最終話

 結論から言うと、メチャクチャ怒られた。


 まっくんとの脱走は、五時間目が始まってすぐに校内に知れ渡った。初めはトイレにでも行っているのかと思われたが、どこにもいないと判明。この時点で学校は2人が何らかの事故や事件に巻き込まれたのではと危惧。すぐに両親に連絡し、手の空いている教師が総出で校内を捜索。もし見つからなければ警察にも連絡するつもりだったという。話は生徒たちにも広まり、ざわついて授業どころではなかった…とは、テニス部の吉田から聞いた話だ。


 親父さんからの電話を受けたまっくんと俺は、近所の交番から出張ってきた警察官と一緒にその場で待機するよう言われた。20分ほどで迎えに来た教師の車で学校へ戻り、そのまま職員室横の多目的室へ。二人の担任と、トマトみたいに顔を赤くした体育の山橋。駆け付けたまっくんと自分の母親。更には教頭まで出向いてのお説教は2時間は続いた。とはいえ、自分は初犯であったことなどもあり、それ以上のお咎めは無し。進学には響くのかもしれないが、あまり興味がないので気にしていない。


 そして何より、教頭たちは大きな見落としをしていた。



 ―やはり、南京錠のダイヤルは変わっていない。相変わらず重い扉を開けて屋上に出てみると、あの時と似たような雲と空と、草の香り。山武線も平常運転。校庭側から見えないように腰を下ろし、借りたばかりの『潔白』を読み進める。まっくんの言う通り、面白い本だった。これなら読み切るのに一ヵ月どころか、一週間もかからないかもしれない。本ってこんなに早く読めるものなんだと、自分でも驚いている。


 ノックの音が3回、扉が開いた。驚かないようにとまっくんとで決めた合図だ。


「お、読んでるねぇ」

 まっくんは隣に座り、同じように文庫本を開いた。表紙を覗くと、題は『父性』。同じ作者の本だった。

「それも面白いの?」

「うん。それ読み終わったらまた貸すよ」


 あの線路の向こうよりも、小さな文庫本の中の方が、ずっと広い世界と冒険が待っているのかもしれない。昼休みはあと15分くらい。『潔白』に目を戻し、ページをめくった。


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屋上から見える電車に乗って @dis-no1

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