第2話

家に帰る。

今日は、いつも帰りが遅い父親が珍しく家にいた。


父親は製薬会社でセールスマンとして働いている。

そのせいで、僕はよく転勤させられている。

今回は、転勤することなく中学校にあがれた。


だいたい、4年に1回のペースで転勤する。

だけど、しばらくは転勤しないらしい。

よかった。

これで、彼女と一緒にいれる。


今日の夕飯はカレーだ。

おかしいな。

父親が早く帰ってくる日は、たいていちょっと豪華な食事なのに。


食卓につくと、父親が申し訳なさそうな顔をしている。

ほっとくのも手だが、それは良心が痛む。

「お父さん。なんか、あった?」

父親が「よし。」という顔をする。


「お父さん、転勤することになった。ごめんな。しばらくは、転勤しないって言ったのにな。」


転勤?

え、ってことは…。

いや、でも3年後は無理でも1年後ならあり得る。


「いや、いいよ。それ、いつ?」

「来週。急だし、住まいの方は会社が手配してくれるらしい。だから、今週中に荷物を…。」


父親の言葉なんて、もう聞こえない。

聞きたくない。

来週?

そんなの、聞いてないよ。

いいよ。いつも、だったら、いいよ。

何処でもついてくよ。


でも…。でもさ。

彼女の存在に気づいたのに。

もっと、彼女と一緒にいたいと願ったのに。


僕の恋には、期限がついてしまった…。


そして、1週間後。

今は、引っ越し先へ向かう車の中。

僕は何もできなかった。


何度、彼女に声をかけようとしたことか。

でも、1回もできなかった。


何も、できなかった…。


それから、4年の月日が立った。

高校の2年の始業式。

また転勤して僕は、ここの高校へとやってきた。

クラス分けの紙から、自分の名前を探す。


一瞬、見間違いかと思った。

見つけた。

あるとは、思わなかった。

東雲ゆうり という名前が。


これは、運命だと思っていいのだろうか。



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