194.差し出すのは剣か、救いの手か

 ――周辺に居る魔族はブライクとビカライア以外存在しないようであの二人が撤退した後は通常の魔物が現れる程度で作業自体はかなり簡単に進んでいた。


「リク殿、この馬車でいいですか?」

「ああ、頼むぜロディ。すまないがこっちの騎士と積み込みをしてくれ。あんたも頼む」

「もちろんやりますよ。それにしてもこうエルフがたくさんいるのは……ちょっと胸が熱くなるな」

「そうですか?」


 風太達とエルフ達の話し合いが終わり、ロディ達も隠し通路を使って聖木を運んできてくれていた。彼等は戦闘ができる者を中心にいくつか部隊を作って馬車へ聖木を持ってくる。

 これは水樹ちゃんの意見だそうだ。騎士達を信用していない訳じゃないけど、万が一興味本位でエルフの集落に入るなどを防ぐため。

 隠し通路は数人を守りに置いているため魔物一匹通れないくらいのようだ。


 それはそれとしてロディ達を見て感動している騎士はだいたい二十五歳ってところだ。

 彼が生まれた時にはほとんどエルフなんて見ることが無くなったから、ぞろぞろと聖木を持ってくるエルフ達を見ての発言らしい。


「親父はエルフと一緒に魔族と戦ったことがあったと言っていた。酷いことをしたとも。会ったら言おうと思っていたんだ……すまなかった」

「別にあなたのせいではない。魔族は強大だ、遅かれ早かれこういう状況になっていただろう」

「それが悔しいんだよ俺は。さ、積み込みをやりましょう!」


 しんみりした話にはならず、ロディの言葉を飲み込んでから手を叩いて他の騎士達に合図を送る。

 いくつかギルドを回っているが、数人は見かけたので絶対に人間が嫌いだという奴も少なからずいる。

 今のロディじゃないが『あれは仕方なかったんだ』と割り切っているんだろうな。


「よーしそれじゃ次だ!」

「うす、こっちのに積み込んでください!」

【ひぃ、クマが出た!?】

「人間だっての」


 茶々を入れるレスバの首根っこを掴まえて邪魔をさせないように遠ざける。するとレスバが引きずられながら口を開いた。


【しかし、やるせないものですねえ】

「なにがだ?」

【種族間の問題ですよ。前の世界では私達魔族とリクさん。こっちでは人間とエルフ。同じ種族なら仲違いなんて無かったかもと思っちゃうんですよ】

「……そりゃ考えても答えが出ないやつだろ」

【そうなんですけどね。もし前の世界で戦いが無くて協力していたらどういう生活をしていたのか、とか思うんですよ】


 レスバはそう言って人間とエルフが作業をしている現場を見ながらポツリと呟いていた。

 それが出来たのなら俺が喚ばれることも無かったし、イリスと恋仲になることも、あんな体験をすることも無かっただろう。それはその立場になってみないとわからないことだ。

 ただ、レスバ的には俺達と一緒に居ることで人間が自分達と似たようなものだと気づいた。手を取り合って居れば面白く暮らせたんじゃないかと考えているみたいだな。


【……リクさん達に会って、魔王様がわからなくなりました。だからこそブライク様もあの態度なのでしょうけど】


 さっきの話し合いを思い出してか森の外に視線を向けるレスバ。確かに話が分かるなら侵略以外の方法が取れたはずだからな。


「リクー、レスバー! もうちょっとしたらお昼だけど、エルフの人達が用意してくれるって」

「お、マジか。鶏肉の香草焼きは美味いんだよな」

【へえ、いいですね】


 と、レスバと少しだけ真面目な話をしていると夏那から声がかかり昼食に色めき立つ俺達。

 

 ――そしてそこから一日半。


 昼夜を交代して要し、聖木の積み込みがほぼ完了したあたりで俺は長に呼ばれていた。レスバの監視は風太達に任せている。ちょうど逆になった形だな。

 とりあえず明日の夕方には出発できそうなところまで搬入を終えることができた。

 正直、エルフ達がここまで協力的になってくれるとは思っていなかったからな。


「ありがとう。これだけあれば数隻は作れる」

「気にするな。魔王が倒されれば平和になる。その手助けをしただけにすぎんよ」


 長老であるグェニラ爺さんが肩を竦めて鼻を鳴らす。笑みを浮かべており表情は明るいなと感じる。

 手元のお茶を一口飲んだ後、俺の目を見てから再度口を開く。


「……フウタが大精霊様の力を持っていることを考えれば吝かではない。それよりも、だ」

「なんだ?」

「お主は魔族と繋がりがあるのか?」

「……!」


 笑みを消して目を細めて聞いてくるグェニラ爺さん。

 どうしてそんなことを聞いてくる? レスバはここに連れてきたが偽装は完璧だったはずだ。

 まあカマをかけてきただけかもしれないが、どうせ今さらか。


「どうしてそう思った?」

「ポリンだ」

「ああ」


 それでかと納得する俺。

 ポリンは巫女だと言っていた。もしかすると聖女の婆さんと似たような力があるのかもしれないと考えられる。

 予知か遠視か分からないが、ブライクと会話しているのは騎士達も知っていることだ。

 しかし『繋がりがあるのか』と聞いてきた以上、それとはさらに別のなにかを知っているのだろう。


「繋がりは無い。が、魔族をどうにかできる策はあるんだ。聖木はそれを実行するための必要なアイテムってことだな」

「……」

「信用できないか?」

「いや。ここまで来てそんなことは言わんさ。戦い以外で解決できるならそれでもいい。ただ、リク殿、無茶だけはするんじゃないぞ」

「覚えとくよ」

「うむ。あの三人のためにもな」


 ゆっくりと首を振りながらそんなことを口にするグェニラ爺さん。

 さて、ポリンは俺のなにを見たのかね? 大精霊がついている風太の心配ではなく『俺』というのが気になるがはっきり口にしないあたり多分、婆さんと同じで曖昧なんだろう。

 

「一応、確認のために呼んだが杞憂だったようだ」

「まあ、俺があいつらの仲間ならこんな回りくどいことはしないだろうな」

「フフ、違いない。……すまないが任せる」

「ああ」


 俺はグェニラ爺さんと握手をしてから小さく頷いた。最後のひと踏ん張りだ、気張っていくとするか――

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