276.もしかしたら似ているのかも?

「わあ、みんな元気ですね!」

「ウチの馬はいざという時のためにしっかり訓練をしているんですよ。森へ狩りへ行ったりしてますね」

「んー、この子はのんびりしているね。こっちの子は力強い感じがあるかな?」

「分かるものなのか……?」


 そんなわけで牧場にてもらうお馬さんの選定を始めた。

 黒に白、茶色に青っぽいといった色々な毛色の子が居て、見た目にも楽しい。

 ハリソンとソアラはハリヤーさんと同じく栗毛だったからいわゆる普通のお馬さんだったのよね。


「旅をしている時に兄妹のお馬さんと一緒だったんですけど、ちゃんと性格がありましたよ。二頭とも賢かったんです。どこかに飛ばされたと思うから死んでないといいんですけど……」

「ずっと過ごしていると愛着もありますし、懐きますからね。王子も馬と仲良くなっておいたほうが後で楽になると思いますよ」

「そういうものか……」

「動物は接した人間によって変わりますよ。あ、たくさん集まってきたわ」

『元々、馬と一緒に居たから匂いで気になっているのかもしれませんね』


 ラド王子は持ち馬が無いみたいで、どれでも一緒だろうと首を傾げていた。騎士さんは友人と同じくらい慎重に選ぶべきは愛馬だと言っていた。

 ヴァッフェ帝国でリクさんや風太君が手綱を握っていたお馬さんを知っているけど、ハリソン達ほど懐いてはいなかったかなと思う。

 移動につぐ移動で愛情を注ぐ暇はなかったから仕方ないかな? それ以上にハリソン達が賢いというのもあると思うけど。

 そしてアヤネの言う通りハリソンとソアラの匂いがついているからか、お馬さんが寄ってきては鼻を鳴らしていた。


「ずっと一緒に居たからやっぱりわかるのかしら?」

「どうでしょうね? でも馬は賢い生き物ですからなにか感じることはあるのかもしれません」

『さて、ミズキさんの乗る馬はいますかね』

「む、なんだ?」


 匂いを嗅いだお馬さん達は嗅ぐのを終えると何故か私の前に寝そべる。そしてまた一頭と同じ所作を繰り返していく。気づけば数十頭が私の前にずらりと並んでいた。


「ど、どうしたのみんな……!?」

「なんだ、これは……知っているか?」

「いえ、王子……こういうのは私も初めてですね……」

『……なるほど』

「なにか知っているんですかアヤネさん?」


 お馬さん達は顔を見上げて私に視線を投げかけてくる。ラド王子はもちろん困惑しており、騎士さんもこういうことは初めてだそうである。

 そこでアヤネがお馬さんの前でしゃがみ、含みのあることを呟いた。


『ミズキさんの飼っていた馬は相当な実力者であることを、彼等は感じているみたいですね。正直、自分たちでは荷が重いと考えているようです』

「そんなことがあるか!?」

『そうさせてしまうくらい、いい馬と一緒に居たということですよ』

「さすがハリソンとソアラね。でも荷が重いか……そうなると連れていくのは可哀想かな?」


 正直なところあの二頭と同等でないとそこにいるアヤネ達との戦いについていけないと思う。気概のあるお馬さんの方がいいため、ここでハリソンとソアラに委縮しているようでは連れていけない。


「うーん、この子もダメそう」

『そういう意味では賢すぎるのも良くないんですかね』

「よく分からんが……所詮は馬だろう? 適当に連れて行けば――」

「「そんなわけありません!」」

「おう……!?」


 それからしばらく移動しながら撫でてあげていたんだけど、やっぱりひと嗅ぎするとさっと離れて行った。

 理解できないといった感じのラド王子に私と騎士さんがダメ出しをする。


『まあ、信頼できる人がいない王子には分からないかもしれませんね』

「なんだと……!」

「まあまあ。それにしてもこれだけ無理そうだと思っている馬ばかりになるとは……一体どんな騎士馬を連れていたんですか?」


 さらにアヤネが煽っていたけどそこは騎士さんが諫めてくれた。

 そのままどういったお馬さんを連れていたのかと聞かれたけれど、とても賢い馬の孫であるくらいしか知らないと答えておいた。


「そのお爺さん馬の孫ですか。さぞかし強い馬だったのでしょうね」

「ええ、当時は魔族を倒す決め手になってくれました。自分の命を顧みず、助けてくれたんですよ」

「ほう……」

「そんな馬がいるのか……」

「はい。自分が死んでも使命を果たすって感じでした。今は実家で畑を耕していると思います」


 ハリヤーさんはそういうところがあったなと思う。

 年老いているからか後先を考えていない感じがあったので、のんびり暮らして欲しいところね。


 すると――


「ぶるふ……」

「あら、あなたは……」


 ――あの親を亡くしたお馬さんが私のところへやってきた。鼻を差し出してきたので私は撫でてあげる。


「どうしたの?」

「こいつだけ寄って来たな」

「ふむ」

「そういえばどうして亡くなったんですか?」


 親を亡くしたお馬さんはどうしてか他の子が居なくなったところでやってきた。ハリヤーさんの話を聞いてからかしら?

 何故亡くなったのかを聞いてみると、騎士さんが答えてくれた。


「病気でしたね。母馬はあまり体の強い馬では無かったんですよ」

「お父さんの方は?」

「居るのですが、産んだ後に少しして亡くなったからこいつのせいだと思っているのか威嚇して近づけさせないようにしているんだ」

「酷い……! ウチの家みたい」

「ミズキの家……?」

「ええ。辛かったわね、お父さんが味方どころか敵意を出して来るなんて」


 私はお馬さんの首に手を回して抱きしめた。境遇が似ている彼女に私は涙を流さずには居られなかった。

 するとお馬さんは身体を話すと、側面を向けて立ち止まった。


「乗っていいのかな?」

『そうみたいですね』

「こんなことがあるのか……?」

「馬とコミュニケーションを取れば応えてくれるんですよ、王子」


 そんな話を聞きながら、私はお馬さんに乗る。

 この子は大人しく、先程端の方で頼りなく座っていたのが嘘のように、力強い足で堂々と立っていた。


「……私、みんなのところへ帰らないといけないんだけど着いてきてくれる? ここから遠い国へ行かないといけないけど」

「ぶるふ……!」

『いいみたい、ですね? いい思い出が無いところより遠いところの方が?』

「……」


 私が尋ねるとお馬さんは大きく鼻を鳴らした。アヤネの言葉の通り良いようだ。だから私は頷いた。

 ラド王子が複雑な顔をしていたのが気になるけど、今はそれよりもお馬さんだ。


「あなたに決めた。よろしくね! ……えっと?」

「名前はまだついていない個体ですね。好きにつけて問題ありませんよ!」

「そうなんですね。それじゃ……シルビアなんてどうかしら? ハリソンさんやソアラさんに負けない感じがすると思うの」

「ひひーん!」

「気に入ったみたいですね!」

「じゃあ今日からあなたはシルビアよ! よろしくね!」

『それじゃあ明日から安心して水の大精霊を探しに行けますか』

「ええ」


 ひとまずお馬さんも手に入り準備は整った。

 外に出ると無法地帯……注意をしなければいけないね。アヤネを含めて知った人がいないことに、私は気を引き締める。

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