220.嘘と真実の狭間だな
目的……それは俺と会いたい想いと、会う訳には行かないという想いの結果を表現したのだとアヤネ師匠は語る。
だが、過去の話はここで終わり。
ここまでは色々あったが、まあ三人とも無事に来ることができたので、終わりでいい。
では次は?
……厄介な話だが選ぶべきもの、尋ねることがまだいくらでもある。俺がなにから切り出そうか考えていると、夏那が最初に口火を切った。
「なら、【
「次……魔王セイヴァーの望み……だとしたら、僕達は……!」
「魔族と戦う、ことになる……」
――そう、こいつの言うとおりであればまだセイヴァーの望みは叶っていない。『会いたくない』という話は、現時点で真逆の成果なのだから。
風太と水樹ちゃんが呟くと、メルルーサとブライク、そしてレスバとビカライアが立ち上がりこちらへ歩いてきた。
【どうした、お前達……?】
【私は元々リクに惚れて前の世界で戦わなかったから、その器が魔王様でも従う気はないわよ?】
【俺はどっちの味方もできん。貴様は魔王様ではないのだろう?】
【わたしも同じですねえ。ポッと出のよく分からない存在と一緒はちょっと……あ、ビカライアも同じなので喋らなくていいですよ】
【おい!?】
ここまで一緒に来た奴等は俺達の仲間とは言わないが、邪魔をしない程度の立ち位置になってくれるようだ。
その光景に困惑するハイアラートが怒声を浴びせてきた。
【裏切るつもりか……!! た、確かに魔王様の意識ではないが、全てを吸収してあの姿なのだ。あれは……魔王様だ……!!】
自分を言い聞かせるように叫ぶハイアラート。恐らく本人もわかっているんだろう、自分の主君はよくわからないなにかと融合し、本来のセイヴァーとは程遠いんだとな。
忠誠心は相当に高い奴だからそこを認めたくないという気持ちは理解できる。
「言うなよハイアラート。俺だって目の前に見える姿はイリスのもんだ。でもな、違うんだよ。こいつは違う」
『リク……』
「そっちの事情は分かった。俺達がここへ来た理由も。それならそれでいい。ここまで来た目的の一つは達成された」
俺の知る魔族達が何故ここにいるのか? その理由は先のとおりで偶然と必然が上手く絡み合った結果だ。
だが、良かったこともある。
こいつらには人間と同じく家族もいて、話もできる。ブライクやメルルーサといった将軍クラスですら可能なのだ。戦いを終えることも難しくなくなった。
「質問の確認だ。【渡り歩く者】のお前は次になにをする? こっちとしちゃ巻き込まれた三人を元の世界に帰してくれればセイヴァーの望みであろう俺の命くらいはやってもいいぜ?」
「ちょっと!? あんたなに馬鹿なこと言っているのよ!?」
「そうですよ! そんなことをしても僕達は全然嬉しくありません!!」
【や、やめてくださいよそういうのは……】
俺が不敵に笑いながら言うと、夏那と風太が激しく怒っていた。水樹ちゃんは黙っていたが、俺の袖を強く引いて頭を振る。
……さて、本当に戻れるならその行動も吝かではないが、この言葉で奴はどう出る? 俺はもう少し探りを入れるため言ってみたが……
【ふふ、そう気負うなリク。そうだな……やろうと思えばできるかもしれん】
「マジか……!」
「え、本当に?」
意外な言葉に俺と夏那が目を見開いて驚く。しかし【渡り歩く者】は肩を竦めて口を開く。
【しかし、それを私がやると思うか?】
「なんだと……? 俺が残れば、いやセイヴァーの願いを叶えるなら俺を元の世界に戻してもいいんじゃないか?」
【嫌だね】
にべもなく舌を出してあっさりと言い放った。
「どうしてですか? 私は別に戻りたいと思っていませんが、もしあなたが魔族を使って世界を征服するつもりならリクさんや私達は帰した方が得策ではありませんか?」
【江湖原 水樹、私が世界征服をしたいなどと本気で思っているのか?】
「え!?」
水樹ちゃんの言葉にこれもまたあっさりと返して来た。そのつもりは無かったのか?
【ま、魔王様? 召喚されていいように使おうとした人間達を蹂躙して我等の世界を創るのでは】
【ははは! 確かに『セイヴァーは』そう思っていたかもしれないが、私は違う。まあ、リクが困っているのを見るのは楽しいからそのままにしていたけどね? なら……そうだな、『ハイアラート、魔族を率いて適当に住みやすい土地を見つけてこい』とかどうだい?】
【な、なん……】
なるほど、あくまでもセイヴァーの意思を尊重した上で『とりあえず』やっていたってことか。
……いや、どうだろうな。こいつの言うそれぞれの意思と想いを信用できる要素がまるでない。
「あんまり話を聞きすぎない方がいいぞハイアラート。こっちにはこいつの言葉が嘘か本当かを知る術を持たない。あくまでも推測。【渡り歩く者】なんてものは存在しないかもしれないんだぜ」
【う、むう……】
「さて、話をはぐらかすのが上手いようだがそろそろ答えを聞かせてくれ。帰すのか帰さないのか」
【帰さない】
「そうか」
【ふむ?】
『……』
今度は俺があっさりと返す。
夏那が見え張らないでよとか小声で言っていたが、そういう訳じゃない。
「なら俺達はここで引き返すのみだ。帰る方法を知っているかもしれないから来たとブライク達には言っていたしな」
【帰さない、と言ったら?】
「……その時はお前を倒すぞ? 本当の目的はなんだ? 俺に、俺達になにをさせたい?」
【フフ、いい眼だリク。ふむ、目的はさっき話した通りだぞ? お前に会い、お前を遠ざけるというものだ】
「なら――」
と、ここでふと疑問が頭に浮かぶ。
俺と会うという願いは叶った。叶ったから……なんだ? なにか見落としている気がする……俺を遠ざけるならここから立ち去るだけでいいはず――
「……! お前!」
【気づいたか、ただ歳を食ったわけでは無さそうだ】
「風太、夏那、水樹! 下がれ!」
「え?」
「お前達が呼ばれたのは偶然でもおびき寄せるための餌でもねえ! こいつはお前達を殺すつもりだ」
「な……!?」
【ど、どういうことですかね……!?】
そう言いながらレスバ達は夏那達のカバーに入ってくれる。助かるぜ……!
「こいつは言った『俺と会い、引き剥がす』と。だが、それは叶っていて叶わない」
【……】
「だからこいつは捻じ曲げたんだ、俺がイリスと居れるように」
「それは……」
「それは『勇者の排除』。どういう制限があるのかは知らないが、勇者だった俺個人ではなく、勇者を殺すことでセイヴァーの願いを叶える……そういうことだな?」
「そうか……だからアキラスの時に戦争で死んでも良かったし……」
「魔族にやられても構わない……」
「人質とか言っていたけど生贄だった、ってことだね」
三人の言葉に頷く俺。
だからこいつは俺を帰さないし、風太達は帰さないのではなく『逃がさない』からできないと言ったのだ。
【なるほど……フウタ達の話を聞いてなにか違和感があると思ったが……】
【リクと一緒に居るためにそこまでするのね】
【まあ、イリスは聖女だ。想いは強い。セイヴァーもお前達魔族を養うために頭を抱えていたからやはり強い想いがあるぞ。だからこういう手段を取らざるを得なかった。少し背中を押してやったら戦争だ。なにも考えずにセイヴァーにすべてを委ねていたお前達も罪深いよ】
『いけしゃあしゃあと……!』
「こうなったらお前の想いとやらを断ち切るしかない」
そういうと風太達が臨戦態勢に入る。
奥の手の奥の手だったが……使うなら今か……!
【ならばどうする? イリスの身体を斬るか? リーチェの剣であれば霧散する――】
「……『我、この地に異界の勇敢なる者を求める――』」
【……!】
顔色が変わったな?
ここまでゲームのようにやってきたツケだ、てめえで払うんだな!
【リク……!!】
「『――大いなる力と共に顕現せよ!』」
【う、あ――】
俺が魔法を唱え終わった瞬間、【渡り歩く者】のうめき声が聞こえた。
そして――
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