151.おおよそ人間とは思えぬ所業



 「なんだ……!?」


 突然上がった火柱にエルフ達が騒然となる。

 治療を終えた俺もその様子を見ていたが、ただ事じゃないということを悟りロディ達へ声をかける。



 「ロディ、嫌な予感がする信用を得るってわけでもないが俺に行かせてくれるか?」

 「しかし、経緯はどうあれ客人を……」

 「行ってもらいましょう、勇者様が居た方が安全だしウルが捕まっているなら人手は多い方がいいわ・……きゃあ!?」

 「また……!」


 チェルが援護をしてくれた瞬間、またしても火柱が上がり予断を許さないという状況を知らせてくるとロディは小さく頷いてからエルフ達へ指示を出す。


 「すみませんリクさん。戦闘の準備をすぐにして俺達の後に続いてくれ、勇者様と共に先に出る!」

 「僕達も行きます」

 「今回は俺だけでもいいぞ」

 「ううん、あたし達は一緒のパーティでしょ? 戦いになるなら一緒に行くわ」


 夏那の言葉に風太と水樹ちゃんが頷き俺は肩を竦めながら苦笑する。


 「なら急ぐぞ。この子の仲間が死にかけているみたいだしな」

 「ええ!」

 「こちらへ!」

 「行くぜ勇者様達!」


 ロディとチェル、ドアールが先行し俺達もその後を追うため走り出し森の中を進んでいく。馬車は取り回しが良くないので今回はハリソン達がお留守番だ。


 「ま、また……!? 魔族でしょうか?」

 「どうかな。ロディ、人間がエルフの森を焼き払おうとした記録はあるか?」

 「この五十年は静かなものでしたよ。魔物を倒すために冒険者が足を踏み入れることはありましたが、精霊様が迷わせてくれていましたし……」

 「そうか」


 そこで夏那が俺の考えを見透かしたかのように口を開く。


 「……あの火柱は確実にこっちへ来ているわ。捕まったエルフの子が話したのかしら?」

 「それはあるかもしれないけど、破壊しながらこっちへ来るのはおかしくない? 目的がわからないけどエルフを傷つけると怒るに決まっているのに」

 

 概ね正解を言う水樹ちゃん。

 交渉の余地なくエルフを捕まえて森を焼き払い始めたということは確実に敵対する意思があるということなので目的は恐らくエルフの集落だろう。


 徐々に近づいてくる爆発と火柱に向かって俺達は走る――



 ◆ ◇ ◆



 「グ、グラデル止めなさい! このままでは森が焼けて無くなってしまいます!」

 「くく、いいじゃないか別に? こいつが集落の位置を教えてくれたし迂回するのも面倒だろ?」

 「う、う……み、んな……ごめん……俺のせいで……」


 グラデルに髪を捕まえられているエルフが血を口から出し、涙を流してぶつぶつと呟いていた。

 彼と共に行動していた私は今までこんなことをするような性格じゃなかった……はずなのに、エルフの髪を掴んで引きずり、森を荒らしていくグラデルに困惑していた。

 

 「だから止めなさい……! エルフに魔法を教わりに来たのにこれでは人間との確執が深まるだけじゃない!」

 「いいんだって、こいつが居ればいうことを聞くだろ?」

 「あ、あう……」


 グラデルが腰をかがめて肩に矢が刺さったエルフの首に腕を回しながらそんなことを口にする。そこでなにかに気づき胸の防具を強引に引きちぎり服を破る。


 「へえ、女だったのか。せっかくだしエルフの具合を確かめておくか」

 「あ、い、いやあ……! あああああ!?」

 「うるさいぞ? お前はもう俺のモノだ、好きにさせてもらう」

 「や、止めなさい! ……きゃあ!?」


 ニヤニヤと笑みを浮かべながら刺さった矢をさらに深く突き刺しエルフが絶叫したので、私は慌ててグラデルを引き剝がそうと手を伸ばすが腕の力だけで振り払われてしまう。

 ズボンをはぎ取ったグラデルが口笛を吹いて舌を出して言う。


 「お、いいねえ。お前、初めてか」

 「やだ! 嫌だよぉ……う、ふぐ……誰か助けて……」

 「この……!」

 「おっと。嫉妬は可愛いが、フェリス、お前は後だ。邪魔すんなって」

 「あなたとは協力関係ですけど……こ、これ以上横暴を働くなら撃ちます!」


 私が体当たりするとギリギリのところでグラデルがバランスを崩して転がり、その間にエルフを背に彼へ手をかざす。

 せっかく見つけた協力者だけどエルフと人間の関係を壊すのは不味い。それならこの男を排除すべきだと脳が告げる。

 

 「ははは、震えているぞ? お前に俺は殺せないだろ? 身体を重ねた仲だもんなあ」

 「はあ……はあ……復讐のために体を使っただけよ……妨害するなら殺してやる……!」

 「……ふーん、ならお仕置きが必要だな」

 「<ホーリーランス>!」


 グラデルの足がピクリと動き、反射的に『来る』と思った私はすかさず魔法を放つ。しかしそれをあっさりと回避して眼前に迫ってきた。

 

 「嘘……!?」


 殺さないように足を狙い、この距離なら外すはずがないと思っていた私は目を見開いて驚く。


 「とりあえず寝てていいぞフェリス」

 「……!」

 

 グラデルの拳が目に入り目を瞑る――



 ◆ ◇ ◆



 (――なさい!)

 (――しおきが必要だな)


 爆発が収まった。

 その瞬間、男女が言い争う声と泣き叫ぶ声が耳に入ってきて風太が口を開く。


 「リクさん!」

 『落ち着いてフウタ。……リク、こっち!』

 「おう! ……っておいおい、どういうことだこりゃ……!? チッ、止めろってんだ!」


 リーチェに先導してもらい声のした場所へ躍り出ると、男が女を殴ろうとしている場面が視界に入り俺は即座に腰の剣を男女の間の地面に投げつけた。


 「ん?」


 男は特に驚いた様子もなくバックステップで回避しこちらに目を向けてきた。そして夏那やロディが大声で叫んだ。


 「ウル……!」

 「嘘、あいつってフェリス……!!」

 「あ、あなた達は……!?」

 「どうしてこんなところに!?」


 あられもない姿になったエルフをかばう様に立っていたのは手配中のフェリスだった。確かに驚いたがケガをしたエルフを助けるのが先だと一気に前へ出る。


 「しっかりしろ、怖かったな。少しだけ我慢してくれ。<奇跡の息吹ロイヤルヒール>」

 「あ、あ……痛みが……うう、うええええ……」

 「水樹ちゃん、チェル、頼めるか」

 「はい……!」


 矢を引き抜いて即座に魔法を使うとウルと呼ばれたエルフの女の子は呼吸が落ち着き、俺にしがみついて泣き出したのですぐに水樹ちゃんたち女子に任せる。


 「リ、リク……」

 「お前も下がれフェリス」

 「え、ええ……」

 

 俺達の後ろへ下がらせると風太が剣を抜いて口を開いた。


 「あなたがこんなことを?」

 『リク、こいつ……』

 「ああ」

 

 「おっと、よく見れば人間も居るのか? エルフと一緒だなんてめずら――」

 

 目の前の男がなにか言葉を発しようとした瞬間、俺は地面に突き刺さった剣を拾い接近するとその頭上へ振り下ろした。






















 ◆ ◇ ◆


 こちらの新作もよろしくお願いします……!!


 人間嫌いの大賢者に創られた最強の魔法人形は人間に憧れて旅に出る

 https://kakuyomu.jp/works/16817330647911786772

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