165.計画は慎重に、作戦は大胆にってな


 「……その者が捕らえた魔族か」

 「ああ、名前はレスバという」

 「名前が分かればできる呪いとかに使っていいわよ」

 【なにも見えない私にこの仕打ち!? これは期待できる……!】

 「なにがですか! は、破廉恥です!」


 やれやれ。

 

 レスバが水樹ちゃんに頭を引っぱたかれているのを見てそう思う。とりあえずグェニラ爺さんに許可をもらって集落に入った訳だが、魔族の取り扱いには十分注意してくれといわれているので目隠しをして簀巻きにしている。

 これなら俺達が動かさない限り暴れることもできないだろう。両手両足も縛っているので魔法も使えない。


 少々目立つが打ち合わせを終えればエルフの集落にはしばらく戻らないからまあいいだろう。

 とりあえず俺と風太で簀巻きを抱えて爺さんの家へ移動しようとすると、エミールが走って来た。


 「リクおにいちゃんお帰り! ファングは?」

 「お、ここに居るぞ。もうすぐお別れになるけど、遊んでおくか」

 「え……」

 「ごめんねエミールちゃん。私達はお話が終わったらまた旅に出ちゃうの」

 「うう……。うん……分かった……ファング、あそぼ」

 「わふ」


 荷台に乗っていたファングをエミールに渡してあげると少し涙ぐみながらも笑顔でありがとうと連れて行った。帰りに大泣きをしなきゃいいがと思うがな。隠さないのはそれはそれでこじれる可能性が高いからだ。


 「そういやジエールさんとちゃんと話してねえな。婆さんのこともあるし後で寄るか」

 「そうね」

 「うむ。ではこちらへ――」


 グェニラ爺さんが先を歩き、何度めかの長老宅へ足を踏み入れる。メンバーは相変わらずロディとチェル、ドアールと数人の武装エルフ。話すことはそれほど多くないので着席と同時に俺は本題から入る。

 

 「風太が大精霊のウィンディアを取り込んだことによって世界樹が現状維持より少しマシになったのは俺も聞いた。これで聖木を提供してくれるということで問題ないか?」

 「もちろん。ようやく真の勇者が現れたことを嬉しく思いますぞ。しかしヴァッフェ帝国までの道のりは長い。なにか考えが?」

 「いやあ、これが無いんだ。一度、俺達が向こうへ戻って配達部隊を編成してここへ来るつもりだ。最低でも二十日以上かかるから、その間できるだけかき集めてくれると助かる」

 「結構距離がありますからね。中継地点でもあるといいんですけど」

 『まだ転移リムーブは使えないの?』

 「……」


 リーチェが久しぶりに転移魔法のことを口にする。

 実のところ三人が世界樹の下へ行っている間に試したのは内緒だ。レスバがフェリスをあいつらの下へ送ったのを見てもう一度チャレンジしようとやってみた。


 ……が、結果はダメ。


 さっきトマトソースを頭からかぶって気絶していたわけだが、転移先を森の入り口付近に設定して魔法を使ってみた。転移前に一瞬の浮遊感があるんだが、それを感じて『お、上手くいった』と思った矢先、ぐるりと一回転して頭から鍋に突っ込んだという訳。

 レスバには口外するなと口止めをしておいたので誤魔化してくれたが、まあそういうことだ。


 ロカリスにいる時は発動すらしなかったからこの世界に馴染んで来たとみるべきか? でもあそこまでいって失敗をするというのはあまり考えられないんだが。

 ゲームなどで失敗すると元の位置に戻されるというものがあるがそれに近い。ただ、なんらかの意思でさせてもらえないという感じはあったな。


 「転移は無理だ。地道にローラー作戦するしかねえな」

 「仕方ないですね。とりあえず私達の馬車に乗せられるだけ持って行くというのはどうですか?」

 「水樹ちゃんの案を採用だ。すぐには難しいだろうし、折角作ってくれた家も活用させてもらいたい」

 「問題ありません。出発は?」

 「三日後だ。それまでに頼む」


 後は細かいところを詰めていくだけだが問題は集落の出入りを多くすると偵察している魔族に集落が見つかる恐れがあることがネックだ。


 「確かに……」

 【基本的に魔族は空を飛びますからね。地上戦しかできないのもちらほらいますけど】

 「いい方法がないかしら?」

 「あるぞ」

 「あるんですね!?」


 夏那の疑問にあっさり答えたことで風太が驚愕の声をあげる。そこは元勇者の力を使えばなんとかなる。


 「三日の間、俺は集落のどこかから地下道を掘り進めようかと考えている。森の入口ギリギリで木が特に多いところまで掘り進める」

 「それだと穴から誰かが侵入してきませんか?」

 「まあその可能性はある。が、その出口付近を風の精霊が迷わせて辿り着けないようにすればなんとかなるだろう。もちろん出入り口に結界を張っておく」


 結界イージスなら解除しなければほぼ無期限に敵をブロックできるから心配事はかなり減る。帝国の人間を連れてきてから掘り始めると大部隊を広げた状態で放置もできないし時間もかかる。

 

 「なるほど。リク殿の強さは分かっておりますので結界魔法も相当なものでしょう」

 「納得してくれて助かるよ」

 「あの、レスバちゃんに聞かせて良かったんですか?」

 「ん? ああ、問題ないよ水樹ちゃん。どうせこいつはもう行くところが無いはずだ」

 「そうなの?」


 夏那の言葉に頷く俺。

 根拠はと言われればいくつかある。まずこいつは現状を打破できる力が無い。転移魔法が無い時点で風太達で勝てる程度の強さしかないから。

 次にもし逃げた場合だが、すぐに他の軍勢を連れてここまで戻ってくるまで時間がかかる。よしんば上手く戻れたとしても向こうから来てくれてありがとう、全滅させるぜ。という感じになる可能性が高い。

 恐らくだが地図の距離的に俺達がヴァッフェ帝国に戻って帰ってくるのと軍勢を連れてくるのはほぼ同時になるだろうと考えている。


 最後に二人で話している時にレスバ自体、俺達の事情と自分たちの事情を鑑みてどうすればいいか分からないといった感じだからだ。真面目な話、身内は居るようだから俺を裏切ったら殺されるであろうということも理解しているしな。


 【身も心もリクさんのものおふお!?】

 「魔族にはやらないわよ? それじゃまとめると、ある程度聖木をあたし達が持っていく。その積み込みには三日でできるだけね。で、その間にリクが地下道を作ってレスバは火あぶり、と」

 【おや!?】

 「だいたいそんな感じだな。というわけで申し訳ないがもう少し世話になる」

 「いえ、魔王を排除することに協力できることを嬉しく思う。心強い限りだ。よし、世界樹の快復祝いだ、宴会をするぞ」


 グェニラ爺さんがフッと笑って声をあげる。人間相手に嫌な目にあったろうし、魔族も居るのにな。


 さて、それじゃ早速地下道を……といきたいが、先に婆さんの用事……ジエールさんと話をしておくかね。

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