七章:エルフの森

135.迅速に行動することで勝機は増える

 ヴァッフェ帝国の戦いは一応、俺達の勝利で幕を閉じた。

 レムニティの頭は全員の目の前で灰に変えて確実に倒した証拠を見せて報酬を受け取った。船はこれからになるが、確約で一隻を指定して海から上げている。


 ということで今後は警戒をしつつ、海からの攻めに注意をしていくべきだと進言しておいた。もちろん地上も警戒するに越したことは無いが空を司る魔空将レムニティを倒したので不利を背負うことが少なくなったからだ。


 反攻作戦をするにはまだ厳しいので町の復興と戦力の増強が急務と言えるだろうな。メルルームを倒せば各国の精鋭を集めて出航も可能。

 というわけで俺達はエルフの森へ行かなければならないわけだが、ここ数日は城の書庫に籠っていた。

 何故かって? そりゃ元の世界に戻る手段を探すためで、まだ風太達を戻すことを諦めちゃいないからな。


 ま、一番オカルトに強そうなグランシア神聖国になにも無かったから期待出来るはずもなく――


 「帝国の歴史ばっかりね!」

 『飽きたぁ!』

 「うーん、めぼしい情報はありませんね。僕はこの『メタトイド』という鉱石でできた武器が気になりますけど」

 「しっかり調べろよお前達のことだぞ? と、言いたいところだが確かにこれ以上はなさそうな雰囲気だな」

 「むしろエルフの森の方があるかもしれませんね?」


 最後のは水樹ちゃんのセリフだが確かにそれはあるかもしれないな。

 あいつらは長寿だから五十年前どころかさらに前の出来事を知っているヤツも居る可能性は高い。


 「町の復興もある程度落ち着いたようだし、そろそろ出発の話をするか」

 「そうしましょ、あたしエルフを見てみたいし!」

 「……素直に応じてくれるといいが」

 『そうねー』

 「え?」


 好奇心が勝っている夏那だがエルフってのは一度関係がこじれると修復が物凄く難しい。さっきと同様の理由だが当時のことを知るヤツが居て、それが確執であればずっと不満をもったままだからな。

 俺の居た世界だとイリスや王子が上手く取り持っていたからエルフ全体との仲は良かった。だけど野良エルフで人間に不信を持っている奴を味方につけるのは難しかったもんだ。


 そんな話をしながら執務室へ赴きキルシートに声をかけることにした。


 「すまない、いいだろうか?」

 「リク殿か、どうぞ……っと、全員でしたか。どうしました? 書庫でなにか発見が――」

 「いや、残念だけどなにも収穫は無しだ。で、そろそろエルフの森へ行こうと思ってる」

 

 矢継ぎ早に問いかけてくるキルシートを片手で制してから俺が口を開く。何気にレムニティを倒してから五日は世話になっているので向こうも勝手知ったるという感じだ。

 

 「なんと、もうですか? 魔族の襲来が来る恐れがあると考えれば後三十日は滞在願いたいのですが……」

 「気持ちは分かるが目的が決まっている以上は急ぎたいんだ。幹部は倒したし、もし別の魔族が来ても地上戦なら戦えるだろ?」

 「ええ、まあ……。できれば戻ってきた後は我が国で暮らしてもらいたいものです。謁見を設けますので謁見の間の前までお越しください」


 今までまったく反抗できなかったところ、俺達が来てすぐに大規模侵攻が始まり、さらに俺がその首を取った。

 最初の契約ではこの国に縛られないように申し伝えてあるが、今回の戦いっぷりでヴァルカと一緒に騎士団長を任せたいとか考えているのかもしれない。


 エルフの森へ行くのは帝国にとっても利益が出る話なので引き止めることは無いだろう。

 しばらく謁見の間の前で待っていると内側から扉が開かれ、キルシートに中へ入るように促された。


 「来たか。キルシートに聞いたがもう行ってしまうのか?」

 「ええ、エルフとの確執があるなら早めに解消しておきたいですからね。この国はもう大丈夫でしょうから」

 「そうは言うが、リクの強さは欲しいところだぜ? フウタ達三人で行ってもらうとかはできねえもんか?」

 「悪いがヴァルカ、その理由じゃパーティを二つに分かれることはできない。なに、俺達は元々いなかったんだ、そんなにビビることでもないさ」

 「そりゃ、そうなんだが他の幹部に悟られて敵討ちで攻めてくる、なんてこともあるかもしれないだろ」


 ヴァルカが肩を竦めながらそんなことを口にするが、それはフウタが返してくれる。


 「……そこまで仲間意識があると思えないので大丈夫かと。もしそういう連中であれば仲間と一緒に攻めてきていたでしょうからね」

 「む、確かにフウタ殿の言うことも一理ある。陛下、ここは好きに動いてもらうのが一番かと」

 「そうか、キルシートが判断したのなら俺も異存はない。エルフも一筋縄ではいかんからリク殿は行った方がいいかもしれん」

 「一応、グランシア神聖国に寄って知恵を借りる予定なのでなんとか聖木を持って帰りますよ。いつになるかはわかりませんが」


 俺の言葉にクラオーレ陛下が小さく頷き、出発日程についての打ち合わせを少しだけして謁見の間を後にすると水樹ちゃんが言う。


 「聖女様に会うんですね」

 「帝国のことが終わったら一度戻ってきてくれって言ってたもんね」

 「夏那の言う通りだ。これから忙しくなるぞ、婆さんの話が終わったらすぐにエルフのところだ。アキラスに続いてレムニティも始末したし、向こうもそのうち気づくはずだからな」

 「はい!」


 風太の元気な返事満足するとハリソン達の世話をしてから用意してくれた食材などを積み込むために荷台へ。


 すると――


 「きゅん!」

 「わ!? え? 犬? いつの間に」

 「わあ、可愛い~! 私、犬が大好きなんです! けど飼うなって止められていたんですよ」


 ――荷台から白い毛とふさふさの尻尾を携えた子犬が顔を覗かせた。


 『あら? ねえリク、この子って……』

 「ああ、ホワイトウルフだな。この世界にも居るみたいだ」

 『いや、そうじゃなくて』

 「ファングに似てるって言いたいのか?」

 『あ、そうそう! でもわたしが知っているファングより小さいから違うか』

 

 リーチェがホワイトウルフの子供の頭に着地しながらそんなこと呟いていた。実際、リーチェが知っているファングよりも小さい。


 「犬じゃなくて狼さんなんですねー」

 「きゅーん♪」

 「あたし達が戦っている間に乗っちゃったのかしら? 気づかなかったわね」

 「……そうだろうな。とりあえずここで放逐するわけにもいかないし、しばらく置いといてやろう」

 「ですね。リクさんとリーチェが知っている子に似ているならファングでいいかな?」

 「わんわん!」

 「いいみたいだね。うわ、随分人懐っこいなこいつ」

 「私も! 私も!」


 風太が頭を撫でるともっと撫でろと頭を擦り付けていてとても可愛らしい仕草で水樹ちゃんが骨抜きにされていた。


 さて、タスクやミーヤ達の様子を見てから婆さんのところへ戻るとしますかね。

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