異世界二度目のおっさん、どう考えても高校生勇者より強い
八神 凪
一章:異世界へ
第一巻:~召喚 異世界へ~
俺、高柳 陸は三十二歳のくたびれたサラリーマンでどこにでもいる普通の一般人男性だ。
後輩の仕事の尻ぬぐいを終えた俺は繁華街へ行こうと足を運んだのだが、そこで思わぬ事態に巻き込まれることになった。
「あ、な、なんだ……!?」
「ん?」
前を歩く男子学生が変な声を上げたので顔を上げると、カップルの足元に紫色の……魔法陣が現れていた。
「な、なによこれ……! う、動けない、なんでぇ!?」
困惑するカップルの女子生徒が移動しようとするが、その場所で固まったように身動きが取れないらしい。
だが、この感覚に俺は覚えがあった。
すぐに離れなければ、という思いとあの二人を助けなければという考えが一瞬よぎった瞬間、眼鏡の女生徒が二人を助けようと魔法陣に足を踏み入れるのが見えた。
「か、夏那ちゃん……!」
「水樹!」
「馬鹿……! もう間に合わねえ、お前だけでも離れろ!!」
「え!?」
そこで魔法陣がさらに光り輝き、眼鏡の女生徒も中心に引きずられていく。
すぐにこれが異世界への扉だと気づく。
なんでかって?
それは俺がかつて若いころ、同じような目にあったことがあるからだ。
そして到着早々、それを的中させる出来事がすぐに起きることになる。
「ああ、異世界の勇者様! お待ちしておりました!!」
どこかに到着した瞬間、甘ったるい女性の声が聞こえてきた。
早速『勇者様』というワードを聞いて俺はロクなことにならないと胸中でため息を吐く。
俺達、正確には高校生二人に対して勇者様と口にした女は異世界のお姫さんだった。
彼女が言うにはこの世界は魔王に侵食され危機に瀕しているとのこと。
しかしそんな折、隣国の『エラトリア王国』との国交に不和が生じて食料難となり、戦争が始まるかもしれないと言う。
「い、いきなりそんなことを言われても……俺達、ただの高校生で……」
「大丈夫ですわ。異世界から召喚した人間はこの世界の人間より魔力や力が強くなりやすいのです。少し鍛えれば、お二人はすぐに魔王を倒すことができると思います」
「ま、マジなの……? って、さっきから二人だって言ってるけど、この子とあのおっさんはどうなのよ!」
「か、夏那、落ち着いて……」
「落ち着けるか!? 訳も分からないままこんなところに召喚されて、こっちの都合はおかまいなし発言。あんたも怒った方がいいわよ!」
「はは、確かにそうだな」
高校生達は抗議の声を上げる。
実際、ここに喚んだのはどうやら『二人』であって、俺と眼鏡っこは対象外。それについて語り出すエピカリス。
「……そうですわね、こちらとしても心苦しいのですが、こちらの方とあちらのおじさまは勇者ではありませんの。勇者様……ええっと、お名前を聞かせていただいても?」
「俺は奥寺 風太といいます」
「緋村 夏那よ」
「わ、わたしは……」
「フウタ様、残念ですがこのお二人はなんの力も無い人になります。なので戦いに出ることは難しいでしょう。かといって元の世界に戻すのは魔王を倒してからになりますし……」
と、こちらの行動が制限されていることを強調する。
これは間違えて召喚したわけじゃねえな。恐らくあの二人が『勇者』ってのは本当だろう。
自己紹介を遮られた眼鏡っ娘と俺に何の力も無いのは未定だが、恐らく人質として利用するために喚んだと推測され、続いてそれを裏付ける発言をする姫さん。
「そうですわね、こちらの不備なのは明白ですので、元の世界に戻るまでお城にて保護させていただきたく思います。もちろん丁重に」
だよな、俺はともかく友人枠っぽい女子生徒を手元に置いておかない理由は無い。
何故か?
自分達に手が負えない魔王を倒すために異世界人を召喚したわけだが、その召喚した人間は『自分達に手に負えない相手を倒せる』のだ。
ということはこの世界で一番強い存在になるわけで、そんな存在が大人しく言うことを聞くだろうか? 答えはノーだ。
しかし、保険として『人質』が居れば確実に従うだろう?
だからエピカリスが勇者二人を上手く扱うようにするために眼鏡の娘も『ついでに』召喚したと推測が立つ。
そんな押し問答をを繰り返しても仕方がないと俺は男子高校生の風太に耳打ちをして一旦落ち着くことを提案。
宛がわれた部屋で俺達はお互いの現状確認をすることにした。
「えっと、随分冷静ですけどあなたは一体……?」
「よく聞いてくれた風太。俺は高柳 陸。お前達くらいの年に、こことは違う異世界で勇者をやっていたことがある。あ、これ名刺な」
さっとビジネスカバンから名刺を取り出して三人に渡す。
夏那が眉を顰めて俺と顔を見比べていると、水樹ちゃんがおずおずと手を上げて俺に言う。
「あ、あの、それじゃ一度異世界に行ったことがあるってこと、ですか?」
「そういうこった。だから色んな意味で君たちの先輩だな」
「マジですか……!? そ、その時はどうしたんですか?」
「あー……それについてはまた今度だ。とりあえず今後のことを話したい」
まず、告げる必要があったのは俺が別の世界で似たようなことがあったという話。
『戻れる可能性がある』ことを示唆しておけば自暴自棄になりにくくなるからだ。
「その前に、おっさんが厨二病を拗らせているだけかもしれないじゃない?」
「証拠が欲しいのか……そうだな」
夏那と名乗った女の子の言う通りおっさんが適当なことを言っているだけかもしれないというのは分かる。
だから俺は確固たる証拠を見せるためある魔法を使う。
「<
「あ……」
別世界でも前の世界で覚えた魔法が使えるという実験という意味合いもあったが上手く成功。
水をすくうような形をしている俺の両手に淡い光が集まっていき、掌に妖精のような小さな生き物が残った。
『ん……ここ、は?』
「よう、久しぶりだな、リーチェ」
『あなたは……? ……って、あんた、もしかしてリク!?』
「しゃ、喋った!?」
驚く三人に魔法で登場させた小さな妖精のような生物の名はリーチェ。
俺が前の世界で四大元素の火・水・土・風を合成して創った人工精霊で、相棒とも言える存在だと説明する。
流石にリーチェを目の当たりにすると素直にこちらの話に耳を傾けてくれ、俺の考えを素直に受け止めていた。
そして<
これでどこでも連絡が取れるようになったので俺はこの後どう動くかの説明を始めた。
まずは風太と夏那には勇者としての訓練を受けてもらい、エピカリス達に疑いをもたれないようにする。
次に水樹ちゃんへ俺が使う魔法を少し教え、使えるようなら一定のレベルまで鍛えておきたい。
で、俺は水樹ちゃんが一人でも身を守れると判断した時点でこの国……ロカリス王国を一旦出ていくことを話す。
「はあ!? あんた逃げるの!?」
「落ち着け、夏那ちゃん。姫さんが言う隣国の様子を見に行こうと思ってんだ。自分の目で見なきゃ敵かどうか判断つかないだろう? でもお前達は恐らく実戦が始まる……すなわち戦争を起こすまでは外に出さないと思う。だから俺が偵察に出るってわけさ」
「で、でも、その間はどうすれば……」
「あ、それでスマホ?」
夏那の閃きに頷くことで肯定し、今後のプランを話すことができた。
その後は詳しい自己紹介をして過ごし、エピカリスの話を聞くこととなった。
「一応、勇者を呼んだ経緯をもう少し詳しく話をしないといけないと思いまして。魔王がこの世界に居るとお話しましたよね? 各国は魔王配下の魔族に対抗しています。我がロカリス王国ももちろん戦いを行っています」
魔王が居て魔族が各国を襲う……前の世界と同じ状況らしい。
それを打破すべく勇者を呼んだということだが、その前に隣国との協議を正常化して魔族との戦いに臨みたいとのこと。
「それなのにどうして隣国を倒そうと思ったのです? 人間同士で戦っている場合ではないのでは……」
風太が核心をついてくれたが、食料や物資不足の問題が解決しないことには魔族との戦いに勝てないと返された。
そのためには戦争も止む無し。結局のところ今は言いなりになるしかないと引き下がったが俺にはどうもキナ臭いと感じていた。
理由は簡単。
エピカリスの話が本当かどうかが不明だからだ。エラトリア王国とやらが本当にそうであれば言い分もわからねえでもねえ。
しかしエピカリスの態度は明らかに魔族よりも隣国への対策を優先をしているのが逆に気になるんだよな。
結局、話し合いは現状の再確認と隣国との交渉のため風太と夏那を鍛えるという一方的な要求を聞くだけとなった。
「……リクさん、僕達なんとかなりますかね……」
「なんとかするしかねえだろ。ま、俺ができることは手伝ってやるから、お前はお前のできることをするんだ。夏那ちゃんと水樹ちゃんを守ってやれ」
「はい……。本当に出て行くんですか?」
不安気に俺を見る風太。
俺が一緒に居れば確かに楽にはなるだろうが、こんな不安定な足場のまま行動は好ましくない。
そして勇者ではない俺に能力があることを知られないよう、目につかないところで俺自身の能力がどの程度使えるのかを把握しておく必要がある。
後は隣国が本当にそうなのかを調査確認するためにエラトリア王国へ行くことはかなり意味があると三人に告げて納得してもらう。
『また戦いかあ。あんたも難儀ね』
「そういうもんなのかもしれねえな」
実はリーチェが召喚できたことはかなり嬉しかった。なんというか、夢だったんじゃないかと感じていた前の世界の繋がりが帰ってきた。そう思ったからだ。
そんな長い一日がようやく終わり、俺達は次のステップへと移る。
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