2ターン目 闘技会予選その2
生き残った出場者たちは場外へ出るよう促され、オズドたちは地面の線の一部を消して大まかに四分割した。その中心に大きく数字が書いてある。
「名前と番号を言いますので、指定の番号に入ってもらいます。今回も場外で失格になるので気をつけてください。ああ、あと勝ち残った人はそこから出ないでくださいね」
私は三番、ロランと女の子は二番だった。二人のどちらかがここで敗退する。四か所同時に戦うようなので他のブロックの戦いは見られないと思った方がよさそうだ。
三番の囲いの中に入る。対戦相手は、一人は大きなハンマーを持った筋肉質の大男、もう一人は中肉中背の鎖鎌を持った男だ。
「ではスタート!」
二人ともが私に向かってくる。そんな気はしていた。
大男の攻撃を≪戦士の休息≫で防ぐ、鎖鎌の男をナーデアで迎え撃つ。見えない何かに攻撃を防がれた大男は一瞬怯んだが、もう一度ハンマーを振るう。私はその隙に引いていたカードを使う。
「≪ネヴァンの声≫発動!」
大男と鎖鎌の男が向かい合ってお互いに攻撃を始めた。何が起こっているのか理解できず戦わされている二人の決着はすぐについた。大男の一振りを回避し、鎖鎌を足に引っ掛けて転ばせて場外に出したのだ。そして勝った鎖鎌の男の背後からナーデアに攻撃させる。手早く終わらせられてイキりそうになったが、二番が既に終わっていることに気づいて我に返る。女の子が勝ち残ったようだ。
一番と四番の戦いを交互に見ていると予選の説明の時に出場者たちを脅した女性がオズドの横に来た。
「オズド、どうだ?」
「あ、サフェラさん、今年はうちからの出場者が少ないんで少し心配していましたが杞憂に終わりそうです」
サフェラは私と女の子を見てくる。
「ふん、まあ予想通りだな」
「一番も終わりましたね」
ビームみたいな魔法を食らって倒れた男のもとに救護班が駆けつけている。サフェラはそれを一瞥して四番に目を向けて呟く。
「四番は全員失格でいいだろ」
まだ三人とも残っている。それぞれじりじりと距離を詰めたり、離れたりして誰も大した攻撃ができていなかった。
「まだ新人ですから大目に見ましょう」
「本戦は逃げ場のない一対一だ。予選でこんな調子のやつらを出したらうちが笑い者にされるぞ」
「では制限時間を設けましょうか」
オズドが四番に近づき、戦いを止めて制限時間の説明をする。五分以内に誰も脱落していない場合全員失格となり、十五分以内に勝者が決まらない場合も全員失格になるというものだった。
彼らは驚きや焦りの表情を見せる。逸った気持ちが行動に出てしまった男が左手の小柄な男に襲い掛かるがその手の短剣で首筋を斬られた。救護班が近づこうとするが、中央で倒れたため戦いの邪魔にならないように回収ができない。それをもう一人の長髪の男が蹴飛ばして場外に出してやった。それを好機と見た短剣使いが斬りかかる。しかし、飛んだのは短剣使いの血だった。手首と手の先が離れ離れになっている。
「降参だ! 早く手をくっつけてくれ!」
情けない声を上げながら自ら場外へと出る。その綺麗な切断にも驚いたがそれよりも驚いたのは長髪の男がその手に何も持っていなかったことだ。いや、よく見ると薄っすらと光る何かを手にしている。
「ありゃあ魔力を刃物状にして使う魔法だな」
後ろから声がした。
「ロラン、残念だったね」
「いや、まさか女の子に負けるとはな。ユキノは頑張れよ」
「うん、やれるとこまでやってみるよ。それよりさっきの続きを聞かせて」
「魔力を形にするって点では魔力砲と変わらないんだが、ただ当てればダメージが入る魔力砲と違ってちゃんと斬れるようにするには繊細なコントロールが必要で難しいらしいぜ。持ち歩きが必要ないのと奇襲性があるのがメリットだな」
「手からしか出せないの?」
「手からしか見たことないが、もしかしたら足とかからも出せるやつもいるかもな。まあ警戒するに越したことはないと思うぜ」
それだけの魔法を使える人間が何故他の出場者と一緒に遅延行為をしていたのだろうか。早く終わらせて他の出場者の手の内を見る方が少しでも有利になるはずだ。
「では残った四人で総当たり戦をしてもらいます。初戦の組み合わせを決めますので……」
「待て、三日後にしよう」
オズドの言葉をサフェラが遮る。
「は?」
「聞こえなかったか? 最終予選は三日後だ」
「……というわけなのですが、皆さん予定の方は問題ありませんか?」
誰も文句を言う者はいない。大会出場希望者は脱落するまで予選の開始日以降に行われる仕事を受けてはいけないと定められているためだ。
「出場者たちもこの大会より大事な予定などないだろう。三日後の朝九時にこの場所で最終予選を開始する。遅れるな」
そう言い残してサフェラは一人で去ってしまう。オズドが申し訳なさそうな表情で頭を下げる。
「ご迷惑をおかけして申し訳ございません。私も後始末があるのでこれで失礼します」
そう言って手伝いの男女とともに小屋へ入っていった。それを見届けると残って見物していた敗退者や勝ち残った人も街の方へ向かう。私も帰ろうとしたところでロランが話しかけてくる。
「あのサフェラってギルド長、元々は黒級の冒険者だったんだ。ギルドは荒くれ者が来ることも多いから揉め事を収めるために腕利きがいるもんだが、それでも元黒級がいるギルドはそうはないぜ。副長のオズドはその頃からの付き合いだそうで元黄色級だそうだ。黒級昇格が決まってたらしいがサフェラギルド長の突然の引退と同時に引退したらしい」
ギルド長はともかく、あの腰の低そうな男性がそこまで強いとは思わなかった。人は見かけで判断できないものだ。
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