199.魔族と倫理観を擦り合わせだ
外に出た俺達はブライク達を呼ぶために森の中を歩いていく。
念のため冒険者や騎士と鉢合わせをしないように
そんなことを考えているとレスバが笛を取り出して口を開く。
【さて、そろそろいいでしょうか?】
「お、そうだな。頼むぜ」
「冗談じゃなかったんだ……」
風太が呆れたように言う。夏那と水樹ちゃんも苦笑しているのでやはり冗談だと思っていたようだ。ちなみに俺もそう思っていた。
【な、なんですかその目は……! とりあえず呼びますからね!】
「オッケー」
念のためか夏那は槍を肩に担いだまま木を背にして応えた。見れば残り二人もしっかり武器をすぐ使えるようにしているな。特に言うことはないなと考えつつレスバの笛吹きを見る。
特に音が聞こえるわけではないのでここからどうなるか分からないが――
【ようやく呼んでくれたか】
「うわあ!?」
【遅い……! あれから一体どれだけ経過したと思っている!!】
「うるさっ!? 大丈夫なの?」
「
【出たな勇者……!】
【うるさいぞビカライア】
ブライクに後頭部を殴られて一気に静かになる。レスバの知り合いというのは間違いないだろうな。
「えっと、あなた達が……?」
【む。お前達も勇者か?】
「まあ、そうだな。みんな、こっちがブライクで地面に突っ伏しているのが副幹部のビカライアだ」
「副幹部!? これが……」
【うんうん。そうですよねえ。カナの気持ちはよくわかります】
「レスバは味方しないんだ。あたしは夏那よ。ひとまず休戦ってことを聞いているわ」
まずは夏那が名乗り、続けて風太と水樹ちゃんも自己紹介を行う。
【魔光将ブライクだ。よろしく……とは言わん。今後どうなるかわからんからな】
「それくらいでいいわよ。あたし達だってアキラスのことがあるから魔族を信用しろって言われても難しいしね」
【わたしは……!?】
「ということで武器は持たせてもらいますよ」
【構わん。お前達全員を相手にするには少々骨が折れそうだしな。ビカライア、いつまで寝ているのだ】
【くっ……申し訳ありません。私はビカライアという。魔王様と会うのは些か不安だが……。腑に落ちないことは多々あるからな。仕方なくだ、それを忘れるな!」
ようやく復活したビカライアも名乗りひとまず名前と姿は認識できたか。相変わらず謎の自信を持っているな。
すると夏那が目を細めてニヤリと笑う。
「威勢がいいじゃない。分かってるって。条件は同じよ」
【ねえ、わたし……】
「ちょっと向こうに行っていてもらえますか?」
【ミズキちゃん酷い!?】
『はいはい、信用してる信用している。で、なにを話すの?』
【うううう……】
やんわりと笑顔で排除されそうになり、リーチェに雑に扱われたレスバ。まあ、こいつはさておき俺は収納魔法から適当に料理を取り出して、テーブルと椅子を作って用意した。
「腹減ったろ? それともなんか食ってたか」
【その辺を飛んでいる鳥や草を食っていたから大丈夫だぞ】
「それは大丈夫なのかなあ。レスバが普通に料理を食べるからあなた達もと、リクさんが用意したんですよ。如何ですか?」
【ブライク様……どうしますか?】
【心意気に応えないわけにはゆくまい。美味そうだ、いただこう】
『男らしいわねえ』
収納魔法に入れておけばその時のままで保存されるので串焼きやコーンスープは暖かいままである。ホットドッグに似たパンなどもあるので腹にはたまるだろう。
【ほう……これはとうもろこしか。濃厚だ】
【こっちはビッグボアの塩焼き……。ソーセージの挟まれたパンもいいですぞブライク様】
【一つ渡せ】
特になんの警戒もせずにがつがつと食事を始めた二人。俺はまあ気にするところでもないが、この光景を見て風太が口を開く。
「あの……罠だとかは思わなかったんですか?」
【む? そのつもりがあればもっと早い段階で勇者が俺達を始末していただろう? レスバが現時点も生かされている時点で信用はできる】
「レスバって一応人質なんだけど、そこんところはどうなのよ?」
【無理に拘束しているわけでもないではないか。人間は気に入らんが、アホとはいえレスバを連れて行くメリットは無いはずなのだ。もし私がそちらの立場なら敵対する者を連れ歩く不利な状況は作らん。戦争している相手に人質など意味がないのは勇者なら知っているはずだ……がはぁ!?】
【誰がアホだとバカライア……!!】
【例えだ例えええええええええええええええええええ!?】
口の悪いビカライアに襲い掛かるレスバ。まあ自業自得なので放っておこう。で、ブライクがその後を続けてくれたが、総合的に見て『俺達』はまだ信用できると判断したらしい。
レスバがレスバらしく自由にしているのが判断材料というのもおかしな話だが、嫌いな相手には話すらしない気質らしい。
「レスバってそうなんですね」
『まあアホなのは間違いないけど』
【リーチェ様!?】
「いいからビカライアを放してあげなさいよ。ご飯食べてから話をするんでしょ?」
「食いながらでもいいだろ。とりあえず明日には船で沖へ出られそうだ。その時、改めて船で合流してもらえるか?」
【分かった。メルルーサには先に話をしておいても良かったが、いいのか?】
「いい。俺の『知っている』奴か分からないからな。俺達が行くってなって言って攻撃されても困る」
【なるほど。承知した。しかし人間の食い物は美味いな】
【でしょう? わたしも驚きました。だから前の時になんで人間を攻撃したのかわからなくて。変な人間もいますけど、概ねわたし達と同じですね】
白目を剥いたビカライアを椅子に座らせながらレスバなりの意見を述べていた。変な人間が居るのは確かだしな。
【魔物も懐くくらいですからね。ねえファングちゃん。……ファングちゃん?】
「……ふん、お客さんみたいだな? ちょっと行ってくる」
ファングがなにかに気付き、俺達が来た方向に目を向けていた。集中すると確かに気配がいくつかある。
何者だ? とりあえずこっちから出向いてみるか。
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