193.俺がケリをつける必要が出てきたな

 人間化したレスバと共にタスク達の声がする方へ戻る。

 岩陰から出てきた俺達を見つけた二人が慌てて駆け寄ってきた。


「どうした?」

「フウタ達が戻ってきたのよ! なんか戦いの気配がしたからって。……ってさっき飛んで行ったのは魔族の幹部じゃない……?」

「に、逃がしたのか?」

「騎士には言ったがちょいと休戦だ。案内してくれ」

「あ、ああ……」


 魔族と何を話していたのかという顔だな。その気持ちは分かるが、被害を抑えられたから相殺して欲しいもんだ。

 それと……疑念を抱かれたとしても、すでにどっちでもいい状況となってきた。

 

 ただ、風太達になんて言うかだな。

 前から考えていたことだがセイヴァーを倒しても元の世界に戻れる可能性がほぼ無くなったと思っていい。

 セイヴァーも『この世界に召喚された側』で、勇者と同じ扱いであれば倒してもそこで終わりになりそうだと考えている。

 異世界の脅威を取り除くという点がこの場合『どう作用するか分からない』が、な。


 とりあえず合流しておくかとタスクとミーヤについていきエルフの森へ舞い戻る。


「あ、居た! もー、どこ行っていたのよ! なんかレッサーデビルが出てきたらしいじゃない!」

「リーチェから聞いたのか?」

『私じゃないわよ』

「ポリンさんからです。それと森が騒がしいってウィンディア様が」

「そういうことか。とりあえずこっちは幹部が出てきた」

「え!? だ、大丈夫なんですか……?」


 そこで水樹ちゃんが驚いて周囲を見渡すが、レスバがそれを制してから口を開く。


【まあ、リクさんなのでそこは問題になりませんでした。ちょっと力を見せつけてやったら退散しましたからねえ】

「さすが……って、休戦って聞いたわよ!」

「そのあたりを話したいが、聖木はどうなった?」

「戦闘が終わったら運び出しをするということになっています。……大丈夫そうなら僕か水樹でエルフの方を対応しますけど」


 風太が頼もしいことを言ってくれる。ブライクを待たせることになるが、先に聖木を運ぶ手はずを整えた方がいいだろうと判断する。


「そうだな。魔族の幹部は一旦引いてもらったから運び出し優先だ。みんなに騒がせてすまないと伝えておいてくれ」

「わ、わかりました!」

「魔族を引かせるってやっぱリクさんって凄いんだ……」

「それは分かっていることじゃない! じゃあ、あたし達は戻るけど、後で話を聞かせなさいよ」

【承知しました!】

「なんであんたが答えるのよ!?」


 キリっとした顔で夏那に敬礼するレスバの頭を軽くはたいてから三人は再びエルフの森へ歩き出す。リーチェは他の人間の目があるため姿を見せなかったが、夏那と一緒にいるようだ。


「……フウタってちょっと見ない間に強くなったっていうか逞しくなったような感じがするな」

「お、そうか? 他から目に見えて変わったと分かるか」

「ここまで一緒に居たじゃない? 戦いの最中とか無茶な動きをしないの。周りを良く見て騎士達と連携を取っているわ」

「そうか。自信ができたのかもしれないな」


 大精霊ウィンディアの剣もあるからな。あまり存在をアピールする感じでないのは今でもそうだが愛想笑いをして誤魔化す風太はもう居なくなったようだ。

 

「とりあえずタスクとミーヤはキャンプの準備を頼む。俺はエルフの森から聖木を運ぶ手はずを整えるぞ」

「オッケー!」

「聖木かあ。これで魔王の島へ行くとして、勝てるのかねえ……」


 元気よく答えたミーヤに対し、口を尖らせるタスク。そもそも戦う必要があるのかすら怪しいけどな。

 二人を見送った後、俺はレスバに目を向ける。


【? なんです?】


 こいつやブライクのように話が分かるヤツが魔族に居るというのが分かったのはかなり大きい。まあハイアラートやアキラス、グラジールみたいな好戦的なのも居るが場合によっては話が通じた可能性がある。

 

 前の世界で俺は有無を言わさず戦いに巻き込まれたが、こっちでは魔族も巻き込まれた側なのでいわば同じ状況であるのは間違いない。

 

【そういえば……アキラス様はどうして勇者召喚をしたんですかね? 前の世界の記憶が無いとしても説明が無ければ勇者は魔族と敵対する関係になるのは分かっているのに】

「……」

【あれ? いつもみたいに『俺は知っていたぜ』みたいな話をしないんですか? ……ぐあああ!?】


 とりあえずその質問に答えるのは全員揃ってからだな。

 

 ……もちろん意味はある。


 アキラス自身、洗脳して先兵にするみたいな話をしていたが実際本当にそうだった可能性はある。なぜなら勇者が自分と同じ、もしくはそれ以上の存在なのは身をもって知っているから。死んでいない場合は記憶がないことになるが、それは本人に聞く以外にない。


「さあ、そんなことよりさっさと仕事を終えるぞ。お前も家族に会いたいだろ」

【そうですね! ブライク様に連れて行ってもらうのはダメだったんです?】

「三人が残ってしまうのはちょっとな。せめて町とかに戻ってからならってところだ。下手に帝国の連中のところに残しておきたくないし」

【ああ、利用されるから……。それで冒険者の二人ですか】

「そういうこった」


 理解が早いのは助かると俺は頷いてから騎士達に声をかける。

 さて、他の魔族が邪魔をしてくることはこれでなくなったのでさっさと船を作ってもらわないとな――



 ◆ ◇ ◆



【よろしいのですか?】

【構わん。お前も気になるのだろう、俺が生きていることが】

【……ええ】


 正直、この世界に来た時は魔王様が生きていてくださって喜んだものだとビカライアは考えていた。しかし、同時に死んだブライクと魔族の仲間『全員』がここに居ることに疑問は持っていた。

 

【(私のことは覚えていたがそれ以外、それこそ勇者との戦いなどはまるで覚えていなかった。恐らく『前の世界』で記憶があるのは勇者リクの言う通り死んだか死んでいないかの差。それは分かった。だが――)】


【どうした?】

【……アキラス様が魔王様より勅命を受けた件が勇者召喚だとするならなぜ敵になりそうな者を呼べと言ったのでしょうか?】


 レスバと同じ意見をブライクへ尋ねるビカライア。すると、ブライクはさも当然と言った顔でこう答えた。


【それは魔王様が呼べと命じたのだろう? 決着をつけるつもりだったのではないか?】

【口ぶりでは他の勇者も居るようですが……】

【それについては推測が立つ】

【え?】


 記憶が無いブライクにまさかそんなと思いつつ、主の話に耳を傾ける。


【恐らくだが『当時』の勇者リクは若かったのだろう? もしかするとだが間違えられた可能性がある】

【そんなバカな……】

【だがお前は最初リクだと気づかなっただろう?】

【……!】


 確かに、と冷や汗をかくビカライア。

 そうなると『狙って』勇者リクを呼んだ、ということになるのは間違いない……。


【魔王様はなにを考えているのでしょうか……】

【それを知るための勇者だ。ハイアラートあたりは嫌がるだろうが、なにか……嫌な予感がする。人間にとっても魔族にとっても、な】


 ブライクの言葉を聞いてエルフの森へ目を移すビカライアだった――

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