152.邪魔はさせない
「リクさん……!?」
「え!? 嘘でしょ……!」
水樹と夏那が驚愕の声を上げ、その意見には賛成だと踏み込んだリクさんを見て喉をならす僕。
なぜなら初見で相手に攻撃を仕掛けたのを見るのは初めてだったからだ。
「てめぇは……!」
「なんだお前は……! な、んだと!?」
相手の男が即座に剣を抜いて反応するも一撃で剣を真っ二つにし、そのまま返す刀で首を狙う。だが男もすぐに身を翻して距離を取る。
「遅いぜ」
「ぐっ……!? お前、人間か!? ぐあ!?」
それでもリクさんは手を休めずに攻撃を仕掛け続け、徐々にダメージを与えていく。そこで僕の近くまで来たロディさんがやはり戦慄しながら口を開く。
「彼はどうしていきなり襲い掛かったのだ……? 確かにウルを傷つけたのは間違いないが……」
「分かりません。今までこんなことは無かったんですけど……」
「明らかに怒っているわね、加勢するにしても止めるにしてもあの猛攻じゃ手が出せないわ」
「リ、リクさん! どうしちゃったんですか!!」
「止めるな水樹ちゃん、こいつはここで始末する必要があるんだ」
「があ!?」
深い……!
左肩を切り裂いた剣はそのまま食い込み血しぶきを上げる。
そしてはっきりと「始末する」と公言したということはこいつ、もしや――
「<ホーリーランス>!!」
「うおっと……!」
「チッ……へへ……」
僕がある考えににいきついた瞬間、僕達の背後から魔法が飛んでいきリクさんの足元で炸裂する。振り返った夏那が撃った人物……フェリスへビンタを繰り出した。
「あんた!」
「ぐっ……ゆ、勇者一行がどうしてここに……」
「それはこっちのセリフなんだけど? それにエルフを怪我させてくれたみたいじゃない、どういうこと? あの男はなんなのか聞かせてもらいたいわね」
「それは……私も聞きたいわ。それにいきなり斬り殺そうとするなんて恐ろしい真似を止めただけ感謝して欲しいものだわ」
「屁理屈ですよ。レムニティの時もそうでしたが私達の邪魔をするのは止めて欲しいです。リクさんも考えがあっての行動だと思います。エルフを傷つけたのは事実、それはフェリスさんの方がよくご存じでは?」
「……でも――」
水樹の言葉に視線をはずすフェリスが弁明しようとするが、エルフがケガをしたのは間違いなくあの男のせいなので言い淀む。そこで剣の血を振り払いながら男から視線を外さずに口を開いた。
「フェリスよ、お前が馬鹿なのはこの際どうでもいいがとんでもないやつと行動を共にしていたもんだな」
「な、なんですって……! 役に立たない異世界人が偉そうなことを言って! ……きゃっ!?」
「うるさいわね」
『カナが怖い……』
「くぉーん……」
「フェリスにはレムニティの時に邪魔されているからね……」
夏那がしきりに次に会ったら引っぱたくと言っていたのでそれが果たされた形だ。だけど今はリクさんの言葉が気になると耳を傾ける。
「とんでもないとはご挨拶だな、ええ? お前は何もんだ、ちょっとエルフを可愛がってやったがそれで殺されるいわれはないんだがな。俺達はそこのエルフに魔法を教えてもらいに来たんだが――」
「――人質に脅迫で迫り、必要な情報を得てから集落を全滅させるつもりだったか? やり方が変わってないから分かりやすくていいぜ」
「リクさんが知っているということはやっぱり……そいつは魔族、ですね」
「ビンゴだ、風太」
「なんですってグラデルが魔族……!?」
先ほど考えていた推測を僕が口にするとリクさんはあっさりと肯定し、フェリスが驚いた声をあげる。そして剣を突き付けてリクさんが続けた。
「こいつの名は魔炎将グラジール。恐らく一番小賢しい手を使う残虐度の高い幹部魔族だ。あの火柱で半分くらいは確証を得ていたが……そうだな?」
「……さあ、なんのことだかわからんね。……!」
「しらばっくれてもいいがその姿のまま死ぬことになるだけだぞ!」
「手伝いますよ!」
「大丈夫だ、それよりなにをしてくるか分からないから身を守れ、エルフ達はその子を連れて下がるんだ!」
リクさんが唾を吐いてから踏み出し僕達へ指示を出し、ロディさんが困惑する中ドーラスさんが捕まっていたエルフの子を抱えながら言う。
「わ、分かったぜ! 幹部が相手なら勇者に任せておいた方がいいぜロディ!」
「し、しかし……」
「捕まったりしたら足手まといになるわ、離れたところにいるから」
「気を付けてください。おっと、フェリスはそのままで頼むよ」
「子供が生意気を言う……!」
逃げる気は無かったと思うけどフェリスがあの男と繋がっているのは間違いなさそうなのでこちらで確保しておく必要があるため僕と夏那で捕まえておく。
これでフェリスを捨て駒にしていると判明するだろうし、なにより彼女に邪魔されないからだ。
……まさかリクさんに向かって魔法を撃つとは思わなかった。とんでもない人だよ……だけど、不憫なのは彼女の憎悪の対象である魔族。あの男がそうであるなら憎むべき相手と行動を共にしていたということになる。
「死ね、お前はレムニティとは違い危険すぎる。このまま処分するぞ」
「く……」
「やったわ!」
「く、くく……なるほど、人間にも勘のいいやつが居るものだな……!】
リクさんの斬撃が腹部にヒットすると血を流しながらたたらを踏んで笑い、右腕が人間とは違うモノに変わりリクさんの顔面を撃ち抜こうと突き出してきた。
それをヘッドスリップで回避し顔を突き合わせる形になる。
「あ、ああ……そんな……」
「ふん、ようやく正体を現したかグラジール」
【お前はなんなんだ? どうして俺を知っている……?】
「それを知る必要は無いな」
【こいつ!? <へルフレイム>!】
力任せに吹き飛ばされたグラジールが飛びながら魔法を放つ。リクさんはそれを剣で斬り裂きながら前進する。
「ふん!」
「すご……!」
「流石リクさん……にしてもあそこまで鬼気迫るのは初めてかも……」
『ま、相手があいつなら仕方ないわ』
「あいつとなにかあったの?」
リーチェが向こうの世界グラジールとの因縁を話し出す――
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