183.ついに俺達も役割を分けることになるか


「待たせましたか、申し訳ない」


 高校生達を連れて城の外に出ると、クレオール陛下が片手を上げて笑いながら答えてくれる。


「いや、大丈夫だ。俺達が勝手に出てきただけだからな」

「騎士達に挨拶をしたかったってのもあるからな」


 陛下の隣に立つヴァルカが口元に笑みを浮かべて親指を後ろに向けて差しながら言う。上から見た俺達に随伴してくれる騎士達が勢揃いってところだな。そこで水樹ちゃんがあいさつをするため声を上げた。


「おはようございます、皆さん!」

「「「おはようございます!!」」」

「うわ!?」

「でかい声!?」

【これだけ人間が居ればそうでしょうねえ】


 後ろ手に立つ騎士達が一斉に挨拶をしたのでその辺の木に止まっていた鳥が慌てて飛んでいく。レスバの言う通り、何百人単位の人間が集まっているんだからそうなるだろう。日本の運動会でもあの喧騒なんだからな。

 

「では手はず通りお願いしますリク殿。我が騎士団を使ってください」

「ありがとうキルシートさん」

「この人たちを私達が……」


 水樹ちゃんが息を呑むのが分かる。今までは俺達は俺達で、それ以外の勢力や団体は『身内』という認識はないだろう。

 しかし今からこの騎士達を『俺達が連れて』エルフの森まで連れて行かなければならないのだ。緊張するのは当然だ。なにかあれば責任はこちらにあるんだからな。


「ま、それも含めていい経験になるかな?」

「どうしたのよ急に?」

「いや、こういうのは学校でもなかなか得られない経験だよなってな」


 これ以上は他に居る人間に聞かれると面倒なので夏那の頭に手を乗せて笑いかけて一旦切る。そのままクレオール陛下の前に風太達と勢ぞろいして一礼をする。


「では、我々は騎士団をあずかりこれからエルフの森へ向かいます。その間、帝国の防衛が薄くなることをお許しください」

「良い。その代わり魔族に対するカウンターが出来るようになればそれ以上にプラスにしかならない。前回以上の成果、期待している」

「承知しました」


 俺はハッキリとそう答えて小さく頷く。一緒に居たキルシートや、いつも笑っているヴァルカも神妙な顔で俺達を見ていた。

 俺としては建前だが、彼等にとっては死活問題。そこを裏切るわけにはいかないのでしっかりやらせてもらうとしよう。


 後は二言、三言ほど会話を交わして騎士達を挨拶をして出発となる。とはいえ、騎士達と風太達は訓練で話しているので、


「またよろしくお願いします!」

「こちらこそ、フウタ殿!」


「カナさんと肩を並べて戦えることを光栄に思いますっっっ!」

「あはは、無理しないでいくわよ!」


「ミズキさん、旅の途中で魔法を教えていただきたいのですが!」

「えっと、多分リクさんの方がいいですよ……」


【わたし! わたしには……!】

「誰だあれ?」

「さあ……フウタさん達の召使い、とか?」

【ぞんざいな認識じゃないですかね……】

「いや、あんたはそんなもんでしょ」


 こんな感じだ。

 そのあたりは狙ってやらせていたところもあるから止めなかったんだけど、どうだろうな。この世界に残るかどうか。三人が残るつもりだとしても強制送還は考慮したいが……あいつらはメンタルお化けだから大丈夫か?

 なんか心までおっさんになりそうだぜ。


「よし、ハリソンにソアラ。またよろしく頼むぞ!」


 俺の言葉に『わかりました』といった感じで鳴くと、ゆっくり歩き出す。行先はまず道なりにグランシア神聖国に行くため、騎士達一団が先に進んでいく形だ。


 ちなみに一緒に行く予定のタスクとミーアは、昨日の時点で陛下達と顔合わせをしている。だが、ここを一旦離れることになるからと、昨晩は仲間内で過ごしたいという希望のため町にいるのだ。


「どこで待ち合わせ?」

「ギルドの前だな。外に出たら手はず通り俺達は三つに分かれて騎士達の間に入るぞ」

「はい。私と夏那ちゃんとリーチェちゃんが中央部で……」

「僕とタスク、ミーアさんが先頭に入ります」

「で、俺とレスバが最後尾。オッケー、覚えているな」

【バラバラで大丈夫なんですか?】

「すでに高校生達はここに居る騎士達より確実に強いから安心感を与える意味でも必要だ」


 レスバにそう返す俺。

 この態勢はその内使うだろうと思っていたものだ。風の大精霊を秘めた風太は戦闘面ではかなり頼りになるので前線。ここでなにか問題があれば、精霊を通じて中間地点に居るリーチェに情報が飛ぶ。ここが意思疎通できるのは確認済みだ。

 そしてリーチェと疎通できる俺が最後尾に居れば対応はいくらでもできるという形だな。

 風太は任されたことを喜んでいたな。まあタスクとミーアが一緒なら無理はしないだろうという思惑もある。


 俺が最後尾なのは前方の様子を見ることができるのと、なんだかんだで背後からの攻撃が一番危ないからな。

 結界を張ったまま移動すれば奇襲は受けにくい判断をしたってわけ。


「あ、居た居た! おーい、ミーア!」

「……すーはー……。あ、か、カナ! こっちよ!」

「ほ、本当に行くんだな……。騎士達に交じって……」

「おう。頼むぜ二人とも。昨日話したけど風太のフォロー、頼む」

「「は、はい!」」

「あはは! 緊張しまくってるじゃん! ほら、しばらくはこの馬車でいいからちょっとお話ししましょう」

「よろしくお願いしますね!」

「あ、そ、そうね……。というか陛下達相手に肝が太すぎるわよカナ――」


 夏那や水樹ちゃんが歓迎ムードで荷台に二人を乗せる中、俺はヒュウスとグルガンへ声をかける。


「悪いが仲間を借りるぜ」

「死なないようにしてくれれば経験としては悪くないから、願ったりかもしれない。二人を頼みました」

「これで名声が入ったら面白いんだがな! はっはっは! 元気でやってくれ」

「任せてくれ。……こっちも油断はできない、気をつけてな」


 そう言ってやると二人はそれぞれニッと笑ってサムズアップを返してくれた。ま、男二人なんとでもなるか。


「頑張ってくださいね!」

【言われなくてもそうしますが?】

「あなたに言った覚えはありませんが?」

【ぐぬぬ……】

「おのれ……」

「お前も元気でなペルレ。身を乗り出すなレスバ、あぶねえぞ!?」


 ソアラの上からメンチを切るレスバにぎょっとしてしまう。こいつはたまに驚かせてくれるぜ……。

 これで挨拶は終わりか。

 そのまま俺達の馬車は再び帝国を後にする。これが現地人と関わる最後のアタックになるといいんだが。


 横目で港を見ながら俺はそんなことを考えていた。

 さて、道中なにも無ければいいんだが――

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