第一巻:~始動 開戦と疑惑~
風太になにがあったのかを尋ねるとおおよそ推測していたとおりに事態は進んでいることがわかった。
内容はこうだ。
風太達が訓練をしている中、大臣のヨームがその場にいた騎士や兵士達……そしてプラヴァスなどを集めて決定事項を告げてきた。
それは、
「姫様の下にエラトリア国からの書状が届き、国交回復は不可能と判断した。そして戦いのため出兵をすることを決めた。各騎士団長はこの後ミーティングをするので集まるように」
「はっはっは、ついに戦いか。エラトリア国も覚悟を決めたか!」
「……」
「プラヴァス殿?」
「む? ああ、承知しましたよヨーム殿。聞いた通りだ! 戦いが始まる、気を引き締めるように!」
というものだった。
その話を聞いて笑う騎士団長のレゾナント。それとは対称的に難しい顔をしていたらしいプラヴァス。
レゾナントの方は戦争をするつもりだったようで嬉々として受け入れていたようだ。
頼み込んで訓練に混ざっていた水樹ちゃんが戦争になるのかと質問し、夏那が激高。だがヨームはエピカリスがそう決めたと冷静に告げて風太達も出撃してもらうと口にする。
「いくらなんでも横暴かと思います。確かになにかあれば協力はするとお伝えしていますが、命令される覚えはありません」
「なにを……」
「わかりませんか? ここに拘束される必要はない、ということです。僕達もリクさんのように出て行くことは自由だということです」
しかし風太も負けじと言い返しヨームを怯ませた。
結果としてすぐに出撃ということはなくなり一度保留となった。
だがエピカリスはなんだかんだ理由をつけて風太達を戦場に出すだろう。
その前に俺達は城へ戻らなければならない。
さらに先を急ぐ俺達の前に戦争へと向かうロカリス国の騎士団と遭遇する。
騎士団の一人を呼び止めてプラヴァスとの接触を図ることにした。
あいつらがこのまま戦争に行くのは構わないが、少し揺さぶってみるためだ。
「よう大将、久しぶりだな!」
「ああ、どうだその後は? 馬を持っているみたいだが、買ったのか?」
「ちょっと色々あってな。少し離れたところで話せるか?」
「む……よかろう」
そこでプラヴァスへエラトリア王国へ行ったこと、エピカリスの要求が度を越えたものであることを告げる。
それともう一つ、エピカリスとの話し合いで戦争を決めたのかと聞いたところ、騎士団たちになにも相談無く戦争が開始されたとのこと。
俺が不自然であろうことを言ってやると『ようやく』疑問を持つことができたようだ。
「……それを信じるのは難しいと思わないか? お前が嘘を吐いている可能性は?」
「ここでそれを蒸し返すか、よほど刺さったらしいな。判断は『お前に』任せるよ。どちらにせよ俺は風太達を連れてロカリスを出る。エピカリスは信用ならないしな。エラトリア王国には魔族がちょくちょくちょっかいをかけているみたいだし、気をつけろよ? 魔物も多い……フレーヤ、乗れ!」
それでもすぐに俺の言ったことを信用できないと返して来たのでこれ以上は時間の無駄だと先を急ぐことにする。
「はっはぁ!! 逃がすと思うか!!」
だが、そこで俺達の邪魔をする人間が現れた。
赤い髪をしたプラヴァスとは別の騎士団長が襲い掛かってきたのだ。レゾナントってやつだっけか? ふん、民間人を装っているフレーヤが居るにも関わらず斬りかかってくるとは正気じゃねえな!
「おいおい、女の子に当たったらどうする気だ! 民間人に危害をくわえたら顰蹙もんだぜ?」
「……!」
赤髪をけん制しながらそっちに声をかけると、わずかに動揺が見られた。
ここまで来たら誤魔化す理由もねえかと、俺は剣を左手に持ち替え、右手を騎士達に向ける。
「悪ぃが先を急ぐんでな、ここで諦めてくれや<
「うああああ!?」
「ぐふっ!?」
暴力の塊となった風の渦巻きが騎士達の間を抜けていくと、木の葉のように体が宙に舞い、全員が落馬する。それを見た赤髪は驚愕の表情を浮かべて斬りかかってきた。
「貴様……魔法だと! フウタとカナ以外はただの人間のはず――」
「だと思い込んでいるのがてめぇらが使えない理由だぜ! <
「なっ!?」
俺の炎の剣がレゾナントを馬から叩き落とし、ハリヤーが全速力でその場を離れていく。
「う、うう……驚きましたよ、いきなり斬りかかってくるんですもん」
「まあ馬鹿そうなヤツだったしな。これでプラヴァスなりあのアホがこっちに戻ってくると面白いんだが、どうなるかねえ?」
そんな一幕を終えて進んでいると風太からの連絡が入り胸ポケットのスマホが振動する。
「なんだ? ……嫌な予感がする、少し休憩を――」
今は無理だとスルーしていたが何度も連絡が来るのでただ事じゃないとハリヤーを止めて話をするかと思ったのだが――
「わ!? ハリヤーが加速しましたよ!?」
俺がそう呟くとハリヤ―が大きく嘶き速度を上げ、その様子で俺は、
「そうか、無理か」
と、前を見据えながらリーチェを呼ぶ。
「リーチェ、俺のポケット胸ポケットに入っているから代わりに聞いてくれ」
『え? 止まらないの? ハリヤ―を休ませた方が……』
「ダメだ。もうハリヤ―は限界だから次に止まったら恐らく走れねえ、このままできるだけ近づく」
「え!? し、死んじゃうんですか!?」
「死にゃしねえよ。けど、回復まで丸一日かかるだろうからロスが出る。だから今こいつは必死に走ってんだ。リーチェ、頼むぜ」
リーチェが聞いた話によると戦争を渋っていた風太達の前にエピカリスが直談判に来たそうだ。そこでも三人は抵抗を見せていたがエピカリスが水樹ちゃんを捕まえて人質にしたという。
……今までも疑わしいと思ったがその時点でエピカリスに対する疑惑が確信へと変わった。
僥倖だったのは水樹ちゃんからすぐに連絡を受け、監視が無い状態で牢へ入れられたことが知れたこと。場所もわかるので水樹ちゃんを助けてから風太と夏那を救出すれば問題ない。
そう思っていた矢先、
「足が……止まりました……」
「ああ」
限界を迎えたハリヤーがついに足を止めてしまった。
いつもの顔とは違い、涎と鼻水を垂れ流しながら上がった息を整えていた。だが、もうあと数キロ、遠目に町の灯りが見えるところまで近づいていた。
『ど、どうするの?』
「もうちょっとなのに……」
リーチェとフレーヤが絶望的な声をあげるが俺はこれで十分だと悟る。ここからならもし風太と夏那が出てきても視認できるからだ。
俺達がハリヤ―のことを心配しているのだと思ったようで鼻先を使って俺とフレーヤの背中を押してくる。
『自分はここに置いて早く行ってください』と言っているようだ。
「ハリヤ―はどうするんですか?」
「置いていくのが一番いいだろうな」
『そんな……』
このままだと足手まといだし、詰めた時間を無駄にするかもしれない。
水樹ちゃんが危ない目に合うかも、という懸念もある。
だが――
「よし、このまま少し休んだら歩いて戻るぞ。それならお前でも行けるだろ」
「リクさん……!!」
『うんうん、そうこなくっちゃ!』
ハリヤ―は困惑したように頭を振って俺を押すが、首に腕を回して言ってやる。
「こればっかりは聞いてやれねえよ。お前を置いていくのはナシだ。一緒に帰るんだ、いいな? ……俺ぁもう見捨てるのは嫌なんだ、分かってくれや」
俺の言葉にハリヤ―は頭を俺に擦り付けて小さく鳴いてくれたので分かってくれたと思いたい。文字通り死に物狂いで走って来たこいつを放置なんてできねえだろ?
「さて、時間との戦いになっちまったが……こんなことはいつものことだ、問題ねえ。後はケリをつければそれで終わり。プラヴァス達もこっちへ帰ったとしても間に合うかは五分だろうからな」
「なにかおかしいことがありましたか……?」
「あ? 笑ってたか、俺?」
「え、ええ……本当に、心の底から嬉しそうに見えましたけど」
「そろそろこの茶番劇が終わるから、かもな?」
フレーヤにそう告げると俺達は歩いて王都へ。
テッドにハリヤーを返してからギルドへ赴いたその夜、ついに高校生達の救出へと向かう。
門番を眠らせ水樹ちゃんを牢屋から解放。一緒に捕まっていたテッドの親父さんを含めた商人も助け出した。
商人を誘拐して食料難を演出していたようだな。
「あ、あれ? なんか門が騒がしくないですか?」
そこで先導していたフレーヤが先ほど門番を眠らせた付近を見て焦ったように口を開く。
「……俺の計画が上手くいったみてぇだな」
「計画、ですか? そういえばこの鎧の人は? 声を聞いたことがあるような?」「その話は後だ。商人さん達、今からギルドの人間が保護してくれるはずだ、もう大丈夫……のはずだ」
「『はず』ですか……?」
テッドの親父さんであるトムスが疑問を持った顔で聞き返してくるが、すぐにギルドマスターのダグラスが目に入る。
「ようダグラス、遅かったな!」
「おお、リクか! エラトリアからの刺客ってやつは見つかったか?」
「いやあ……悪い、実はそんなの居ねえんだわ」
「な、んだと……?」
そう、ここへ来る前にダグラスへ『ある程度』の情報を流してここへ来るように頼んでいた。こちらに都合のいい情報だけを。
困惑するダグラスと一緒に来ていた冒険者。そして商人。
そこへ城の方から夏那の声が聞こえてきた。
「水樹をどこかに連れ去って脅迫している人間達がよく言うわね!」
「夏那ちゃんの怒鳴り声……なにがあったんだろ……」
「気にすんな、答えはすぐ分かる」
『フレーヤ、油断しないでね』
「は、はい! というか逃がした方がいいんじゃないんですか?」
「いや、これでいいんだ。……行くぞ」
これで計画は最終段階。エピカリス、勝負といこうじゃねえか?
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