184.けん制し合うのが友人同士でも負けないよ?

「それにしてもよ水樹ちゃん」

「ん? どうしたの夏那ちゃん?」


 出発して数時間。

 すでにヴァッフェ帝国のお城が遠くに見え始めたころ不意に御者台の隣に座る夏那ちゃんが口を開く。私のことを『ちゃん』づけで呼び、なんだか大仰な様子に噴き出すのをこらえつつ首を傾げていると、私の方に振り向いて夏那ちゃんが言う。


「まさかリクからあたし達を分散させるって言いだすとは思わなかったわよね……!」

「あ、確かにそうね。なんだかんだでリクさんって過保護気味なところがあったからまさかとは思ったよ私も」


 夏那ちゃんの言う通り今は先頭に風太君、中間に私達。そして最後尾にリクさんという布陣で進んでいる。今までのリクさんなら最後尾に私達と一緒にいたはずだと思う。


『流石にこの人数での行軍だと目の届かないところが出てくるからねえ』

「そこであたし達の出番ってわけね!?」

『興奮しすぎだから』


 リーチェちゃんの言う通り、夏那ちゃんの目は輝いており『リクさんにこの場を任された』ということに喜んでいるみたい。あれだけ頑なに表に立たないようにしてくれていたのだから気持ちはわかるけどね。


「でもミーヤとタスクはこっちに来ると思ってた。あたし達って仲いいし?」

『女の子の中にタスクが入るのが嫌だったっぽい?』

「お父さんか!? もう、リクってそういうところあるよね。最初は冗談でも付き合ってくれ、とか隣に寝ようかみたいな話をしていたのに」

「ふふ、言ってたね。あれって緊張している私達に軽い口を言っていただけじゃないかな?」

『ミズキの言う通りねー。それとこっちにタスク達が居たらわたしが話せないし、そういうのもあるんじゃない?』

「あー、なるほどね」


 と、夏那ちゃんの驚愕した言葉にリーチェちゃんが回答すると納得したように手をポンと打っていた。

 リクさん曰く、クレオールさんは悪い人ではないけど完全に信用できないからリーチェちゃんは基本的に隠しているのよね。だからこの布陣は納得がいく。

 そこで周囲を確認しながら夏那ちゃんが小声で聞いてくる。


「……で、水樹は元の世界に戻らない選択をした場合どうするの?」

「あ、ここでその話を出すんだ?」

「なかなか二人きりってないじゃない? お風呂とかあるけど、だいたい疲れているしさ」

『わたしはいいの?』


 いひひと何故か含み笑いをするリーチェちゃん。こういうところはリクさんだと思っていると、夏那ちゃんが彼女を頭に乗せてから口を開く。


「ぶっちゃけエルフの森まで行っちゃえば後は魔王……イリスのところへ行くだけじゃない? 多分、この旅はもうすぐ終わって元の世界へ帰るかどうかというとこまで来ているなあって」

「……」


 確かに、と私は無言でハリソン達の手綱を動かす。そう、私はこの世界に残るつもりだ。夏那ちゃんと風太君がどうするのかはまだ聞いていないけど、個人的には戻って欲しいと思う。

 二人の両親は良い人だし、遊びに行ったときにとてもよくしてもらった覚えがある。居場所があるところへは……帰って欲しいなあ。

 私は家があんな状態だから帰りたくないし、帰る意味を見出せない。


 後は――


「リクさん次第、かな? 残ってくれるならリクさんと暮らしたいかも。もし、私一人が残るなら思い入れがあるロカリス王国に戻ったりとかもいいかな? エラトリア王国のフレーヤさんの近くも面白いような気がするよ」

「リクか……」


 夏那ちゃんが複雑そうな顔でこちらを見る。理由は……分かるけど、今後のこと次第では夏那ちゃんに負けるわけにはいかないのだ。イリスさんという強敵はいるみたいだけど、それでも。


『どうなるかまだ分からないし、ふわっとした未来でいいと思うけどね、わたしは。全員元の世界へ戻れない可能性の方が高いから。逆にカナは戻れなかったらどうするのよ』

「そうねー。その時はこの四人……レスバも入れて五人でまだ行ったことのない場所へ旅をするのはどう? それで良さそうな国で腰を落ち着けるの。良くない?」

「ああー、いいね。その時はさすがに勇者とかじゃなくて、相手を見つけて結婚をしていそう」

「うんうん! 水樹は美人だからすぐに見つかるわよ! 風太でもいいし」

「それこそ夏那ちゃんも可愛いじゃない? 風太君のこと、もう好きじゃないの?」


 お互い不敵に笑いながら牽制する。

 口にはしないけど、リクさんに好意を寄せていると思うんだよね、夏那ちゃんも。

 やっぱり頼りになる男の人は同学年の男の子とは全然違う。年の差カップルなんて珍しくないし、異世界なら全然アリだと思う。


「風太も逞しくなったけどね。あたしは今の風太の方が好きよ? だけど、リクはなんていうか……支えて上げる人が居ないと魔王のところで今度こそ満足して消えそうで……」

「うん……」


 言いたいことは分かる。イリスさんを助けられなかった前の世界から戻って心がおかしくなったリクさん。だけどこの世界でなにか別の結末を迎えることになったら? それが良いか悪いかはまだわからないけど、彼はどちらにせよ居なくなるような、そんな気がするのだ。


『……ま、風太を含めてあんた達を悲しませるようなことはしないと思うけど? あいつは仲間を本当に大事にしているから。だからこそ女の子だけでも自分の目から離す選択をしたのよ。だから自分から死ぬようなことは、きっとない』

「ん。あんたが言うなら説得力があるわね。期待したいわ……」


 今回は任せてくれたから背中を預けられると思ってもらえたと考えれば嬉しい。だけどこの世界で生きていくための試験のような気もするんだよね……。

 夏那ちゃんの言う通り、聖木を運んでしまえば後は魔王・イリスさんの下へ行くのみだから。


「そういえばもしリクが死んだらリーチェどうなるの?」

『一応、別物だからこの世界からリクが居なくならない限り死んだりはしないわよ。だけど、誰かに継承したほうが

いいかなとは思うけど』

「そうなんだ……。前の時は世界から消えたからリーチェちゃんも消えたのね?」

『そういうこと』


 リクさんが居なくなれば姿が消える……。でも死んだ時は影響が無い? なんか違和感が……。


『その時は大精霊の加護もないし、カナかミズキにお願いしたいわね!』

「あ、うん」

「あ、そろそろ休憩みたいね。ハリソン達を休ませないとね」


 とりあえずモヤっとするけど今は考えても仕方がないかと私はハリソン達を止めて休憩に入るのだった。


 旅の終わり……まだ先だと思いたい。この五人で居るのは本当に楽しいから――

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