第6話

 12:29分の西舟川にしふなかわ行き。あと4分。


 ヒガフナは北口側に交番がある。制服姿を警察官に見られるのはマズいので、人目を憚りつつ南口から駅に入った。駅員には見られてしまうが、仕方ない。幸い呼び止められはしなかった。


 平日の昼下がり。ホームは思ったよりも人が多い。サラリーマン、老人はともかく、高校生までいるのには驚いた。高校ってそんなに早く終わるんだろうか。


 相変わらず空は晴れており、ピークを迎えた太陽はその光と熱を燦々さんさんと降り注がす。あれは核融合により生まれたエネルギーなんだと、理科の小林が言っていたのをふと思い出した。クラスの誰かが「核ってヤバい!」と言ったけど、小林は笑いながら「危ないのは核じゃなくて人間だ」と返していた。


 屋上から見た時は清々しかった青空。でも今は何だか、のしかかられているような重苦しさを感じる。教師は自分たちが校内にいないことに、もう気づいただろうか。財布を持っていなかったので、切符はまっくんにおごってもらった。少額だが岡お金を持ち歩いているのだという。140円。手汗で湿っている。この汗は、日差しのせいだけではない。


「電車、来るね」


 スピーカーから簡素なチャイムのあと、電車が到着することを告げるアナウンス。座っていた人も立ち上がり、ホームの端に並びだした。


「どこまで行く?」


 まっくんは飄々ひょうひょうとしているように見える。自分は、また怖くなってきた。実際ルールを今まさに破っているんだから、自分の方が正常だとは思うのだけれど。


「隣の駅まで…が、限界じゃない? 帰りもあるしさ。」


 まっくんは一瞬考えるような表情を見せたあと「仕方ないね」と言った。行けるところまで行こう、と言えばよかっただろうか。


 大きな音をたてて電車がホームに入る。鈍色のボディに一本オレンジのラインが走る山武線さんぶせんは、住民の足だ。大型のイベント会場や遊園地に行くのにも便利な路線で、特に休日は遊びに行く人たちで混み合うことも多い。平日の今も、ホーム同様にやはり思った以上に乗客がいた。座席はほぼ埋まっている。


 どうせ一駅だし、立っていた方がいいだろう。そう思って優先席の前の黄色の吊革につかまる。まっくんも隣に並んだ。扉が閉まり、電車が動き出す。


「よーし、出発」


 まっくんが楽しそうに言うのに、黙ってうなずき返す。思わず、学校の方へと目線が動いた。

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