163.一歩ずつ前へ進むけど、レールの上を歩いているような気がするわね……?
「どうする? リクに報告しに行く?」
「うん。ポリンさん達が戻ってくるまでに水樹が目を覚まさなかったら僕が行くよ」
『わたしが行ってもいいけど?』
ベッドに寝かせている水樹の額に乗せているタオルを交換しながら横に立つ風太に声をかけるとリーチェが代わりに行くと言ってくれた。
「リーチェなら安心かな? お願いしていい?」
『オッケー! あの魔族に一撃を極めてくるわ』
あえてなにも言わないでおこう。
すぐにリーチェが窓から飛んでいき、あたし達三人だけが残された。
で、とりあえずエルフについてはリーチェと水樹が最後の一押しをしてくれたのであたし達に対して完全に信用をしてくれると思う。
うーん、結局のところリクの目論見だった『魔王と対峙しないで帰る』という選択肢がどんどん削られているような気がするわね。
これはあたしの勘だけど、最終的に魔王の下へ行くというのは確定事項なのかも……?
水樹がウィンディア様に聞いた話によると魔王はリクが知っているという。それ自体は特に問題ない。だってレムニティは一方的だけど顔見知りだし、魔王の名前もセイヴァーで合っている。
水樹は訝しんでいたけど『女性である』というのもグランシア神聖国で羽を伸ばしていた時に聞いた。水樹の彼女を殺したのかという質問に魔王が向こうの聖女様を取り込んだ。それを討ったと言っていたのをあたしは覚えている。
……だけどひとつ、疑問が残る。
「ねえ、風太」
「なんだい夏那?」
「前の世界でイリスさんって人が魔王に取り込まれた時、リクは『跡形もなく消えた』と言っていたわよね」
「そう、だったっけ? 取り込まれた話までは……うん、覚えているよ」
「なら最後に魔王と戦った姿はなんだったのかしら?」
「ん……」
あたしの言葉に風太が首を傾げたので思っていることを説明する。
これはリクに聞かないと分からないことだけど、魔王セイヴァーが『元々、女性だったかどうか』は重要なのよね。もしリクが倒した魔王が女性でない場合、この世界に居る『女性の姿をした魔王』は何者なのか?
「なるほど……。確かに完全に取り込んだなら女性である可能性は低いか。ならレムニティ達がリクさんを知らない理由もなんとなく分かる気もする」
「ホント?」
「例えば並行世界ってあるだろ? 似た世界でも微妙に違うって感じの」
風太の説明で有り得なくはないと頷くあたし。
だけどあたしの推測だと魔王はリクを知っている気がするのよね。一連の流れはリクを自分の下へ呼ぶための布石、とか。
「あー、でもアキラスがリクを使えないと言っていた理由がわかんないや」
「まあこればっかりはリクさんを交えて話さないとわからないよ。それともリーチェに聞いてみる?」
「あの子は喋らないんじゃない?」
推測はこれ以上捗らないかと首を振り、新しい話をしようと話題を変える。
「そういえばウィンディア様を取り込んだけど体はどうなの?」
「そうだなあ。今のところ全然いつも通りだよ」
「あれ、そうなの? 凄い力が湧いてくるとかそういうのは?」
「はは、漫画とかにありそうだね、それ」
風太が苦笑し、あたしも確かにと噴き出す。するとその瞬間、ぼんやりと風太の背中に女性の姿が現れた。
「……!? 風太、後ろ!」
「え? なんだ?」
『え?』
「え、そういう動き!?」
風太が後ろを振り返ると女性は背中にくっついたまま移動する。なので再び風太の背後にいる形になり、まるでコントみたいになっていた。
『なにかいましたか?』
「今の声は誰だ!?」
「えっと、もしかしてウィンディア様ですか?」
『そうですカナ様。先ほど紹介にあずかったウィンディアです。今後ともよろしくお願いいたしますね』
「ええ? 夏那は見えているのかい?」
「うーん、ウィンディア様は風太の横に立つことはできませんか?」
アタシがそう言うと彼女はスッと横に移動してくれた。姿を見ることができた風太が頭を下げて挨拶をする。
「あ、この度はどうも。風太です」
『こちらこそ力を与えてくれありがとうございます。それで先ほどカナ様がおっしゃっていた力の解放の件ですが、申し訳ありません。本来ならそういうことも可能なのですが……』
ウィンディア様が困った顔であたし達に告げた内容はシンプルで、風太の力を世界樹に注ぐため、ウィンディア様はそっちに集中しているらしい。だから風太の力がそのまま世界樹にいってしまうため、ウィンディア様が風太を強化してもプラマイゼロということらしい。
「なるほどねー。他にも火とか水も居るんでしょ?」
『はい。魔王を止めれば世界樹への侵食は止まります。しかし魔王がいつ倒されるかわからないとなると大精霊をカナ様とミズキ様に宿すべきだと考えます』
「リクは?」
『彼にはリーチェ様がついているので難しいかと思います』
「そうなんですか?」
風太が尋ねるとウィンディア様が小さく頷き理由を口にする。
『リーチェ様はご存じのとおり四大属性を全て内包する大精霊よりも高い位です。わたくし達が一個体つくよりもリーチェ様が居る方が強いのですよ』
「リーチェがねえ……」
いつもお気楽なイメージがあるリーチェはあまり凄い感じはしないんだけど、大精霊である人から話を聞くと精霊界のチャンピオンみたい。
『そのリク様という方であれば魔王はすぐに倒せそうだとわたくしは判断します』
「まあ別の世界で一度倒していますからね」
「船を手に入れたらすぐに向かうかしら……? っと、戻って来たわね」
『ではわたくしはまたフウタ様の中へ戻りますね。少し休ませていただきます――』
外が騒がしくなってきたのでウィンディア様が出た時と同じようにスッと消え、入れ違いにポリン達が戻って来た。
「戻りました!」
「おかえりー。世界樹はどうだった?」
聞いてみたものの満面の笑みであるポリンを見れば感触は上々だと思うけどね。するとそれを裏付けるかのように長のおじいさんが風太の手を取って口を開く。
「ありがとう勇者様。世界樹の葉が輝きを取り戻しました。ウィンディア様がしばらくはとおっしゃっていましたが、少し前までと違い活力に漲っておりました」
「ウチの水樹とリーチェが頑張ったんだから当然よ!」
「あはは。それじゃ聖木を分けてもらえるお話は……?」
「もちろん、出来る限り協力しますぞ! 宴だ、今日は宴をするぞ!」
ふふ、仏頂面だった長のおじいさんが興奮気味に声をあげているわね。よほど嬉しかったみたいだし、浮かれるのも無理はないか。
「でもやっぱり交渉ならリクさんが居て欲しいかな……」
「そうね。リーチェが戻ってきたら方法を考えましょうか」
「そういえば魔族を捕えているんでしたな」
長のおじいさんがそう言った瞬間、ハイスピードで窓からリーチェが飛び込んで来た。
『カナ、フウタ! ちょっと一緒に来て! リクが――』
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