八章:魔族との会談

166.次のステップへ行く前の休息だな


 「ふう、これで三分の一ってところか」

 「す、すごいですね。こんなに地面が簡単に掘れるなんて」

 『土魔法の掘削ディグは色々役に立つのよね。崖を掘って部屋を作れたりするし』

 「旅には結構ありがたい魔法ですね」


 風太が感嘆の声でそう言い、俺は頷いてから肩をポンと叩いて来た道を戻りながら話を続ける。


 「上手くやれば土壁にもできるし、簡易のテーブルセットやかまどなんかも作れるから、一人旅なら最初に覚えておきたい魔法の一つだな。俺は岩に穴を空けて中に入ってから空気穴を作った後、入り口を閉じて完全に防御できる住処を作っていたな」

 「面白いですねそれ!」

 『魔物退治で同じ場所に滞在しないといけない時なんかは凄く良かったわ』


 リーチェの言う通りすぐに出てこない魔物の素材を手に入れる時などは重宝したものだ。空気穴はあるが入り口が無いので人型の魔物が首を傾げていたのが面白かった。

 あまり元の世界での話はしたことが無いから二人とも興味を持って

 そんな話をしながら集落に出ると、待っていたというかレスバを監視していた夏那と出くわす。


 「あ、おかえり! どう経過は?」

 「都合四日かかりそうだけどなんとかなりそうだ。風太達は地上から馬車で森を抜けてもらい、後から追いつく形になるかな」

 「でも十分じゃない?」

 「まあな。それでレスバはどうした?」


 レスバは簀巻きから解放されたものの、両手の拘束と監視は絶対条件として一応、期間内も滞在を許された。

 俺はそんな両手を拘束されて地面に寝転がっている彼女を見て尋ねると、夏那が口を開く。


 「脅かされたことに不貞腐れているのよ」

 「驚かせ……? ああ、火あぶりの」

 「そうそう。まあこの子はもうそこまで憎しって感じじゃないけど、魔族に油断できないのは確かだからね」

 【まあ、そこは否定しませんがね。とはいえ、私としても死にたくありませんし暴れる気はありません。その気になればそこのイケメン兄さんの夜の奴隷になってもいいですし……!】

 「はあ?」

 

 レスバが悶えていると風太が今までに見せたことが無い顔と声色で見下ろす。それを見た夏那が苦笑しながら口を開く。


 「あー、ダメよレスバ。風太はそういう話が嫌いだから、好かれるどころか本気でキレるわよ」

 【それはそれで……!】

 「どういう意味ですか?」


 水樹ちゃんが眉を顰めてレスバの頬を引っ張っていた。

 とりあえずすっかり暗くなった周囲を見渡すとエルフ達が宴の準備を始めているのが目に入る。始まる前に休憩しておくか。


 「ま、風太がそういうのが嫌いってのは分かる気がするな。真面目だし。それはともかく一旦、家へ戻ろうか。レスバは俺が監視しておくからこっちな」

 「オッケー。副幹部クラスだとあたしと水樹じゃなにかあった時に止められないかもだから任せるわ。エッチなことはしないでね?」

 「しないっての。とりあえずウィンディアを取り込んだことで現時点なら風太一人でもレスバには勝てるだろうな」

 「え、本当ですか?」


 レスバを夏那と一緒に連行している水樹ちゃんが首だけ振り返って聞いてきたので、俺は頷いてから続ける。


 「ああ。魔力はそれほど上がっていないと思うが身体能力が強化されているはずだ。俺と同じならな」


 風の大精霊なら素早く動けるようになっていると思うが、使い方はいずれ分かるだろうと告げる。風太が自分の手を見つめながらなにかを感じているような顔になっていた。

 

 「いいわね。あたし達も大精霊の力が手に入るかしら……?」

 「どうかな」


 ……その前にセイヴァーの下へ到着することになりそうだからな。原因ははっきりしたわけだし、元の世界に戻る手がかりも現状、無い。そう考えるとセイヴァーをなんとかするのが一番いいだろう。

 そのあたりは婆さんのところへ寄ってから交えて話すつもりだ。


 ちなみにフェリスのことは三人とも口にしない。

 自業自得という部分が強く、下手をするとレスバよりも迷惑だと感じている可能性が高い。


 ただ目の前で消えたから心配していないわけではないと思う。が、出来ることがないというのも理由だと考えている。


 「リクさん、タオル」

 「サンキュー」

 【ベッドが柔らかい……野宿じゃない!】

 「そこ感動するのかよ」

 

 それから一度エルフ達が建ててくれた家で汚れを落とし、ロディが迎えに来てくれたので宴へと向かった。

 案内された場所は世界樹が見える場所で、テーブルは無く地べたに座って宴をするようだ。いわゆるお花見スタイルというやつだな。


 「それでは……勇者様ご一行による魔族の幹部撃退と世界樹の復活にカンパーイ!!」

 「「カンパーイ!!」」

 「ささ、御馳走も用意していますよ!」

 「ありがとうございます」

 「うわあ、エルフって質素なイメージがあったけどそんなことは無いのね!」

 【カナ、早く私に食べさせてください!】


 魔物の肉を使った焼き料理にサラダ、果物の盛り合わせを前に女子三人が色めき立つ。

 世界樹がひとまず枯れることが無くなったことで、エルフ達のテンションはかなり高かった。グェニラ爺さんですら仏頂面を笑顔に変えるほどに。


 「久しぶりにいい気分じゃ。リク殿も飲んで下され」

 「ああ、サンキュー。風太達も飲みすぎなければいいぞ」

 「あ、ホント? なんか果実酒のいい匂いがしてて飲んでみたかったのよね! チェル、あたしに一杯お願い!」

 「お、いいわね! かんぱーい♪」


 さっそく夏那がチェルを誘って果実酒を受け取りグラスを傾ける。すると水樹ちゃんも手を上げて近くのエルフへ声をかけていた。


 「わ、私も飲んでみたい、です」

 「僕ももらおうかな」

 「みんなー! 勇者様達が酒を飲むみたいだぞ! 乾杯ぃぃぃ!」

 「い、いや、そんな大げさな!?」

 「風の大精霊様と契約した人間がなにを言っているんですかい!」


 お調子者のドアールらしい陽気さで風太に絡んでいるのを見て笑みが零れる。エルフにしてみれば風太は大精霊と同義だから敬われてもおかしくはないんだよな。


 「きゅん……!」

 「ほら、ファング、切り分けたぞ」

 「わふわふ……」

 「可愛い!」

 「ウル、あんたしれっとリクさんの隣に座ってるんじゃないわよ」

 「チェルだって狙ってるくせに!」

 「おいおい、喧嘩するなって」

 「はは、リクさんモテモテですね」


 酒を注いでくれるウルと、チェルが言い争いをするのを止める俺。それに苦笑する風太。そんな盛り上がりを見せる宴の最中、一人の男が俺の前にやってきた。


 「よう。ここ、いいかい?」

 「あんたはジエールさん。後で話に行こうとしていたところだ、ちょうどいいぜ」

 「ファングー!」

 「わん!」

 「二人も席を外してくれるか?」

 「わかりました。行くよウル」

 「えー」


 チェルが気を利かせてくれ、ウインクをしながらウルを連れてこの場を離れてくれる。聞かれて困る話ではないけど、婆さんのこともある。協力を仰げと言っていたが何の話が聞けるかな?

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