って」

「男に断られたから女に来るっての、面白いじゃない?」

面白いかなぁ。

「なんかやらかそうとしたら、存在抹消するから大丈夫」

逆に不安を煽る宝珠。何する気だろう。

「真理愛の事は、ちゃんとガードするから…真理愛次第かもだけど」

「え?なに?どういうこと?」

「積極的になるのが相手なら、ガード出来るってこと」

「ふーん、真理愛が?ついに?」

「そんな運命も素敵でしょ?」

「つまり、わたしがフラフラと男子にってこと?」

「今日は鋭いね」

「今日限定なのが余計」

「とりあえず、他の坊ちゃまのご尊顔を拝謁してやろうじゃない」

「上からだ」

「こういう時、女は下手に出たらダメ」

「そうなんだ」

「そうなの」


さっきのチャラ男さんを見つけて三人で近づくと

「お、来てくれてサンキュー。こっちこっち」

と誘導された先には、確かに男子4人。

しかも何かざわついてる。

「帰りに一緒にカラオケ行かないかって話になってさ。いいだろ?」

あ、わたしたちが来るって言ってなかったのか。そりゃざわつくよね。

しかも一斉にうなづいてるし。

「まるまじょ大作戦のアル、ベイ、チャアだ」

一人の男子がつぶやくように言った。

「お、わかってくれてサンキュ」

「じゃ、着替えてくるから待ってて」

「ここに戻るよ、きっと」

男子に話しかけるの、家族以外にそうそう機会がないので、口調が変になる。ムリョウと宝珠も笑いこらえてるし。

「あいよ」

と、チャラ男さんに手を振られつつ、更衣室へダッシュ。

だって吹き出しそうなんだもん、二人が。


更衣室に入ると一斉に噴き出す二人。

「なぜ片言になる」

「我らの姫は可愛いなぁ、やっぱり」

「だ、だって、男子相手に喋るのなんて」

「確かに、あたしたちは機会中々ないよな」

「向こうは緊張して、そういうとこに突っ込むどころじゃなかったのが救いだよね」

「もう、いいから着替えよ!待たせちゃ悪いし」

「ふーん、第一印象は悪くないってとこか」

「そういうのじゃなくて」

「はいはい、着替えましょ着替えましょ。真理愛、お団子どうする?そのままにする?」

「取る」

「はいはい、ドライヤーないからウェービーになっちゃうけどいいの?」

「だいじょぶ、ちょっと濡らせば戻る」

「すごいな」

あ、男子とオフ会なんて想定してなかったから、夏にショッピングモールで勢いで買わされたゴスっぽい服で来ちゃった。う~、中二病とか思われたらどうしよう、もう。


覚悟を決めて、着替えを終えて、待ち合わせ場所へ。

「お待た!」

「ただいまぁ」

「帰還した」

ダメだ、口調治らない。

なんだか別人を見るような視線を…あ、そうか、コス姿と普段姿じゃギャップ凄いか。特にムリョウと宝珠はウィッグも着けてたし。

すると、端にいた銀縁メガネの人が訝しげに話しかけてきた。

「いきなり悪いけど、なんで俺たちとオフする気になった?」

緊張感伝わりまくりの表情と声に、わたしたちは思わず顔を見合わせ爆笑しちゃった。

彼たちも、わたしと同じなんだ。

「アハハ!いきなりにも程があるだろ」

「キョウジくんには、男子校だって聞いてたけど、なるほどね」

「悪い女に見えた?」

ちょっとカッコつけて言い返したつもり。

「ごめん、本当に異性と縁がない高校生活だったんで、ね」

素直だ。

「せっかく知り合えたのに、いちゃもん付けんなよ」

チャラ男くんも、なんか、いかにもな事言うし。

「危なそうな連中だったり、つまんなそうな連中だったら、更衣室からここに戻ってこなきゃいいわけだし、簡単でしょ?」

「だよね」

「こっちもイヤな思いはしたくないから」

「コスプレを教えてくれたってのが新鮮だったし」

「男子に教えることがあるのか疑問だけどね」

宝珠がOKしたのが、なんとなくわかった。なんか面白そうなんで

「興味深々、だよ」

思わず口に出しちゃった。

「了解。水差すようなこと言ってごめん」

素直に謝れるのがお坊ちゃま、なのかな?わたしが姉弟喧嘩したとき、弟は絶対謝らないけど。

「んじゃ、楽しい時間にして、な?」

あ、ムリョウあざとい。チャラ男くん以外、視線そらしたし。

「OK。カラオケ予約してあっから、行こ」

チャラ男くんの号令で動き出す。この人がリーダーなのかな、ちょい心配。


チャラ男くんが、なぜか店の場所とか言わないから、付いてくしかない。はぐれても困るんで、女子三人でチャラ男くんを囲むような体勢に。

他の男子も同じ状況のようで、わたしたちの後ろをぞろぞろ付いてくる感じに。

ムリョウも宝珠もチャラ男くんの質問をはぐらかしたり、からかったり、上手くかわしてる。チャラ男くんも、しつこく突っ込まないから、そういうやり取りを楽しんでる感じ?

ムリョウも宝珠も、こういう男子との会話、慣れてるんだろうか?本当は彼氏いるとか?


なんか後ろの男子チームが騒がしくなってきたと思ったら、ムリョウがダッシュ

一人の男子の背後に回り込み両肩をガシッと掴んでいた。

「盛り上がってんじゃん。なになに?」

「あ、や、や、後で、説明するから」

「ふぅーん、そっか。期待値上がるじゃん。楽しみにしてんね」

ムリョウが走って戻ってきた。

「なにしてんの?」

訊かずにはいられない。

「ん?確認」

よくわからないことはわかった。

そのまま、宝珠と何やらヒソヒソ話してるし。


そんなことしてるうちに、店に到着。

チャラ男くんが手際よく受付も済ませてくれた。

「ここ、フリードリンクだけど、オーダー式だから部屋で頼むタイプね。んじゃ313番ルームだから!」

ムリョウと宝珠が素直に行くから、二人を信じて、わたしも行く。

「はいはい、野郎どもは奥へ行け」

チャラ男くんが男子勢を奥に押し込むように誘導。

ドリンクも、こちらのリクエストを聞いて素早くリモコンでオーダーしてくれた。

そういえば、家族以外の異性の前でカラオケ歌うの初めてだなぁ。ちゃんと歌えるかなぁ。あんまりレパートリー無いし。

なんて悩んでいる内に、ドリンクとスナックが到着した。

「はい、そんじゃ今日はお疲れ&この出会いを祝してカンパイ!」

展開早いなぁなんて思いながらグラスを持ち上げて乾杯。

「まずは、スムーズに話せるように自己紹介ね。まずはおれちゃん、キョウジ」

あ、そうそうキョウジさんね。チャラ男くんって。

「……部長と呼んでくれ。SF系なら任せてほしい」

なんか怖かった銀縁メガネの人が部長。

「コージ。特撮こよなくを愛する者だ」

戦隊レッドっぽくカッコつけて言うもんだから、三人で吹き出しちゃった。ふぅん、特撮の話、出来るかな。

「ケンチです。映画オタです」

地味目でおとなしそうな人が、短く自己紹介済まそうとするから、思わず突っ込んじゃった。

「映画のジャンルは?」

ケンチさん、一瞬困ったような顔をして

「アクション、SF、ホラー、コメディが得意、かな」

答えてくれたけど、こっちはリアクションに困って、サムズアップだけ返した。

ケンチさんもサムズアップ。

ムリョウと宝珠の方を見れない。きっと吹き出しそうにしてるんだろうな。

「最後はオレ」

黒縁メガネの人が立ち上がった。

すると部長さんが

「沢庵和尚」

コージさんが

「通称、和尚さ」

ケンチさんが

「よろしく」

チームワーク凄い。笑った笑った。

「待てい!それはやめろって言っただろ!オレはTAK1だ」

「ま、呼びやすい方で呼んであげて」

タクワンと和尚…コージさんたちに乗るべきだよね、こういうときは。

「よろしくね、和尚!」

宝珠が媚び媚び声で呼ぶと

「お、ぉぅ」

認めるし。いじられキャラなのはよくわかった。

「そんじゃこっちね。あたしはムリョウ。メインにやるコスは、メディカル・バーストのヤン・リン」

「わたしは宝珠。メインコスは黒い暗い世界の白樹はくじゅ

よ、よし、わたしの番。

「私は真理愛。普段はマグネマンのクローン・クイーンのコスしてる」

ちゃんと言えたかな?

「見事にバラバラだな。今日のまるまじょ大作戦併せは何で?」

なんか部長さんの質問って詰問調?ちょっと怖い。

「実はさ、あたしたちも知りあったっていうか、つるむようになったの、年末のコミエのからなんだ」

ムリョウ、だいぶ端折ったなぁ。合わせ初めは冬コミだけど。

「え?同じ学校って言わなかったっけ?」

チャラ…キョウジさん、訝しげに聞いてくるし。

「あ、うん。でも、わたしたち、学年違うのよ」

フォロー、フォローっと。

「わたしが中等部の三年で、宝珠が高等部の一年、ムリョウが二年生」

「何となく、互いにはレイヤーやってるってのは知ってたんだけど、学校じゃ学年違うとさ、交流なんて同じ部活でもないとないじゃん」

「コミエの更衣室でちょっとトラブルがあって真理愛が巻き込まれてたのを、たまたま、あたしと宝珠が助けに入って、ね。なんだかんだ話してるうちに、合わせでコスやることになったわけ」

「へえ、不思議な縁だね」

ケンチさん、単なる大端折り話に感心してくれる。

「で、そっちのことも教えてほしいな」

宝珠が全員の顔を見回すように言う。

「部長、行け」

コージさんが促すけど、謎の睨み合いしてる

あと、和尚さん、宝珠の胸見て固まってる。宝珠もわざと強調してるから仕方ないよね、男子は。

仕方ないという感じで、ケンチさんが口を開いた。

「僕らは同じ高校の一年生。全員が生物部」

ん?ん?生物部って言った?

「生物部?漫研とかじゃなく?」

さすがに宝珠も聞き返さずにはいられなかったようで。

「そ、生物部」

部長さん、ホントに部長さんなのかな?偉そうに答えるし。

「全員オタクな生物部ね。面白いじゃない。他にないよ、きっと」

ムリョウ、手を叩いて笑ってる。

わたしは

「同意。今度、ペットの相談とかしたい」

と、思わず口に出しちゃった。

「飼える生物なら、俺かコージかケンチの誰かが回答をしよう」

「キョウジと和尚は?」

宝珠が期待を込めた目で二人を見る。

「はっはっは、生物部員が生物に詳しいと思ったら、大間違いだ!」

和尚さん、とんでもない答えを返してきた。

途端に宝珠の目に暗い光が灯ったかのように見えた。

「真面目に部活しなよ」

宝珠、叱る。

「それ、引くよ」

ムリョウ、軽蔑する。

わたしは、うん、がっかりした。

「頼りない」

和尚さん、悲しげにケンチさんを見てる。なんなんだろ、この人。

「おれちゃんと和尚は言うなれば助手。博士たちのお手伝い役の悲しい平部員さ」

芝居っ気たっぷりにキョウジさんが嘆いて見せる。絶対やる気ないだけだと思うけど。

「言いようだね、和尚、こういう返しをしなよ、な」

ムリョウの審判が下った。


「OK、一旦、ひとり一曲ずつ歌おう。きみたち、興味深いよ。あたしが今までの会ったことないタイプ、だと思う。んじゃ、言い出しっぺから行きますか」

ムリョウが入れたのはメディカル・バーストの主題歌。サビの部分は全員で熱唱になっちゃったでもオタクっぽくていいよね、そういう一体感。

「次は部長ね」

ムリョウが指名。

ムリョウってば、ニヤニヤしながら部長さんを見てる。うちの辰巳たつみの時と同じだ。年下男子をからかって遊んでるときの反応。

そして、まるまじょ大作戦の主題歌が流れ始めた。

これも全員で熱唱っていうか、ポップな感じに合唱してる感。

「意外性が足りない」

ムリョウ、何の審査してるの?

部長さんと不敵な笑顔のやり取りしてるし。好敵手?

「では真理愛さん」

と部長さんのご指名が来た。よし、ここはいつものやつで。

マグネマンの挿入歌であるクローン・クイーンのテーマ曲を選択。

一緒に歌われると恥ずかしくなっちゃうので、歌われづらいバラード曲なのが、わたし的裏技。

歌い終わると男子勢から拍手が来た。え?え?

「ね?真理愛ってば激うまでしょ?」

ムリョウが自慢げにわたしの頭をなでる。恥ずかしいってば…

早く次に回さないと宝珠も参戦してくる!

「じゃあ、キョウジさん」

「じゃあ、おれちゃん、いくぜ」

あ、口先案内人のエンディングだ。劇ムズなラップを易々と歌いこなしてる。すごいなぁ、これでチャラくなければ、逆にかっこいいのに。

「真理愛より上手いやつがいるとはな」

ムリョウ、わたし基準なの?やめて…

「へぇ、キョウジくん、かっこよかったよ」

宝珠が珍しく褒めた。キョウジさん、宝珠を指さしてアピール。リアルでああいうのやれるんだ。

「んじゃ、次は宝珠さんに行くと見せかけてケンチ!」

ムリョウがニコニコ顔でケンチさん見てる。

ケンチさん、それに何かビビってる様子。それに何か悩んでる様子。選曲しきれなかったのかな?

ケンチさんが意を決したかのようにリモコン操作。

そして流れてきたのは、特撮オタクなら知ってる、放送禁止的差別用語満載の曲。昔は普通にテレビで流れてた、セブンスマンの挿入歌。凄い、歌えるっていうか歌うんだ。この場で。

ムリョウってば、爆笑してるし、宝珠は真顔で固まってる。宝珠ってば、自分じゃ放送禁止レベルなこと言いそうなのに、他の人が言うのを聞くと固まるのかな?


熱唱し終わったケンチさんってば、コージさんにメニューでシバかれ続けてる。

「初対面の女子の前で歌う曲じゃないよな?な?」

「なんだよ、言われた通り、特撮ソング歌ったじゃないか」

「だからって放送禁止になった歌はやめろ」

「カラオケが存在してるんだから、歌っても問題ないだろ」

「……それもそうか」

と、簡単に引き下がるコージさん。素で面白いんだ、この人たち。

「で、今の歌、なんなの?」

金縛りが解けたのか、宝珠が怖々聞いてる。

「昭和の闇、としか言えんな」

部長さんが答えるし、含み持たせるし。

ここはいろんな意味で褒めるべきだと思ったので

「噂でしか知らなかった。初めて聴けた。凄い」

ケンチさん、嬉し恥ずかしそうな笑顔で応えてくれた。

「と、とにかく、次はコージね」

和尚さんが凄い顔して男子を見ているけど何だろ?

「んじゃ、おれはこれで行く!」

流れてきたのは、まるまじょ大作戦のエンディングテーマ。

凄い!完コピで踊ってる…男子が。

ムリョウに促されて、わたしたちも一緒にダンス。恥ずかしいんだけど、それを男子一人で始めたんだもんね。

特撮メインとか言ってたのに、守備範囲凄いなぁ。

見事にフルコーラス歌って踊り切ったよ、コージさんってば。

室内は、割れんばかりの拍手の渦。

「すっごいね、キモいけど」

「よく覚えたね、キモいけど」

「キモい、キモい」

まるで誉め言葉のようにキモいを女子3人で言いまくった。

コージさん、軽く両手を挙げた。まるで歓声に応えるかのように。

「じゃ、次は宝珠さん、お願いします」

「もう、ハードル上がりすぎてない?」

苦笑する宝珠。

流れてきたのは、黒い暗い世界のエンディング曲。

すぅっと、キャラが宿ったかのように宝珠の雰囲気が変わった。

無茶苦茶難しくて、CDに併せて鼻歌を歌うのさえ難易度高いそれを、見事に宝珠は歌いきった。

「あ゛ー、死ぬかと思った」

ガラガラ声の宝珠に、皆爆笑。

「笑うな゛ー」

「乙~」

いきなりキョウジさんが宝珠にドリンクを差し出してきた。

宝珠のグラスに注ごうとピッチャーを持ったわたし、フリーズ。

ムリョウやわたしや他の男子にはやらなかったのに…露骨だなぁ。

「攻めるなぁ、おい」

「平等って大事だぞ、キョウジ」

部長さんとコージさんがキョウジさんと火花を散らしてるのがわかる。マンガみたいなこと、ホントにあるんだ。

宝珠、美人だし、おっぱいおっきいし、そりゃモテるよね。ケンチさんは、ちょいちょいムリョウとアイコンタクトしてるように見えるし、和尚さんは、なんだか宝珠や仲間におちょくられて自分の立場をどうにかしようと躍起なだけに見える。

やっぱ、わたしは……

宝珠が冷ややかな目線でキョウジさんを見た。

「わたしは、こんな露骨な扱いされても、逆に引くタイプだから」

え?急に攻撃開始?

「OK、ごめんね、焦って攻めすぎた」

キョウジさん、素直に引くんだ…部長さんとコージさんも、こうなるのが分かってたかのように大人しいし。男子ってよくわかんない。

自分のこともよくわかんなくなりそうだったので、テーブルの上のフライドポテトを食べる、しかないんだもの。

「こんな娘だからさ、頑張れよ少年たち」

ムリョウが宝珠狙いの三人の肩を叩いて回り、謎の激励。

ふと、ケンチさんの視線を感じた。ポテトを頬張った瞬間だったので、恥ずかしくなって顔をそむけた。

「さて、トリは和尚にお任せするね、南無南無」

宝珠ってば、笑顔で和尚さんを拝み始めた。

そりゃみんなで「南無南無」と拝むしかないよね。

「拝むんじゃねぇ!」

なんか嬉しそう。変なの。

「それも放送禁止のヤツだろ!」

「いいじゃないか」

ケンチさんの耳打ちに、和尚さんキレた。

多分、さっきのケンチさんの歌った曲と同じようなのを勧めたんだろうなぁ。

「良くねえ。オレまで巻き込むな」

歌ってくれればいいのに……

「ハードル、自分で上げるんだ、和尚は凄いな」

茶化すムリョウに、なぜか照れてる和尚さん。

「早く曲入れろ」

「ゴチになるぞ、この野郎!」

「サンキュー、この野郎」

謎のヤジを飛ばす宝珠好き好きチーム。


和尚さんの選曲は特撮ソングではあったけど、ひたすらナレーションオンリーの「メッセージフロムギャラクシー」のエンディング。

「え?」

期待の梯子を外されたかのようで、盛り上がりようがないし、ムリョウも宝珠も多分知らない作品だし、知ってるわたしも壮大な宇宙空間?しか思い浮かばない。

「宝珠さんの歌った曲を意識しすぎたな」

部長さんの指摘に納得だけど。

「トリなんだから、そこはガラっと変えつつ歌い上げる系をだな」

コージさんもやや怒りを浮かべて抗議。

キョウジさんをは天井見上げて何も言わない。

「ケンチくん」

「ひゃい?」

宝珠がゆっくりとケンチさんを睨んだ。

「雰囲気悪いから何とかして」

「「怖っ」」

とムリョウと声が合ってしまった。

いや、ケンチさん悪くないよね。

「ちょっと、来て」

宝珠、ケンチさんを連れ出しちゃった。

え?どうする気?

男子全員フリーズした。

「ム、ムリョウ、宝珠、何するんだろ」

「いや、あんときみたいなことはしないとは思うけど」

「でも、なんでケンチさん?」

「ん?そりゃ…そっか、わからないか」

「え?なにが?」

すると宝珠がドアの隙間から顔だけ出した。

「ムリョウ、真理愛、トイレ行こ!」

「はいはい、恥じらいも持とうね」

ムリョウに手を引かれて部屋の外に。

「期待されてんね、ケンチくん」

なんかムリョウはわかってるっぽいんだけど、わたしはよくわからないので、

「頑張って、ね」

としか言えなかった。


そのまま、ほんとにトイレに。

「ねえ、宝珠、どうしたの?確かに和尚さんの選曲はアレだったけど、なんでケンチさんを?」

「あいつがリーダーだから」

「え?部長さんかキョウジさんじゃ」

「あいつら、なんかバラバラじゃない。確かに部活は一緒で同級生なのかもしれないけど」

「それは、うん、なんとなくわかる」

「あいつらね、ケンチを中心に繋がってるの」

「ふとした視線の送り方とか、話の流し方とか、見てるとわかるよ」

ホントに?そんなのちっともわかんなかったけど。

「ホントにナンパじゃなかったってのは、連中の態度で分かったけど、肝心の頼みごとがおろそかになりそうだったし、一旦リセットしなきゃだめかな?って、わたしが思ったので、ちょっと暴走した。ごめんね」

「別にあたしも真理愛も、気にしない、よね?」

「う、うん。こういう男子とのオフ会みたいの初めてでよくわかんないけど…ただ、ケンチさん、ちょっと可哀そうかな?って」

「なるほど。リーダー的存在だけどシャンとしてないのがイラっときたけど、そうか、真理愛には合うのか、ああいうの」

「なんか変な勘違いしてない?」

「ううん、大丈夫」

「それ、答えになってないよね」

「はいはい、そろそろ戻ろ。宝珠、真理愛の純粋さをからかうんじゃないの」

「それも愛ゆえ…はいはい、行きます、行きます」

ムリョウがデコピン体勢に入ったら、宝珠はおとなしくなった。


ムリョウが部屋のドアをノックして、室内に顔だけ突っ込んだ。

「そろそろいいかな?」


わたしたちが座ったら、部長さんが立ち上がった。

「それでは一旦仕切り直させていただきます。さて、本日のそもそもの目的。御三方へのコスプレについてのご相談でございます」

なんか逆に怪しくなってない?

次にコージさん。

「各々が自身のやりたい作品とキャラを発表いたしますので」

キョウジさん。

「ご指導ご鞭撻べんたつのほど、宜しくお願い申し上げます」

宝珠、爆笑。完全に想像の上をいかれた。

「ご指導もご鞭撻も出来ないとは思うけど、頑張るね。わたしも過敏に反応しすぎた、ごめんね」

ムリョウってば、頭抱えてるし。

よく丸く収まったな、と思う。


そこからがさらに芝居がかって、各々がコスしたいキャラの主題歌やメインBGMをカラオケで流しながら、やりたいキャラや基本的な衣装製作の質問が行われた。

部長さんはスターエンブレム0のバスターワン。テレビで観たことある映画のキャラだ。

コージさんは怒涛戦隊クラッシュマンのレッドクラッシュ変身前の私服…って、わたしのクローン・クイーンとは番組違うけど、同じ戦隊シリーズのキャラだ。

キョウジさんはドリフト13のイオタ少佐。何回か観たことあるアニメ。最近の後半に入って出てきた美形ライバルキャラ、だよね。…うん、なんていうか、好きそうだなって。

和尚さんはリペアスピリットの一乗寺いちじょうじ。観たことないけど、週刊誌連載漫画でアニメ化された車ネタのやつ、だったよね。

ケンチさんは超戦艦ディオクファルタスのランディ。今期の人気SFアニメ。気になってたやつだし、今度観てみよう。配信、してるかな……

一通りの紹介と質問、プレゼンと質疑応答だっけ?が終わった。会社みたい。

「質問まで演出するとか、やるじゃん」

「ふぅん、ケンチくんはプロデューサー系か」

あの短時間で宝珠の無茶ぶりに対して、こういうの思いつくってすごいなぁ。あ、なんか感想言わないと…

「カラオケってBGMにも使えるんだぁ」

うぅ、テンパって、先ほどまでよりバカっぽい反応しちゃった。

案の定、宝珠がこっち見て微笑んでいる。

「部長に和尚にプロデューサー、コウジくんとキョウジくんも役職必要じゃね?」

ムリョウが無茶ぶり開始。

「アイドル育成してないから、プロデューサーやめて」

「お、和尚も」

「んじゃ、ケンチP」

ムリョウ、それ意味同じじゃんって思ったけど、なんかかっこいい響き。

「ケンチP」

思わずつぶやいちゃった。

「和尚と坊主、どっちがいい?」

宝珠の悪魔的笑みとともに発せられる残酷な質問に和尚さん、沈黙。坊主って…

「と、とりあえず、トレンダーのID交換しようよ。キョウジだけでしょ、名刺?」

コージさんが焦って話題転換。

「キョウジ、お前の名刺を三枚出せ。そこに俺らのID書くから」

黙ってるけど、えー?って顔してるよキョウジさん。普通、コスやる前からコスネーム入れた名刺、作んないし配らないよね。

「ムリョウさん、宝珠さん、真理愛さん、俺たちの分、それぞれ四枚もらってもいいかな」

三人で頷いて…そっか、名刺、コスと一緒にスーツケースにしまっちゃった…のでスーツケース開けて…

「中見んなよ、部長」

「覗いてないから!」

ムリョウ、変なツッコミしないで。脱いだ服が入ってるの意識しちゃうじゃん、逆に。


店を出て、別れ際。

「三人とも、また僕らと会ってもらえますか!」

ケンチさんの一言に

「またイベントで会おうぜ」

ムリョウがサムズアップ。

「次までにレベルアップしといて、ね」

宝珠がウインク。

ど、どうしよ…

「こ、今度は生物の話、教えてね」

と、手を振った。


                  ※


「もうちょい時間いいか?」

「いいよ。麻琴は?」

「うん、大丈夫」

未来の指さすカフェに向かう。

「感想戦な」

「将棋じゃないんだから」

ちょっと二人の言ってるネタが分かりません。男子の話をするってことは分かる。


席についてオーダーも済まして、未来が口を開く。

健気けなげな坊ちゃんたちだよね」

「そうね。喝入れたら応えるし。大したもんよね」

「な、何様レベルだな、望」

「ふふっ、部長、コージ、キョウジの三つ巴も今後面白そうだし」

「望、悪いとこ出てるよ」

「ん?うん、でも、私は自分が男の目をく容姿だって自覚してるし、ある程度は故意に利用するよ、レイヤーとして」

「それと恋愛は分けなさい」

「努力する。で、麻琴はどうだった?」

「大事なとこ軽く流して、わたしに振らないで」

「望は何かやらかしたら、お仕置きして教えていくしかないから。麻琴は今日、だいぶテンパってたからさ、実際どうなのかな?」

「どうなのって…」

「彼らと友達付き合いなり、誰かと付き合っちゃうなり、していけそう?」

「え?つ、つ、付き合わないといけないの?」

「未来、麻琴にそんな言い方したら、真に受けちゃうよ」

「あんたは、あたしのいうことをもう少し、真に受けるべきなんだけど、まぁ、いいや。麻琴、付き合うのは冗談として、友達付き合い出来そう?」

異性の友達……幼稚園の頃は、いたなぁ。小学生になってからは、いなかったかも。

「よくわかんないけど、部長さんは少し怖いかな。キョウジさんは信用しづらい?他の3人は平気」

「ふむ、もう少し、喝入れるか」

望さんの暗黒面が止まらないよ。

「部長は女性慣れしてないのを主導権取って何とかしようとしてるだけだし、キョウジは確かにアレだね。やりたいことしかやらないタイプ。だからこそ、あいつがやるって言うことはちゃんとやる、はず」

「未来さんも望さんも、今日のあれだけでわかっちゃうの?」

歌ってバカ話してコスプレのこと教えた、だけだよね。

「まぁ、あいつらはわかりやすいタイプだとは思うけど。麻琴は去年の夏コミの件もあるかもだけど、男子って怖いか?」

「あの時はびっくりしたのもあるし、今はそんなでもない。ホント、弟と父くらいしか普段話す異性がいないから」

「いや、まぁ、普段話すって言ったら、あたしも麻琴と大差ないけど」

「やっぱり彼氏がいたとか、いるとか」

「麻琴、未来はそういう経験ないよ」

「なんで、望が答えるのよ……確かにないけど」

「親しみやすいけど、ガードは固い」

「診断すんな、もう」

「そういう望さんは?」

「私とそういう仲になるのは大変だよ。色々重いし」

胸だけの話じゃなさそうだし、聞かない方がよさそう。じゃあ、あの3人、どうするんだろ?謎の重い条件を受けるかどうかなのかな。

「麻琴はケンチが一番話しやすそうだったな」

「うーん、3人が望さん狙いで、和尚さん、あんなだし」

「消去法か、ケンチも可哀そうに」

「そういうんじゃないから。コージさんとは特撮の話したいし」

「未来、このままだと、ケンチは貴女に惚れるよ」

「いきなりね」

「未来にもその気があるならイイけど、なさそうだし」

今日だけで、そんな話になっちゃうの?どういうこと?

「なるようになる、んじゃない?」

「火事が嫌なら、ボヤの段階で消しときなよ」

「それもそうか。考えとく。まだ次会う予定も決まってないし」

「あの、さ、結局はそういうこと考えないと、男子と友達付き合いとか出来ないものなの?」

「麻琴、相手っていうか、自分以外の人間の思惑もあることだからこそ、自分の思惑通りにはいかないのよ」

「面倒だね」

「あたしや望とも面倒だった?っていうか、今も面倒?」

「え……」

未来さんや望さんとの出会い、そんで今の、こういう付き合い、友達付き合いって楽しい。うん。

「正直、ばらばらな私たちが今一緒にいるのって、夏コミの一件がきっかけでしょ?」

怖かった、その時に助けてくれたそれから、それから、いっぱい、いっぱい遊んだ。年齢は違うけど、同じ趣味で繋がる、その楽しさを知った。

「あれとは違うけど、今日の出会いって、お互いに、中々運命的な感じだったと思うわけ」

「もう二度と会わないっていう選択肢も当然あるけど」

「もうちょっと青春しようよ、ね」

なんだか言いくるめられてる感あるけど、二人との今の関係を考えると、確かに、そういう青春っていいかも。

楽しいこと、もっともっとあるかも。

だから、わたしは今日、一歩踏み出した。

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