2ゲーム目

1ターン目 闘技会予選その1

 サクラとの戦いから半年経った。私はというとリーナの家に居候しながらコツコツと依頼をこなしていた。

 古戦場ヌベーテの復旧は順調に進んでいるらしい。レネアのパーティーメンバーだった人たちの何人かがそこで働いていると聞いた。

 フエナ主導でギルドと協力してフェイネとファラエスの手配書を作成し張り出したが有力な情報は入ってきていない。二人は魔王軍所属のものだろうとは予想されるが大掛かりな捜索はできないというのが現状だそうだ。

 あとは銀斬のセルヴァが姿を消したとか、レネアの死によって新たな黒級が選出されるのではないかという噂が飛び交っていたが縁遠い話なので詳しくは知らない。

 それよりもモンスターを倒してカードを集めることに注力していた。時々顔を出してくれるシオリからも買取っていたためそこそこの数になっていた。レアリティの低いカードばかりだがリーナ、コウ、トウがそれぞれデッキを持てるくらいは手に入っていた。

 今日は大事な用事がある。朝食を食べて着替えるとすぐに家を出た。ギルドの前に着いたのが八時過ぎ、既に二十人くらいの人が集まっていた。


「ユキノか?」


 声のする方へ向くとどこかで見たことのある男がいた。


「ロランだよ。ギルド登録した時にあっただろう?」

「ああ、お久しぶりです」


 ごめん、忘れてた。


「ここにいるってことは出るんだな」

「当然です」


 一年に一度、首都で行われる新人冒険者のための闘技大会がある。私もそれに出場しようと思っているのだ。出場条件は十二歳以上、緑級以下であることだけ。優勝者は賞金の他に昇級や好待遇での士官も望めるという。娯楽としての面と有能な新人の発掘という面を備えているそうだ。


「出場希望者は中へどうぞ。こちらで必要事項を記入していただきます」


 ギルドから出てきた女性が呼びかける。受付で名前と級を書かされた。

 列の最後の人が書き終えて少し経ったところで受付の女性が周囲を見渡す。


「もう出場希望者はいらっしゃいませんか?」

「待ってー!」


 ボーイッシュな服を着た中学生くらいの女の子が走ってきた。受付の女性はにこやかに対応している。女の子が記入を終えるとその紙を持って奥へ行ってしまった。するとロランが呟く。


「今回は少ないな」

「そうなんですか?」

「ああ、いつもは倍くらいいる。このぶんだとここから出場できるのは二、三人ってところかな」


 各ギルドが出場希望者の中から首都で行われる本戦出場者を決める。いつもであればこのギルドからは四人の本戦出場者が出ているが、今回は希望者が少ないことから枠が少なくなるのではないかと予想しているようだ。十分後、ロランの予想は正しかったことが判明する。奥から見たことのない三十代くらいの女性が副長のオズドを伴って現れた。


「協議の結果、このギルドからの本戦出場者は二名となった。悔いのないよう頑張ってくれたまえ。では予選の方法を説明する。オズド」

「はい。予選は生き残り戦と言ってまず全員で戦ってもらいます。場所は後程案内しますが、そこから出た場合は失格となります。当然気絶、降参でも失格です。半分の十二人まで減ったところで三人ずつ四つのグループに分けて一人になるまで戦ってもらいまして、残った四人で総当たりして上位二名を決めます」


 一通りの説明が終わったところで先程の女性がオズドの前へ出る。


「私からいくつかありがたいアドバイスをしてやろう。武器や魔法は好きなものを使え。反則などないと思っていい。当然誰かと組んでもいいが背中を刺される危険は常に頭に置いておくんだな。死んでも責任は取らん。医者や回復魔法の使い手は待機させているが、死ぬときは一瞬だ。今から覚悟しておくんだな」


 オズドが困った顔をする。


「……あー、ではこの説明を聞いたうえで参加したいと思う方は私についてきてください」


 立ち去る者などいなかった。そのままついていくと街の外まで出てしまう。近くに小屋あるだけの何もない草原のド真ん中で立ち止まる。


「ここが予選会場です。準備しますのでお待ちください」


 オズドは小屋へ入ると男女二人と一緒に出てきた。少し何かを話したかと思うと三人は足で地面に線を描く。そうして描いたおおまかな正方形の角四か所に人の顔くらいの大きさの石を置いた。


「この線の中が会場です。では全員入って好きな位置に着いてください」


 広さはバスケットコートの長い方くらいだろうか。端っこは背中を取られないが一撃で場外になる恐れがある。かと言って中心は格好の的になりそうだ。悩んでいると中心付近で背中合わせになる者が数ペア現れた。


「ユキノ、組まないか?」


 ロランに誘われる。少ししか喋っていない相手をよく気軽に誘えるなと思う。


「ごめんなさい、ここには実力を試すつもりで来てるから一人でやってみたいんです」

「そっか、お互い頑張ろうな」


 少し寂しそうな顔から一瞬で爽やかな表情をしながら激励してくれるあたり、いい人なんだとは思った。それでも信頼するには値しない。

 結局中心から少し外れたあたりに決める。その五歩ほど離れたところには先程のギリギリにエントリーした女の子がいた。その子はこちらをチラチラと見てくる。真っ先に狙おうという魂胆か?

 武器を構える人たちが出てきた。オズドも止める様子はないのでスキルを発動して手札を見る。


「全員位置に着いたようですね。残り十二人になったところでストップの合図を出しますので従ってください。ではスタート!」


 ≪大盾を構える戦士≫を召喚し、≪救援の旗≫を使用する。斬りかかってきた男が大盾に弾かれ、そこを他の出場者に狙われて脱落した。私はさらにナーデアを召喚する。

 一番近くにいたはずの女の子を警戒していたが彼女は一歩も動く様子はない。なのに誰からも狙われる様子もない。

 三分ほどで四人が脱落している。遠くにいたロランは善戦しているようだ。一対複数にならないように上手く立ち回りながら隙を見て脱落させている。

 最初は誰かの脱落を狙わずに防御に徹していたが、≪血に染まる鎧の戦士≫を召喚したことで誰からも狙われなくなった。こちらから攻めていかなければならないだろう。さらに二人脱落したようだ。

 昇級したことで召喚したキャラクターの配置に融通が利くようになった。大盾を後方に配置して二人の戦士とともに前進する。手札にはまだキャラクターがいるし、召喚できるが手の内は可能な限り隠しておきたい。

 血の戦士に倒された男が反則じゃないのかと抗議しているが取り合ってもらえないようだった。胸ぐらを掴もうとした男をオズドは振り払い、何度か手を叩いて注目を集める。


「そこまでです! 十二名になりましたので戦闘を中止してください!」


 女の子もロランも生き残ったようだ。

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