139.上手くいくかは精霊次第?
――エルフの森。
こっちではそう呼ばれているようだが、向こうの世界でもエルフは存在し通称『迷いの森』と呼ばれるような場所はあった。まあまあエルフとの共存はできていたがやっぱり長老みたいなやつは人間にいい印象を持っていないパターンというやつだ。
だから武器の素材として『真聖樹』と呼ばれる木をもらおうとした際に迷わされ『かけた』ことがある。
で、その時は――
『わたしが居れば余裕で抜けられるからね!』
「リーチェちゃんが居ればなんとかなるの?」
『そうよ! なんせ――』
「こいつって俺が創った『人工精霊』だろ? だから木の声とか聴けるんだよ、だから迷うことなく一直線に目的地まで辿りつけ……いてぇ!?」
「リクさん!?」
説明をしているとリーチェの手刀が左目に刺さり俺が悶絶する中、慌てた風太が叫ぶ声が聞こえてきた後に髪の毛をめちゃくちゃ引っ張られる。
『全部言った! わたしの活躍できるとこだったのに全部言ったぁぁ!! うわぁぁぁぁ!』
「酷いわねリク」
「俺のせいじゃないだろ!? もったいつけるリーチェが悪い」
「今のはダメかと思います……」
「え、水樹ちゃんまで……」
ダメだったらしい。
別に俺の一部なんだから一緒だと思うんだがなあ。まあそれはそれとして夏那が泣きじゃくるリーチェをなだめてからもう一度茶番が始まる。
『わたしは色々な精霊の声を聴くことができるの! だから木々の声を聴いてエルフの集落へ行くことができるってわけ! 絶対に迷わないわ』
「おー」
「リーチェちゃん凄いねえ」
「はは……」
風太が女子たちの茶番に苦笑していると婆さんも顎に手を当てて感心するように頷きながら口を開く。
「やるのう。エルフにはわしも接触する機会が無いからどうするか考えていたところじゃ。しかしリクは精霊を創ることができた、ということはお前も聴けるのではないか?」
「いや、なんだかんだで向こうの聖女に手伝ってもらってようやくって感じだ。婆さんはそういうのできないのか?」
「わしは自然の力は持ち合わせていないのう。予知や回復といった力に特化しておる。自然の力ならそれこそエルフの領域じゃ、おぬしの恋人は若いのに凄い聖女だったのじゃろう」
「まあ、イリスは実際凄かったしな」
「む」
「ぐあ!? 鼻が……!?」
いきなり鼻の穴に衝撃が走り俺は再び悶絶する。血が出てないか確認しながら横を見るとハンカチで指を拭きながら夏那が口を尖らせていた。
「お前か!」
「ふん、鼻の下が伸びていたから直してあげたのよ」
「女の子がそんなことしちゃダメだよ夏那ちゃん」
「ホントだぜ……ったく」
『今はわたしの話ー!!』
隣に座っていたのにあの動き……やるようになったなと思いつつ、うるさいなとリーチェを手元に引き寄せて頭の上に乗せてから話を続ける。とりあえず聞きたい話は二つ。
「というわけでエルフの森へ行くのは問題ない。他に注意する点はあるか?」
「……ふむ、あの男が生きておるかはわからんが、もし『ジエール』というエルフに会ったらわしがよろしく言っておったと伝えてくれ」
「その人は?」
「まあ、古い知り合いじゃ。奴等が引きこもってからもうずいぶん経つか。腕のいい職人じゃ」
知り合いの名前を知っているだけでも相手の警戒心を解くには十分な材料になり得る。エルフは寿命が長いけど魔族と戦っているなら亡くなっていてもおかしくないからそのあたりはドライに考えておこう。
「さて、それじゃもう一つなんだが……フェリスは見つかったのか?」
「……!」
「リクさん……」
俺の言葉に夏那と風太が表情を曇らせた。俺達を勇者ご一行と知っているあいつを野放しなのはあまり好ましくない。もし帝国に居て言いふらされたりしたらもっと面倒だった可能性もあったしな。
すると婆さんは難しい顔で首を振る。
「……残念じゃが消息は掴めておらん。町や村にも指名手配を回しているのじゃが立ち寄っていないのかもしれん」
「だって食事は? お風呂だって……」
「あやつは魔族の襲撃で国が滅びておる。保護されるまでの間、過酷な環境で暮らしておったから風呂はそれほど気にするまい。食事も魔法が使えるから魔物か動物を狩って食べておるかもしれん」
「い、意外とワイルドなのね……血抜きとかできるの?」
そのあたりは流石に分からないらしいが、確かに箱入り娘として育っていないなら外で暮らしていけるか。師匠みたいな女も居るしなあ。
しかし見つかっていないか……。監禁される際はあのドレスのような服では無くなっていたし、髪を切られていると分からないかもしれんな。女は化粧ひとつでかなり変わる。
「なら向かう先でも注意しておくか。で、婆さんの話って水樹ちゃんを聖女にしたいという話だけか?」
「ああ、それだけじゃ。残ってほしいが、今はええじゃろう。これを渡しておくから道中にでも読んでくれ」
「え、あ、はい」
婆さんが水樹ちゃんに手帳のような本を手渡していた。
それをポケットへ仕舞うのを確認したところで俺は膝を叩いて立ち上がる。
「そんじゃ早いところ出発するか」
「む、もう行くのか? ゆっくりしていけば良いのに」
「いや、海を開放するのは早い方がいい。幹部クラスを倒したんだ、気づかれたらなにかしら動きがあってもおかしくない。こっちも行動は迅速にだな」
アキラスとレムニティの二人を倒しているので徐々に仲間と連絡が取れないとなればロカリスやヴァッフェ帝国に調査を回すだろう。その前に準備を整えて迎え撃つなりしないとな。
元の世界に戻る方法、エルフが知っていたりすると助かるんだが……。
ひとまず食料などを買い足して再びグランシア神聖国を出立し、南西にあるエルフの森へと向かう――
◆ ◇ ◆
「また同じ場所……エルフたちの仕業ということでいいのかしら? 流石に疲れたわね」
グランシア神聖国へ到着したころ、フェリスはエルフの森へ何度か足を踏み入れていた。しかしどうやってもしばらく歩くと目印をつけた地点か入り口に戻っていた。
最初の三日は魔物を警戒しながら森で野営をするなどしていたが、途中から近くの町へ戻るなどして再チャレンジを試みていた。
「暗くなる……今日はこれくらいにしましょうか。エルフに伝わる魔法……必ず」
フェリスはあの時レムニティを倒せなかったことからリク達への逆恨みを募らせていたが、自分に対しても不甲斐なさを感じてここまで来た。その心情は表情を変え、恐らく彼女を知るものはすぐにフェリスだと気づけないかもしれないほどに。
路銀はそれほど多くないものの、食事は摂る必要があるので近くの町へ来たフェリスは酒場で食べようと足を運ぶ。運ばれてきた肉を切り分けながら一人呟く。
「……それにしてもどうしたらいいのかしら……」
打開策が無いまますでに数日。ため息を吐きながら咀嚼をしていると、ジョッキを持った男が近づいてくる。
「よう姉ちゃん、ひとりかい? 俺と飲まねえか?」
「結構よ」
フェリスは見た目が良いため何度かナンパをされたこともある。が、リクが自分になびかなかったことを思い出すのでナンパは好きではない。それに目的はそんなところにないのだ。
しかし――
「いいじゃねえか、エルフの森についてなにか話せるかもしれないぜ?」
「……!」
フェリスはジョッキを傾けながらにやりと笑う男へ訝し気な視線を向けることになった。
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