208.将軍にも色々おりまして……?

【本当にリクなのね……! 魔王様と戦ってその後どうなったか分からなくなったけど、生きていたのね、良かったわ……!!】

【む……これは、一体……】

【どういうことなのですか!?】


 メルルーサが歓喜の表情で俺の手を取って上下にぶんぶんと振る。こいつはまったく変わらないなと考えていると、そこへ夏那と水樹ちゃんが割って入って来た。


「ちょっと待ったぁ!」

「そこまでです! あなたは将軍の一人、メルルーサさんで合っていますか?」

【え、なに? この小娘達……まさかリクの女? 聖女はどうしたのよ】

「結構知ってるわね……!? って、リクの女ってなによ! ま、まあ、許してあげるけど」

「というか、もしかして記憶が……?」


 夏那はともかく水樹ちゃんは重要なことに気付いてくれたようだ。俺は前に立つ二人の肩に手を置いてから口を開いた。


「やはり、お前は覚えているんだなメルルーサ」

【そりゃあもうね♪ リクのことを忘れたことなんてないけど? ……まあ、帰ってきてくれなかったのが寂しかったかな】

「リク……あんたこの人となんかあったの? いやらしいこととか……」

「ねえよ!? おい、メルルーサ。こいつらが勘違いするからやめろ。こいつが一方的に俺に絡んでくるだけだ」

【メルルーサ……お前……】


 ブライクが呆れた顔でそう呟く。話が進まないのでとりあえず俺の考えていることを口にする。


「単刀直入に聞くぞ。メルルーサ、お前は俺を覚えているんだな? 『はい』か『いいえ』だけ応えてくれ」

【ええ】

『うーん、ってことはやっぱりリクの予想は当たっていたのか』

「どういうことだい?」


 ファングの頭の上でリーチェが腕組みをして言うと、風太が疑問を投げかけた。それに対しては俺が答え合わせをすることにした。


「今まで出会った魔族で『俺を知っているはず』奴は殆どいなかった。特に将軍のレムニティとグラジール、そしてそこにいるブライクなんかだな。だけどレスバとビカライアは俺を知っていた。この共通点は覚えているか?」

「えっと、多分リクさんが前の世界で倒したかどうか、ですよね?」

「そうだ。だから俺はそれが確定するかどうか、それを知るためこいつのところに来たんだよ」

【正解は……】


 レスバが冷や汗をかきながら一言、俺を見て呟いた。それに頷いてから話を続ける。


「ビンゴだった。メルルーサは俺を覚えていて、今もあの時と変わらないままの姿と記憶をもってここに立っている」

【そういえば、ブライク達の様子がおかしかったけどそういうことだったの? リクに倒されたのに生きているのもおかしいと思っていたけどさ】

「その認識もあるんだな」

【なにがなんだかわからないわ。詳しく教えてくれるのよね?】

「もちろんだ――」


 そう言って俺達はメルルーサを引き連れて一旦、船へと戻るとここまでの経緯……それこそ魔王を倒したところから今日までのことを語ってやる。

 ……一つ、魔王について気になることができたが、後で風太達だけに放すとしよう。


【うう……お辛いことばかりあったのね……】

「改めて聞くとホントきつい話よね……」

「おい、やめろ。同情してもらいたくて話したわけじゃねえんだからよ。夏那も泣くな」

「でも、本当に最初からリクさんに一目惚れしたんですねメルルーサさん……」


 全員が気になっていたメルルーサを倒していない理由は水樹ちゃんの言う通り、出会った際に一目惚れされて敵対しない、人間を襲わないという約束をしてくれたのだ。あの時は若かくその言葉を信用するのは難しかった。

 しかし、彼女はそれを証明するため自身の軍勢を撤退させてこちらの部隊の治療を優先して行ってくれた。


「信用はできますけど、それは魔王的にどうなんですか?」

【そりゃ怒りますよ? 処刑とかあったんじゃないですか?】

【まあねえ。だけど、私が海に潜伏したら如何に魔王様でも捉えることは難しいわ。あの時点でリク達は快進撃が続いていたし私をどうにかできるほど余裕は無かったと思うわ】

「そういうことだな」


 レムニティを倒したり、リーチェを作った後くらいに出会ったからほぼ終盤戦に出会ったんだよな。メルルーサと戦わなくて良かったのは楽だった。

 最終的にメルルーサに魔王本拠地へ連れて行ってもらうという話もしていたんだが、最終決戦は魔王側の奇襲という形になったのでこいつと会うことなく俺は日本へ帰ってしまったわけだ。


「で、次の話だ。魔王が倒された後、お前はどうなった?」

【あの後……魔王様が倒されたと分かった直後から私は自分の軍勢を引き連れて海の底へ行ったの。……あなたの仲間からリクが居なくなったことを知らされたからね」


 そう言って寂し気に顔を伏せるメルルーサ。魔族は敵だったが、最後まで裏切るようなことはなく魔王軍の中でただ一人、中立を貫いてくれた。


「すまないな。お前の好意には応えられないと言ったのに、最後まで協力してくれた上に別れの挨拶もできなくて」


 肩を竦めて俺はそう告げた。そういえば魔族は敵だとずっと言っていたが、こいつだけは最後まで平和的にいけたな。今でいうレスバみたいなものだな。逆にメルルーサが居たからレスバが受け入れられたとも言えるが。


【ぶえっくしょい!?】

「汚っ!」

『成敗!』

【ぎゃぁぁぁ!?】


 急に夏那へ向かってくしゃみをしたレスバがリーチェに成敗されていた。それをみながらメルルーサは頬に手を当てながら笑う。


【いいのよー! どうなるかなんてわからないだろうし、それこそ魔王様に負ける可能性だってあったわけだから。こうやってちょっといい男になって帰ってきてくれたらそれで十分よ♪】

「悪いな」

【それにもう聖女は居ないしー? ようやく私のものに出来るのも大きいわね】

「「は?」」

「おい、だからお前の希望は叶わねえって言ってる――」

「「リク(さん)はちょっと黙ってて!」」

「おお……?」


 もう少し強く言っておくかと思ったところで夏那と水樹ちゃんが再び立ち上がって怒声を上げた。何事かと思っていると、二人がメルルーサの前に立った。


「リクさんはウチのリーダーです! あなたに渡すことはできませんね!」

「そうよ。情報だけくれればいいのよ」

【あなたたち……ふうん? そういうこと? 相変わらずねえリクは……いいわ、この私の力を見て恐れおののきなさい……!】

「おい、なんでそうなる!?」

【うひょーわたしもわたしも! メルルーサ様、その二人にはいつも煮え湯を飲まされているので手伝いますよ!】

「あ、馬鹿やめとけ――」


 なんかよくわからんが女子二人とメルルーサが戦うことに? なったらしい。レスバが面白がって突っ込んで行ったが何故かあいつだけオチが読めた。


「い、いいんですか……?」

「まあ、あいつが二人を殺すことはないだろうから」

【それにしても、メルルーサは倒されていなかったとはな……】

「そういうことだ。まだ謎はあるが……」

【あるが?】

「確認できる存在が魔王しか居ないんだよな。悪いがもう少し付き合ってもらうぞ」


 そして船から降りた女子同士の戦いが始まった――

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