198.魔族の特性ってやつが特殊過ぎる気がするぞ?
「毎度! お嬢さん達、可愛いから割り引いておくよ」
「ありがとー!」
【ふふん、人間も見る目がある者がいるようですね】
「お城の料理もいいけど、町のお食事処も美味しいです」
聖木を持ち帰ってから二日が経過した。
船が完成するまで特にやることも無いので基本的な訓練は続けている。城に居るだけは飽きるということで、昼は町へ出て飯を食うようにした。
『ひと段落したらあちこちの町で食べ歩きもいいかもね』
「それは太りそうじゃない……?」
【その分運動すればいいんですよ】
「まあ、いつも訓練しているし大丈夫かしら」
【夜もできますけどねえ。ベッドとかで】
「はあ……? ……! あんたねえ!!」
相変わらず仲がいいなと思いながら夏那とレスバの追いかけっこを見ながら肩を竦める俺。ともあれ、一時の休息くらいはいいかね。そんなことを考えていると風太が声をかけてきた。
「エルフの森との往復は緊張しっぱなしでしたからゆっくりご飯が食べられるのはいいですね」
「だな。とりあえず明日になればここともおさらばだ、ゆっくりさせてもらおうぜ。あ、船の進捗を見に行ってケツを叩いておこうか」
「あ、いいですね!」
そう水樹ちゃんが返事をし、続けて小声で俺達に言う。
「そういえば魔族の二人はどこかに居るんですよね?」
「多分レスバあたりが呼べば出てくると思うぞ。船に乗ったら会うことになるが……。そうだな、一度顔合わせをしておいた方がいいか」
【そうですね。そろそろなにか食べさせてあげたいかもしれません】
レスバがそういえばと手を打ってあっさりと言い放つ。そこで夏那がレスバの首に巻きついてから眉を顰めて尋ねた。
「そういやあんた達って負の感情とかを食料にしているんじゃなかったっけ? レスバがバクバクご飯を食べるから忘れそうになっていたけどそのあたりってどうなの?」
【それはもちろんあります。正確に言うと『負の感情を吸収している』ってことなんですけど、そうすることで栄養になるんです】
「栄養に……? ビタミンとかが摂れるとか?」
【びたみん? よくわかりませんが、負の感情を吸収するとしばらくなにも食べなくても大丈夫、そういうことです。ただ、魔族同士の感情は意味が無くてあくまでも他種族のものに限られますね】
「……」
初耳な情報が聞こえてくる。持ちろん小声で話しているのと、周囲に人が居ないことは確認済みである。
それにしても他種族のみというのが解せないな。そんなのまるで『他種族を恐怖に陥れること』を強制されているようにも感じる。
【向こうの世界でもわたし達は普通に食事を摂っていましたから、そこまで重要でも……。あ、いや、一つ特殊な効果がありましたね】
「それは?」
【……身体能力が上がります。要するに強くなるってことですね。アキラス様が国丸ごと抑えたのは恐らくそういうことかもしれません。落としてしまうより飼い殺しの方が摂取しやすいいいいいい!? カナ、わたしはしていませんから首を絞めるのをやめるんです!?】
「やはり魔族は悪……!」
「やめてやれ夏那。しかし飯を食って生きられるなら他種族を襲う必要を感じられないな」
『そうよ! あんた達のせいでどれだけ苦労したか!』
俺の言葉を受けてリーチェがレスバの頬を引っ張る。まあ、こいつに聞くよりアイツの方が早いかと俺はリーチェを摘まみ、夏那とレスバを引き剥がして言う。
「ブライクとビカライアを呼んでその辺の話を聞いてみるか。幹部クラスの将軍様ならなんとなく理由もわかるだろ? 飯を食わせてやるついでに」
「大丈夫ですか? どこで話をします?」
「外に出て森の中で、だな。そうと決まれば移動するか」
「私達は初めて見るからちょっと怖いですね……」
水樹ちゃんが困った顔で笑うが、少し興味があるという風にも見える。善は急げとばかりに適当な食い物を調達して森へと向かう。
「おや、リク殿? どちらへ行かれるのですか?」
「お、ヘラルドか。いや、ちょっと森まで行ってくるんだ」
途中、警邏をしているのかヘラルドとすれ違う。俺の答えに目を丸くする。
「ええ? 今はそういう依頼が無かったと思いますが。ああ、訓練ですか! いやあ、少し前のことですが懐かしいですな」
「おお、そうそう。あの時は世話になったな」
「いえ、私が助けられましたよ。副幹部を倒したフウタさん達には脱帽します」
「いやあ……」
褒められて照れる風太。まああの時は本当に三人とも頑張ったからな。
「私もお供したいところですね」
「いや、悪いが今日はこのメンツだけだ。暇だからまた今度やろうぜ」
「そうですか……。まあ、私も周辺の警邏をしなければいけませんからまた今度ですね」
「おう、また頼むぜ! とは言ってももう少ししたら出港だけどな!」
「ええー……」
心底残念そうなヘラルドが力なく手を振ってこの場を去る。いい奴である。実際、あいつが居なかったら船は殆ど失われていただろうから三人と共に功労者であるのは間違いない。
それはともかくと、俺達は門を抜けて森へと入っていく。すでにレムニティは居ないので、次の敵が来るまで騎士達はもう森で警戒はしていない。密会をするには丁度いいな。
「で、どうやって呼ぶのよ?」
【魔族にしか聞こえない笛を吹く感じですね。ビカライアから預かっているのでこれを使いましょう】
「いつの間に……」
「犬笛みたいですね……」
水樹ちゃんが言いえて妙なことを口にする。俺もそう思った。
【一回吹けばレッサーが。二回吹けばビカライアが。そして三回吹けばブライク様が来ます……!】
『絶対嘘よね』
【なんでわかるんですか!?】
「いいから早く呼べ」
そして胸元から取り出した笛をレスバが吹く――
◆ ◇ ◆
「奴等はどこへ……。む、ヘラルド! リク殿達を見なかったか?」
「え? おや、ノヴェルか? どうした」
「どうしたもこうしたも無い。リク殿が魔族に通じているのではないかという情報がある。彼等を監視するため探しているのだが外に出たと聞いて探している」
「監視しなければならないのに見失うのか……?」
「うるさい。昨日までは城に居たのが、今日急に外に出たのだ」
「それにしてもリク殿が魔族と、か……? 幹部を倒したのは彼だぞ」
騎士数人を連れたノヴェルが警邏をしているヘラルドへ声をかけてきた。その内容があまりにも突飛だったため眉を顰めていた。
「お前は夜勤であの場には居なかったが、エドワードが見たらしい。エルフの森で魔族に襲われたが、リク殿が出た後、ことなきをえたと」
「倒したんじゃないのか?」
「いや、どうも空を飛んで逃げたらしい。……怪しいと思わないか? 幹部を倒したかもしれないが、その現場を見た人間はいないんだ。何かを隠している」
「うーむ……」
そう言う人間には見えないが謎が多いのは確かではある。ヘラルドはそう思いノヴェルを見ながら腕を組む。
居場所はわかるが答えるべきか。しかし同じ副団長として嘘をつくわけにもいかないと口を開く。
「一応、リク殿は森へ向かった。訓練をするらしいぞ」
「……! そうか。情報感謝する。行くぞ……!」
「……」
魔族と邂逅していたとしても、彼を止めることは無理なのではないか? ヘラルドはリクの強さを目の当たりにしているのでそんなことを考えるのだった――
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