第2話

(もうバレた?)


 やっぱり見回りが来るのか。どう言い逃れしようか。とっさに頭を巡らせるが、いい案は思いつかない。仕方ない。覚悟していたことでもある。問題はどの先生かだ。体育の山橋なら最悪だ。山橋は2年生を受け持っている教師の中じゃ一番の古株。白髪交じりの頭にタレた頬がいかにもな老教師だが、見た目に反して怒鳴り声がとにかくデカい。大きな音を立てて驚いた生徒が黙れば、それで指導できたと思っている。前時代的だ。さすがに鉄拳制裁はされないだろうが、見つかったら一番面倒くさい相手だ。


(さぁ、誰だ)


 思わず手足を強張らせ、扉を睨みつけてしまう。ふと、家の近所を根城にしている野良猫を思い出した。毎朝顔を合わせてるのにちっとも懐きやしない、茶色の縞模様のトラ猫だ。出くわすとじっと体を固くし、絶対にこちらから目を離さない。こちらが近づくと一目散に逃げ出す。だが猫と違って、今の自分に逃げ場はない。

 

ええい、いっそ平謝りするか。一度ここから景色を見てみたかったんです。扉はなぜか開いていました。ごめんなさい。前科があるわけでもなし、適当なことを言って謝れば、今回だけはと見逃してくれるかもしれない。回れ右して出て行ってくれないか。いやダメだ。。もう見つかる。裁きの時だ。せめて山橋じゃないことを――


「…あ、リュウちゃんじゃん。何してんの。サボり?」


「……え?」


 姿を現したのは、山橋ではなかった。用務員でもなければ水道業者でもない。同じ白いワイシャツに黒のスラックス、胸にはクラス章と校章のピンバッジをつけた人物。

 

生徒だった。驚いて、それ以上に安堵した。

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